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SCENE109 衣織の依頼

ー/ー



 しばらくすると、私は副支部長の部屋に案内される。

「ようこそ、ダンジョン管理局へ。私はこの神奈川支部の副支部長の浮島です。ギルド『百鬼夜行』の石橋衣織さんですね?」

「その通りです。本日は用件があってやって参りました。時間を割いていただきありがとうございます」

「うむ。時間が惜しいので、早速本題に入りましょう。そこにおかけになって下さい」

 浮島氏に言われ、私はソファーに腰を掛ける。
 目の前にはコーヒーが出されており、ミルクポーションと角砂糖も置かれていた。だが、私はブラック派だ。何も入れずに少し口にする。

「それで、何の用でしょうか」

「浮島氏は、ギルド『パラダイス』のことはご存じでしょうか」

「ええ、ダンジョン管理局はギルドも管理しております。ギルドの構成人員から活動まで、事細かく把握はしております」

 私が確認をすると、浮島氏は間髪入れずに、実に即答してきた。

「では、よろしくないうわさがあることもご存じでしょうか」

「……ええ、情報は入ってきております。ただ、確認のしようもないですし、彼らはダンジョン攻略において実績を残しておりますので、現状はこちらからは何も咎められないといったところですね」

 やっぱりか。
 パラダイスというギルドは、ギルドマスター他、上層部はほとんどが不良集団の出身だ。自分たちが好き勝手できる場所ということで『パラダイス』と名付けたらしい。
 まったく、言葉の印象とは裏腹に、なんとも胸糞の悪いギルドだよ。
 私だって、最初は実績を積んでいるギルドってことですごいとは思っていたさ。
 だが、現実を知るまではそう時間はかからなかった。

 それは百鬼夜行にまだ所属していなかった頃の話だ。
 まだ高校生だった私は、友人と一緒にダンジョン探索に向かった。
 予定では三日間だったのだが、私は親からの呼び出しを食らってしまい、一日早く帰らなくてはいけなくなった。
 私は一緒に帰ろうと誘ったのだが、友人は予定通りもう一日滞在することになった。
 やむなく私は、一人で先に帰ったのだが、その時から妙に胸騒ぎが止まらなかった。
 その数日後、友人がその時のダンジョンで亡くなったという話を聞いた。姿は原形を留めておらず、遺留品から身元が特定されるという状況だった。
 この時はまだ、ダンジョンではよくあることだと割り切っていた。
 それから一か月後、私は悲しみを振り払うかのように、別のダンジョンへと向かった。そこで私は、因縁の連中と出くわすことになる。
 パラダイスの連中だ。
 私はダンジョンの中でパラダイスの連中と出くわし、一緒にモンスターを討伐していた。
 その最中、奴らは怖気づいたのか、モンスターから逃げるように私を一人にしやがった。
 正気かと思ったが、モンスターが迫ってきている状況で考えている暇などない。私は一人で迫ってきたモンスターを討伐した。
 その時に連中が取った態度が、いまだに記憶に残っている。私が生き残っていたことを喜ぼうとしていなかったのだからな。
 ただ、その時の私はまだ幼かったせいで、その意味がよく分からなかった。
 意味を知ったのはそれからかなり後のことだった。

 私は黙り込んだまま、コーヒーを飲み干していた。

「ダンジョンでの死亡事故が起きた時、普通は事故として片付けられますよね?」

「ええ、そうですね。モンスターと戦って命を落としたという死亡事故扱いとなります」

「では、意図的にその状況に陥れた場合はどうなりますかね」

「……秘密の殺意による、殺人罪に相当します」

 その瞬間、室内が静まり返る。

「衣織さんは、過去の死亡事故の中に、そのような事例があるというのですか?」

 浮島氏の顔色が変わっている。

「その通りです。特に、ギルド『パラダイス』が向かったダンジョンと、その時の死亡者の状況を照らし合わせてみてください。共通項があるならば、疑わしくなります」

「う、むぅ……」

 私の指摘に、浮島氏はかなり表情が険しくなっている。
 それもそうだろうな。それなりに実績を残しているダンジョン探索ギルドに、殺人の疑いがあるというのだから。

「しかしだな……」

 ここまで言っても、浮島氏の腰は重そうだった。
 となれば、もはや方法はひとつといえるだろう。

「ならば、潜入捜査でも行いますか?」

「せ、潜入?」

 そう、敵陣に切り込むというものだ。
 私たちには共通のうってつけの人物の知り合いがいる。彼に協力を仰げば、もしかするともしかするかもしれないというわけだ。

「いや、彼らが外部の人間を受け付けるとは、とても思えないのですがね」

「いますよ。あいつらごときに気付かれずに内部を見てこれる人物が」

「ちょっと待て。彼を使おうというのか?」

「ええ、そのまさかですよ。彼の隠密は、私ですら以前は気がつけなかったくらいですからね。私より格下であるあいつらなら、気付かれずにいくらでも調査できるってわけですよ」

「しかし……、それはあまりにも危険すぎる。隠密は看破があれば相殺されて効果が下がってしまうからな」

 私の提案に、浮島氏は乗り気ではなさそうだな。
 まあ仕方ないか。その彼は横浜ダンジョンの攻略のための重要人物なんだからな。もしもで失ってしまっては大損害というわけだ。
 だが、こちらとしてはこれ以上あのならず者どもの放置はしていられない。なにせ、私の可愛い瞬にも危害が及ぶ可能性が出てきたからな。
 渋る浮島氏に、私は粘り強く説得を試みる。
 さあ、動いてもらうぞ、ダンジョン管理局。


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 しばらくすると、私は副支部長の部屋に案内される。
「ようこそ、ダンジョン管理局へ。私はこの神奈川支部の副支部長の浮島です。ギルド『百鬼夜行』の石橋衣織さんですね?」
「その通りです。本日は用件があってやって参りました。時間を割いていただきありがとうございます」
「うむ。時間が惜しいので、早速本題に入りましょう。そこにおかけになって下さい」
 浮島氏に言われ、私はソファーに腰を掛ける。
 目の前にはコーヒーが出されており、ミルクポーションと角砂糖も置かれていた。だが、私はブラック派だ。何も入れずに少し口にする。
「それで、何の用でしょうか」
「浮島氏は、ギルド『パラダイス』のことはご存じでしょうか」
「ええ、ダンジョン管理局はギルドも管理しております。ギルドの構成人員から活動まで、事細かく把握はしております」
 私が確認をすると、浮島氏は間髪入れずに、実に即答してきた。
「では、よろしくないうわさがあることもご存じでしょうか」
「……ええ、情報は入ってきております。ただ、確認のしようもないですし、彼らはダンジョン攻略において実績を残しておりますので、現状はこちらからは何も咎められないといったところですね」
 やっぱりか。
 パラダイスというギルドは、ギルドマスター他、上層部はほとんどが不良集団の出身だ。自分たちが好き勝手できる場所ということで『パラダイス』と名付けたらしい。
 まったく、言葉の印象とは裏腹に、なんとも胸糞の悪いギルドだよ。
 私だって、最初は実績を積んでいるギルドってことですごいとは思っていたさ。
 だが、現実を知るまではそう時間はかからなかった。
 それは百鬼夜行にまだ所属していなかった頃の話だ。
 まだ高校生だった私は、友人と一緒にダンジョン探索に向かった。
 予定では三日間だったのだが、私は親からの呼び出しを食らってしまい、一日早く帰らなくてはいけなくなった。
 私は一緒に帰ろうと誘ったのだが、友人は予定通りもう一日滞在することになった。
 やむなく私は、一人で先に帰ったのだが、その時から妙に胸騒ぎが止まらなかった。
 その数日後、友人がその時のダンジョンで亡くなったという話を聞いた。姿は原形を留めておらず、遺留品から身元が特定されるという状況だった。
 この時はまだ、ダンジョンではよくあることだと割り切っていた。
 それから一か月後、私は悲しみを振り払うかのように、別のダンジョンへと向かった。そこで私は、因縁の連中と出くわすことになる。
 パラダイスの連中だ。
 私はダンジョンの中でパラダイスの連中と出くわし、一緒にモンスターを討伐していた。
 その最中、奴らは怖気づいたのか、モンスターから逃げるように私を一人にしやがった。
 正気かと思ったが、モンスターが迫ってきている状況で考えている暇などない。私は一人で迫ってきたモンスターを討伐した。
 その時に連中が取った態度が、いまだに記憶に残っている。私が生き残っていたことを喜ぼうとしていなかったのだからな。
 ただ、その時の私はまだ幼かったせいで、その意味がよく分からなかった。
 意味を知ったのはそれからかなり後のことだった。
 私は黙り込んだまま、コーヒーを飲み干していた。
「ダンジョンでの死亡事故が起きた時、普通は事故として片付けられますよね?」
「ええ、そうですね。モンスターと戦って命を落としたという死亡事故扱いとなります」
「では、意図的にその状況に陥れた場合はどうなりますかね」
「……秘密の殺意による、殺人罪に相当します」
 その瞬間、室内が静まり返る。
「衣織さんは、過去の死亡事故の中に、そのような事例があるというのですか?」
 浮島氏の顔色が変わっている。
「その通りです。特に、ギルド『パラダイス』が向かったダンジョンと、その時の死亡者の状況を照らし合わせてみてください。共通項があるならば、疑わしくなります」
「う、むぅ……」
 私の指摘に、浮島氏はかなり表情が険しくなっている。
 それもそうだろうな。それなりに実績を残しているダンジョン探索ギルドに、殺人の疑いがあるというのだから。
「しかしだな……」
 ここまで言っても、浮島氏の腰は重そうだった。
 となれば、もはや方法はひとつといえるだろう。
「ならば、潜入捜査でも行いますか?」
「せ、潜入?」
 そう、敵陣に切り込むというものだ。
 私たちには共通のうってつけの人物の知り合いがいる。彼に協力を仰げば、もしかするともしかするかもしれないというわけだ。
「いや、彼らが外部の人間を受け付けるとは、とても思えないのですがね」
「いますよ。あいつらごときに気付かれずに内部を見てこれる人物が」
「ちょっと待て。彼を使おうというのか?」
「ええ、そのまさかですよ。彼の隠密は、私ですら以前は気がつけなかったくらいですからね。私より格下であるあいつらなら、気付かれずにいくらでも調査できるってわけですよ」
「しかし……、それはあまりにも危険すぎる。隠密は看破があれば相殺されて効果が下がってしまうからな」
 私の提案に、浮島氏は乗り気ではなさそうだな。
 まあ仕方ないか。その彼は横浜ダンジョンの攻略のための重要人物なんだからな。もしもで失ってしまっては大損害というわけだ。
 だが、こちらとしてはこれ以上あのならず者どもの放置はしていられない。なにせ、私の可愛い瞬にも危害が及ぶ可能性が出てきたからな。
 渋る浮島氏に、私は粘り強く説得を試みる。
 さあ、動いてもらうぞ、ダンジョン管理局。