第125話 知らぬ間に化けた飯は金の味
ー/ー
リンドーによる運動の授業を終えて、すっかりくたくたになってしまった我とミモザだったが、昼の時間を迎えて食堂へと移動することになった。
ネルムフィラ魔導士学院の食堂は全校生徒が入れるほどの広さになっており、パエデロスにあるような酒場なんかとは比べものにもならないほど。
食堂に入ってしまうとクラスの区分けも関係ないらしく、座る場所も自由なようだ。さすがは仲良し小好しを掲げているロータスの作った学校なだけある。
厨房で注文して席まで運んでもらうという形式のようだったが、献立がまた貴族向けになっていて、何処から資金が出ているのかと思う程度には豪勢だった。
二階層に分かれているオシャレな食堂であることにも驚かされたが、何よりも食堂内には魔導機兵が縦横無尽に徘徊しており、ウェイターの如く食事を運んでいた。
『オ待タセ・シマシタ。ゴユックリ・召シ上ガリ・クダサイ』
以前、レッドアイズで見たものよりも随分と細身な甲冑姿のソレはかなりの存在感を醸し出している。まさかパエデロスにまで魔導機兵が出張しておるとはな。
「はわぁ……、フィーしゃん、あれ、なんれすか? 金属の人形さんが魔法で歩き回ってまふ!」
ミモザも初めて見る魔導機兵に驚きを隠せないようだ。というか、生徒の多くも知らないものが多かったようで、戸惑っている調子なのが見てとれた。
中には、相手が甲冑を身に纏った人間だと勘違いして声を掛けてるのもいるし。
「あれはだな――」
「あれは魔導機兵って言うんですよ、ミモザさん」
我が説明しようとしたところに割り込んできたのは、あろうことかコリウスだった。全校生徒が昼食を摂りに来ているからいても当然だとは思っていても、なんとも納得しがたい状況だ。
「あ、コリウスくん! あれがフィーしゃんから聞いた、おーとまたなんれすね! ……あれ? でも確か、問題があって製造とか使用が廃止されたって聞いた気がするんでふけど」
「はい。一時はそれで国内も結構荒れていたんですけど、改良に改良を重ねられて、挙動こそ以前よりも単調にはなっちゃいましたが、認可が下りるものが開発されたんです」
かなり軽く言っているようだが、その裏での苦労は計り知れない。
魔導機兵の動力源となる核に使われていたのはかつて敵対していた魔王軍の捕虜たちの命を媒体にした言わば生物兵器だった。
今では、命を素材にするなどという非人道的な製造工程は非難を浴びてしまって、てっきりそのまま廃棄処分されていくものかと思っていたが、自力でどうにか魔力だけを糧に起動する魔導機兵を完成させたらしい。
……ちなみに、これについての詳細は、コリウスから送られてきた手紙にびっしりと事細かに書かれていた。思いっきり機密情報なんじゃないのか、これ。
「ミモザさんもフィーさんも今からお昼ご飯ですか? だったらボクと一緒にいかがでしょうか」
にこやかなさわやかフェイスでそう言う。
「いいれすよ!」
と、ミモザが返事をする。
「ふん、構わんよ」
なら、そう返すしかあるまい。
ともあれ、空腹と疲労感も相まって、あまりあれだこれだ言う気力もなく、一行は厨房のカウンターまで足を運び、思い思いの献立を注文する。
ちなみに、ちゃんと使用人の分も配慮してあったが、オキザリスは自前の弁当を用意してたらしく、しかも我の見ていないところでいつの間にか食事も済ませていたらしい。
使用人と一緒のテーブルで食事をともにするのはそんなにもタブーだっただろうか。相変わらずストイックな性格をしている。
『オ待タセ・シマシタ。ゴユックリ・召シ上ガリ・クダサイ』
我とミモザとコリウス、そして一人だけ立ちのオキザリスがテーブルについて雑談が始まろうとしていたそんなタイミングで昼食が運ばれてきた。さすが、早いな。
「ふぅー……午前の授業は疲れてしまったな」
「わたしも、あんなに走ったのは久しぶりでふ」
「お二人とも午前はリンドー先生の体育だったんですね。ボクの方はカーネ先生とマーガ先生でしたよ。いやぁ、温度差が激しかったですね」
特に聞いてもいないのにコリウスが話題を切り出してくる。
「あの先生たちはレッドアイズの人なんれすか?」
「ええ。城の専属でしたよ。多分、オキザリスもよく知っているんじゃないかな」
「……ええ、カーネ様にもマーガ様にも大変お世話になりました。国を代表する術者といっても過言ではありません」
少し、返事をするかするまいかを悩んだような間を置きつつもオキザリスが答える。度々忘れそうになるが、コイツも城に勤めていたんだよな。リンドーの教育も受けてきたみたいだし。
「特にカーネ先生は一時期、ボクの教育係だったこともあったから授業中も気まずくて……」
笑いながらさらっと言ってのけるが、国を代表する術者が教育係だったのかよ。
さすがは王族といったところか。
「それにしても……、ここのご飯はおいしいれふね」
雑談で料理を冷ますまいと自分の皿に臨んだミモザからの一言が飛んでくる。さっきもちょっと思ったが、学生食堂でこんなレベルでいいのか?
我みたいに金に糸目をつけないで贅沢するならまだしも。
「はい、レッドアイズの誇れるシェフたちを連れてきましたからね」
別にお前が誇らしくしても仕方ないと思うのだが。
「だが、何処からこんな予算が下りておるのだ? レッドアイズだって財政難から完全に脱したなんて話は聞いてないのだが」
「そりゃあもう、出資者のおかげですよ。この学校にはレッドアイズの今後だけじゃなくって貴族や王族の将来を担う人たちのためにあるんですから」
そんなバカ明るく言われても。ちょっと言い回しを変えただけで危うい発言だ。
おそらく、背景ではロータスが泥臭く頑張っていたのだろうな。そんな光景が目に浮かぶようだ。
「確か一番の出資者はフィーさんだと聞いてますけど」
「ぼふぇぅ!?」
思わず飲もうとしていた水が気管に入る。
あれぇ……? 我ってそんなにホイホイ金出してたっけかなぁ?
確かに思い返してみれば、何度もロータスが頭を下げている光景を実際に目の当たりにしている記憶がありありと……。
じゃあ、この飯も我の金ってことではないか!
知りたくなかったぞ、そんな事実。
「ゲホッ……ゲホッ……、他にはどんな輩が出資しておるのだ? まさか我の割合が半分以上を占めているとかはないだろうな」
「いやいや、さすがにそれはないですって。ええと……ボクも全ての出資者を聞いたわけじゃないんですけれど、ラクトフロニアって人がフィーさんの次に出資してましたよ。太っ腹な人もいるもんですね」
ラクトフロニア? なんか最近何処かで聞いたことあるような……?
そこでハッと気付いて、食堂内をそっと見渡す。
そしてその姿を確認できた。
上の階のテラスで鼻に詰め物をしながらも不機嫌そうに肉を食らっている小生意気なガキ――パエニア・ラクトフロニアを。
我のクラスメイトではないか。
なんで急に絡んできたのかを何となく察せた。アイツの家が多額の出資をしていることを鼻に掛けたかったのだろう。ところが、それよりも我の出資の方が多かったから因縁を付けてきた、と、そういうことか。
何処の貴族か知らんが、根っこから高慢ちきなのだな。
なんともはや面倒臭い奴と同じクラスになってしまったものだ。
「フィーしゃん、ご飯冷めまふよ?」
「あ、ああ」
そう促されるまま口に運んだ料理は渋い味に化けてしまったように感じられ、思わず溜め息をついた。
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ネルムフィラ魔導士学院の食堂は全校生徒が入れるほどの広さになっており、パエデロスにあるような酒場なんかとは比べものにもならないほど。
食堂に入ってしまうとクラスの区分けも関係ないらしく、座る場所も自由なようだ。さすがは仲良し小好しを掲げているロータスの作った学校なだけある。
厨房で注文して席まで運んでもらうという形式のようだったが、献立がまた貴族向けになっていて、何処から資金が出ているのかと思う程度には豪勢だった。
二階層に分かれているオシャレな食堂であることにも驚かされたが、何よりも食堂内には魔導機兵《オートマタ》が縦横無尽に徘徊しており、ウェイターの如く食事を運んでいた。
『オ待タセ・シマシタ。ゴユックリ・召シ上ガリ・クダサイ』
以前、レッドアイズで見たものよりも随分と細身な甲冑姿のソレはかなりの存在感を醸し出している。まさかパエデロスにまで魔導機兵が出張しておるとはな。
「はわぁ……、フィーしゃん、あれ、なんれすか? 金属の人形さんが魔法で歩き回ってまふ!」
ミモザも初めて見る魔導機兵に驚きを隠せないようだ。というか、生徒の多くも知らないものが多かったようで、戸惑っている調子なのが見てとれた。
中には、相手が甲冑を身に纏った人間だと勘違いして声を掛けてるのもいるし。
「あれはだな――」
「あれは魔導機兵って言うんですよ、ミモザさん」
我が説明しようとしたところに割り込んできたのは、あろうことかコリウスだった。全校生徒が昼食を摂りに来ているからいても当然だとは思っていても、なんとも納得しがたい状況だ。
「あ、コリウスくん! あれがフィーしゃんから聞いた、おーとまたなんれすね! ……あれ? でも確か、問題があって製造とか使用が廃止されたって聞いた気がするんでふけど」
「はい。一時はそれで国内も結構荒れていたんですけど、改良に改良を重ねられて、挙動こそ以前よりも単調にはなっちゃいましたが、認可が下りるものが開発されたんです」
かなり軽く言っているようだが、その裏での苦労は計り知れない。
魔導機兵の動力源となる核に使われていたのはかつて敵対していた魔王軍の捕虜たちの命を媒体にした言わば生物兵器だった。
今では、命を素材にするなどという非人道的な製造工程は非難を浴びてしまって、てっきりそのまま廃棄処分されていくものかと思っていたが、自力でどうにか魔力だけを糧に起動する魔導機兵を完成させたらしい。
……ちなみに、これについての詳細は、コリウスから送られてきた手紙にびっしりと事細かに書かれていた。思いっきり機密情報なんじゃないのか、これ。
「ミモザさんもフィーさんも今からお昼ご飯ですか? だったらボクと一緒にいかがでしょうか」
にこやかなさわやかフェイスでそう言う。
「いいれすよ!」
と、ミモザが返事をする。
「ふん、構わんよ」
なら、そう返すしかあるまい。
ともあれ、空腹と疲労感も相まって、あまりあれだこれだ言う気力もなく、一行は厨房のカウンターまで足を運び、思い思いの献立を注文する。
ちなみに、ちゃんと使用人の分も配慮してあったが、オキザリスは自前の弁当を用意してたらしく、しかも我の見ていないところでいつの間にか食事も済ませていたらしい。
使用人と一緒のテーブルで食事をともにするのはそんなにもタブーだっただろうか。相変わらずストイックな性格をしている。
『オ待タセ・シマシタ。ゴユックリ・召シ上ガリ・クダサイ』
我とミモザとコリウス、そして一人だけ立ちのオキザリスがテーブルについて雑談が始まろうとしていたそんなタイミングで昼食が運ばれてきた。さすが、早いな。
「ふぅー……午前の授業は疲れてしまったな」
「わたしも、あんなに走ったのは久しぶりでふ」
「お二人とも午前はリンドー先生の体育だったんですね。ボクの方はカーネ先生とマーガ先生でしたよ。いやぁ、温度差が激しかったですね」
特に聞いてもいないのにコリウスが話題を切り出してくる。
「あの先生たちはレッドアイズの人なんれすか?」
「ええ。城の専属でしたよ。多分、オキザリスもよく知っているんじゃないかな」
「……ええ、カーネ様にもマーガ様にも大変お世話になりました。国を代表する術者といっても過言ではありません」
少し、返事をするかするまいかを悩んだような間を置きつつもオキザリスが答える。度々忘れそうになるが、コイツも城に勤めていたんだよな。リンドーの教育も受けてきたみたいだし。
「特にカーネ先生は一時期、ボクの教育係だったこともあったから授業中も気まずくて……」
笑いながらさらっと言ってのけるが、国を代表する術者が教育係だったのかよ。
さすがは王族といったところか。
「それにしても……、ここのご飯はおいしいれふね」
雑談で料理を冷ますまいと自分の皿に臨んだミモザからの一言が飛んでくる。さっきもちょっと思ったが、学生食堂でこんなレベルでいいのか?
我みたいに金に糸目をつけないで贅沢するならまだしも。
「はい、レッドアイズの誇れるシェフたちを連れてきましたからね」
別にお前が誇らしくしても仕方ないと思うのだが。
「だが、何処からこんな予算が下りておるのだ? レッドアイズだって財政難から完全に脱したなんて話は聞いてないのだが」
「そりゃあもう、出資者のおかげですよ。この学校にはレッドアイズの今後だけじゃなくって貴族や王族の将来を担う人たちのためにあるんですから」
そんなバカ明るく言われても。ちょっと言い回しを変えただけで危うい発言だ。
おそらく、背景ではロータスが泥臭く頑張っていたのだろうな。そんな光景が目に浮かぶようだ。
「確か一番の出資者はフィーさんだと聞いてますけど」
「ぼふぇぅ!?」
思わず飲もうとしていた水が気管に入る。
あれぇ……? 我ってそんなにホイホイ金出してたっけかなぁ?
確かに思い返してみれば、何度もロータスが頭を下げている光景を実際に目の当たりにしている記憶がありありと……。
じゃあ、この飯も我の金ってことではないか!
知りたくなかったぞ、そんな事実。
「ゲホッ……ゲホッ……、他にはどんな輩が出資しておるのだ? まさか我の割合が半分以上を占めているとかはないだろうな」
「いやいや、さすがにそれはないですって。ええと……ボクも全ての出資者を聞いたわけじゃないんですけれど、ラクトフロニアって人がフィーさんの次に出資してましたよ。太っ腹な人もいるもんですね」
ラクトフロニア? なんか最近何処かで聞いたことあるような……?
そこでハッと気付いて、食堂内をそっと見渡す。
そしてその姿を確認できた。
上の階のテラスで鼻に詰め物をしながらも不機嫌そうに肉を食らっている小生意気なガキ――パエニア・ラクトフロニアを。
我のクラスメイトではないか。
なんで急に絡んできたのかを何となく察せた。アイツの家が多額の出資をしていることを鼻に掛けたかったのだろう。ところが、それよりも我の出資の方が多かったから因縁を付けてきた、と、そういうことか。
何処の貴族か知らんが、根っこから高慢ちきなのだな。
なんともはや面倒臭い奴と同じクラスになってしまったものだ。
「フィーしゃん、ご飯冷めまふよ?」
「あ、ああ」
そう促されるまま口に運んだ料理は渋い味に化けてしまったように感じられ、思わず溜め息をついた。