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第69話 先輩とあそぼう

ー/ー



「そこで必殺のつぐみパンチが炸裂! 吸血鬼は一撃でノックアウト! ……おーい後輩よ、聞いてるー?」

「あーはい。聞いてはいますけどその話、三十回目くらいなんですけど……」

「文句あるー? つぐみ大先輩が後輩を助けるために八面六臂の大活躍をしたっていうのに、その話が聞けないとー!?」

 椿はメイジーと依頼の調査に出かけている。

 二人が留守番なのは、吸血鬼との戦い以降つぐみがずっとこの調子だからだ。

 興奮冷めやらぬ様子で武勇伝を繰り返し話し続けるのである。

 これでは使い物にならないと椿に判断され、話し相手として一矢と共に置き去りにされたわけだ。

「そういえばわたし、ご褒美もらってなーい!」

「特別手当もらってたじゃないですか」

「違う違うー! 後輩から感謝の気持ちのこもったご褒美をもらってないってことだよー!」

 一矢はハッとした。

 吸血鬼の残党を取りまとめ、ヴァルキリーに恭順させるために旅立ったビアンカ。

 彼女に休む間もなく絡まれ続けていたのもあるが、並行世界やら、もう一人の自分にやらに気を取られ、つぐみへのお礼をろくにしていなかったのだ。

 ちなみにマクスウェルは吸血鬼狩りの生き残りと吸血鬼の調停役としてビアンカの補佐となり、お互い心底嫌そうに出発していった。

「詫びろー!」

「ど、どうしたら許していただけるんでしょうか……」

「遊べー!」

 予想外な返答に一矢は驚く。そしてどのレベルの遊びを想定すればいいのかで困惑してしまう。

「思い立ったが吉日! 留守番なんてやめて遊びに行くよー!」

「ええっ!?」

 一矢の腕を引っ張り、留守番の役目を放棄しようとするつぐみ。

 こうなると一矢には彼女を止められない。単純な力勝負で負けるからである。



 つぐみが真っ先に向かったのは事務所の近所にある公園である。

 そしてつぐみに意外と子供っぽいとこがあると勘違いした一矢に衝撃の展開が待ち受けていた。

「お腹すいたねー。ご飯にしよー」

(持ち物に弁当なんてなかったはずだけど、どうするんだろう)

 おもむろにつぐみが植え込みに落ちていた石をひっくり返す。

(!?)

 そして土を指でほじくると、彼女の手には数匹のミミズが握られていた。

「食べよっか!」

「食べないよ!」

 驚きのあまり思わずタメ口になってしまう一矢。そしてどうしても確認したいことができ、つぐみに質問をぶつける。

「普段ミミズ、食べるんですか……?」

「まあ、本能が勝る時とか?」

「食べるんだ……」

 一矢の必死の説得により、二人は近所のファミリーレストランに入り込むことに成功した。

「後輩! ドリンクバーのジュース混ぜて最強のジュース作った! マズ!」

(感性が小中学生の男子なんだよな)

「そうそう! わたし行ってみたいところあるんだった! 行こうよー!」

「場所によりますけど……」

 どこに連れていかれるかわからないが一矢はつぐみに借りがある手前、あからさまに嫌がることができない。

 結局彼女の案内で次の場所へ連れていかれることになった。



 一矢が連れていかれたのは駅前のゲームセンターだった。

「ゲーセン?」

「そうそ! ツバキさんに不良妖魔になるって言われて行っちゃダメってことになってたんだー。でも今日は後輩がいるでしょー? セーフセーフ!」

(ゲーセンならまあ、ミミズを食わされそうになるよりはいいだろ……)

 そして一矢は椿の真意を知ることになるのである。




「パンチングマシーン! パンチの威力を測るんだって! やりたーい!」

「ダメです! 壊すから!」

「やりたーいー!」



「太鼓のゲームだ! これもやりたーい!」

「これも壊れるから!」

「えー!?」



「じゃあロボットが飛んでるこれ! 楽しそう!」

「煽られて絶対台パンする! 壊さないで!」

「ダメダメばっかりじゃん!」



 そうして二人が最終的にたどり着いたのはクレーンゲームコーナーだった。

(クレーンゲームなら筐体を壊す心配はないだろ……)

「後輩! あれかわいいね! 欲しいー!」

 彼女が指で示したのは「BIGカラーひよこ」というシリーズ。

 大人でも抱きかかえないと運べないほどの大きさの、色とりどりのひよこのぬいぐるみがゲーム機の中に並べられている。

「でも後輩、カラーひよこって何?」

「そういうキャラクターじゃないですか? きっと色で性格が違うんでしょねえ」

 本当のことを伝えると鳥類のつぐみは怒り出しそうなのでデタラメの内容を伝える一矢。

「へえー。じゃあわたしは黒のひよこがいい! 取ってー!」

 散々ゲームを諦めさせてきたので、そうせがまれるとプレゼントしなければいけない気がしてくる。

 一矢はゲームセンターを禁止する椿の気持ちがわかった気がした。

 結果ひよこを取るのに七千五百円かかった。つぐみは喜んでいたがフリマサイトで見ると二千円で売られていて彼は少しがっかりした。



「いやー! 遊んだねえー! ひよこちゃんもありがとー!」

「先輩が嬉しそうでよかったですよ」

 これは本心からの言葉だった。同じ事務所の仲間であり、先輩でもある彼女がこれだけ喜んでいるのだ。

 彼女も一矢が大切な存在だからこそ吸血鬼との戦場で共に戦ってくれたのだろうと思った。

(日頃の鬱憤を晴らすために戦ってたわけじゃない、よな……)

「吸血鬼を散々ボコれてスカッとしたし! 後輩と遊べて楽しかったし! 最近はいいことだらけだね!」

(うーん……?)

 妖魔と死神、価値観が少し違うのだろうかと思う一矢だった。

「これで詫びになりましたかね……?」

「さーて、どうかなー?」

 言葉に反して満面の笑みを浮かべるつぐみ。

 そして二人は事務所で待ち構えていた椿にこっぴどく叱られたのだった。


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「そこで必殺のつぐみパンチが炸裂! 吸血鬼は一撃でノックアウト! ……おーい後輩よ、聞いてるー?」
「あーはい。聞いてはいますけどその話、三十回目くらいなんですけど……」
「文句あるー? つぐみ大先輩が後輩を助けるために八面六臂の大活躍をしたっていうのに、その話が聞けないとー!?」
 椿はメイジーと依頼の調査に出かけている。
 二人が留守番なのは、吸血鬼との戦い以降つぐみがずっとこの調子だからだ。
 興奮冷めやらぬ様子で武勇伝を繰り返し話し続けるのである。
 これでは使い物にならないと椿に判断され、話し相手として一矢と共に置き去りにされたわけだ。
「そういえばわたし、ご褒美もらってなーい!」
「特別手当もらってたじゃないですか」
「違う違うー! 後輩から感謝の気持ちのこもったご褒美をもらってないってことだよー!」
 一矢はハッとした。
 吸血鬼の残党を取りまとめ、ヴァルキリーに恭順させるために旅立ったビアンカ。
 彼女に休む間もなく絡まれ続けていたのもあるが、並行世界やら、もう一人の自分にやらに気を取られ、つぐみへのお礼をろくにしていなかったのだ。
 ちなみにマクスウェルは吸血鬼狩りの生き残りと吸血鬼の調停役としてビアンカの補佐となり、お互い心底嫌そうに出発していった。
「詫びろー!」
「ど、どうしたら許していただけるんでしょうか……」
「遊べー!」
 予想外な返答に一矢は驚く。そしてどのレベルの遊びを想定すればいいのかで困惑してしまう。
「思い立ったが吉日! 留守番なんてやめて遊びに行くよー!」
「ええっ!?」
 一矢の腕を引っ張り、留守番の役目を放棄しようとするつぐみ。
 こうなると一矢には彼女を止められない。単純な力勝負で負けるからである。
 つぐみが真っ先に向かったのは事務所の近所にある公園である。
 そしてつぐみに意外と子供っぽいとこがあると勘違いした一矢に衝撃の展開が待ち受けていた。
「お腹すいたねー。ご飯にしよー」
(持ち物に弁当なんてなかったはずだけど、どうするんだろう)
 おもむろにつぐみが植え込みに落ちていた石をひっくり返す。
(!?)
 そして土を指でほじくると、彼女の手には数匹のミミズが握られていた。
「食べよっか!」
「食べないよ!」
 驚きのあまり思わずタメ口になってしまう一矢。そしてどうしても確認したいことができ、つぐみに質問をぶつける。
「普段ミミズ、食べるんですか……?」
「まあ、本能が勝る時とか?」
「食べるんだ……」
 一矢の必死の説得により、二人は近所のファミリーレストランに入り込むことに成功した。
「後輩! ドリンクバーのジュース混ぜて最強のジュース作った! マズ!」
(感性が小中学生の男子なんだよな)
「そうそう! わたし行ってみたいところあるんだった! 行こうよー!」
「場所によりますけど……」
 どこに連れていかれるかわからないが一矢はつぐみに借りがある手前、あからさまに嫌がることができない。
 結局彼女の案内で次の場所へ連れていかれることになった。
 一矢が連れていかれたのは駅前のゲームセンターだった。
「ゲーセン?」
「そうそ! ツバキさんに不良妖魔になるって言われて行っちゃダメってことになってたんだー。でも今日は後輩がいるでしょー? セーフセーフ!」
(ゲーセンならまあ、ミミズを食わされそうになるよりはいいだろ……)
 そして一矢は椿の真意を知ることになるのである。
「パンチングマシーン! パンチの威力を測るんだって! やりたーい!」
「ダメです! 壊すから!」
「やりたーいー!」
「太鼓のゲームだ! これもやりたーい!」
「これも壊れるから!」
「えー!?」
「じゃあロボットが飛んでるこれ! 楽しそう!」
「煽られて絶対台パンする! 壊さないで!」
「ダメダメばっかりじゃん!」
 そうして二人が最終的にたどり着いたのはクレーンゲームコーナーだった。
(クレーンゲームなら筐体を壊す心配はないだろ……)
「後輩! あれかわいいね! 欲しいー!」
 彼女が指で示したのは「BIGカラーひよこ」というシリーズ。
 大人でも抱きかかえないと運べないほどの大きさの、色とりどりのひよこのぬいぐるみがゲーム機の中に並べられている。
「でも後輩、カラーひよこって何?」
「そういうキャラクターじゃないですか? きっと色で性格が違うんでしょねえ」
 本当のことを伝えると鳥類のつぐみは怒り出しそうなのでデタラメの内容を伝える一矢。
「へえー。じゃあわたしは黒のひよこがいい! 取ってー!」
 散々ゲームを諦めさせてきたので、そうせがまれるとプレゼントしなければいけない気がしてくる。
 一矢はゲームセンターを禁止する椿の気持ちがわかった気がした。
 結果ひよこを取るのに七千五百円かかった。つぐみは喜んでいたがフリマサイトで見ると二千円で売られていて彼は少しがっかりした。
「いやー! 遊んだねえー! ひよこちゃんもありがとー!」
「先輩が嬉しそうでよかったですよ」
 これは本心からの言葉だった。同じ事務所の仲間であり、先輩でもある彼女がこれだけ喜んでいるのだ。
 彼女も一矢が大切な存在だからこそ吸血鬼との戦場で共に戦ってくれたのだろうと思った。
(日頃の鬱憤を晴らすために戦ってたわけじゃない、よな……)
「吸血鬼を散々ボコれてスカッとしたし! 後輩と遊べて楽しかったし! 最近はいいことだらけだね!」
(うーん……?)
 妖魔と死神、価値観が少し違うのだろうかと思う一矢だった。
「これで詫びになりましたかね……?」
「さーて、どうかなー?」
 言葉に反して満面の笑みを浮かべるつぐみ。
 そして二人は事務所で待ち構えていた椿にこっぴどく叱られたのだった。