表示設定
表示設定
目次 目次




第85話 決裁

ー/ー



「リコとやら、現在把握している敵の戦力を教えてやれ」と女王。

「小型ゲートを通して得られた情報によれば、敵の本拠地には我が方の約千倍の戦力がございます」とリコ。「アルファ個体、つまり要塞クラスの個体を約二千体ほどを直接確認しております」

「敵の次の一手をどう読む」と女王。

「異星生物は我々の攻撃能力と科学力を把握しつつあります。近いうちに先手を打って地球付近にゲートを開き、飽和攻撃を仕掛けてくるものと思われます」とリコ。

「停戦の申し出をどう考える?」と女王。

「時間稼ぎかと」とリコ。

「というわけだ」と女王は正面を向いた。「我が方には一刻の猶予もないのだ。異星生物との交渉など、暇なときにするがよい」

黒魚(こくぎょ)王よ、決裁をゆだねる」と女王。

「ただちに第二次特別攻撃作戦を実施する」
 第二分身体の悠木が断固とした口調で宣言した。

「議は決した。そなたたちは各々の職責を果たし、すみやかに第二次特別攻撃作戦の実施に向けて努めよ」と女王。「これにて会議を終了する」

 一人の男が立ち上がった。
「私は立法委員長の吉田でございます。遅ればせながら、女王陛下並びに黒魚王陛下に、暫定統治機構の代表としてご挨拶申し上げます」

「手短に申せ」と女王。

「この度の会議招集につきまして暫定統治機構への御声掛けに、心から厚く御礼申し上げます。臣下一同、末席にて陛下らの御采配拝聴の機会を得ることができ、恐悦至極でございます。つきましては、女王陛下と黒魚王陛下に拝謁の機会を次回も賜りたく、平にお願い申し上げます」と吉田。

「よかろう。ただし、黒魚王の名誉棄損は目に余る。ただちに是正せよ」と女王。

「承知いたしました」
 吉田は深く頭を下げた。

「作戦後のことは別に機会を設けるであろう」と女王。「せいぜい身ぎれいにしておくことだな」

「お叱りのお言葉、しかと受け取りました」と吉田。

「言わずともわかっておろう。そなたたちは、民草の統治に失敗しておる。これを最後の警告と受け止めよ」と女王。

「寛大な御沙汰に、心から感謝申し上げます」と吉田。

「下がってよい」と女王。

 吉田ら出席者全員が凍り付いたように最敬礼の姿勢をとり続けた。


 女王は悠木の前に進み出るとひざまずき、頭を下げた。
「愛するそなたを死地に送ることは我が本意ではない。どうか許してほしい」

 悠木は女王の手を取り、静かに答えた。
「この作戦をもってあなたの愛に答えられることは私の幸せです。我が妻、冥界の女王よ」

 女王は悠木に取りすがって泣いた。しばらく会議室に女王の泣き声が響いた。女王は自分の首元を飾る赤い石のついたネックレスを外し、悠木の首にかけた。

「わらわからのせめてものはなむけじゃ。どうか受け取ってほしい」

 悠木は驚いて女王を見た。
「それは神々の持ちもの……」

「そなたは神じゃ、まごうことなきこの星の神じゃ!」と女王。


 少し離れた席から壇上の様子を見ていた瞳と桐子は目を見張った。

「あれは至宝『赤イ涙』……」と瞳。

 それを聞いた瑠璃子がつぶやいた。
「あれが太古から神々に伝わる、永遠の命を授けるという宝玉……」

 女王と悠木は抱き合うとキスをした。会場は静寂に包まれ、出席者は二人を厳かに見守った。

 女王はおもむろに立ち上がると宣言した。
「黒魚王はお疲れである。これより退室される」

 桐子が席を立ち、悠木のそばに近寄って介添えをした。悠木が桐子とともに退室した。

 女王は居残った参加者を見渡し、怒りを込めた言葉を発した。
「そなたたち、まさか我が夫を一人で異星に送り出すつもりではあるまいな」

 会場はしんと静まり返った。

白鷺(はくろ)には私が乗り込むわ」と瞳。

「よかろう」と女王。

 司会者として壁際に立っていたリコが前に一歩進み出た。
「僭越ながら、わたくしめが、翆鶴(すいかく)の黒魚王様にお供いたします」

「可能か?」と女王。

「必ずや、我が主を説得いたします」とリコ。


 女王はつかつかとリコに近寄った。
「お前、予に仕えぬか」

 リコは立ち尽くした。周りは驚いてしんと静まり返った。

 女王は少し前のめりになり、言い直した。
「そなた、わしに仕えてはくれまいか?」

「お断りします」
 リコは女王に向き合った。

「そなたは我が夫に仕えておるのであろう。夫がこの急場を凌いでおる間、わしがそなたを保護したとて筋の通らぬ話ではない。我が夫にはわしから話を通しておく。主君を変えよということではない。優しい我が夫のことじゃから、この程度のことは分かってくれるはずじゃ」と女王。

「私は我が(あるじ)、涙の魔術師に飼われている物の怪の分際です」とリコ。「あなた様に情けをかけていただくいわれはありませぬ」

「よかろう。だが言っておく。そなたはすでに我が夫を守護する神の一柱である。それ相応の礼を受けよ。今後、下女のように振舞うことを許さぬ。よいな」
 女王はいつもの宣言口調で言い残し、リリスとアリサを連れて会場を立ち去った。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第86話 陰謀論


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「リコとやら、現在把握している敵の戦力を教えてやれ」と女王。
「小型ゲートを通して得られた情報によれば、敵の本拠地には我が方の約千倍の戦力がございます」とリコ。「アルファ個体、つまり要塞クラスの個体を約二千体ほどを直接確認しております」
「敵の次の一手をどう読む」と女王。
「異星生物は我々の攻撃能力と科学力を把握しつつあります。近いうちに先手を打って地球付近にゲートを開き、飽和攻撃を仕掛けてくるものと思われます」とリコ。
「停戦の申し出をどう考える?」と女王。
「時間稼ぎかと」とリコ。
「というわけだ」と女王は正面を向いた。「我が方には一刻の猶予もないのだ。異星生物との交渉など、暇なときにするがよい」
「|黒魚《こくぎょ》王よ、決裁をゆだねる」と女王。
「ただちに第二次特別攻撃作戦を実施する」
 第二分身体の悠木が断固とした口調で宣言した。
「議は決した。そなたたちは各々の職責を果たし、すみやかに第二次特別攻撃作戦の実施に向けて努めよ」と女王。「これにて会議を終了する」
 一人の男が立ち上がった。
「私は立法委員長の吉田でございます。遅ればせながら、女王陛下並びに黒魚王陛下に、暫定統治機構の代表としてご挨拶申し上げます」
「手短に申せ」と女王。
「この度の会議招集につきまして暫定統治機構への御声掛けに、心から厚く御礼申し上げます。臣下一同、末席にて陛下らの御采配拝聴の機会を得ることができ、恐悦至極でございます。つきましては、女王陛下と黒魚王陛下に拝謁の機会を次回も賜りたく、平にお願い申し上げます」と吉田。
「よかろう。ただし、黒魚王の名誉棄損は目に余る。ただちに是正せよ」と女王。
「承知いたしました」
 吉田は深く頭を下げた。
「作戦後のことは別に機会を設けるであろう」と女王。「せいぜい身ぎれいにしておくことだな」
「お叱りのお言葉、しかと受け取りました」と吉田。
「言わずともわかっておろう。そなたたちは、民草の統治に失敗しておる。これを最後の警告と受け止めよ」と女王。
「寛大な御沙汰に、心から感謝申し上げます」と吉田。
「下がってよい」と女王。
 吉田ら出席者全員が凍り付いたように最敬礼の姿勢をとり続けた。
 女王は悠木の前に進み出るとひざまずき、頭を下げた。
「愛するそなたを死地に送ることは我が本意ではない。どうか許してほしい」
 悠木は女王の手を取り、静かに答えた。
「この作戦をもってあなたの愛に答えられることは私の幸せです。我が妻、冥界の女王よ」
 女王は悠木に取りすがって泣いた。しばらく会議室に女王の泣き声が響いた。女王は自分の首元を飾る赤い石のついたネックレスを外し、悠木の首にかけた。
「わらわからのせめてものはなむけじゃ。どうか受け取ってほしい」
 悠木は驚いて女王を見た。
「それは神々の持ちもの……」
「そなたは神じゃ、まごうことなきこの星の神じゃ!」と女王。
 少し離れた席から壇上の様子を見ていた瞳と桐子は目を見張った。
「あれは至宝『赤イ涙』……」と瞳。
 それを聞いた瑠璃子がつぶやいた。
「あれが太古から神々に伝わる、永遠の命を授けるという宝玉……」
 女王と悠木は抱き合うとキスをした。会場は静寂に包まれ、出席者は二人を厳かに見守った。
 女王はおもむろに立ち上がると宣言した。
「黒魚王はお疲れである。これより退室される」
 桐子が席を立ち、悠木のそばに近寄って介添えをした。悠木が桐子とともに退室した。
 女王は居残った参加者を見渡し、怒りを込めた言葉を発した。
「そなたたち、まさか我が夫を一人で異星に送り出すつもりではあるまいな」
 会場はしんと静まり返った。
「|白鷺《はくろ》には私が乗り込むわ」と瞳。
「よかろう」と女王。
 司会者として壁際に立っていたリコが前に一歩進み出た。
「僭越ながら、わたくしめが、|翆鶴《すいかく》の黒魚王様にお供いたします」
「可能か?」と女王。
「必ずや、我が主を説得いたします」とリコ。
 女王はつかつかとリコに近寄った。
「お前、予に仕えぬか」
 リコは立ち尽くした。周りは驚いてしんと静まり返った。
 女王は少し前のめりになり、言い直した。
「そなた、わしに仕えてはくれまいか?」
「お断りします」
 リコは女王に向き合った。
「そなたは我が夫に仕えておるのであろう。夫がこの急場を凌いでおる間、わしがそなたを保護したとて筋の通らぬ話ではない。我が夫にはわしから話を通しておく。主君を変えよということではない。優しい我が夫のことじゃから、この程度のことは分かってくれるはずじゃ」と女王。
「私は我が|主《あるじ》、涙の魔術師に飼われている物の怪の分際です」とリコ。「あなた様に情けをかけていただくいわれはありませぬ」
「よかろう。だが言っておく。そなたはすでに我が夫を守護する神の一柱である。それ相応の礼を受けよ。今後、下女のように振舞うことを許さぬ。よいな」
 女王はいつもの宣言口調で言い残し、リリスとアリサを連れて会場を立ち去った。