第7話:騎士団の苦悩
ー/ーセリスの目の前で、王は一通の黒い封書を広げた。
文面には、カインと魔族との“密通記録”が記されていた。
それは王が部下に作らせた偽造の記録。
「残念だがセリス。カインは、魔族と通じていた」
セリスは息を呑んだ。
「まさか……そんな……!」
「奴はこの国の内側から崩すために、魔族と契約を交わしていたのだ」
セリスの頭が真っ白になる。
王はさらに言葉を続けた。
「残念だが奴は英雄などではない。人類を裏切ろうとしたのだ」
セリスは震える唇で、かすれた声を漏らした。
「……証拠は……?」
王は静かに手紙とともに、黒く染まった破片のような呪具を差し出した。
魔族のものと思しき細工。もちろん、用意された偽物だ。
「奴の部屋からみつかった呪具だ。魔族との取引で手に入れたのだろう」
セリスはもはや、何も言えなかった。
(……カインが……そんなはず、ない……でも……)
王はその沈黙を見逃さなかった。
彼女の“不信”の芽を、恐怖で包み込むように、優しい声で囁いた。
「信じたいのはわかる。だが、聖女とは国を守る存在だ。
個人の情より、民と神を選べ」
「……はい」
セリスは震える唇でそう答えた。
重苦しい空気の中、騎士団詰所に数名の幹部が集まっていた。
その場に並ぶのは、かつてカインと共に戦場を駆けた者達だった。
中央の長机には、王命が封印されたまま置かれていた。
誰も開こうとしない。
誰も、言葉を発しない。
やがて、ロイがゆっくりと封を破り、王の直筆による命令を読み上げた。
「反逆者カインを魔族共謀の罪により処刑とする」
読み終えた瞬間、重たい沈黙が落ちた。
剣士ガレスが拳を机に叩きつける。
「……本当に、あいつが魔族と組んでたっていうのか?
冗談だろ……?」
フィリアも顔を背ける。
「証拠って……ただの呪具の欠片と、怪文書だけじゃない。
私たちは、あの人の“背中”を信じて、命預けてきたんじゃなかったの?」
ロイは答えない。
彼の手は小さく震えていた。
「わかってる……俺だって、信じたくない。
でも、王の命を拒めば、次は俺たちが“共犯”にされる」
「だったら戦えばいいじゃないか!」
ガレスが立ち上がる。
「正義のために剣を握ったんだろ!?
命令ひとつで仲間を殺すことが“正義”なのかよ!!」
その言葉に、誰も反論できなかった。
だが、答えは出ていた。
ロイがゆっくりと立ち上がる。
「明日、処刑場の周辺警護を任された。
あいつが逃げようとすれば、“その場で斬れ”という命令も含まれてる」
「……俺たちは、もう仲間じゃない。 これは国家の命令だ」
その言葉に、沈黙が落ちた。
ガレスが唇を噛み、低く呻くように言った。
「じゃあ……俺たちは、あいつを“処刑するために囲む”わけか。
本当に、それでいいのかよ……」
フィリアも椅子に背を預け、目を閉じたまま呟いた。
「あの人が本当に裏切ったとは思えない。でも……それを口に出した瞬間、
今度は私たちが“裏切り者”になる」
誰も正面からは答えられない。
それでも明日は来る。
顔を伏せながら、命令に従うしかない。
そんな空気の中で、ゼクスだけは静かに語り出した。
その仕草には迷いがなかった。
「今さら情を持ち出すな。 我々が従っているのは“王命”であり、“感情”ではない。
処刑の決定はすでに下され、我々にできるのは秩序を守ることだけだ」
その声は冷たくも整っており、感情の起伏はなかった。
まるで“正しいことを言っている”という自負に満ちていた。
しかし、ゼクスの心の奥では別の言葉が密かに反響していた。
「(そうだ。お前たちは気づかなくていい。
カインが魔族と通じているという証拠は俺が作った。手紙も、呪具も、王と相談の上でな。悪く思うなよカイン。これで俺は貴族として安泰だ)」
ロイは重い足取りで扉に向かいながら、最後に振り返った。
「……明日、誰も剣を抜かなくて済むように祈れ。
それが俺たちにできる、最後の贖罪かもしれない」
フィリアとガレスは無言で頷いた。
ゼクスも頷いて見せた――だがその目は、すでに“処理されるべきものとして見ていた。
「(……もし、あの男が本当に生き延びるようなことがあれば。
その時は、俺が始末する)」
そして夜は深まり、騎士たちはそれぞれの眠れぬ夜へと沈んでいった。
明日、英雄が処刑される日を迎える。
その夜、騎士団は命令に従って動き出した。
命令が正しいとは思っていない。
それでも動かなければ自分が消えるという現実の中で、
彼らはひとりの仲間を――自らの誇りを、処分する側に回った。
文面には、カインと魔族との“密通記録”が記されていた。
それは王が部下に作らせた偽造の記録。
「残念だがセリス。カインは、魔族と通じていた」
セリスは息を呑んだ。
「まさか……そんな……!」
「奴はこの国の内側から崩すために、魔族と契約を交わしていたのだ」
セリスの頭が真っ白になる。
王はさらに言葉を続けた。
「残念だが奴は英雄などではない。人類を裏切ろうとしたのだ」
セリスは震える唇で、かすれた声を漏らした。
「……証拠は……?」
王は静かに手紙とともに、黒く染まった破片のような呪具を差し出した。
魔族のものと思しき細工。もちろん、用意された偽物だ。
「奴の部屋からみつかった呪具だ。魔族との取引で手に入れたのだろう」
セリスはもはや、何も言えなかった。
(……カインが……そんなはず、ない……でも……)
王はその沈黙を見逃さなかった。
彼女の“不信”の芽を、恐怖で包み込むように、優しい声で囁いた。
「信じたいのはわかる。だが、聖女とは国を守る存在だ。
個人の情より、民と神を選べ」
「……はい」
セリスは震える唇でそう答えた。
重苦しい空気の中、騎士団詰所に数名の幹部が集まっていた。
その場に並ぶのは、かつてカインと共に戦場を駆けた者達だった。
中央の長机には、王命が封印されたまま置かれていた。
誰も開こうとしない。
誰も、言葉を発しない。
やがて、ロイがゆっくりと封を破り、王の直筆による命令を読み上げた。
「反逆者カインを魔族共謀の罪により処刑とする」
読み終えた瞬間、重たい沈黙が落ちた。
剣士ガレスが拳を机に叩きつける。
「……本当に、あいつが魔族と組んでたっていうのか?
冗談だろ……?」
フィリアも顔を背ける。
「証拠って……ただの呪具の欠片と、怪文書だけじゃない。
私たちは、あの人の“背中”を信じて、命預けてきたんじゃなかったの?」
ロイは答えない。
彼の手は小さく震えていた。
「わかってる……俺だって、信じたくない。
でも、王の命を拒めば、次は俺たちが“共犯”にされる」
「だったら戦えばいいじゃないか!」
ガレスが立ち上がる。
「正義のために剣を握ったんだろ!?
命令ひとつで仲間を殺すことが“正義”なのかよ!!」
その言葉に、誰も反論できなかった。
だが、答えは出ていた。
ロイがゆっくりと立ち上がる。
「明日、処刑場の周辺警護を任された。
あいつが逃げようとすれば、“その場で斬れ”という命令も含まれてる」
「……俺たちは、もう仲間じゃない。 これは国家の命令だ」
その言葉に、沈黙が落ちた。
ガレスが唇を噛み、低く呻くように言った。
「じゃあ……俺たちは、あいつを“処刑するために囲む”わけか。
本当に、それでいいのかよ……」
フィリアも椅子に背を預け、目を閉じたまま呟いた。
「あの人が本当に裏切ったとは思えない。でも……それを口に出した瞬間、
今度は私たちが“裏切り者”になる」
誰も正面からは答えられない。
それでも明日は来る。
顔を伏せながら、命令に従うしかない。
そんな空気の中で、ゼクスだけは静かに語り出した。
その仕草には迷いがなかった。
「今さら情を持ち出すな。 我々が従っているのは“王命”であり、“感情”ではない。
処刑の決定はすでに下され、我々にできるのは秩序を守ることだけだ」
その声は冷たくも整っており、感情の起伏はなかった。
まるで“正しいことを言っている”という自負に満ちていた。
しかし、ゼクスの心の奥では別の言葉が密かに反響していた。
「(そうだ。お前たちは気づかなくていい。
カインが魔族と通じているという証拠は俺が作った。手紙も、呪具も、王と相談の上でな。悪く思うなよカイン。これで俺は貴族として安泰だ)」
ロイは重い足取りで扉に向かいながら、最後に振り返った。
「……明日、誰も剣を抜かなくて済むように祈れ。
それが俺たちにできる、最後の贖罪かもしれない」
フィリアとガレスは無言で頷いた。
ゼクスも頷いて見せた――だがその目は、すでに“処理されるべきものとして見ていた。
「(……もし、あの男が本当に生き延びるようなことがあれば。
その時は、俺が始末する)」
そして夜は深まり、騎士たちはそれぞれの眠れぬ夜へと沈んでいった。
明日、英雄が処刑される日を迎える。
その夜、騎士団は命令に従って動き出した。
命令が正しいとは思っていない。
それでも動かなければ自分が消えるという現実の中で、
彼らはひとりの仲間を――自らの誇りを、処分する側に回った。
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