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第41話 血戦派

ー/ー



 椿は公安の死神に連れられ、最寄りの警察署へと連行される。

「こんな近所が公安の拠点なのか? まあ地域密着型の死神というのも新しくて少し面白い。少しだけな」

「いいえ。今回あなたの聴取をするために、暗示をかけて取調室を勝手に使っているだけです。お入りください」

 久留間に促され椿がドアを開けると、そこにはグレーのスーツにタイトスカート。眼鏡をかけたヘルムヴィーゲが足を組んで待っていた。

「なっ……」

「いい表情だな。似合ってるだろ?」

 思わず言葉を失う椿を見て、満足したようにヘルムヴィーゲが笑みを浮かべる。

「そういう問題ではない。ヴァルキリーがこんなところで何をしている」

「本体がお前如きに会いに降りてくるはずないだろ。人間としての身分がないとどうも不便になってきたからな。力の一部を切り取って働かせてるわけだ」

 そういうとヘルムヴィーゲは取調室の机の上に置いてあるファイルを広げる。

 聴取を始める気らしい。

「それで? ヘルムヴィーゲ公安怪異対策課長閣下とお呼びすればいいのか?」

「いいや。いまは兜を名乗ってる。お前も合わせろ」

「へえ。車と汽車なら次はバスさんとかを期待していたが」

 ヘルムヴィーゲの一部分である兜は椿の皮肉を無視する。

「東京全域で死神の数が減ってる。ラグナロクの馬鹿ゲームのときほどじゃないが。心当たりは?」

「ない。訳のわからない依頼が次々と入ってきて狩りどころじゃないんだ」

「あっそ。じゃあざっくばらんに言うけどな、吸血鬼狩りの死神だけが次々と殺されてる。死神にも狩りに失敗する間抜けはいるが、吸血鬼狩りだけが連続で失敗するなんてことあると思うか?」

 兜の言葉に椿はしばしの間考え込み、自身の考えを整理しながら言った。

「突然変異的に強力な吸血鬼が出現して死神が返り討ちになるケースは考えられる。だが吸血鬼狩りは仲間意識が強く、私も基本的には手出しはしない。連中も順番に殺されるまで手をこまねいていたとは考えにくい。何か手を打つはずだ」

「へえ。詳しいな。吸血鬼狩りは何故群れる?」

「やつらはわざと吸血鬼を泳がせる。自由に仲間を増やすことのできる階位の吸血鬼をな。そして生まれたての吸血鬼を仲間内で狩るのさ」

 説明しながら椿の胸中に「どうして自分がヴァルキリーに死神の解説をしなければならないのか」という疑問が湧き出てくる。

「吸血鬼狩りを狩る連中……ああ、ややこしいな。クソ。死神狩りはこの数週間で散発的に行われている。何が考えられる?」

「裏切り。仲間割れ。これらの線はない。裏切る側のメリットがゼロだ。すると……吸血鬼たちが強くなった、とか」

 兜がわざとらしく拍手をする。

 彼女も何か掴んだ上で椿からの情報でその補強をしていたのだろうか。

「吸血鬼勢力の強化。わたしもこの可能性を見落としていたわけじゃない。じゃないが……」

「何故そこで黙る」

「そういえばお前。タワーの戦いで異能者連中が行方不明になっていたのは知ってるよな?」

 その一言で椿は吸血鬼が強化された理由に気付いた。

 吸血鬼たちは死神の力を持つ「異能者の血」を取り込んだのだ。

「吸血鬼が死神の力を持てば、それは純粋な吸血鬼ではない。吸血鬼狩りの権能が十全に発揮できないということか……!」

「お前はうちの馬鹿どもと違って賢いな。だからこそあれっぽっちの権能で三百年も生き延びていられるんだろうが。で、お前と部下連中でどうにかしろ」

「何だと?」

 椿は兜の思わぬ一言に思わず立ち上がる。

「うん。ラグナロク残党を取り逃がしたお前たちに責任の一端があるとヴァルキリー・ヘルムヴィーゲは判断した。吸血鬼に死神の力があるならお前が打ってつけだしな。決まりだ」

「馬鹿を言うな! アレを取り逃したのはグリムゲルデの直属だろう!?」

「失礼。吸血鬼狩りからの救援要請です。交戦中の模様。どうされますか?」

 取調室に入ってきたのは喜捨。

「よし。行ってみるか」

 兜がパチンと指を鳴らすと兜、椿、喜捨が同時に転移する。

 次の瞬間、三人は真っ暗な森の中である。

「死んでますね」

 目の前には死神の死体。

 死神が灰になって死ぬのにはその存在を秘匿するという意味も込められている。

 灰になる霊力も残さずに殺されたということか。

 椿は最低限の武装しかしてこなかったことを後悔する。

 拳銃を取り出し、赤口を顕現させて構える。

「なんか来たぞ桐子ぉ!」

 男の声がした次の瞬間には、喜捨の腹部を赤目の男の手刀が貫いていた。

 だが喜捨もただではやられない。腹部に力を込めその腕を固定し、両腕で自らを貫く腕を千切ってみせたのである。

「ってえ! でも急速再生はこっちの十八番ってな!」

 後方に退いた男の腕の骨が、骨に巻き付くように肉が、さらに皮膚が肉を覆い再生する。

 茶髪を立てた赤目の男が再生した腕をこれ見よがしに振るって見せる。

「言わんこっちゃない。死神が来た。退くぞレナード」

 闇の中から女の声が茶髪の男を制止する。

「いーや、せっかくだ。宣戦布告の一つでもしていこうぜ!」

 二人が言い合っている最中に喜捨が腹に穴を空けたまま突進する。

 その両腕が茶髪の男に届こうとした瞬間、彼の心臓に赤黒い矢が突き刺さった。

 灰となって崩れ去る喜捨。

「あーもったいね! こいつはちょっとしか血ィ吸ってないのにさ!」

「いいか、死神! 我らは吸血鬼を超えた吸血鬼! 死神との対決を真に望む者! 『血戦派』である!」

「あー! 名乗りも先越されたー!」

 女の声が名乗った『血戦派』とは吸血鬼の派閥なのだろうか。

 月光が男を照らす。

 すると椿の目に、ニヤついた口元から見える牙が目に入る。

「ヴァルキリーに伝えろ! 『血戦派』が貴様らの命を狙っていると!」

 再び女の声が宣言すると、男の姿が無数の蝙蝠の形をした影になり、空高く飛翔する。

「知らねえよそんな奴ら」

 兜は喜捨の死も気に留めず、それだけつぶやいたのだった。


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 椿は公安の死神に連れられ、最寄りの警察署へと連行される。
「こんな近所が公安の拠点なのか? まあ地域密着型の死神というのも新しくて少し面白い。少しだけな」
「いいえ。今回あなたの聴取をするために、暗示をかけて取調室を勝手に使っているだけです。お入りください」
 久留間に促され椿がドアを開けると、そこにはグレーのスーツにタイトスカート。眼鏡をかけたヘルムヴィーゲが足を組んで待っていた。
「なっ……」
「いい表情だな。似合ってるだろ?」
 思わず言葉を失う椿を見て、満足したようにヘルムヴィーゲが笑みを浮かべる。
「そういう問題ではない。ヴァルキリーがこんなところで何をしている」
「本体がお前如きに会いに降りてくるはずないだろ。人間としての身分がないとどうも不便になってきたからな。力の一部を切り取って働かせてるわけだ」
 そういうとヘルムヴィーゲは取調室の机の上に置いてあるファイルを広げる。
 聴取を始める気らしい。
「それで? ヘルムヴィーゲ公安怪異対策課長閣下とお呼びすればいいのか?」
「いいや。いまは兜を名乗ってる。お前も合わせろ」
「へえ。車と汽車なら次はバスさんとかを期待していたが」
 ヘルムヴィーゲの一部分である兜は椿の皮肉を無視する。
「東京全域で死神の数が減ってる。ラグナロクの馬鹿ゲームのときほどじゃないが。心当たりは?」
「ない。訳のわからない依頼が次々と入ってきて狩りどころじゃないんだ」
「あっそ。じゃあざっくばらんに言うけどな、吸血鬼狩りの死神だけが次々と殺されてる。死神にも狩りに失敗する間抜けはいるが、吸血鬼狩りだけが連続で失敗するなんてことあると思うか?」
 兜の言葉に椿はしばしの間考え込み、自身の考えを整理しながら言った。
「突然変異的に強力な吸血鬼が出現して死神が返り討ちになるケースは考えられる。だが吸血鬼狩りは仲間意識が強く、私も基本的には手出しはしない。連中も順番に殺されるまで手をこまねいていたとは考えにくい。何か手を打つはずだ」
「へえ。詳しいな。吸血鬼狩りは何故群れる?」
「やつらはわざと吸血鬼を泳がせる。自由に仲間を増やすことのできる階位の吸血鬼をな。そして生まれたての吸血鬼を仲間内で狩るのさ」
 説明しながら椿の胸中に「どうして自分がヴァルキリーに死神の解説をしなければならないのか」という疑問が湧き出てくる。
「吸血鬼狩りを狩る連中……ああ、ややこしいな。クソ。死神狩りはこの数週間で散発的に行われている。何が考えられる?」
「裏切り。仲間割れ。これらの線はない。裏切る側のメリットがゼロだ。すると……吸血鬼たちが強くなった、とか」
 兜がわざとらしく拍手をする。
 彼女も何か掴んだ上で椿からの情報でその補強をしていたのだろうか。
「吸血鬼勢力の強化。わたしもこの可能性を見落としていたわけじゃない。じゃないが……」
「何故そこで黙る」
「そういえばお前。タワーの戦いで異能者連中が行方不明になっていたのは知ってるよな?」
 その一言で椿は吸血鬼が強化された理由に気付いた。
 吸血鬼たちは死神の力を持つ「異能者の血」を取り込んだのだ。
「吸血鬼が死神の力を持てば、それは純粋な吸血鬼ではない。吸血鬼狩りの権能が十全に発揮できないということか……!」
「お前はうちの馬鹿どもと違って賢いな。だからこそあれっぽっちの権能で三百年も生き延びていられるんだろうが。で、お前と部下連中でどうにかしろ」
「何だと?」
 椿は兜の思わぬ一言に思わず立ち上がる。
「うん。ラグナロク残党を取り逃がしたお前たちに責任の一端があるとヴァルキリー・ヘルムヴィーゲは判断した。吸血鬼に死神の力があるならお前が打ってつけだしな。決まりだ」
「馬鹿を言うな! アレを取り逃したのはグリムゲルデの直属だろう!?」
「失礼。吸血鬼狩りからの救援要請です。交戦中の模様。どうされますか?」
 取調室に入ってきたのは喜捨。
「よし。行ってみるか」
 兜がパチンと指を鳴らすと兜、椿、喜捨が同時に転移する。
 次の瞬間、三人は真っ暗な森の中である。
「死んでますね」
 目の前には死神の死体。
 死神が灰になって死ぬのにはその存在を秘匿するという意味も込められている。
 灰になる霊力も残さずに殺されたということか。
 椿は最低限の武装しかしてこなかったことを後悔する。
 拳銃を取り出し、赤口を顕現させて構える。
「なんか来たぞ桐子ぉ!」
 男の声がした次の瞬間には、喜捨の腹部を赤目の男の手刀が貫いていた。
 だが喜捨もただではやられない。腹部に力を込めその腕を固定し、両腕で自らを貫く腕を千切ってみせたのである。
「ってえ! でも急速再生はこっちの十八番ってな!」
 後方に退いた男の腕の骨が、骨に巻き付くように肉が、さらに皮膚が肉を覆い再生する。
 茶髪を立てた赤目の男が再生した腕をこれ見よがしに振るって見せる。
「言わんこっちゃない。死神が来た。退くぞレナード」
 闇の中から女の声が茶髪の男を制止する。
「いーや、せっかくだ。宣戦布告の一つでもしていこうぜ!」
 二人が言い合っている最中に喜捨が腹に穴を空けたまま突進する。
 その両腕が茶髪の男に届こうとした瞬間、彼の心臓に赤黒い矢が突き刺さった。
 灰となって崩れ去る喜捨。
「あーもったいね! こいつはちょっとしか血ィ吸ってないのにさ!」
「いいか、死神! 我らは吸血鬼を超えた吸血鬼! 死神との対決を真に望む者! 『血戦派』である!」
「あー! 名乗りも先越されたー!」
 女の声が名乗った『血戦派』とは吸血鬼の派閥なのだろうか。
 月光が男を照らす。
 すると椿の目に、ニヤついた口元から見える牙が目に入る。
「ヴァルキリーに伝えろ! 『血戦派』が貴様らの命を狙っていると!」
 再び女の声が宣言すると、男の姿が無数の蝙蝠の形をした影になり、空高く飛翔する。
「知らねえよそんな奴ら」
 兜は喜捨の死も気に留めず、それだけつぶやいたのだった。