第135話 ガールズトーク
ー/ー
「こ、こうでいいんですか?」
「うむ。方向に気を付けて、石の中から水をしぼるようなイメージで――」
「あっ! で、出ました! フィーさん! 火が出てきましたよ!」
「よし。精神を落ち着かせろ。意識を乱すと何処に火が飛ぶか分からないからな。今度は、そうだな。深呼吸するように、石の中に収めるんだ」
「はい……あ、あ、あ、火が収まりました! す、すごい!」
こんな調子で、とりあえずクラスメイトの女子に魔石を使った魔法の発動方法についてを手取り足取りレクチャーしていた。
元々配給されてきた魔石の質が良かったことと、ミモザによる調整がとびきり優れていたこともあり、かなりすんなりと指導が進められていた。
「ミモザちゃんミモザちゃん! 次、次は私にもちょうだい!」
「はいっ! そよ風の魔石にしておきましら」
「ありがとうっ! 凄い手際いいのね」
あっちもあっちで、魔石配り役としての仕事を全うしている。なんとなく、いつもお店で働いているせいもあって妙に板についている気もする。
それは我も似たようなものなのだが。
「さあ、行け! そこで放て!」
「ひ、ひぃぃ!」
「うわああぁぁっ!!」
向こうの方では、男子どもがプディカの指導の下、バチバチに防衛魔法の組手が繰り広げられている……のだが、こっちと比べると地獄だな。
あらぬ方向に魔法が飛び交っていたり、その度に魔法を放っている方も受けている方も悲鳴をあげているし、ストイックさの度合いが違う。
ケンカもろくにしたこともないような貴族のぼっちゃんどもが、滅茶苦茶しごかれまくっている光景はある意味異様。多少なりの怪我もプディカが直ぐに治してしまうものだから「怪我して動けないです」なんて言い訳もできない。
どうしてこうも女子組と男子組で格差が生まれてしまったのやら。
第一の理由として、我とミモザの魔法合戦を見て、女子の大半がハードな実技は無理だと悟ったこと。逆に、我とミモザならあんなハードなことをせずとも楽しく魔法の使い方を学べることを知ってしまったのが強いだろう。
第二の理由といえるのかどうかは分からんが、防衛魔法の教師として手持ち無沙汰になってしまったことプディカが男子の方に目をつけてしまったことが挙げられる。
紛いなりにも、我とミモザはちゃんと実戦をこなしたし、クラスメイトにも率先して魔法の使い方を共有していたし、あとミモザが楽しそうにしているのに邪魔をしたくないとでも思われたのか、女子組にはプディカから何のお咎めもなかった。
結果、我を含む女生徒グループはほのぼのと魔法の練習。その一方で、鬼教官としての血を抑えきれず、感情高ぶるプディカの哀れな犠牲者となった男子生徒グループは怪我上等のハードレッスンコース行きだ。
バリバリに成長できるという意味では、おそらく後者の方が効率いいと思われる。ただ、正味な話、我とまともに組み手ができる生徒がいないだろう。
またミモザとやるか? いや、そこまでいくと命がいくつあっても足らんな。
「魔石って本当に便利なのね。こういうのって何処で買えるのかしら」
「わたしの店でも売ってまふよ。ただ、わたしの店のものだと一個で何ゴルドかになってしまうんれすけど……」
そりゃあまあ、ミモザの作る魔石は天下一品だからな。それでも性能は落としつつ、値段も安い方だ。
「売ってる、って……じゃあ、やっぱりミモザちゃんって噂通り、あの天使のお店の子なんだ」
「ふぇ? ああ、はい、そうれすけど……」
「確か、フィーさんもそうなんですよね?」
「うむ、まあ、我の場合はミモザの手伝いみたいなものだが」
こんな貴族の女子生徒どもにも、やはりパエデロスにいれば我らの噂くらいいくらでも耳にするのだろうな。妙に食いつきがいい。
「お店を開いてるっていうけど、じゃあ親はどうしてらっしゃるの?」
「え? あの、おかーさんならそこにいまふけど……」
ミモザの指先が向こうに向く。
丁度、極大の竜巻が男子生徒数人を宙にぶっ飛ばしている光景が広がっていた。
「コラ! 集中力が足りん! 自分の魔法に飛ばされる奴があるか!」
そして、女子生徒たちの視線がミモザの方に戻ってくる。
あんなものを見せられて、何とも言えない表情だ。
「わたし、元々魔法使えなくて、里から追い出されちゃったんでふね。それで、こういう魔石みたいなものを作って旅してたんれすよ。いつか大きなお店が持てたらなぁって思いながら。そしたらフィーしゃんに出会いましれ」
「うむ。我がミモザの夢を叶えるために力を貸してやったまでだ。ミモザは魔法は使えなかったが、ご覧の通り技術力だけなら誰にも負けぬ。我は一発でソレを見抜いてやったのだ。ふははははははははははっ!!!!」
「じゃ、じゃあ、フィーさんはどうしてそんなに魔法の教え方が上手いのかしら? この学校に通うまでもないような気がしますわ」
元魔王だったし、というか魔力に特化した月の民だし、あとついでに数千年生きてたから魔法の知識なんていくらでも……とは言うまい。
勇者に殺されたせいで魔力を失ったとか、笑い話にもならん。
「まあ、我も元々は魔法を使えたのだがな……あそこにいる女に呪いを掛けられて魔力を失ってしまったのだ。一応、ここだけの話だぞ」
もう一度、男子組の方に視線を向けられる。
「軟弱者めっ! ワタシの里でそんな無様な姿を晒していたら処刑していたところだ! お前さん、それでも本当に男子か!?」
そして、納得したような女子の面々の顔がこちらに向く。
ものっそい同情の眼差しだ。
「そうなのね……フィーさんも色々ご苦労なさったのですね」
厳密にはより複雑な事情が絡みに絡まって、一言では言い表せない状況ではあるのだが、別にウソをついているわけではないし、掘り下げることもないだろう。
「あの、おかーさんを悪く思わないれくだしゃい……、その本当はフィーしゃんじゃなくて、わたしが処刑を受けるはずだったんれす。フィーさんは、わたしをかばってくれたんでふよ……」
ミモザが庇うように言ってくれるが、余計に空気が重くなった気がする。
具体的な事情など分かりようもないことだが、それでも複雑なものを抱え込んでいるということだけは伝わったことだろう。
「まあ今さら過去のことなどどうでもよい。今はこうして皆と魔法を学んでいるただの金持ち小娘にすぎん」
などといって誤魔化すしかあるまい。
「それでも申し訳ありませんわ。私たちのことばかり構っていては自分の練習もままならないでしょう?」
「いや、そんなことはないぞ。現に、我も色々と魔法の指導をしていくうちに徐々に魔力の流れも見えるようになってきた。まだ以前ほどではないにせよ、教えることもまた我にとって有意義なことには変わりない」
「まあ! なんと心が広いのでしょう!」
称賛される分には悪い気はしない。
ちなみに、今言ったことは口からでまかせではなく本当のことだ。
頭の中で知識として持っていたことを他人にレクチャーしていただけだったが、それを自分の中でも反芻していた結果なのか、感覚として取り戻しつつあるのかもしれない。あと、ミモザと組み手したのも大きかったに違いない。
ほんの昨日までは魔力もろくに見えなかったが、今ではおぼろげながらも魔力の筋が浮かんで見える。この調子なら魔石を使わずとも我自身の手で魔法を使えるようになるのも遠くはないだろう。
まさかの想像していた以上の成果が得られるとは、予想外と言わざるを得ない。
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
おすすめ作品を読み込み中です…
この作品と似た作品
似た傾向の作品は見つかりませんでした。
この作品を読んだ人が読んでいる作品
読者の傾向からおすすめできる作品がありませんでした。
おすすめ作品は現在準備中です。
おすすめ作品の取得に失敗しました。時間をおいて再度お試しください。
「こ、こうでいいんですか?」
「うむ。方向に気を付けて、石の中から水をしぼるようなイメージで――」
「あっ! で、出ました! フィーさん! 火が出てきましたよ!」
「よし。精神を落ち着かせろ。意識を乱すと何処に火が飛ぶか分からないからな。今度は、そうだな。深呼吸するように、石の中に収めるんだ」
「はい……あ、あ、あ、火が収まりました! す、すごい!」
こんな調子で、とりあえずクラスメイトの女子に魔石を使った魔法の発動方法についてを手取り足取りレクチャーしていた。
元々配給されてきた魔石の質が良かったことと、ミモザによる調整がとびきり優れていたこともあり、かなりすんなりと指導が進められていた。
「ミモザちゃんミモザちゃん! 次、次は私にもちょうだい!」
「はいっ! そよ風の魔石にしておきましら」
「ありがとうっ! 凄い手際いいのね」
あっちもあっちで、魔石配り役としての仕事を全うしている。なんとなく、いつもお店で働いているせいもあって妙に板についている気もする。
それは我も似たようなものなのだが。
「さあ、行け! そこで放て!」
「ひ、ひぃぃ!」
「うわああぁぁっ!!」
向こうの方では、男子どもがプディカの指導の下、バチバチに防衛魔法の組手が繰り広げられている……のだが、こっちと比べると地獄だな。
あらぬ方向に魔法が飛び交っていたり、その度に魔法を放っている方も受けている方も悲鳴をあげているし、ストイックさの度合いが違う。
ケンカもろくにしたこともないような貴族のぼっちゃんどもが、滅茶苦茶しごかれまくっている光景はある意味異様。多少なりの怪我もプディカが直ぐに治してしまうものだから「怪我して動けないです」なんて言い訳もできない。
どうしてこうも女子組と男子組で格差が生まれてしまったのやら。
第一の理由として、我とミモザの魔法合戦を見て、女子の大半がハードな実技は無理だと悟ったこと。逆に、我とミモザならあんなハードなことをせずとも楽しく魔法の使い方を学べることを知ってしまったのが強いだろう。
第二の理由といえるのかどうかは分からんが、防衛魔法の教師として手持ち無沙汰になってしまったことプディカが男子の方に目をつけてしまったことが挙げられる。
紛いなりにも、我とミモザはちゃんと実戦をこなしたし、クラスメイトにも率先して魔法の使い方を共有していたし、あとミモザが楽しそうにしているのに邪魔をしたくないとでも思われたのか、女子組にはプディカから何のお咎めもなかった。
結果、我を含む女生徒グループはほのぼのと魔法の練習。その一方で、鬼教官としての血を抑えきれず、感情高ぶるプディカの哀れな犠牲者となった男子生徒グループは怪我上等のハードレッスンコース行きだ。
バリバリに成長できるという意味では、おそらく後者の方が効率いいと思われる。ただ、正味な話、我とまともに組み手ができる生徒がいないだろう。
またミモザとやるか? いや、そこまでいくと命がいくつあっても足らんな。
「魔石って本当に便利なのね。こういうのって何処で買えるのかしら」
「わたしの店でも売ってまふよ。ただ、わたしの店のものだと一個で何ゴルドかになってしまうんれすけど……」
そりゃあまあ、ミモザの作る魔石は天下一品だからな。それでも性能は落としつつ、値段も安い方だ。
「売ってる、って……じゃあ、やっぱりミモザちゃんって噂通り、あの天使のお店の子なんだ」
「ふぇ? ああ、はい、そうれすけど……」
「確か、フィーさんもそうなんですよね?」
「うむ、まあ、我の場合はミモザの手伝いみたいなものだが」
こんな貴族の女子生徒どもにも、やはりパエデロスにいれば我らの噂くらいいくらでも耳にするのだろうな。妙に食いつきがいい。
「お店を開いてるっていうけど、じゃあ親はどうしてらっしゃるの?」
「え? あの、おかーさんならそこにいまふけど……」
ミモザの指先が向こうに向く。
丁度、極大の竜巻が男子生徒数人を宙にぶっ飛ばしている光景が広がっていた。
「コラ! 集中力が足りん! 自分の魔法に飛ばされる奴があるか!」
そして、女子生徒たちの視線がミモザの方に戻ってくる。
あんなものを見せられて、何とも言えない表情だ。
「わたし、元々魔法使えなくて、里から追い出されちゃったんでふね。それで、こういう魔石みたいなものを作って旅してたんれすよ。いつか大きなお店が持てたらなぁって思いながら。そしたらフィーしゃんに出会いましれ」
「うむ。我がミモザの夢を叶えるために力を貸してやったまでだ。ミモザは魔法は使えなかったが、ご覧の通り技術力だけなら誰にも負けぬ。我は一発でソレを見抜いてやったのだ。ふははははははははははっ!!!!」
「じゃ、じゃあ、フィーさんはどうしてそんなに魔法の教え方が上手いのかしら? この学校に通うまでもないような気がしますわ」
元魔王だったし、というか魔力に特化した月の民だし、あとついでに数千年生きてたから魔法の知識なんていくらでも……とは言うまい。
勇者に殺されたせいで魔力を失ったとか、笑い話にもならん。
「まあ、我も元々は魔法を使えたのだがな……あそこにいる女に呪いを掛けられて魔力を失ってしまったのだ。一応、ここだけの話だぞ」
もう一度、男子組の方に視線を向けられる。
「軟弱者めっ! ワタシの里でそんな無様な姿を晒していたら処刑していたところだ! お前さん、それでも本当に男子か!?」
そして、納得したような女子の面々の顔がこちらに向く。
ものっそい同情の眼差しだ。
「そうなのね……フィーさんも色々ご苦労なさったのですね」
厳密にはより複雑な事情が絡みに絡まって、一言では言い表せない状況ではあるのだが、別にウソをついているわけではないし、掘り下げることもないだろう。
「あの、おかーさんを悪く思わないれくだしゃい……、その本当はフィーしゃんじゃなくて、わたしが処刑を受けるはずだったんれす。フィーさんは、わたしをかばってくれたんでふよ……」
ミモザが庇うように言ってくれるが、余計に空気が重くなった気がする。
具体的な事情など分かりようもないことだが、それでも複雑なものを抱え込んでいるということだけは伝わったことだろう。
「まあ今さら過去のことなどどうでもよい。今はこうして皆と魔法を学んでいるただの金持ち小娘にすぎん」
などといって誤魔化すしかあるまい。
「それでも申し訳ありませんわ。私たちのことばかり構っていては自分の練習もままならないでしょう?」
「いや、そんなことはないぞ。現に、我も色々と魔法の指導をしていくうちに徐々に魔力の流れも見えるようになってきた。まだ以前ほどではないにせよ、教えることもまた我にとって有意義なことには変わりない」
「まあ! なんと心が広いのでしょう!」
称賛される分には悪い気はしない。
ちなみに、今言ったことは口からでまかせではなく本当のことだ。
頭の中で知識として持っていたことを他人にレクチャーしていただけだったが、それを自分の中でも反芻していた結果なのか、感覚として取り戻しつつあるのかもしれない。あと、ミモザと組み手したのも大きかったに違いない。
ほんの昨日までは魔力もろくに見えなかったが、今ではおぼろげながらも魔力の筋が浮かんで見える。この調子なら魔石を使わずとも我自身の手で魔法を使えるようになるのも遠くはないだろう。
まさかの想像していた以上の成果が得られるとは、予想外と言わざるを得ない。