第67話 葛藤
ー/ー ロデリックの双子の妹、マデラインは人間に殺された。
全て彼女の夫である血族の当主のせいであった。
貴族主義派閥の有力貴族は人間としての表の顔を持っている場合が多い。
吸血鬼として権勢を誇っていても、城の改築、修繕であったり、入り用の物を買うには人間の金がかかる。
故に彼らは表向きは実業家であったり、人間貴族の末裔を自称するなどして人間社会に溶け込んでいた。
時に名を変え、顔を変えることで長命であることを誤魔化すのだ。
そしてロデリックの所属する血族は多方面に取引を行っている実業家が表向きの姿だった。
彼は人間との取引、交渉をする上で大いにその存在感を発揮し手腕を見せつけた。彼自身も名前こそは変えなかったが顔は何度か変えたことがある。
その一方でその当主はマデラインの顔を変えることを認めなかった。
それほど彼女の美貌を気に入っていたのだ。だが数十年ごとに表向きだけとはいえ代替わりしているというのに、先代の母として一切見た目に変化のない美女が会食の場に現れるのである。
これは取引相手に不気味がられた。
不老不死の夫人。
マデラインは取引相手や街の住民にそう噂されるようになった。
そして一部の住民から噂を聞いた吸血鬼狩りの死神を呼び寄せてしまったのである。彼の手段は強引かつ大胆であった。
屋敷に火をつけ逃げ出てきた吸血鬼の使用人たちを殺していったのである。
住民たちは恐怖した。死神にではない。大火傷をしようと、手や足がもげようとその場で再生していく吸血鬼たちにだ。
「不老不死の夫人が出てきたぞ。今のところこれで終わりだが、まだ仲間がいるかもしれない。ここらで吸血鬼の殺し方でも学んでおいたらどうかね」
死神がそう言うとマデラインが屋敷から出てきた。使用人たちの避難を優先させたため、最後の脱出者になったのである。
そして彼女は待ち受けていた恐慌状態の住民たちにめった刺しにされ、火を付けられ、首を切断されて死んだ。
ちょうどその時ロデリックと当主は商談のため遠出をしていたため、死神から逃れることができた。
そして彼らを追って逃げのびた使用人の一人の報告で二人は全てを知った。
それを聞いて彼は憎んだ。兄妹を巻き込んだ貴族主義派閥を、最愛の妹であるマデラインを殺した人間を。
ロデリックは多くの上質な血を取り込み、既にマデラインより上位の吸血鬼になっていたため、眷属としての共倒れだけは避けられた。
そしてマデラインの死は当主を精神的ショックから廃人同然にさせた。
もしかするとその後にロデリックの前に現れた男がそうさせたのかもしれないが。
サンジェルマン伯爵。彼はそう名乗った。
吸血鬼の間で顔の利く彼はロデリックを当主の名代として派閥に認めさせた。
その中で伯爵は人間への復讐、つまりは吸血鬼による人類支配の案を彼に持ちかけたのである。
賛同したロデリックも始めこそは伯爵の言いなりになっていたが、次第に彼は軍の創設という分野でも頭角を現した。
ゼロから数十年かけて死神にすら対抗できる「血戦派」を形にしてみせたのである。
そして彼の復讐はならず、一人の死神に全てを奪われようとしていた。
「死神……お前は、復讐をしたことがあるか?」
「ある」
一矢の答えにロデリックは死の淵で自嘲気味に笑った。
「私はできなかった……お前らのせいでな」
「俺は死神に家族を殺された。だからといってヴァルキリーを殺そうとは思わない。お前は人間全体に復讐がしたかったのか?」
一矢はスペクトルに殺された弓美のことを思い出す。姉は返ってこないが、彼なりに一つの決着を付けられたのは事実だ。
正当化するつもりはなかったが、復讐であればロデリックにも彼なりの理由があると一矢は思った。
「復讐でもあり、大義だ。真の支配者が、人間の上に立つという当たり前のことを為すべきと思った、まで……」
そこまで言うとロデリックは力尽きた。
ロデリックの能力から、切断された身体で死神の聴取を受けているビアンカの能力に切り替わったことを実感し、ロデリックの死亡を確認する。
彼のその目は最後まで怒りに燃えていた。
「結局復讐か。存外小さな男だったな」
気が付くと椿が一矢の横に立っていた。
「椿さん。俺、わからないことがあるんです」
「何がだ。今回の報酬についてか?」
そう言ってからいつになく真剣な表情の一矢を見て椿は内心少し驚く。
「『ラグナロク』の時、俺はレックスに勝ちたい一心で戦いに参加しました。カグツチを殺したのも奴の考え、存在が気に食わなかったからです。でもロデリックは、吸血鬼は、生まれた時点で死神に狩られる存在です。何故吸血鬼は許されないのか。それについては答えられませんでした」
「何が言いたい? まさか奴の主張に共感したわけじゃないよな?」
思わず椿が口を挟む。彼の身体の半分は吸血鬼として構成されている。彼女は彼がロデリックに同調するようなことがないか危惧した。
「そうじゃなくて。死神はあらゆる存在を狩る種族だと思います。人間ですら全ての動物を食べるわけじゃないのに。でも裏切った死神や異能者に死神が殺されたときのように、ヴァルキリーは何かに手向かわれると総力を挙げてそれを叩き潰そうとします。人が人を殺すことは罰され、吸血鬼が人を殺すことも許されないのに。死神だけが特権階級のように、最も自分勝手に振る舞っていると思うんです」
「死神狩りの私には耳が痛い話だ。その特権階級を殺しても罰されないわけだからな。だがな、自分勝手くらいじゃないとこの世界では生き残れない。私が言えるのはそれだけだ」
「死神は……間違った存在なんでしょうか?」
椿は答えない。その答えは一矢が見つけるべきだと考えたからである。
そして彼女自身、死神という存在がこの世界でまだ必要なのか答えを出せないでいるからだ。
メイジーを背中に載せたつぐみが屋上に着地した。
「ツバキさん! 特別手当よろしくぅ! ってアレ? なんか暗くない?」
「カズヤさん、元気がないわ。どこか痛いのかしら?」
一矢は最大の吸血鬼武装勢力「血戦派」の頭首を打ち破り、死神を勝利に導いた。が、その勝利の味はどこか苦い気がした。
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