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第47話 師弟

ー/ー



「結局のところ吸血鬼ってどんな奴らなんですか?」

「ああ? それどころじゃねえだろ。小僧。ヴァルキリー同士の抗争が始まろうってんだぜ」

「それはそうですけど、吸血鬼たちと戦うことになるのも確かじゃないですか」

 謁見の間で装備の点検をしながら一矢と“サバイバー”マクスウェルの二人が言葉を交わす。

「吸血鬼ねえ。俺らと大差ねえよ。ほとんどが人間の空想でよお、にんにくも十字架も日光も効かねえわな。流石に心臓に杭でもぶち込めば死……」

「ちょっとお前、無駄口叩いてる暇あるわけ!? あんたがこのロスヴァイセ・グリムゲルデ連合軍の代表者になるんだから! それを誇りに思いつつ戦うまで気を抜かないでちょうだい!」

 座り込んで銃器を整備する一矢にロスヴァイセが上から覗き込むように宣言する。

「俺が決闘の代表者になるのはいいですけど、もっと別に候補はいなかったんですか?」

「いたらそいつにしてるっての! わかれ! グリムゲルデお姉さまの軍は『カグツチの乱』で損耗してるし、わたしの軍も……ほら……」

「爆弾にしたから?」

「黙れ、犬!」

 マクスウェルが余計な口を挟み、ヴァルキリーの権能により自らの手で首を絞め始める。

「げええ」

 現在ヴァルキリーの末妹ロスヴァイセと、彼女の姉であり死神総司令ヘルムヴィーゲは対立関係にある。

 ヘルムヴィーゲが回復の見込めないグリムゲルデを「廃棄」という形で処分しようとしたからだ。

 グリムゲルデが胸に受けた矢は吸血鬼による血が塗られており、術師の解析によれば「全身に浸透し体内の霊力を汚染する」性質があるという。

 ヴァルキリーは肉体を持つが狩りの対象を持つ死神とは異なり、自然中の霊力を取り込み生きている。

 つまるところ対ヴァルキリーの毒である。

 負傷したグリムゲルデが語るところには、ヴァルキリーにも通じる対死神用の強力な結界が展開していたという話もある。

 グリムゲルデを「廃棄」処分するメリット。

 それはジークルーネが死んだ時のように次のヴァルキリーが現世に顕現すること。

 ヴァルキリーへの備えも持ち、万全の対策を以て死神との戦争に臨む「血戦派」に対し、死神側も本気でぶつかろうというヘルムヴィーゲの戦略の一環だった。

 それに反発したのはグリムゲルデ傘下の死神とロスヴァイセだった。

 彼女は死神たちを率いグリムゲルデの身柄を確保しつつ、謁見の間を乗っ取ったのだ。

 それによって事実上死神勢力が二分された。

 ヘルムヴィーゲは警視庁本庁周辺に結界を張り、配下の死神を待機させている。

 そしてロスヴァイセとヘルムヴィーゲの対立は古くからの習わしによって、全面的な戦争ではなく「平和的」な決闘で決着がつけられることになったのだ。

「それにあんたは『カグツチの乱』を平定した英雄なんだから少しはピシッとなさいよ! レックスだって倒したんでしょう!?」

「あれはみんなの協力があって……」

「安心なさい。今の東京の霊的情勢からいってもお姉さまだって大した死神は出してこれないわ。ティルヴィングとかは出ないからパパっとやっちゃいなさい」

 ロスヴァイセは有無を言わさずロスヴァイセ・グリムゲルデ連合軍の代表を一矢にした。

 「カグツチの乱」の平定に大きく貢献した“新たな英雄”アマガセ・カズヤを知らない死神はいない。反対意見はなかった。

 一矢がロスヴァイセ側に付いたのはやはり、共に戦ったグリムゲルデを見過ごせないという部分が大きい。

 マクスウェルはヘルムヴィーゲが嫌いだからといって事務所から一矢を追ってきた。

 メイジーには黙って来た。一矢も彼女には悪いとは思ったがメイジーは精神年齢が幼いため、共に戦った仲間であるグリムゲルデを助けるために何をするかわからないからだ。

(俺が負けたらグリムゲルデが死ぬ。それにそんなことが決まったらロスヴァイセがどんな暴挙に出るかわからない。とっとと片づけて死神を一つにしないと、俺が!)

「行けるわよね?」

「ああ。吸血鬼がいつ攻めてくるのかわからないのに、いつまでもこんなことしてられないしな」



 警視庁前に転移し、決闘用に張られた結界を抜け、ロスヴァイセと共に警視庁本庁舎前の広々とした道路に進み出る。

 反対側から鎧姿のヘルムヴィーゲとティルヴィングが中心地に向け歩いてくる。

「おい。ティルヴィングが出てきたじゃないか」

「うるさい、護衛でしょ。それと少し言葉使いに気を付けたらどう? お前も、お前の上司も」

 そこで一矢はあることに気付く。

 今まで多くの場面で共に行動してきた。ある人物の所在が数日前から不明であることを。

 ヴァルキリー間の抗争に巻き込まれることを嫌って姿を消したと一矢は思っていた。

「ほら、誰か来たじゃない」

 ヘルムヴィーゲの後ろから黒いパンツスーツの女が歩いてくる。

 一矢の目が見間違えるはずがない。

 それは死神狩りの私立探偵。椿響子、その人だった。

「椿さん……どうしてですか」

「どうしても何もない。ロスヴァイセがお前を出してくるのは目に見えていた。だから私が選ばれた。お前を鍛えたのが誰か忘れたのか?」

「そういう意味じゃない。グリムゲルデを見捨てて殺すって言うんですか? あなたらしくもない。あの人はヴァルキリーを、死神を統治する上での重要人物だと自分で言ってましたよね」

 ロスヴァイセ、ヘルムヴィーゲ、ティルヴィングがそれぞれ元の位置に下がっていく。

「だがもう死にかけだ。新しいヴァルキリーに賭けるのがヘルムヴィーゲの望みだ」

「カグツチたちと戦った仲間を見殺しにして、知らないヴァルキリーを当てにするっていうんですか!?」

「お前のそういう精神的動揺を誘う目的もある。それに私はヴァルキリーを仲間と思ったことはない」

 椿の放つ殺気に思わず一矢が空亡(くうぼう)を抜く。

「痛い目を見ても知りませんよ」

「痛い目で済むといいが。無論お前の方がな」

 一矢の刺すような視線から目を逸らさず椿が赤口(しゃっこう)を顕現させる。

「ここには借りるべき権能も守るべき仲間もない。お前にとってはアウェイ戦だ。つぐみやメイジーを悲しませたくなかったが……行くぞ」

 一矢の眼前に黒衣の死神狩りが迫る。


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次のエピソードへ進む 第48話 二振りの赤口


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「結局のところ吸血鬼ってどんな奴らなんですか?」
「ああ? それどころじゃねえだろ。小僧。ヴァルキリー同士の抗争が始まろうってんだぜ」
「それはそうですけど、吸血鬼たちと戦うことになるのも確かじゃないですか」
 謁見の間で装備の点検をしながら一矢と“サバイバー”マクスウェルの二人が言葉を交わす。
「吸血鬼ねえ。俺らと大差ねえよ。ほとんどが人間の空想でよお、にんにくも十字架も日光も効かねえわな。流石に心臓に杭でもぶち込めば死……」
「ちょっとお前、無駄口叩いてる暇あるわけ!? あんたがこのロスヴァイセ・グリムゲルデ連合軍の代表者になるんだから! それを誇りに思いつつ戦うまで気を抜かないでちょうだい!」
 座り込んで銃器を整備する一矢にロスヴァイセが上から覗き込むように宣言する。
「俺が決闘の代表者になるのはいいですけど、もっと別に候補はいなかったんですか?」
「いたらそいつにしてるっての! わかれ! グリムゲルデお姉さまの軍は『カグツチの乱』で損耗してるし、わたしの軍も……ほら……」
「爆弾にしたから?」
「黙れ、犬!」
 マクスウェルが余計な口を挟み、ヴァルキリーの権能により自らの手で首を絞め始める。
「げええ」
 現在ヴァルキリーの末妹ロスヴァイセと、彼女の姉であり死神総司令ヘルムヴィーゲは対立関係にある。
 ヘルムヴィーゲが回復の見込めないグリムゲルデを「廃棄」という形で処分しようとしたからだ。
 グリムゲルデが胸に受けた矢は吸血鬼による血が塗られており、術師の解析によれば「全身に浸透し体内の霊力を汚染する」性質があるという。
 ヴァルキリーは肉体を持つが狩りの対象を持つ死神とは異なり、自然中の霊力を取り込み生きている。
 つまるところ対ヴァルキリーの毒である。
 負傷したグリムゲルデが語るところには、ヴァルキリーにも通じる対死神用の強力な結界が展開していたという話もある。
 グリムゲルデを「廃棄」処分するメリット。
 それはジークルーネが死んだ時のように次のヴァルキリーが現世に顕現すること。
 ヴァルキリーへの備えも持ち、万全の対策を以て死神との戦争に臨む「血戦派」に対し、死神側も本気でぶつかろうというヘルムヴィーゲの戦略の一環だった。
 それに反発したのはグリムゲルデ傘下の死神とロスヴァイセだった。
 彼女は死神たちを率いグリムゲルデの身柄を確保しつつ、謁見の間を乗っ取ったのだ。
 それによって事実上死神勢力が二分された。
 ヘルムヴィーゲは警視庁本庁周辺に結界を張り、配下の死神を待機させている。
 そしてロスヴァイセとヘルムヴィーゲの対立は古くからの習わしによって、全面的な戦争ではなく「平和的」な決闘で決着がつけられることになったのだ。
「それにあんたは『カグツチの乱』を平定した英雄なんだから少しはピシッとなさいよ! レックスだって倒したんでしょう!?」
「あれはみんなの協力があって……」
「安心なさい。今の東京の霊的情勢からいってもお姉さまだって大した死神は出してこれないわ。ティルヴィングとかは出ないからパパっとやっちゃいなさい」
 ロスヴァイセは有無を言わさずロスヴァイセ・グリムゲルデ連合軍の代表を一矢にした。
 「カグツチの乱」の平定に大きく貢献した“新たな英雄”アマガセ・カズヤを知らない死神はいない。反対意見はなかった。
 一矢がロスヴァイセ側に付いたのはやはり、共に戦ったグリムゲルデを見過ごせないという部分が大きい。
 マクスウェルはヘルムヴィーゲが嫌いだからといって事務所から一矢を追ってきた。
 メイジーには黙って来た。一矢も彼女には悪いとは思ったがメイジーは精神年齢が幼いため、共に戦った仲間であるグリムゲルデを助けるために何をするかわからないからだ。
(俺が負けたらグリムゲルデが死ぬ。それにそんなことが決まったらロスヴァイセがどんな暴挙に出るかわからない。とっとと片づけて死神を一つにしないと、俺が!)
「行けるわよね?」
「ああ。吸血鬼がいつ攻めてくるのかわからないのに、いつまでもこんなことしてられないしな」
 警視庁前に転移し、決闘用に張られた結界を抜け、ロスヴァイセと共に警視庁本庁舎前の広々とした道路に進み出る。
 反対側から鎧姿のヘルムヴィーゲとティルヴィングが中心地に向け歩いてくる。
「おい。ティルヴィングが出てきたじゃないか」
「うるさい、護衛でしょ。それと少し言葉使いに気を付けたらどう? お前も、お前の上司も」
 そこで一矢はあることに気付く。
 今まで多くの場面で共に行動してきた。ある人物の所在が数日前から不明であることを。
 ヴァルキリー間の抗争に巻き込まれることを嫌って姿を消したと一矢は思っていた。
「ほら、誰か来たじゃない」
 ヘルムヴィーゲの後ろから黒いパンツスーツの女が歩いてくる。
 一矢の目が見間違えるはずがない。
 それは死神狩りの私立探偵。椿響子、その人だった。
「椿さん……どうしてですか」
「どうしても何もない。ロスヴァイセがお前を出してくるのは目に見えていた。だから私が選ばれた。お前を鍛えたのが誰か忘れたのか?」
「そういう意味じゃない。グリムゲルデを見捨てて殺すって言うんですか? あなたらしくもない。あの人はヴァルキリーを、死神を統治する上での重要人物だと自分で言ってましたよね」
 ロスヴァイセ、ヘルムヴィーゲ、ティルヴィングがそれぞれ元の位置に下がっていく。
「だがもう死にかけだ。新しいヴァルキリーに賭けるのがヘルムヴィーゲの望みだ」
「カグツチたちと戦った仲間を見殺しにして、知らないヴァルキリーを当てにするっていうんですか!?」
「お前のそういう精神的動揺を誘う目的もある。それに私はヴァルキリーを仲間と思ったことはない」
 椿の放つ殺気に思わず一矢が|空亡《くうぼう》を抜く。
「痛い目を見ても知りませんよ」
「痛い目で済むといいが。無論お前の方がな」
 一矢の刺すような視線から目を逸らさず椿が|赤口《しゃっこう》を顕現させる。
「ここには借りるべき権能も守るべき仲間もない。お前にとってはアウェイ戦だ。つぐみやメイジーを悲しませたくなかったが……行くぞ」
 一矢の眼前に黒衣の死神狩りが迫る。