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待伏(ザンス編)

ー/ー



「本当に敵は、首相に化けやがるのか……?」
「解るわけねぇだろ……」


 隣でウン十万すんだか解らねぇ高級椅子にふんぞり返りながら、これまた普段絶対食えないだろう高級メロン(何個目だ?)に齧り付く雪之丞の問いに、俺も普通に生活してたら絶対に食えない高級マロンパフェをパクつきながら(こんなもん食っちまったら、ファミレスのパフェなんかゴミで今後一切食えねぇぞ……ちなみに3杯目)半分投げやりに答える。

 俺だって、何となく言っただけなんだ。爺さんは可能性が高いと踏んじゃいるが、当然鵜呑みになんて出来ない。

 …………出来はしないが、俺にはそれを否定することも、別の推論を立てることも出来ない。とにかく、情報が少なすぎる。

 だから、半信半疑のまま当てずっぽう(・・・・・・)に近い推論を前提に事を進めるしかない………そんな状況だ。


“そこ、どけ!”

“この資料を本庁に回せ!”  

“向こうからの連絡は、まだか!?”


 …………と言っても、実際それを進めてるのは、西条や爺さんを主導としたオカルトGメン達なんだけどな。ちなみにマリアは、凄まじい勢いでパソコンのキーボードを叩いてる。話し方は辿々しいが、演算スピードはスパコン並み(それ以上とも……)だからな。寧ろ、線を直接繋いだ方が速いんじゃないか……?


 本来なら、海外の超VIPを持て成す西洋式の豪勢なホールに、無機質な電話やFAXなどの電子機器を数多く放り込んだ異質な空間。そこをGメン達が、怒号を撒き散らしながら所狭しと動き回ってるいる。

 鳴りっぱなしの電話。印刷の止まらないFAX。それらが全部合わさり、この場はこの上ない “カオス” と化していた。


 やっている事は、主に爺さんの推論の裏付け。現場に散っている捜査員からの情報の整理と報告。過去に起こった霊的テロの洗い直し。俺達の取り調べに関する途中経過の報告も、そこには含まれてる。

 まぁ、これに関しては今も強弁に引き渡しを要求する上に対する時間稼ぎの意味合いが強いんだけどな………頑張ってくれ。


 西条達による突然の連行から、一夜明けた昼……俺達は、変わらず迎賓館(離宮)のフロアに居る。と言うか缶詰(・・)状態だ。


 ただ、オカルト対策室が貸し切ってるこのフロアは、非常に広い。

 今居る本部として使われているホールを中心に、広々とした廊下が四方に伸び、その先にいくつもの個室が連なっていて、その一つ一つもその辺のビジネスホテルの何倍も大きい。

 そして、そのフロア内の移動に限れば制限は一切無いんだ。閉塞感なんて、まるで感じない。

 俺達の独房(・・)にされてる部屋も例によって広い上に、豪華(ふかふかのベッドに大理石の使用された浴室)極まりなく、そこに加えて昨日西条が言ったように高級料理(VIPを持て成す為、こっちも一流料理人の手製)のオンパレードのルームサービスは使い放題………放題じゃなくて、使ってもいいだったか?

 まぁ、とにかくそんな感じで立場上は “軟禁” だが、実際は国賓級ゲストの待遇を受けてる訳だ。

 犯人扱いされた事は業腹だが、この扱いそのもの(・・・・)には文句どころか素直に感謝しかしない。


「おいっ、お主等!」


 ………………とそんな感慨に耽る俺に……正確には、俺達に向けて放たれるジジィの無粋な声。

 何だよ?人が滅多に味わえない贅沢を満喫してる最中に……


「こっちが、齷齪(あくせく)動いとるんだぞ!その前で、良く食えるな!?」
「んだよ?爺さん、ちゃんと邪魔にならねぇ様に隅っこで食ってるだろ?」
「そうだぜ。大体、俺達は無実の罪で “投獄” 状態なんだ。これくらい許してくれよ」


 俺達じゃ作業には加われねぇけど、状況は気にしてるんだぞ。


「なら、部屋で食わんかっ!朝から好き放題食い散らかしよって。それと、雪之丞!テーブルに足を乗せるでない!それは、超高級品じゃ!!」
「へいへい………ジジィの血管が切れても困るから、退散すっか」
「ああ。そろそろ、他のGメンの目付きもヤバくなって来たしな」


 西条達は、作業に忙殺されてるから何も言っては来なかったが、時折鋭い視線を何度も飛ばしては来ていた。

 余り居座ると、本気で視線が銃口に変わっちまいそうなんで、そうなる前に俺達2人は独房と呼ばれるスイートルームへ退散した。





     ◇◇◇

 
“現在訪日中のザンス王国、国王が襲撃された事件について__” 


 ゴージャスな部屋に戻って早速TVを着けたが、ニュースでは変わらずザンステロの話題で持ちきりだった。
 
 …………そして、その内容は……


“……動きがありました。現在、ザンス国王の滞在先である迎賓館の正門付近です ”

​ “先ほど午後5時すぎ、ICPOオカルト対策室によって身柄を確保された**『事件に関与したとみられる男2人』**が、厳重な警備に守られた車両で運び込まれました ”

​ “依然として男たちの氏名や国籍は公表されていませんが、捜査関係者によりますと、2人は事件発生時、現場周辺で極めて不自然な行動をとっていた『重要参考人』とされています”

“​画面中央、青いコートで顔を隠し、捜査官に抱えられるようにして建物へと入っていくのが、例の男達の影でしょうか ”

“​政府は現在、この男たちの背後関係について全力を挙げて解明を進めるとしており、迎賓館周辺は警察官1000人による異常なまでの厳戒態勢が敷かれています…… ”


「はっ、何度観ても面白ぇ事になってんな♪」
「………そうに思える、お前が羨ましいわ」
 

 昨日の夜から、各局で何度放送されたか解らない映像にはしゃぐ(・・・・)雪之丞へ、俺は嘆息気味に返す。
 
 マスコミを躱す為のダミーとは言え、彼処(あそこ)に流れてるのは俺達(・・)って事になってんだからな。全日本の(悪い意味で)話題の的になってんのに、良く能天気でいられるな。

 ………………間違いなくこいつの強さだとは思うが、とても真似出来そうにない。



「…………どうした?」


 俺は、不審に思って雪之丞へ声を掛ける。

 こいつに対して、感心とも呆れとも言えないような感情を抱いていた所だったが、ふと見ると肝心の本人がやたら真剣な顔をしていたからだ。

 視線は、TVに向いているものの間違い無く別の事を考えてる。やはり、こう見えて内心はこいつも……


「…………お前は、『鴉』って本名とは別の呼ばれ方があっていいよな?」
「……なんだ、いきなり?」


 別の呼ばれ方って、お前が勝手に呼び出したんだろ?

 最近じゃ、何故かマリアまでそう呼ぶし……まぁ、この状況で余り『横島』だの『忠夫』だの言われてもアレなんで黙ってたが、別に気に入ってる訳では無い。

 だが、奴はそんな俺の心情お構い無しに続ける。


「本名以外の呼ばれ方があると、何かこう……ミステリアスな感じがするじゃねぇか?」


 いや、知らんけど………と言うか、そんなん無くても俺達は既に得体の知れない存在だぞ。周りの連中から見たら……


「タイガーの奴だって、あれは登録名で本名は “大河” なんだろ?」


 そうだな……確かにクラス名簿では、普通に『大河虎吉』って書いてあるなけど………


「お前、まさか……」
「俺も、本名と違う何かにすっかな……?」


 やっぱ、駄目だ。こいつ……

 俺は、腕組みして真剣に考え込む雪之丞を見ながら、そう思った。




    ◇◇◇


 薄暗い地下の下水通路…………

 湿気で天井に苔が広がり、細い水路には黒いヘドロがゆっくりと流れている。

 遠くで滴る水の音が足元に響き渡り、たまにネズミが一瞬姿を見せたかと思うと、すぐに闇の中に消えていった。

 …………そして、とにかく臭い……

 辺りは鼻が曲がりそうな程、腐敗臭が充満してやがる……マスクのお陰で何とかなってるが、これが無かったらきっと何回も吐き気を覚えてたろう…………

 
 そんな最悪なところで、息を潜めながら待つこと数時間……
 
 問題の時間の30分くらい前になって、 “奴” は闇の中から漸く姿を現した。








待伏 武威
「やっと来やがったな……!!」
「……!?」


 そいつに向かって雪之丞が、 “げんなり” したように呟く。中々現れなかった奴に対する怒りよりも、状況が進展してくれることへの安堵感が勝ってる感じだ……

 これで、敵が見当外れな所にでも出てくれたら、目も当てれねぇからな…………


 結局、あの後爺さんや゙西条達は、首相のスケジュールや議事堂の構造から、奴の進入経路を割り出す事に成功した。

 今、俺達の後ろには一つの扉がある。続いてる先は勿論、議事堂内部だ。これは、秘密の緊急脱出通路らしい……
 
 ただ、奴がいつこの扉を利用するかが解らなかったんで、こうして何時間も前から張るハメになっちまった…………
 

 今更だが、当然下水路に電灯はない。だが、そいつの発する霊気が微かな光となり、朧気ながらその姿を俺の眼球に映し出していた。

 身長180〜185cmくらいだろうか?痩身な身体つきだが、細いと言うより “鋭い” 印象を受ける。無駄を一切削ぎ落としたナイフや剃刀のようだ。

 そして、多分ザンス人で30代くらいだろう……全体的に骨張った顔をした、酷薄な印象が強い男だった。


 人を “殺す” のに、何の躊躇いも見せないような…………


「貴様ラ……!」


 夜目が効くのか、奴も俺達が自分の囮に選んだ連中と気付いたらしい。歯軋りするように、言葉を絞りだした。


「邪魔ヲスルナ!王ハ、宗教ノ “禁忌(タブー)” ヲ破ッタ……決シテ許サレナイ!!」


 その言葉と共に奴の霊圧が一気に解き放たれる……!!

 スゲェ圧力だ……何て無機質…………いや、混じりっけない殺意と言うべきか?

 間違いねぇ……奴は強敵だ!


「ゾクゾクすんなぁ!!空気がひりつきやがる……だが、通す理由(わけ)ねぇ!解るだろ?」


 ただ、俺がそんな心境でもウチのバトルマニアは血が騒ぐらしい。さっきまでテンション低かったのに、奴の殺気に触発されて一気に元気になりやがった……


「異教徒ガ……!!」
「はっ!関係ねぇ、俺は無神論者だ!神なんか、端から信じねぇ!!」


 売り言葉に、買い言葉……怒りを深めるテロリストに、負けじと吼える雪之丞…………ただ……


 武神様だって、神なんだけどな。

 あの方は、ノーカンなのか……?




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 隣でウン十万すんだか解らねぇ高級椅子にふんぞり返りながら、これまた普段絶対食えないだろう高級メロン(何個目だ?)に齧り付く雪之丞の問いに、俺も普通に生活してたら絶対に食えない高級マロンパフェをパクつきながら(こんなもん食っちまったら、ファミレスのパフェなんかゴミで今後一切食えねぇぞ……ちなみに3杯目)半分投げやりに答える。
 俺だって、何となく言っただけなんだ。爺さんは可能性が高いと踏んじゃいるが、当然鵜呑みになんて出来ない。
 …………出来はしないが、俺にはそれを否定することも、別の推論を立てることも出来ない。とにかく、情報が少なすぎる。
 だから、半信半疑のまま|当てずっぽう《・・・・・・》に近い推論を前提に事を進めるしかない………そんな状況だ。
“そこ、どけ!”
“この資料を本庁に回せ!”  
“向こうからの連絡は、まだか!?”
 …………と言っても、実際それを進めてるのは、西条や爺さんを主導としたオカルトGメン達なんだけどな。ちなみにマリアは、凄まじい勢いでパソコンのキーボードを叩いてる。話し方は辿々しいが、演算スピードはスパコン並み(それ以上とも……)だからな。寧ろ、線を直接繋いだ方が速いんじゃないか……?
 本来なら、海外の超VIPを持て成す西洋式の豪勢なホールに、無機質な電話やFAXなどの電子機器を数多く放り込んだ異質な空間。そこをGメン達が、怒号を撒き散らしながら所狭しと動き回ってるいる。
 鳴りっぱなしの電話。印刷の止まらないFAX。それらが全部合わさり、この場はこの上ない “カオス” と化していた。
 やっている事は、主に爺さんの推論の裏付け。現場に散っている捜査員からの情報の整理と報告。過去に起こった霊的テロの洗い直し。俺達の取り調べに関する途中経過の報告も、そこには含まれてる。
 まぁ、これに関しては今も強弁に引き渡しを要求する上に対する時間稼ぎの意味合いが強いんだけどな………頑張ってくれ。
 西条達による突然の連行から、一夜明けた昼……俺達は、変わらず迎賓館(離宮)のフロアに居る。と言うか|缶詰《・・》状態だ。
 ただ、オカルト対策室が貸し切ってるこのフロアは、非常に広い。
 今居る本部として使われているホールを中心に、広々とした廊下が四方に伸び、その先にいくつもの個室が連なっていて、その一つ一つもその辺のビジネスホテルの何倍も大きい。
 そして、そのフロア内の移動に限れば制限は一切無いんだ。閉塞感なんて、まるで感じない。
 俺達の|独房《・・》にされてる部屋も例によって広い上に、豪華(ふかふかのベッドに大理石の使用された浴室)極まりなく、そこに加えて昨日西条が言ったように高級料理(VIPを持て成す為、こっちも一流料理人の手製)のオンパレードのルームサービスは使い放題………放題じゃなくて、使ってもいいだったか?
 まぁ、とにかくそんな感じで立場上は “軟禁” だが、実際は国賓級ゲストの待遇を受けてる訳だ。
 犯人扱いされた事は業腹だが、この扱い|そのもの《・・・・》には文句どころか素直に感謝しかしない。
「おいっ、お主等!」
 ………………とそんな感慨に耽る俺に……正確には、俺達に向けて放たれるジジィの無粋な声。
 何だよ?人が滅多に味わえない贅沢を満喫してる最中に……
「こっちが、|齷齪《あくせく》動いとるんだぞ!その前で、良く食えるな!?」
「んだよ?爺さん、ちゃんと邪魔にならねぇ様に隅っこで食ってるだろ?」
「そうだぜ。大体、俺達は無実の罪で “投獄” 状態なんだ。これくらい許してくれよ」
 俺達じゃ作業には加われねぇけど、状況は気にしてるんだぞ。
「なら、部屋で食わんかっ!朝から好き放題食い散らかしよって。それと、雪之丞!テーブルに足を乗せるでない!それは、超高級品じゃ!!」
「へいへい………ジジィの血管が切れても困るから、退散すっか」
「ああ。そろそろ、他のGメンの目付きもヤバくなって来たしな」
 西条達は、作業に忙殺されてるから何も言っては来なかったが、時折鋭い視線を何度も飛ばしては来ていた。
 余り居座ると、本気で視線が銃口に変わっちまいそうなんで、そうなる前に俺達2人は独房と呼ばれるスイートルームへ退散した。
     ◇◇◇
“現在訪日中のザンス王国、国王が襲撃された事件について__” 
 ゴージャスな部屋に戻って早速TVを着けたが、ニュースでは変わらずザンステロの話題で持ちきりだった。
 …………そして、その内容は……
“……動きがありました。現在、ザンス国王の滞在先である迎賓館の正門付近です ”
​ “先ほど午後5時すぎ、ICPOオカルト対策室によって身柄を確保された**『事件に関与したとみられる男2人』**が、厳重な警備に守られた車両で運び込まれました ”
​ “依然として男たちの氏名や国籍は公表されていませんが、捜査関係者によりますと、2人は事件発生時、現場周辺で極めて不自然な行動をとっていた『重要参考人』とされています”
“​画面中央、青いコートで顔を隠し、捜査官に抱えられるようにして建物へと入っていくのが、例の男達の影でしょうか ”
“​政府は現在、この男たちの背後関係について全力を挙げて解明を進めるとしており、迎賓館周辺は警察官1000人による異常なまでの厳戒態勢が敷かれています…… ”
「はっ、何度観ても面白ぇ事になってんな♪」
「………そうに思える、お前が羨ましいわ」
 昨日の夜から、各局で何度放送されたか解らない映像に|はしゃぐ《・・・・》雪之丞へ、俺は嘆息気味に返す。
 マスコミを躱す為のダミーとは言え、|彼処《あそこ》に流れてるのは|俺達《・・》って事になってんだからな。全日本の(悪い意味で)話題の的になってんのに、良く能天気でいられるな。
 ………………間違いなくこいつの強さだとは思うが、とても真似出来そうにない。
「…………どうした?」
 俺は、不審に思って雪之丞へ声を掛ける。
 こいつに対して、感心とも呆れとも言えないような感情を抱いていた所だったが、ふと見ると肝心の本人がやたら真剣な顔をしていたからだ。
 視線は、TVに向いているものの間違い無く別の事を考えてる。やはり、こう見えて内心はこいつも……
「…………お前は、『鴉』って本名とは別の呼ばれ方があっていいよな?」
「……なんだ、いきなり?」
 別の呼ばれ方って、お前が勝手に呼び出したんだろ?
 最近じゃ、何故かマリアまでそう呼ぶし……まぁ、この状況で余り『横島』だの『忠夫』だの言われてもアレなんで黙ってたが、別に気に入ってる訳では無い。
 だが、奴はそんな俺の心情お構い無しに続ける。
「本名以外の呼ばれ方があると、何かこう……ミステリアスな感じがするじゃねぇか?」
 いや、知らんけど………と言うか、そんなん無くても俺達は既に得体の知れない存在だぞ。周りの連中から見たら……
「タイガーの奴だって、あれは登録名で本名は “大河” なんだろ?」
 そうだな……確かにクラス名簿では、普通に『大河虎吉』って書いてあるなけど………
「お前、まさか……」
「俺も、本名と違う何かにすっかな……?」
 やっぱ、駄目だ。こいつ……
 俺は、腕組みして真剣に考え込む雪之丞を見ながら、そう思った。
    ◇◇◇
 薄暗い地下の下水通路…………
 湿気で天井に苔が広がり、細い水路には黒いヘドロがゆっくりと流れている。
 遠くで滴る水の音が足元に響き渡り、たまにネズミが一瞬姿を見せたかと思うと、すぐに闇の中に消えていった。
 …………そして、とにかく臭い……
 辺りは鼻が曲がりそうな程、腐敗臭が充満してやがる……マスクのお陰で何とかなってるが、これが無かったらきっと何回も吐き気を覚えてたろう…………
 そんな最悪なところで、息を潜めながら待つこと数時間……
 問題の時間の30分くらい前になって、 “奴” は闇の中から漸く姿を現した。
「やっと来やがったな……!!」
「……!?」
 そいつに向かって雪之丞が、 “げんなり” したように呟く。中々現れなかった奴に対する怒りよりも、状況が進展してくれることへの安堵感が勝ってる感じだ……
 これで、敵が見当外れな所にでも出てくれたら、目も当てれねぇからな…………
 結局、あの後爺さんや゙西条達は、首相のスケジュールや議事堂の構造から、奴の進入経路を割り出す事に成功した。
 今、俺達の後ろには一つの扉がある。続いてる先は勿論、議事堂内部だ。これは、秘密の緊急脱出通路らしい……
 ただ、奴がいつこの扉を利用するかが解らなかったんで、こうして何時間も前から張るハメになっちまった…………
 今更だが、当然下水路に電灯はない。だが、そいつの発する霊気が微かな光となり、朧気ながらその姿を俺の眼球に映し出していた。
 身長180〜185cmくらいだろうか?痩身な身体つきだが、細いと言うより “鋭い” 印象を受ける。無駄を一切削ぎ落としたナイフや剃刀のようだ。
 そして、多分ザンス人で30代くらいだろう……全体的に骨張った顔をした、酷薄な印象が強い男だった。
 人を “殺す” のに、何の躊躇いも見せないような…………
「貴様ラ……!」
 夜目が効くのか、奴も俺達が自分の囮に選んだ連中と気付いたらしい。歯軋りするように、言葉を絞りだした。
「邪魔ヲスルナ!王ハ、宗教ノ “|禁忌《タブー》” ヲ破ッタ……決シテ許サレナイ!!」
 その言葉と共に奴の霊圧が一気に解き放たれる……!!
 スゲェ圧力だ……何て無機質…………いや、混じりっけない殺意と言うべきか?
 間違いねぇ……奴は強敵だ!
「ゾクゾクすんなぁ!!空気がひりつきやがる……だが、通す理由(わけ)ねぇ!解るだろ?」
 ただ、俺がそんな心境でもウチのバトルマニアは血が騒ぐらしい。さっきまでテンション低かったのに、奴の殺気に触発されて一気に元気になりやがった……
「異教徒ガ……!!」
「はっ!関係ねぇ、俺は無神論者だ!神なんか、端から信じねぇ!!」
 売り言葉に、買い言葉……怒りを深めるテロリストに、負けじと吼える雪之丞…………ただ……
 武神様だって、神なんだけどな。
 あの方は、ノーカンなのか……?