表示設定
表示設定
目次 目次




三枚のカード

ー/ー



 少年は病気の親を治すため、山を降りて薬を買いに行くことになった。



 その時、親がこう言った。



「山を降りる前にエリシアさんのところに行きなさい。」



 エリシアはその地域で高名な魔術師で、困った時の頼れる存在だった。

 少年は素直に親の言葉に従い、エリシアの家を訪ねた。

 彼女は豪奢な装飾の施されたローブをまとい、彼を見下ろして微笑んだ。


「病気の親のために薬を買いに行く……立派ですわね。ですが、この道は危険ですわよ。」



 エリシアは懐から三枚のカードを取り出し、少年に手渡した。



「これは魔法のカード。もし魔物に追いかけられたら、このカードを投げるのです。」



 少年は驚きながらカードを見つめた。そこには、奇妙な模様と文字が書かれていた。

「これで……僕を助けてくれるんですか?」



 エリシアはにやりと笑い、言葉を続けた。

「もちろんですわ。投げた瞬間、魔物がきっと逃げるでしょう。」


 少年は不安を抱きながらも、カードを握りしめて山を降り始めたのだった。



 少年は山を降り、薬を買うことができた。



 その帰り道。



 夕暮れの山道を進む少年。薬を手に、ほっと安堵していたその帰り道だった。



 ——シクシク



 不意に道の脇から聞こえる、すすり泣きの声。

 少年は足を止め、辺りを見回すと、道端に座り込んで泣いている女を見つけた。



(こんな時間にこんな場所で……大丈夫なのか?)



 夕暮れ時の空にはカラスの鳴き声が響き、不穏な気配を漂わせていた。夜になれば魔物が現れる山。少年も恐怖を感じていたが、泣いている女を放っておくわけにはいかなかった。



「どうしたんですか?山の村の人ですか?」



 少年は優しく声をかけ、女の肩に手を置いた。

 その瞬間——



 ——グワッ!



 振り向いた女の顔は、恐ろしい般若と化していた。鋭い牙と血走った目がぎらついている。



「ぎゃあああああぁ!」



 少年は悲鳴を上げ、全力で駆け出した。

 しかし、般若の怪物は異常な速度で追いかけてくる。



 ——ドタドタドタ!



「マジでやばい!どうすればいいんだ!」



 少年は息を切らしながら走り続け、ふとポケットの中に触れるものに気づいた。

 エリシアから渡された魔法のカードだ。



(これを……投げれば……!)



 意を決して、少年はカードを一枚掴み取り、後ろに向かって全力で投げつけた。



 ——バァン!



 すると、その瞬間、洪水のような水の魔法が発動し、般若の怪物を飲み込んだ。



「よし!いけるぞ!」



 少年は歓喜の声を上げたが——



 ——グオオオオオオオ!



 般若は水流の中から勢いよく飛び出し、さらに速度を上げて追いかけてきた!



「うわあああぁ!何で速度上がってんだよ!」



 必死で走り抜けた少年は、なんとか山の古い橋を渡りきる。

「これで流石に追いつけない……はず……!」



 だが振り返ると、般若の怪物はすぐそこまで迫っていた。

「くっそ、もう一枚だ!」



 二枚目のカードを掴み、再び投げる!



 ——バァン!



 今度は風の魔法が発動。嵐よりも強い突風が般若を吹き飛ばし、そのまま谷底へと叩き落とした。



「よし……!これで流石に大丈夫だろう。」



 少年は安堵し、呼吸を整えながら歩き出した。

 しかし、油断したその背後から——



 ——ギャアアアアアアア!



 聞き覚えのある不気味な声が響く。少年が振り向くと、般若の怪物が四つ足で壁を駆け上がりながら追いかけてくるではないか!



「何でだよおおおおお!」



 少年は最後の一枚を握りしめながら、全力で逃げ出すのだった……!



 山の村まで、あと少し。

 息を切らしながら少年は走り続ける。だが背後から迫る般若の足音は、容赦なく距離を詰めてきた。



「速い……!早すぎる!」



 振り返ると、般若は恐ろしい顔で追いかけてくる。その速さに、少年は絶望の声を漏らした。



「くっそ、これしかない……!」



 少年はポケットから最後のカードを取り出した。エリシアが渡してくれた三枚目のカードだ。



「これでも喰らえ!」



 ——シュッ!



 少年は渾身の力でカードを投げつける。カードは空を舞い、ゆっくりと落下した。



 ——ヒラッ。



 カードは地面にひらひらと舞い落ち、その場に静かに伏せた。



「ええええぇ〜ええ!」



 少年は絶叫しながら慌ててカードを拾い上げた。

 手に取って見てみると、それは魔法のカードではなかった。



「これ……トレカじゃん!?」



 カードにはこう書かれていた。



【ホワイトロータス】
 デッキのモンスターを1体捧げ、マナをフルチャージする。



「あああああぁ!これ激レアのトレカじゃん!嘘でしょ!マジで!」



 興奮した少年は思わず叫びながらカードを眺めた。その様子に、追いついてきた般若も足を止め、同じようにカードを覗き込んでいた。



「これ、売ったら高いで。50万超えるな……。」

 般若が低い声でつぶやく。



「ええええぇマジかよぉ……これヤバいじゃん!」

 少年は般若と顔を見合わせ、二人でカードをじっくりと見つめた。



 しかし、般若が何かに気づいたように眉をひそめた。



「このカード……なんか薄いな……。あと、透かしのホログラムの色が……。」



 般若の言葉に、少年の心臓が冷たく縮み上がる。



「えっ、それって……偽物……?」



 二人は険しい表情でカードを眺めるのだった。



 遠くの方から、奇妙な叫び声が響いてきた。



 ——キエエエええええエエェ〜!



 その声と共に、煙を上げながら突進してくる影が見える。



「……な、なんだ?」



 少年が目を細めて確認すると、驚愕の事実が目に飛び込んできた。



 それはエリシアだった。



「うおおおおお!間違って激レアトレカ渡しちゃったぁ〜ああ!うわあああああぁ!」



 絶叫しながらものすごい形相で走ってくるエリシア。その勢いに般若と少年は固まったまま動けない。

 エリシアは般若が持っていたカードに飛びつくと、奪い取って胸に抱えた。



「ふぅ……これで大丈夫ですわ……。」



 安堵したようにため息をついたエリシアは、また全速力で走り出した。



「キエエエええええェエエ〜!100万Gイイイイイィ!」



 一瞬でその場を立ち去るエリシア。その後ろ姿が小さくなっていくのを、少年と般若はただ呆然と見つめるだけだった。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 車内にて


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 少年は病気の親を治すため、山を降りて薬を買いに行くことになった。
 その時、親がこう言った。
「山を降りる前にエリシアさんのところに行きなさい。」
 エリシアはその地域で高名な魔術師で、困った時の頼れる存在だった。
 少年は素直に親の言葉に従い、エリシアの家を訪ねた。
 彼女は豪奢な装飾の施されたローブをまとい、彼を見下ろして微笑んだ。
「病気の親のために薬を買いに行く……立派ですわね。ですが、この道は危険ですわよ。」
 エリシアは懐から三枚のカードを取り出し、少年に手渡した。
「これは魔法のカード。もし魔物に追いかけられたら、このカードを投げるのです。」
 少年は驚きながらカードを見つめた。そこには、奇妙な模様と文字が書かれていた。
「これで……僕を助けてくれるんですか?」
 エリシアはにやりと笑い、言葉を続けた。
「もちろんですわ。投げた瞬間、魔物がきっと逃げるでしょう。」
 少年は不安を抱きながらも、カードを握りしめて山を降り始めたのだった。
 少年は山を降り、薬を買うことができた。
 その帰り道。
 夕暮れの山道を進む少年。薬を手に、ほっと安堵していたその帰り道だった。
 ——シクシク
 不意に道の脇から聞こえる、すすり泣きの声。
 少年は足を止め、辺りを見回すと、道端に座り込んで泣いている女を見つけた。
(こんな時間にこんな場所で……大丈夫なのか?)
 夕暮れ時の空にはカラスの鳴き声が響き、不穏な気配を漂わせていた。夜になれば魔物が現れる山。少年も恐怖を感じていたが、泣いている女を放っておくわけにはいかなかった。
「どうしたんですか?山の村の人ですか?」
 少年は優しく声をかけ、女の肩に手を置いた。
 その瞬間——
 ——グワッ!
 振り向いた女の顔は、恐ろしい般若と化していた。鋭い牙と血走った目がぎらついている。
「ぎゃあああああぁ!」
 少年は悲鳴を上げ、全力で駆け出した。
 しかし、般若の怪物は異常な速度で追いかけてくる。
 ——ドタドタドタ!
「マジでやばい!どうすればいいんだ!」
 少年は息を切らしながら走り続け、ふとポケットの中に触れるものに気づいた。
 エリシアから渡された魔法のカードだ。
(これを……投げれば……!)
 意を決して、少年はカードを一枚掴み取り、後ろに向かって全力で投げつけた。
 ——バァン!
 すると、その瞬間、洪水のような水の魔法が発動し、般若の怪物を飲み込んだ。
「よし!いけるぞ!」
 少年は歓喜の声を上げたが——
 ——グオオオオオオオ!
 般若は水流の中から勢いよく飛び出し、さらに速度を上げて追いかけてきた!
「うわあああぁ!何で速度上がってんだよ!」
 必死で走り抜けた少年は、なんとか山の古い橋を渡りきる。
「これで流石に追いつけない……はず……!」
 だが振り返ると、般若の怪物はすぐそこまで迫っていた。
「くっそ、もう一枚だ!」
 二枚目のカードを掴み、再び投げる!
 ——バァン!
 今度は風の魔法が発動。嵐よりも強い突風が般若を吹き飛ばし、そのまま谷底へと叩き落とした。
「よし……!これで流石に大丈夫だろう。」
 少年は安堵し、呼吸を整えながら歩き出した。
 しかし、油断したその背後から——
 ——ギャアアアアアアア!
 聞き覚えのある不気味な声が響く。少年が振り向くと、般若の怪物が四つ足で壁を駆け上がりながら追いかけてくるではないか!
「何でだよおおおおお!」
 少年は最後の一枚を握りしめながら、全力で逃げ出すのだった……!
 山の村まで、あと少し。
 息を切らしながら少年は走り続ける。だが背後から迫る般若の足音は、容赦なく距離を詰めてきた。
「速い……!早すぎる!」
 振り返ると、般若は恐ろしい顔で追いかけてくる。その速さに、少年は絶望の声を漏らした。
「くっそ、これしかない……!」
 少年はポケットから最後のカードを取り出した。エリシアが渡してくれた三枚目のカードだ。
「これでも喰らえ!」
 ——シュッ!
 少年は渾身の力でカードを投げつける。カードは空を舞い、ゆっくりと落下した。
 ——ヒラッ。
 カードは地面にひらひらと舞い落ち、その場に静かに伏せた。
「ええええぇ〜ええ!」
 少年は絶叫しながら慌ててカードを拾い上げた。
 手に取って見てみると、それは魔法のカードではなかった。
「これ……トレカじゃん!?」
 カードにはこう書かれていた。
【ホワイトロータス】
 デッキのモンスターを1体捧げ、マナをフルチャージする。
「あああああぁ!これ激レアのトレカじゃん!嘘でしょ!マジで!」
 興奮した少年は思わず叫びながらカードを眺めた。その様子に、追いついてきた般若も足を止め、同じようにカードを覗き込んでいた。
「これ、売ったら高いで。50万超えるな……。」
 般若が低い声でつぶやく。
「ええええぇマジかよぉ……これヤバいじゃん!」
 少年は般若と顔を見合わせ、二人でカードをじっくりと見つめた。
 しかし、般若が何かに気づいたように眉をひそめた。
「このカード……なんか薄いな……。あと、透かしのホログラムの色が……。」
 般若の言葉に、少年の心臓が冷たく縮み上がる。
「えっ、それって……偽物……?」
 二人は険しい表情でカードを眺めるのだった。
 遠くの方から、奇妙な叫び声が響いてきた。
 ——キエエエええええエエェ〜!
 その声と共に、煙を上げながら突進してくる影が見える。
「……な、なんだ?」
 少年が目を細めて確認すると、驚愕の事実が目に飛び込んできた。
 それはエリシアだった。
「うおおおおお!間違って激レアトレカ渡しちゃったぁ〜ああ!うわあああああぁ!」
 絶叫しながらものすごい形相で走ってくるエリシア。その勢いに般若と少年は固まったまま動けない。
 エリシアは般若が持っていたカードに飛びつくと、奪い取って胸に抱えた。
「ふぅ……これで大丈夫ですわ……。」
 安堵したようにため息をついたエリシアは、また全速力で走り出した。
「キエエエええええェエエ〜!100万Gイイイイイィ!」
 一瞬でその場を立ち去るエリシア。その後ろ姿が小さくなっていくのを、少年と般若はただ呆然と見つめるだけだった。