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隣人

ー/ー



 ある青年が最近、フィレット王国領の小さな街に引っ越してきた。



 中古の家だったが、落ち着いて住める場所が欲しくてやっとの思いで購入したものだ。



 庭には古びた石像がいくつか転がっていたが、それがアンティーク風でどこかオシャレに見えた。家の中には前の住人が残していった革の椅子が一脚置かれており、これが彼のお気に入りだった。



 近所の農家のおばちゃんともすぐに親しくなり、家に帰ると玄関先におすそ分けの野菜が置かれていることもあった。そんな静かな日々が続く中、ある日——。



 ——ピンポーン。



 食事中だった青年は、不意に響いた呼び鈴に食器を置き、玄関へ向かった。



 扉を開けると、そこには彼女が立っていた。

 エリシア。

 隣に住む貴族風の女だった。



 「あ、どうも」



 彼は少し驚いた様子で応えた。



 隣人のエリシアとは、これまでにたまに顔を合わせて軽く会釈を交わす程度の付き合いだった。話をするのはこれが初めてだ。それなのに、彼女の方から訪ねてくるとは思いもしなかった。



「もしかして、ここにお引越しされましたの?」



 エリシアは柔らかな声で尋ねたが、その貴族的な雰囲気にどこか押しの強さを感じる。



「ええ、まあ」



 戸惑いながらも、彼は答えた。



「あら〜。挨拶が遅れて失礼あそばせ〜」

「いえいえ!……あ、玄関先もなんですから、どうぞお上がりください」



 そう言って彼が招くと、エリシアは躊躇なく家の中に足を踏み入れた。



「あら、お食事中でしたの」

「ええ。これでも自炊とか結構してます……。ポトフですけど」



 彼は少し照れ臭そうに、机の上に並ぶ鍋や皿を指差した。



「農家のおばちゃんが野菜を分けてくれるんで……それでいつもこれ作ってます」



 エリシアは机の上に視線を移し、にっこりと笑った。



 「実は……あなたが引っ越してきたとは知らずに……色々ご迷惑を……」



 エリシアが気まずそうに口を開いた。



「いえいえ、特に何もないですけど……」



 彼は首を傾げながら答える。

 しかし、次にエリシアが放った言葉は、彼の脳裏に冷たい衝撃を走らせた。



「マンドラゴラの死体……あまり美味しくないでしょう」

「えっ」



 青年は思わず固まった。



 頭の中で、これまでの出来事が急速に繋がっていく。

 玄関先に時折置かれていた野菜。てっきり親切な農家のおばちゃんの仕業だと思っていたが……。



「いや、いつも実験に失敗して……ここが空き家だと思って投げ捨ててましたの〜」



 エリシアはケラケラと笑いながら、まるで悪びれた様子もなくそう言った。その瞬間、彼の顔は青ざめた。



「ヴほっ……!」



 彼は言葉にならない声を上げると、急いで立ち上がり、トイレに駆け込んだ。



 エリシアにとっては悪気のない告白だが、青年はどう切り返していいのか全くわからなかった。



「いや……そ、そそ、そんな……」



 口をついて出た言葉は、驚きと困惑が混じった意味不明な音の羅列だった。

 彼の頭の中では、せっかく手に入れた憧れのマイホームが、エリシアの一言一言で崩れ去っていくイメージが広がっていた。



(あぁ〜もういやだああああ……)



 心の中で叫びつつ、彼は顔を引きつらせながらエリシアの次の言葉を待った。



「あ、あともう一つ……言っておかないと」

「まだあったのかよ」



 つい、小声でつぶやいてしまう。



「庭に落ちてる石像……。あれはお気になさらずに」

「えぇ!?」



 さらに追い討ちをかけるエリシアの発言に、彼の動揺は頂点に達した。



 「ちょっと揉めて、ムカついたんで石にしましたけど。多分死んでませんから」



(そう言う問題じゃねえよ)



 青年は心の中で叫びながら、力なく革の椅子に腰掛けた。



「あら」



 エリシアが急に何かに気がついたように声を上げた。



「その椅子……」

「えぇ!?」



 青年は飛び上がるように反応した。



「丈夫そうですわね」



 ほっとして椅子に座り直す青年だったが、次の一言でその安堵は粉々に砕け散った。



「やっぱ魔族の革は違いますわね」



「うわああああああぁああ!帰ってくれええエエェええ!」



 彼の絶叫が響き渡る中、エリシアはスッキリした様子で帰っていった。



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 ある青年が最近、フィレット王国領の小さな街に引っ越してきた。
 中古の家だったが、落ち着いて住める場所が欲しくてやっとの思いで購入したものだ。
 庭には古びた石像がいくつか転がっていたが、それがアンティーク風でどこかオシャレに見えた。家の中には前の住人が残していった革の椅子が一脚置かれており、これが彼のお気に入りだった。
 近所の農家のおばちゃんともすぐに親しくなり、家に帰ると玄関先におすそ分けの野菜が置かれていることもあった。そんな静かな日々が続く中、ある日——。
 ——ピンポーン。
 食事中だった青年は、不意に響いた呼び鈴に食器を置き、玄関へ向かった。
 扉を開けると、そこには彼女が立っていた。
 エリシア。
 隣に住む貴族風の女だった。
 「あ、どうも」
 彼は少し驚いた様子で応えた。
 隣人のエリシアとは、これまでにたまに顔を合わせて軽く会釈を交わす程度の付き合いだった。話をするのはこれが初めてだ。それなのに、彼女の方から訪ねてくるとは思いもしなかった。
「もしかして、ここにお引越しされましたの?」
 エリシアは柔らかな声で尋ねたが、その貴族的な雰囲気にどこか押しの強さを感じる。
「ええ、まあ」
 戸惑いながらも、彼は答えた。
「あら〜。挨拶が遅れて失礼あそばせ〜」
「いえいえ!……あ、玄関先もなんですから、どうぞお上がりください」
 そう言って彼が招くと、エリシアは躊躇なく家の中に足を踏み入れた。
「あら、お食事中でしたの」
「ええ。これでも自炊とか結構してます……。ポトフですけど」
 彼は少し照れ臭そうに、机の上に並ぶ鍋や皿を指差した。
「農家のおばちゃんが野菜を分けてくれるんで……それでいつもこれ作ってます」
 エリシアは机の上に視線を移し、にっこりと笑った。
 「実は……あなたが引っ越してきたとは知らずに……色々ご迷惑を……」
 エリシアが気まずそうに口を開いた。
「いえいえ、特に何もないですけど……」
 彼は首を傾げながら答える。
 しかし、次にエリシアが放った言葉は、彼の脳裏に冷たい衝撃を走らせた。
「マンドラゴラの死体……あまり美味しくないでしょう」
「えっ」
 青年は思わず固まった。
 頭の中で、これまでの出来事が急速に繋がっていく。
 玄関先に時折置かれていた野菜。てっきり親切な農家のおばちゃんの仕業だと思っていたが……。
「いや、いつも実験に失敗して……ここが空き家だと思って投げ捨ててましたの〜」
 エリシアはケラケラと笑いながら、まるで悪びれた様子もなくそう言った。その瞬間、彼の顔は青ざめた。
「ヴほっ……!」
 彼は言葉にならない声を上げると、急いで立ち上がり、トイレに駆け込んだ。
 エリシアにとっては悪気のない告白だが、青年はどう切り返していいのか全くわからなかった。
「いや……そ、そそ、そんな……」
 口をついて出た言葉は、驚きと困惑が混じった意味不明な音の羅列だった。
 彼の頭の中では、せっかく手に入れた憧れのマイホームが、エリシアの一言一言で崩れ去っていくイメージが広がっていた。
(あぁ〜もういやだああああ……)
 心の中で叫びつつ、彼は顔を引きつらせながらエリシアの次の言葉を待った。
「あ、あともう一つ……言っておかないと」
「まだあったのかよ」
 つい、小声でつぶやいてしまう。
「庭に落ちてる石像……。あれはお気になさらずに」
「えぇ!?」
 さらに追い討ちをかけるエリシアの発言に、彼の動揺は頂点に達した。
 「ちょっと揉めて、ムカついたんで石にしましたけど。多分死んでませんから」
(そう言う問題じゃねえよ)
 青年は心の中で叫びながら、力なく革の椅子に腰掛けた。
「あら」
 エリシアが急に何かに気がついたように声を上げた。
「その椅子……」
「えぇ!?」
 青年は飛び上がるように反応した。
「丈夫そうですわね」
 ほっとして椅子に座り直す青年だったが、次の一言でその安堵は粉々に砕け散った。
「やっぱ魔族の革は違いますわね」
「うわああああああぁああ!帰ってくれええエエェええ!」
 彼の絶叫が響き渡る中、エリシアはスッキリした様子で帰っていった。