第134話 死に物狂いの模擬戦

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 舞台の上はこんがりと焦げていたかと思えば、カチコチに凍結させられてしまったり、またそれを溶かしてやったりもしたが、その後に無理やり地面ごと盛り返したせいもあって、ぬかるんだドロドロの状態という、何とも酷い有様。

 一応は、プディカが張っていた結界らしきものも何度も張り替えているのか、しっかりと舞台の外側にいる生徒たちを守っているようだが、ミモザの魔法の威力を完璧には御し切れていないようで、下手したら結界も決壊してしまう恐れがある。

 とどのつまりは、どういうことになるのか。足場最悪のこの舞台の上で、ミモザからの攻撃を避けきることを前提とし、ミモザが結界を破壊するほどの大技を出してこないことを祈る。その上で、ミモザを怪我させることなく、舞台の上から降ろす。

 あれ……? なんか、無理じゃね……?

 ミモザは母親に指導されるがまま、やる気を出しちゃってるし、「怪我なんて治すから気にするな」という言葉を鵜呑みにしている。自分の力量を分かっていない奴が手加減なしに襲ってくるこの恐怖を何に喩えようか。

「フィーしゃん! 行きましゅよっ! 初歩水泡術式(アクアバブル)っ!」

 次の瞬間、ミモザの目の前に津波が出現する。
 阿呆か。本当、阿呆かよ。魔法を使うたびに天変地異を起こすんじゃない!

「くぅぅ……、初歩凍結術式(アイスバーン)!」

 さっきミモザが使った魔法と同じものを使う。同じ条件の魔石だが、当然のようにミモザのような吹雪は放てない。せいぜい津波を凍らせるのが精いっぱいだ。
 氷の壁へと変貌したソレに向けて、すかさず次の魔法をぶつける。

「初歩火炎術式(ヒートボール)!」

 十分な威力を持った火炎球がカチコチに凍った津波を粉砕し、どうにかこうにかミモザの攻撃を無力化するに至る。しかし、やはり非効率的すぎる。
 ほとんどミモザの魔法一回分を、二回三回の魔法で対応している。これではこちらの魔石が尽きるのが先だ。対処できているのも奇跡みたいなものだし。

 え? 木箱の中にまだ魔石が残っているんじゃないかって?
 んなもん、とっくにミモザの魔法でぶっ飛ばされてるわ。補充分もなしだ。

 ミモザは魔具開発の技師としてはパエデロスでも随一の腕前を誇る。潜在魔力こそ持ち合わせていないが、材料さえ揃っていれば最大限のポテンシャルを発揮させられるほどの技術力がある。

 その代わり、ミモザには実戦経験は殆どない。パエデロスに来る前だったなら多少なり自衛の手段としての経験は積んでいたらしいのだが、真っ向から交戦したこともなく、基本的には逃げる手段として魔具を活用していたそうだ。

 だから魔法の使い方も、とりあえず大火力のものをぶっ放す単純思考しかない。まあ、単調な戦術だというのに見事に苦戦しておるのだがな。ここに複雑なコンボ技をかまされたら本当にヤバいぞ。

 とかく、布陣を固めていかなければ。
 戦い慣れていないミモザを、戦いづらい状況に持ち込むんだ。

「ふぅぅぅ……っ」

 魔石を握りしめ、地面に向かって火炎魔法を打つ。先ほどの魔法で砕け散った氷がいい具合に蒸発していき、霧が掛かっていく。

「ぬぬぬぅぅ……っ」

 加えて、大地魔法を施し、地面から壁を生やす。細かいところは融通が利かないから土の壁がほぼ半自動でせり上がるだけだが。

「あわわわわっ……! じ、地面が揺れりゅぅぅぅ……!」

 視界を奪う霧の向こうでミモザの慌てる声が聞こえる。
 ぼんやりしている暇はない。続けざまに、凍結魔法を繰り出した。

 十分すぎる水分を得た土くれは冷気を浴びて、カチンコチンに固まり、不安定にボコンボコンになったつるつるのフィールドが完成する。壁としても多少なり強度は増したとは思うが、まあミモザの魔法の前では心もとないか。

「はへっ? フィーしゃん何処でしゅかぁ? あぅぅ、う、上手く立てなぃぃ」

 平坦ではなくなった氷の舞台は、単に足場が悪いだけじゃない。霧によって視界も奪われるため、周囲を目視できず平衡感覚も失う。
 そうでなくとも普段から足元のおぼつかないミモザには効果抜群よ。

「えと、えと……ま、魔法、何を使えば……、あっ! はわ、はわわわ……」

 我の位置からは見えていないのだが、多分、今の音の感じからすると、魔石を取り出して何を使うか選ぼうとしたらうっかり手の上から落っことしてしまったくさい。
 これはチャンス到来と見るべきだろう。

「いくぞ、ミモザ! 初歩水泡術式(アクアバブル)!」

 ミモザの出した津波には程遠いが、アワアワした水鉄砲を最悪のツルツル足場に向かって放つ。ミモザの立っている正確な位置が分からなくとも、一気に押し流せるはずだ。

「ほにゃああああぁぁぁぁぁっっ!!!!?」

 舞台の上を覆う霧ごと泡波に流されていき、すっかり視界が晴れた後に残っていたのは乱立する凍った土くれオブジェ。
 そして、ミモザは泡まみれとなって場外へと落ちていた。

「これで勝負あったな」
「ふぇぇ~……負けちゃいましらぁ……」

 泡に包まれていたから怪我もしていない。ちょっと泥まみれになってしまったが、あの状況から見ればまあまあ及第点だろう。

「……チッ! 組み手はフィーの勝ちにしておいてやろう。ワタシ権限で特別にな」

 ものっそい舌打ちをされてしまったのだが。そんなに譲歩しないと我も勝ったことにならんのか。一目瞭然の問答無用で勝利でいいだろうに。

「ミモザ、なんだい今の体たらくは!」
「ぴぃぃぃっ、おかーさん、ごめんなしゃい!」
「お前さんは攻撃が単調すぎる。折角の魔法術式向上が勿体ない。あと、躊躇せず追撃していかないから相手に反撃の隙を与えるんだ。そもそも、自分の放った魔法の効力、効果範囲を把握しておけ! でたらめに撃って当たれば良しじゃないんだぞ!」

 おうおう、我の言いたかったことを大体言ってしまった。
 さすがは母親、さすがは鬼教官。
 あの反省が活かされてしまったら今度こそ我はミモザに殺されるかもしれん。

「フィー。お前さんは……、まぁー、頑張った。以上」
「って、それだけかいっ!」

 ミモザに怪我させないように苦心したというのに。

「フィーさん、凄いわ。あなた、魔法のセンスがあるのね!」
「ビックリしたわ! あんなに魔法を使いこなすなんて!」
「ミモザさんも凄いわ! まるで魔王みたいだった!」

 クラスメイトの女子たちが我たちに駆け寄ってきて、賛辞の言葉を送ってくる。
 泥まみれ泡まみれとなったミモザを抱き起し、ハンカチで顔も拭く。
 ソレ、我がしたかったのになー。

「なんだ、次はお前さんらが組み手するかい?」

 ズイっとプディカが腕を組んで威圧する。仮にも生徒を脅すな。

「ええと……、私はあんなの、ちょっと無理というか……あはは」
「ふぃ、フィーさんと、ミモザさんがもうちょっとレクチャーしてくれたら」
「そう、よね……あんなの、いきなりできないし……」

 ほら、怖気づいてしまったではないか。
 いや、まあ、我とミモザの魔法合戦の仕業ではあるんだが。
 これでは授業にもならんな。

「仕方ない……まずは簡単な使い方からなら我が教えてやろう」
「わたしも教えまふ!」
「ああ、そうだ。ミモザはあの魔石を弱化してくれないか。さすがに慣れてない者に使わせるのは危険すぎる」
「そうでふね。ちょっぴり調整してみましゅ」

 と言ったそばから魔石に手を加える。なんという手際の良さ。
 舞台の外に転がってしまった分も拾い集めて、クラスメイトの女子たちへの魔法の指南というのか、自習が始まった。

 もはや交流会というべきか。プディカも大層不満そうだったが、気にするまい。


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 舞台の上はこんがりと焦げていたかと思えば、カチコチに凍結させられてしまったり、またそれを溶かしてやったりもしたが、その後に無理やり地面ごと盛り返したせいもあって、ぬかるんだドロドロの状態という、何とも酷い有様。
 一応は、プディカが張っていた結界らしきものも何度も張り替えているのか、しっかりと舞台の外側にいる生徒たちを守っているようだが、ミモザの魔法の威力を完璧には御し切れていないようで、下手したら結界も決壊してしまう恐れがある。
 とどのつまりは、どういうことになるのか。足場最悪のこの舞台の上で、ミモザからの攻撃を避けきることを前提とし、ミモザが結界を破壊するほどの大技を出してこないことを祈る。その上で、ミモザを怪我させることなく、舞台の上から降ろす。
 あれ……? なんか、無理じゃね……?
 ミモザは母親に指導されるがまま、やる気を出しちゃってるし、「怪我なんて治すから気にするな」という言葉を鵜呑みにしている。自分の力量を分かっていない奴が手加減なしに襲ってくるこの恐怖を何に喩えようか。
「フィーしゃん! 行きましゅよっ! 初歩水泡術式《アクアバブル》っ!」
 次の瞬間、ミモザの目の前に津波が出現する。
 阿呆か。本当、阿呆かよ。魔法を使うたびに天変地異を起こすんじゃない!
「くぅぅ……、初歩凍結術式《アイスバーン》!」
 さっきミモザが使った魔法と同じものを使う。同じ条件の魔石だが、当然のようにミモザのような吹雪は放てない。せいぜい津波を凍らせるのが精いっぱいだ。
 氷の壁へと変貌したソレに向けて、すかさず次の魔法をぶつける。
「初歩火炎術式《ヒートボール》!」
 十分な威力を持った火炎球がカチコチに凍った津波を粉砕し、どうにかこうにかミモザの攻撃を無力化するに至る。しかし、やはり非効率的すぎる。
 ほとんどミモザの魔法一回分を、二回三回の魔法で対応している。これではこちらの魔石が尽きるのが先だ。対処できているのも奇跡みたいなものだし。
 え? 木箱の中にまだ魔石が残っているんじゃないかって?
 んなもん、とっくにミモザの魔法でぶっ飛ばされてるわ。補充分もなしだ。
 ミモザは魔具開発の技師としてはパエデロスでも随一の腕前を誇る。潜在魔力こそ持ち合わせていないが、材料さえ揃っていれば最大限のポテンシャルを発揮させられるほどの技術力がある。
 その代わり、ミモザには実戦経験は殆どない。パエデロスに来る前だったなら多少なり自衛の手段としての経験は積んでいたらしいのだが、真っ向から交戦したこともなく、基本的には逃げる手段として魔具を活用していたそうだ。
 だから魔法の使い方も、とりあえず大火力のものをぶっ放す単純思考しかない。まあ、単調な戦術だというのに見事に苦戦しておるのだがな。ここに複雑なコンボ技をかまされたら本当にヤバいぞ。
 とかく、布陣を固めていかなければ。
 戦い慣れていないミモザを、戦いづらい状況に持ち込むんだ。
「ふぅぅぅ……っ」
 魔石を握りしめ、地面に向かって火炎魔法を打つ。先ほどの魔法で砕け散った氷がいい具合に蒸発していき、霧が掛かっていく。
「ぬぬぬぅぅ……っ」
 加えて、大地魔法を施し、地面から壁を生やす。細かいところは融通が利かないから土の壁がほぼ半自動でせり上がるだけだが。
「あわわわわっ……! じ、地面が揺れりゅぅぅぅ……!」
 視界を奪う霧の向こうでミモザの慌てる声が聞こえる。
 ぼんやりしている暇はない。続けざまに、凍結魔法を繰り出した。
 十分すぎる水分を得た土くれは冷気を浴びて、カチンコチンに固まり、不安定にボコンボコンになったつるつるのフィールドが完成する。壁としても多少なり強度は増したとは思うが、まあミモザの魔法の前では心もとないか。
「はへっ? フィーしゃん何処でしゅかぁ? あぅぅ、う、上手く立てなぃぃ」
 平坦ではなくなった氷の舞台は、単に足場が悪いだけじゃない。霧によって視界も奪われるため、周囲を目視できず平衡感覚も失う。
 そうでなくとも普段から足元のおぼつかないミモザには効果抜群よ。
「えと、えと……ま、魔法、何を使えば……、あっ! はわ、はわわわ……」
 我の位置からは見えていないのだが、多分、今の音の感じからすると、魔石を取り出して何を使うか選ぼうとしたらうっかり手の上から落っことしてしまったくさい。
 これはチャンス到来と見るべきだろう。
「いくぞ、ミモザ! 初歩水泡術式《アクアバブル》!」
 ミモザの出した津波には程遠いが、アワアワした水鉄砲を最悪のツルツル足場に向かって放つ。ミモザの立っている正確な位置が分からなくとも、一気に押し流せるはずだ。
「ほにゃああああぁぁぁぁぁっっ!!!!?」
 舞台の上を覆う霧ごと泡波に流されていき、すっかり視界が晴れた後に残っていたのは乱立する凍った土くれオブジェ。
 そして、ミモザは泡まみれとなって場外へと落ちていた。
「これで勝負あったな」
「ふぇぇ~……負けちゃいましらぁ……」
 泡に包まれていたから怪我もしていない。ちょっと泥まみれになってしまったが、あの状況から見ればまあまあ及第点だろう。
「……チッ! 組み手はフィーの勝ちにしておいてやろう。ワタシ権限で特別にな」
 ものっそい舌打ちをされてしまったのだが。そんなに譲歩しないと我も勝ったことにならんのか。一目瞭然の問答無用で勝利でいいだろうに。
「ミモザ、なんだい今の体たらくは!」
「ぴぃぃぃっ、おかーさん、ごめんなしゃい!」
「お前さんは攻撃が単調すぎる。折角の魔法術式向上が勿体ない。あと、躊躇せず追撃していかないから相手に反撃の隙を与えるんだ。そもそも、自分の放った魔法の効力、効果範囲を把握しておけ! でたらめに撃って当たれば良しじゃないんだぞ!」
 おうおう、我の言いたかったことを大体言ってしまった。
 さすがは母親、さすがは鬼教官。
 あの反省が活かされてしまったら今度こそ我はミモザに殺されるかもしれん。
「フィー。お前さんは……、まぁー、頑張った。以上」
「って、それだけかいっ!」
 ミモザに怪我させないように苦心したというのに。
「フィーさん、凄いわ。あなた、魔法のセンスがあるのね!」
「ビックリしたわ! あんなに魔法を使いこなすなんて!」
「ミモザさんも凄いわ! まるで魔王みたいだった!」
 クラスメイトの女子たちが我たちに駆け寄ってきて、賛辞の言葉を送ってくる。
 泥まみれ泡まみれとなったミモザを抱き起し、ハンカチで顔も拭く。
 ソレ、我がしたかったのになー。
「なんだ、次はお前さんらが組み手するかい?」
 ズイっとプディカが腕を組んで威圧する。仮にも生徒を脅すな。
「ええと……、私はあんなの、ちょっと無理というか……あはは」
「ふぃ、フィーさんと、ミモザさんがもうちょっとレクチャーしてくれたら」
「そう、よね……あんなの、いきなりできないし……」
 ほら、怖気づいてしまったではないか。
 いや、まあ、我とミモザの魔法合戦の仕業ではあるんだが。
 これでは授業にもならんな。
「仕方ない……まずは簡単な使い方からなら我が教えてやろう」
「わたしも教えまふ!」
「ああ、そうだ。ミモザはあの魔石を弱化してくれないか。さすがに慣れてない者に使わせるのは危険すぎる」
「そうでふね。ちょっぴり調整してみましゅ」
 と言ったそばから魔石に手を加える。なんという手際の良さ。
 舞台の外に転がってしまった分も拾い集めて、クラスメイトの女子たちへの魔法の指南というのか、自習が始まった。
 もはや交流会というべきか。プディカも大層不満そうだったが、気にするまい。