第百二十六話:最終ユニゾン:愛の狂騒曲の胎動
ー/ー 魔王城前の荒野は、光と闇が激しく明滅するカオスと化していた。
イリスとボルタによる「技術ユニゾン」が六龍姫の魔力を強制的に安定させ、BPIは67,000まで回復した。六天将と人類軍の奮闘により、魔王軍の残存部隊も抑え込まれている。
しかし――決定打が足りない。
『しぶとい虫ケラどもめ……! だが、理(ことわり)は覆らん!』
魔王が吼える。BPI 70,000という絶対的な質量の闇が、再びじりじりと盟約軍の光を押し返し始めた。
ヒカルの『調律の剣』が悲鳴を上げ、腕の血管が焼き切れんばかりに脈動する。
「くっ……! 出力が、頭打ちか……!?」
ヒカルの額から汗が吹き出し、視界が霞む。
竜の魔力、エルフの知恵、ドワーフの技術、そして人々の祈り。全てを束ねてもなお、数千年にわたり世界を絶望で支配してきた魔王の「重み」には、あと一歩届かない。
(何かが……何かが足りない。この膠着を破る、最後のピースが!)
魔王の闇が、光の結界をミシミシと侵食していく。
「ヒカル! もう持たないわ!」
レヴィアの叫びが聞こえる。
その時だった。
崩れかけたヒカルの背中を、二つの温かい手が力強く支えた。
「ヒカル様。私たちもいます」
「王よ。貴方は一人ではありません」
右側には、王室メイド長リリア。
左側には、人類側政務代表レオーネ皇女。
リリアは魔力を持たないただの人間だ。レオーネもまた、戦場に出るような魔導師ではない。
この超次元の魔力合戦において、彼女たちは本来、立っていることさえ不可能なはずだ。
だが、二人はヒカルの背中に手を当て、魔力ではない「熱」を注ぎ込んでいた。
リリアが、涙を浮かべながらも、凛とした声で語りかける。
「私の愛は、ヒカル様が人間であることを忘れないための楔(くさび)。貴方がどこまで高く飛ぼうとも、私が必ず、貴方を『優しさ』の場所へ引き戻します。だから……恐れずに、全てを解放してください!」
それは、ヒカルの原点。
裏切られた絶望の底で、唯一残った「信じる心」。リリアの存在こそが、ヒカルが魔王のような「力だけの怪物」に堕ちるのを防ぐ、最後の安全装置(アンカー)だった。
レオーネが、皇族としての威厳を湛えた瞳で魔王を見据える。
「私は旧帝国の皇女として、そして新王国の行政官として誓います。貴方が勝ち取った未来は、私が、私たちが必ず守り抜く。貴方の戦いは、決して無駄にはさせない! 人類の未来への意志を、今ここに!」
それは、ヒカルが背負う未来。
かつては敵対し、憎しみ合った人類が、今は最も信頼できる「希望」となって彼を支えている。過去の精算と、未来への誓い。
「リリア……、レオーネ……!」
ヒカルの中で、カチリと何かが嵌まる音がした。
竜の魔力(現在)、エルフとドワーフの知恵(技術)、人々の祈り(信仰)。
そこに、「人間の原点(過去)」と「未来への意志」という最後のピースが加わったのだ。
竜族、人類、エルフ、ドワーフ。
ヒカルを愛する全てのヒロインたちの想いが、時間軸を超えて、今、一つに繋がった。
「見えた……! これが、俺たちの答えだ!!」
ヒカルの『調律の剣』が、虹色を超えた透明な輝きを放ち始める。
制御宝玉が砕け散り、光の粒子となってヒカルの腕と一体化する。
BPI 70,000……80,000……90,000……!!
計測器の針が振り切れ、魔王の想定値を遥かに凌駕していく。
『な、なんだこの力は……!? 計算できない……! ありえん!!』
魔王が初めて、恐怖に顔を歪めた。その闇が、光に押されて震えている。
ヒカルは剣を高く掲げ、六人の竜姫たちに向かって叫んだ。
「みんな、行くぞ!! これで決める!! 放て、六龍ユニゾン!!
大きく息を吸って、宣言する。
「『世界統合審判II』ッ!!!!」
ヒカルが渾身の力で技名を叫んだ、その瞬間だった。
通信機越しに、そして背後の完全竜化した竜姫たちから、一斉にドスの効いたツッコミが入った。
「はぁぁぁぁぁっ!? ダサいわよ、夫!!」
レヴィア(炎竜)が、ブレスを溜めながら呆れ果てた咆哮を上げる。
「IIって何よ、IIって! 芸がないわね! もっとこう、『愛の究極奥義』とか『紅蓮の〜』とか、魂が震えるようなカッコイイ名前つけなさいよ!」
「あはは! 団長、それは手抜きすぎだよー!」
セフィラ(風竜)が風に乗りながらケラケラと笑う。
「そんな適当な名前じゃ、威力も半減しちゃうよ? 手抜きしちゃう団長には、あとでお仕置き(空中デート10時間コース)決定だね!」
アクア(水竜)さえも、通信越しにため息をついたのが聞こえた。
「……論理的に見ても、ネーミングセンスの欠如は士気に関わりますね。この期に及んで『II』は、創造性の欠如を示唆します。改善を要求します」
極限状態での、あまりにも日常的な、愛のあるダメ出し。
その空気が、魔王が放つ「絶望」や「恐怖」といった概念を、完全に無効化した。
ヒカルは思わず吹き出した。
体の震えが止まり、力が漲ってくる。
「……悪かったよ! なら、これでどうだ!!」
ヒカルは、仲間たちの笑顔と、愛と、未来への希望を込めて、新たな名を叫んだ。
それは、神話の終わりと、新しい時代の始まりを告げる名。
「六龍神話・愛の創世ッ!!!!」
「「「それなら良しッ!!!」」」
六人の竜姫が、リリアが、レオーネが、イリスが、ボルタが、全員が心を一つにした。
BPI 120,000突破。
光が爆発した。
それは単なる破壊の光ではない。
闇を焼き尽くす炎、穢れを洗い流す水、大地を育む土、運命を運ぶ風、魂を癒やす光、そして全てを受け入れる闇。
六つの属性が「愛」という触媒で混ざり合い、世界を再構築(リブート)する創造の輝きとなって溢れ出した。
『お、おのれぇぇぇぇ……! 愛などに……非合理な感情などにぃぃぃッ!!』
魔王の断末魔が響く中、全軍の咆哮がそれを塗りつぶしていく。
「行けぇぇぇぇッ! 王よ!!」
最前線でキメラを薙ぎ払っていた爆炎龍将軍フレアが、血まみれの剣を掲げて叫ぶ。
「我らが王の道を塞ぐな!」
不動の防衛将ガイアが、大盾で魔王軍の残党を押し返す。
「見届けてやるよ、団長の冒険の終着点を!」
空虚の斥候王ゼファーが風となって戦場を駆ける。
「投資回収の時間ですよ、王!!」
後方で財務官僚長官ギルティアが、計算機を投げ捨てて祈るように叫ぶ。
「これぞ、知と愛の結晶じゃ!」
学術顧問エルダー・ソフスが涙を流して杖を振るう。
「人類の未来を……頼みます!」
リヒター総帥率いる人類連合軍が、最後の力を振り絞って雄叫びを上げる。
そして、六人の竜姫たちの絶叫が、世界を震わせた。
「愛してるわ、ヒカルーーッ!!」(レヴィア)
「貴方は私の論理の全てです!」(アクア)
「主こそが、わらわの命!」(テラ)
「最高の冒険をありがとう!」(セフィラ)
「貴方の光になりたい!」(ルーナ)
「我が闇は、貴方の影!」(ヴァルキリア)
全ての想いが一点に収束し、魔王の「虚無」を貫いた。
ズガァァァァァァァァァァンッ!!!!
魔王城が、闇が、絶望が、光の粒子となって分解されていく。
破壊された荒野には、瞬く間に緑が芽吹き、花が咲き乱れる。
それは、ヒカルたちが望んだ「優しさ」が物理法則となって世界を書き換える、奇跡の瞬間だった。
『バカな……。余が……否定される、だと……』
魔王の身体が崩れ落ちる。その瞳から、初めて憎悪以外の色が――理解不能なものを見る驚きが浮かび、そして消えた。
光が収束する。
空が割れ、美しい青空が広がった。
ヒカルたちの愛の狂騒曲が、世界を変えた瞬間だった。
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