「あん? なんだ、この女(アマ)……」
オーク番長が母さんを睨む。
「兄貴、なんか……すげえイイ匂いがするぞ」
オークの副リーダー(番長)格らしき1体が、鼻をひくつかせながらカウンターに近づいてくる。
身長二メートル超えの巨体が目の前に迫る圧迫感は凄まじい。腐った肉のような体臭が漂い、俺は吐き気をこらえた。
だが、夏南子(ななこ)母さんは逃げない。
母さんは「お客様」として彼らを見ているのだ。
「お腹、空いてる? 今ちょうど、揚げ物が揚がったところなのよ」
母さんはレジ横のホットスナックケースを指差した。
そこには、黄金色に輝くフライドチキンやコロッケが並んでいる。
オークたちの視線が釘付けになった。
「く、食い物……? 俺たちに、恵んでくれるってのか?」
「恵むだなんて。代金はいただきますけど、とっても美味しいわよ?」
「ふんっ!! おめぇ達恵んでもらおうなんて思うなよ」
番長が「情けねぇ事すんな」と舎弟を制止する。
金取るっつってんの。
「ほらぁ、これは試食よ。一度食べてごらんなさい」
母さんはニコニコと微笑みながら、爪楊枝でチキンを差し出す。
スパイスの刺激的な香りと、揚げたての脂の香ばしい香りに、舎弟オーク達がゴクリと生唾を飲む。
「あっ兄貴……」
「ダメだっ!! 人間から施しは受けるな!! オークのプライドはねぇのか!!」
番長オークの叱責に舎弟オークは無言でチキンの誘惑に耐える。
ぎゅるるるるるうるるうるるるぅぅぅぅう!!
舎弟オークの唸る腹の虫。
「ほぉらっぁ遠慮しないで食べなさ~い」
母さんがカウンター越しにさらに身を乗り出し、爪楊枝をオークに近づける。
その瞬間、俺は「あっ」と声を上げる。
母さんが前傾姿勢になったことで、重力に従ったその巨大な双丘が、カウンターの上に「どぷん」と乗っかってしまったのだ。
サイズ違いの制服は、もはや悲鳴を上げるどころか、限界を迎えていた。
『ブチィッ!!』
乾いた破裂音が店内に響き渡る。
弾け飛んだ第二ボタンは、まるで放たれた弾丸のように空を切り――オークのリーダーの眉間に、パシィン! と命中した。
「ぐおっ!?」
オークがのけぞる。
だが、真の衝撃はその直後に訪れた。
留め具を失った制服が、左右に大きくはだける。
そこに出現したのは、圧倒的な質量を誇る、白くなめらかな双丘の谷間だった。
淡いピンク色のレースに包まれたそれは、呼吸に合わせて生き物のように脈打ち、甘い匂いを濃厚にまき散らす。
「あ……」
俺は息を呑んだ。義母だと分かっていても、男としての本能が視線を釘付けにする。
だが、それ以上に劇的な反応を見せたのはオークたちだった。
「こ、これは……」
「で、でけえ……」
「俺の母ちゃんより、でけえ……」
殺気立っていたオークたちの瞳から、急速に敵意が消えていく。
「母ちゃん……うぅ……」
代わりに宿ったのは、畏敬の念と、幼児退行にも似た安らぎだった。
母さんの放つ【無自覚フェロモン】と、物理的な【母性の暴力】が、種族の壁を超えて彼らの闘争本能を粉砕したのだ。