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第9話:環境の回復

ー/ー



カイは装置の基部に手を伸ばし
剥き出しになった制御パネルの端子を確かめた。

「クラリッサ、再起動の手順を」
静かだが、揺るぎない声。

「了解。ユニットの再起動には三段階の手動操作が必要です」

ホログラムが新たに展開され、中央にユニットの構造図が浮かび上がった。

「まず、主電源への通電。次に制御回路の再結線。そして最後に、冷却循環系を手動で起動してください。順番を誤ると――暴走の危険があります」

「つまり、やるなら一発で成功させろってことか」
ゲイルが苦笑気味に呟いた。

カイは頷き、腰のポーチから細いツールを取り出した。工具に迷いはない。
まずは主電源のにコードを繋ぐ。
カチリと微かな音。
次の瞬間、ユニットの外装に小さな光が灯る。

「第一段階、通電完了」
 クラリッサの声に重なって、周囲の空気がわずかに震えた。

続けてカイは露出した配線群の中から断線箇所を特定しケーブルを接続する。

ピッ……と高音の電子音が一度鳴り、ユニット内部から低く脈打つような共鳴音が広がっていく。

最後に、冷却系統の手動バルブを解放し、循環ポンプの手動スイッチを押す。

瞬間――装置全体が低く唸るような音を上げ、赤い光が中心から徐々に拡大していった。

「……生き返ったの?」
 リアが息を呑む。

そのとき、ユニット中央にある“心臓部”が脈動とともに深紅の光を放った。
直後、全周のリングが再起動を示すように加速し、中心核がまばゆい蒼白の光を放ち始めた。

「エネルギー安定確認。循環系に信号が流れています。……周辺環境、変化開始」
クラリッサの声はわずかに高揚していた。

その瞬間――

 「風が……動いてる」
 リアが静かに目を見開いた。

長らく淀んでいた空気が、わずかに流れを取り戻す。
天井の通気孔から、ほこり混じりだった風が清らかに澄み、草花の香りさえ感じさせた。

「酸素濃度、正常域に回復。気圧も安定傾向。……あれをご覧ください」

クラリッサが指し示すホログラムの先――
かつて黒い苔に覆われていた通路の壁面が、ゆっくりと本来の金属光沢を取り戻していた。微細な修復ナノマシンが作動し、腐食した配線やパネルが次々と再構築されていく。

「すげぇ……本当に、動き出してる」
 ゲイルが目を見張る。

「地下水路、正常経路に復帰。水が循環を始めています。これで……気温、湿度、空気すべてのバランスが回復段階に入りました」
クラリッサが微笑むように言った。

バルナが深く息を吸い込み、そして吐いた。

「……うまい空気って、こういうのを言うんだな」

 ゲイルが肩をすくめて笑った。

「まったくだ。数時間前まで汚染されてた場所とは思えねえ」

 カイは最後に、もう一度中央の球体を見上げる。
 そこにはもはや脅威はなかった。

「これで……一区切り、だな」
 彼の言葉に、仲間たちが一斉に頷いた。

こうして――

封じられていた区域は、完全に回復した。
かつての混濁した空気、毒性を含んだ風、崩れかけた通路も今や過去のものとなり、
人が住める環境として、ようやく再び呼吸を始めたのだ。

クラリッサによる環境データの最終解析が完了し、区域は安全圏として正式認定された。長く閉ざされていたその場所は居住可能領域となっていた。

「すごいな……ほんとに、人が住めるようになったんだな」
 ゲイルが、新たに設置された展望窓から再生された緑地帯を眺める。

そこには仮設の研究棟や医療ユニット、生活モジュールが組み上げられ、複数の研究者や技術者たちが入植を開始していた。

 「ここに未来を築く」
 それが、かつてこの中枢を設計した者たちの願いだとカイは語った。

 そしていま――それを受け継ぐ者たちの手によって、未来は再び動き出していた。



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カイは装置の基部に手を伸ばし
剥き出しになった制御パネルの端子を確かめた。
「クラリッサ、再起動の手順を」
静かだが、揺るぎない声。
「了解。ユニットの再起動には三段階の手動操作が必要です」
ホログラムが新たに展開され、中央にユニットの構造図が浮かび上がった。
「まず、主電源への通電。次に制御回路の再結線。そして最後に、冷却循環系を手動で起動してください。順番を誤ると――暴走の危険があります」
「つまり、やるなら一発で成功させろってことか」
ゲイルが苦笑気味に呟いた。
カイは頷き、腰のポーチから細いツールを取り出した。工具に迷いはない。
まずは主電源のにコードを繋ぐ。
カチリと微かな音。
次の瞬間、ユニットの外装に小さな光が灯る。
「第一段階、通電完了」
 クラリッサの声に重なって、周囲の空気がわずかに震えた。
続けてカイは露出した配線群の中から断線箇所を特定しケーブルを接続する。
ピッ……と高音の電子音が一度鳴り、ユニット内部から低く脈打つような共鳴音が広がっていく。
最後に、冷却系統の手動バルブを解放し、循環ポンプの手動スイッチを押す。
瞬間――装置全体が低く唸るような音を上げ、赤い光が中心から徐々に拡大していった。
「……生き返ったの?」
 リアが息を呑む。
そのとき、ユニット中央にある“心臓部”が脈動とともに深紅の光を放った。
直後、全周のリングが再起動を示すように加速し、中心核がまばゆい蒼白の光を放ち始めた。
「エネルギー安定確認。循環系に信号が流れています。……周辺環境、変化開始」
クラリッサの声はわずかに高揚していた。
その瞬間――
 「風が……動いてる」
 リアが静かに目を見開いた。
長らく淀んでいた空気が、わずかに流れを取り戻す。
天井の通気孔から、ほこり混じりだった風が清らかに澄み、草花の香りさえ感じさせた。
「酸素濃度、正常域に回復。気圧も安定傾向。……あれをご覧ください」
クラリッサが指し示すホログラムの先――
かつて黒い苔に覆われていた通路の壁面が、ゆっくりと本来の金属光沢を取り戻していた。微細な修復ナノマシンが作動し、腐食した配線やパネルが次々と再構築されていく。
「すげぇ……本当に、動き出してる」
 ゲイルが目を見張る。
「地下水路、正常経路に復帰。水が循環を始めています。これで……気温、湿度、空気すべてのバランスが回復段階に入りました」
クラリッサが微笑むように言った。
バルナが深く息を吸い込み、そして吐いた。
「……うまい空気って、こういうのを言うんだな」
 ゲイルが肩をすくめて笑った。
「まったくだ。数時間前まで汚染されてた場所とは思えねえ」
 カイは最後に、もう一度中央の球体を見上げる。
 そこにはもはや脅威はなかった。
「これで……一区切り、だな」
 彼の言葉に、仲間たちが一斉に頷いた。
こうして――
封じられていた区域は、完全に回復した。
かつての混濁した空気、毒性を含んだ風、崩れかけた通路も今や過去のものとなり、
人が住める環境として、ようやく再び呼吸を始めたのだ。
クラリッサによる環境データの最終解析が完了し、区域は安全圏として正式認定された。長く閉ざされていたその場所は居住可能領域となっていた。
「すごいな……ほんとに、人が住めるようになったんだな」
 ゲイルが、新たに設置された展望窓から再生された緑地帯を眺める。
そこには仮設の研究棟や医療ユニット、生活モジュールが組み上げられ、複数の研究者や技術者たちが入植を開始していた。
 「ここに未来を築く」
 それが、かつてこの中枢を設計した者たちの願いだとカイは語った。
 そしていま――それを受け継ぐ者たちの手によって、未来は再び動き出していた。