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第11話:無視できない存在に

ー/ー



「……これは、どういうことだ?」

帝都セントラル。
その高層区画にある特権階級専用の応接室。

通信ホログラムに映し出されたのは、廃棄都市
いや、今やエデンと名乗る区域の最新状況だった。

再構築されたエネルギー中枢。
居住区の整備、農業基盤の確立。
外部技術者や研究者、そして民間人までもが移住し始め、都市としての体裁と自立性を急速に確立しつつある。

その中心に立つ人物――映像の片隅に、はっきりとその名が表示されていた。

《代表執行責任者:カイ》

レイモンドの指が、ワインのグラスの縁を静かになぞる。

「まさか……あの少年が、ここまでの規模を……?」

驚きと、そしてわずかな焦燥が混じる声。
その視線の奥には、冷静な分析とともに脅威としての認識が生まれていた。

「何かの間違いでは? もとは廃棄区域、資源の乏しい旧区画です」
背後に控えた情報官が言う。

「いいや。これは……現実だ」

レイモンドは映像を止め、無言で立ち上がる。
ガラス張りの壁から見える帝都の夜景を見下ろしながら低く言った。

「棄てられた者が、都市を築いた……か」

そのとき――

「……お困りですか?」

柔らかな声がすぐ背後から響いた。
リアナだった。、静かにレイモンドのそばに寄っていく。

「何か……想定外のことでも?」

レイモンドは答えない。
だが彼女は、モニターに映された名前を見て、すべてを理解した。

――カイ。

彼の名前が、今や都市の代表として記録されている。
あの夜、すべてを否定して出て行った少年が……人々を導く指導者となっていた。

(あのカイが指導者……信じられない)

「立場が人を育てることもあるものですね」
リアナが静かに呟いた。

レイモンドはその言葉に微かに反応し、振り返る。

「感傷か?」

リアナはふっと微笑む。

「いえ。ただ本当に興味深いと思っただけです」

彼女の微笑みは、かつてのような装った従順ではなかった。
そこには、ほんのわずかに、揺らぎが混じっていた。

レイモンドはグラスを置き、ソファに深く腰掛けながら言う。

「あの少年の存在が、面倒な波を起こさなければいいがな」

だがその言葉に、彼自身が危機を感じ始めていることを、リアナは察していた。

帝都セントラル・地下戦略室。
深紅の壁に囲まれた部屋の中、複数のホログラムが同時に稼働していた。
その中心に、レイモンドが静かに立つ。

「……あの都市は、私の想定を超えて成長している。今や評議会も無視できない存在になった」

「ご命令を」
影のように立つ黒服の男が応じる。

レイモンドは一枚の映像データを指先で弾いた。
そこには、エデンの中枢地区、カイのすぐ側で働く幹部たちの顔が並ぶ。

「信頼という名の穴を探すんだ。入り込める余地が、必ずある」

「了解」

レイモンドはさらに指示を続ける。

「移住希望者の中に、数人を紛れ込ませろ。正式な審査を経た上で、内部に入れ。
そして――都市の根を切れ」

「ターゲットは?」

「まずは情報。だが、混乱が起きるならそれも良し。
奴が一番信じているものを、崩してやれ」

その言葉に、黒服の男は静かに頷き、闇へと消えた。

エデン――数日後。
到着した移住者の中に、一人の整備士がいた。

青年の名はエラン。
年齢、経歴、技能、すべて整っており、審査もクリア。
言動にも不審な点はなく、穏やかで協調性のある人物として、すぐに周囲の信頼を得ていった。

だが、彼の正体はレイモンド直属の潜入工作員だった。

「この都市は、確かによくできている……。だが、人の心はもっと脆い」

エランは少しずつ、エデン中枢の通信網、エネルギー分配、そして人的信頼関係に目を光らせる。
ある日、彼はクラリッサのホログラムとすれ違う。

「おや、見ない顔ですね。初期設計者リストに見覚えがありません」

「新規移住者です。機械技術部門で整備を」
完璧な返答だった。

だが――クラリッサはその場を離れた後、わずかに演算スピードを上げていた。

(……わずかに、心拍の変化。自己紹介時の呼吸間隔も標準より不自然)

まだ、断定はできない。
だが、彼女もまた何かが入り込んできたことを、感じ取っていた。

夜。通信室の片隅で、エランが密かに暗号を打ち込む。

《進入成功。信頼獲得順調。拠点確保。次のエージェントを待つ》

彼の視線の先にあるのは――エデンの中枢タワー。
そこには、かつてレイモンドに背を向けた男が立っている。
彼の都市は、いま内側から揺さぶられようとしていた。


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「……これは、どういうことだ?」
帝都セントラル。
その高層区画にある特権階級専用の応接室。
通信ホログラムに映し出されたのは、廃棄都市
いや、今やエデンと名乗る区域の最新状況だった。
再構築されたエネルギー中枢。
居住区の整備、農業基盤の確立。
外部技術者や研究者、そして民間人までもが移住し始め、都市としての体裁と自立性を急速に確立しつつある。
その中心に立つ人物――映像の片隅に、はっきりとその名が表示されていた。
《代表執行責任者:カイ》
レイモンドの指が、ワインのグラスの縁を静かになぞる。
「まさか……あの少年が、ここまでの規模を……?」
驚きと、そしてわずかな焦燥が混じる声。
その視線の奥には、冷静な分析とともに脅威としての認識が生まれていた。
「何かの間違いでは? もとは廃棄区域、資源の乏しい旧区画です」
背後に控えた情報官が言う。
「いいや。これは……現実だ」
レイモンドは映像を止め、無言で立ち上がる。
ガラス張りの壁から見える帝都の夜景を見下ろしながら低く言った。
「棄てられた者が、都市を築いた……か」
そのとき――
「……お困りですか?」
柔らかな声がすぐ背後から響いた。
リアナだった。、静かにレイモンドのそばに寄っていく。
「何か……想定外のことでも?」
レイモンドは答えない。
だが彼女は、モニターに映された名前を見て、すべてを理解した。
――カイ。
彼の名前が、今や都市の代表として記録されている。
あの夜、すべてを否定して出て行った少年が……人々を導く指導者となっていた。
(あのカイが指導者……信じられない)
「立場が人を育てることもあるものですね」
リアナが静かに呟いた。
レイモンドはその言葉に微かに反応し、振り返る。
「感傷か?」
リアナはふっと微笑む。
「いえ。ただ本当に興味深いと思っただけです」
彼女の微笑みは、かつてのような装った従順ではなかった。
そこには、ほんのわずかに、揺らぎが混じっていた。
レイモンドはグラスを置き、ソファに深く腰掛けながら言う。
「あの少年の存在が、面倒な波を起こさなければいいがな」
だがその言葉に、彼自身が危機を感じ始めていることを、リアナは察していた。
帝都セントラル・地下戦略室。
深紅の壁に囲まれた部屋の中、複数のホログラムが同時に稼働していた。
その中心に、レイモンドが静かに立つ。
「……あの都市は、私の想定を超えて成長している。今や評議会も無視できない存在になった」
「ご命令を」
影のように立つ黒服の男が応じる。
レイモンドは一枚の映像データを指先で弾いた。
そこには、エデンの中枢地区、カイのすぐ側で働く幹部たちの顔が並ぶ。
「信頼という名の穴を探すんだ。入り込める余地が、必ずある」
「了解」
レイモンドはさらに指示を続ける。
「移住希望者の中に、数人を紛れ込ませろ。正式な審査を経た上で、内部に入れ。
そして――都市の根を切れ」
「ターゲットは?」
「まずは情報。だが、混乱が起きるならそれも良し。
奴が一番信じているものを、崩してやれ」
その言葉に、黒服の男は静かに頷き、闇へと消えた。
エデン――数日後。
到着した移住者の中に、一人の整備士がいた。
青年の名はエラン。
年齢、経歴、技能、すべて整っており、審査もクリア。
言動にも不審な点はなく、穏やかで協調性のある人物として、すぐに周囲の信頼を得ていった。
だが、彼の正体はレイモンド直属の潜入工作員だった。
「この都市は、確かによくできている……。だが、人の心はもっと脆い」
エランは少しずつ、エデン中枢の通信網、エネルギー分配、そして人的信頼関係に目を光らせる。
ある日、彼はクラリッサのホログラムとすれ違う。
「おや、見ない顔ですね。初期設計者リストに見覚えがありません」
「新規移住者です。機械技術部門で整備を」
完璧な返答だった。
だが――クラリッサはその場を離れた後、わずかに演算スピードを上げていた。
(……わずかに、心拍の変化。自己紹介時の呼吸間隔も標準より不自然)
まだ、断定はできない。
だが、彼女もまた何かが入り込んできたことを、感じ取っていた。
夜。通信室の片隅で、エランが密かに暗号を打ち込む。
《進入成功。信頼獲得順調。拠点確保。次のエージェントを待つ》
彼の視線の先にあるのは――エデンの中枢タワー。
そこには、かつてレイモンドに背を向けた男が立っている。
彼の都市は、いま内側から揺さぶられようとしていた。