日本のどこにでもある地方都市の片隅。
二十四時間、不夜城のように街を照らす「コンビニ・アイザワ」の店内は、深夜勤務明けの気だるい空気に包まれていた。
時計の針は午前七時を回ったところだ。
「んっ……ふぅ、あんっ♥」
早朝の静寂を切り裂く、あまりにも甘ったるい吐息。
「んっ♥ あんっ♥」
副店長のオレ、愛沢カズヤ(17歳)は、品出しの手を止めてレジカウンターに視線を向け――そして、絶句した。
「母さん……。その制服、やっぱりきつい気がするんだけど……」
「そうなのよぉ~。きつくてきつくて」
きついとかいうレベルを越えて、狭い場所に入る奇術(マジック)みたいに、爆乳を制服に収納している。
童顔で、おっとりとした性格。トロンとした垂れ目がいつもウルウルときらめいている。
オレが子供の時から見た目が変わらない。永遠の十代、ファンタジーゲームの中のエルフのお姫様のような人だ。
お淑やかな顔とは真逆の、暴力的なまでの超爆乳の持ち主である。
コンビニチェーン指定の制服(最大サイズ)は、母さんの豊満すぎる肉体を収めるにはあまりにも脆弱だった。
胸元のボタンは悲鳴を上げ、生地は限界まで引っ張られ、双丘のラインを露骨に浮き彫りにしている。少しでも動けば、弾け飛んだボタンが散弾銃のように客を襲うだろう。
「これでもダイエットしたのに~」
どこがだよっ!!
――と言いたいけど言わない。
母さんに嫌われたくないから……。
「エリアマネージャーにもう少し大きいサイズ頼んだら?」
「前に頼んだのがこれなのよぉ」
母さんが、眉毛を下げて苦笑い。
「えぇ……」
母さんのおっぱい、日に日に大きくなってる……。
作業するたびに、たぷん、たぷん、と重厚な揺れが視界を襲う。
俺は頭を抱えた。
蒸発した親父の代わりに店を継いだまではよかったが、従業員がこの見た目が美少女の義母と、個性強すぎな三人の義姉妹たちだ。
俺の理性は、いつまで持つのだろうか。
「さあ、そろそろ通勤通学客が来る時間ね。今日も一日、頑張りましょう」
「……はい」
俺はため息をつきながら返事をし、ガラスの向こうを見る。
いつもなら、そこには見慣れた住宅街のアスファルトと、通勤通学の風景が広がっているはずだ。
しかし――
視界に飛び込んできたのは、鬱蒼と茂る原生林と、地平線まで続く草原。そして石畳の街道。
「――ブモォ?」
入り口を塞ぐように立っていたのは、身長二メートルを超える緑色の肌の巨人――オークの集団だった。
「は?」
カズヤの体が硬直する。
オークたちは、粗末な革鎧を身にまとい、手には錆びついた斧や棍棒を持っている。鼻息が荒く、獣臭い。どう見てもハロウィンの仮装ではない。本物のモンスターだ。
「な、なんだここは……? 見たことのない結界(ガラス)だ」
「おい、いい匂いがするぞ。食い物があるんじゃねえか?」
オークたちが濁った声でうなり、ドシドシと店内へ足を踏み入れる。
その瞬間、頭上のスピーカーから軽快なメロディが流れた。
――チャララララ、ラララララン♪
コンビニでお馴染みの入店音(チャイム)だ。
殺気立っていたオークたちが、ビクリと肩を震わせた
「な、なんだこの音は……! 精神に直接響いてきやがる!」
「兄貴、罠だ! これは大昔に100年ほど続いた魔物と人間の和平の時代。その時に生まれた魔法『平和協定の鐘(戦意喪失効果)』の音色に似てやがる……!」
オークたちが狼狽し、武器を構えたまま立ち止まる。
俺は腰を抜かしそうになりながらも、必死に状況を分析し打開しようと思考をめぐらす。
どうやら彼らにとって、ファ○マ的なあの入店音は、なにやら高尚な魔術的儀式の開始合図か何かに聞こえたらしい。
「か、母さん、下がってて! 警察……いや、自衛隊を呼ばないと……!」
俺は震える手でスマホを取り出したが、圏外表示が無情にも点滅していた。
その時だ。
コンビニの隅っこにあるイートインコーナーで椅子を3つ並べて寝ていた少年剣士がムクッと起き上がる。(こいつ帰らなかった)
「やかましいぞ。爽快な朝から騒音など無粋である」