第15話 有朱とマクガフィンの関係 後半
ー/ー
「そういえば、逆行エリアでの逆戻りにフーダニット卿のアイテムは巻き込まれたりしないの?」
「ホッホッホ!吾輩のアイテムは完成時点で固めてありますからね、時の流れに影響を受けたりはしませんよ」
「そうなのね。なら安心だわ」
「彼が上手く時間逆行を使ったとすれば、新品の身体でこちらの世界に戻ってきている筈です。ただ、逆行エリアは過去へは行けても未来に向かう事は出来ませんから……」
「えっ、そうなの?時間を自由に操れるんじゃないの?」
「あぁ、それはあくまで逆行エリア内での話ですよ。アチラからコチラへは遡る形でしか出現出来ません。それは彼も理解している筈ですよ?」
「じゃあ新品になってから、どうやって今の世界まで戻って来るの?」
「彼は《出口》を探すとも言っていました。恐らくきっと《出口》となる円卓の城を見つけ出し、そこで今の時代になるまでずっと待ち続けているのでしょう。我々が彼を見つけ出すと共にアリスさんが出来るだけ早く元の世界へ戻るには、その方法しかありません」
「折角新品になってもこっちで長い時間を過ごしちゃったら、また同じだけ傷んじゃうじゃない?」
「こちらの世界での時間経過はその本人の意識に依りますから、彼が新品の状態を保つのはそれほど難しい事ではありませんよ」
「あ、確かにそうだったわね……」
「だからワシらは逆行エリアが理解出来んのよ、時間などただの幻想に過ぎん。世界はただ動いているだけだというのに、それを遡ってどうしたいのやら……」
「吾輩はただ、自分の理想を突き詰める一環で創り出しただけですから」
「だからと言って自ら老いと若返りを繰り返すこともなかろうて」
「体験しなければ分からない事もありますよ。さて、捜しましょうか。まずサーチ範囲を拡げて……おや?もう反応が」
「旦那様、この反応って……」
「ふむ、おかしいですねぇ」
「ねぇフーダニット卿、どういう事?」
「懐中時計の反応と、逆行エリアの位置が重なっているんですよ」
「つまり、どういう事?」
「マクガフィンは未だ、逆行エリアから出られずにいるらしいですね。彼はこちらの世界に帰って来る事なく、ずっと逆行エリアの中を彷徨い続けている……」
「そんな!一体どうして?」
「吾輩にも分かりません。何かトラブルが起きたのか……」
「不安要素を出すようで悪いのだが、確か魔女も逆行エリア内に居るのではなかったか?奴は二次元の形をとって自由に過ごしておるのだろう」
「そう言われればそうでした。旦那様、マズいかも知れませんよ」
「とにかく、確認しましょう!」
いつの間に拾っていたのか、フーダニット卿はランタンを再び取り出すと私にかざした。影の刺す方向は先程と変わらない。という事は影の少女も同じく、未だ逆行エリア内に居ることになる。
「コレは、確かにマズいですね。もしかすると彼は、魔女の何かしらによってエリア内の軌跡として永久に取り込まれてしまったかも……」
「永久に……」
そこで私の頭に、ピーンと閃いた事があった。現実では、既に起きてしまった出来事に介入する術は無い。しかし逆行エリアなら。未来から遡って、マクガフィンがアクシデントを起こす前まで追い付ける。観測してしまえば、過去改変と同じ様にその原因になる出来事も完全に把握した状態で……
「ねぇカエル男爵、いまマクガフィンに起こり得る中で一番最悪な事態って何?」
「それは当然、円卓の城に辿り着く前に逆行エリアで遭難する事だろうな。仮に身体を新品に出来たとて、此方に戻ってアリスさんに受け入れて貰わねば意味が無いし、を見つけられねば元の世界に帰るという本懐も果たせん。その原因が魔女との会敵ともなれば、最悪と言えるだろう」
「じゃあネコの侯爵、その最悪の事態を回避する為にはどうすれば良いと思う?」
「回避と言っても……もう過ぎてしまった事だろう?」
「違うわよ!マクガフィンが囚われてるっていう事態は“まだ”逆行エリアの中で起きている出来事だわ。今から入っていけば追い付ける!でしょう?」
「なるほど!確かにアリスさんの仰る通りだ……まだ可能性はある!」
「俺には何の事やらさっぱりだ……」
「良いですか侯爵、思考して頂く為にざっくりとした概念をお教えします。アチラの世界は未来から過去へと遡って行く世界ですから、決まった結果が収束し閉じている世界に思えます。吾輩もあくまで、入って出る為の中継地としか捉えていませんでした。しかし、内部で起こった事はコチラの世界に出なければ確定しません。つまり、もし逆行エリア内で起きていることに対して未来から中に入る事で新たに観測し直せば、その事象は新しい観測者によって別の結果を得られる……結果の軌跡を踏まえて、完全な方法で処理する事が可能なのです」
「つまりね、逆行エリア内で何か壊れたものがあったとして、それがそのままコチラの世界に出て来てしまったら、壊れた状態で存在が確定する。けどもしエリア内でそれを観測する新たな存在が現れたとしたら、観測者はそれが壊れるまでの過程を観測する事で、壊れる前の状態まで見る事が出来る、更に壊れる原因も知る事が出来て、壊れる前にコチラの世界に出す事で、壊れていない状態の存在を確定する事が出来るのよ!」
「もし、その観測者を更に後から見る新しい観測者が現れれば、次はその観測者が好きに結果をいじる事が出来るというわけです。完全な後攻有利……。本来、逆行エリア内で他の存在を追跡するのは時空の揺れによって不可能に近いですから、考えたこともありませんでした。しかし、アリスさんと魔女は影という、切っても切れない線で繋がっているから追跡も可能です」
「あぁ!そういう事か、ややこしい……完全な後出しジャンケンなら、いくら相手が魔女と言えど負けは無いか。追い掛けてマクガフィンを一番都合の良い状態で外に出して、存在を確定させてやるのが良いだろう」
「凄いですよアリスさん!完璧な計画です!惚れ惚れします!」
「ただ一つ、気になる点があるな」
サラリーの賞賛を眺めながら、ネコの侯爵がボソリと呟いた。
「それは何?」
「これが魔女の罠である可能性だ。逆行エリアにアリスさんを誘い込んでいるとは考えられないか?」
「一体何のために……?」
「例えば、逆行エリアでの振る舞い方を勉強する為とか。二次元に頼っている間は、あの世界で出来る事など高が知れているだろう、もしかすると魔女は、逆行エリアを使い熟す為に敢えてマクガフィンを捕らえているのかも……」
「グェッグェッ!その可能性は大いに有り得るな。先刻の提案を聞くに、アリスさんはもう随分と時間逆行に対しての理解を深めたと見受けられる。もしかすると相当なポテンシャルを秘めておるのやも知れん、既にワシらでは及ばん領域に居る……もし魔女がそのアリスさんの素養を盗んでしまえば、今度こそ手が付けられんぞ。逆行エリアにこのままずっと、マクガフィンと共に閉じ込めておくのが良かろう」
「そんな!有り得ないわ!」
「アリスさんは《出口》を見つけて帰れれば良いのだろう?ならばワシらも協力するから、コチラで地道に探せば良い。な?」
「……この傍観者が」
「アリスさん?」
「アナタの言ってる事は只の逃げよ!私が行かなくったって魔女は自由にコチラの世界に戻って来て、好き勝手やるに決まってるわ!現にアナタ達賢者から《出口》の意識を奪ってるじゃない!私を止めても無意味よ、それよりもさっさと私が二人に追い付いて、魔女からマクガフィンを取り返した方が絶対に良い!マクガフィンはそもそも、魔女が力を蓄える前に倒そうとしてたのよ?彼の勇気を無碍にして心が痛まない?のうのうと問題を先延ばしにして結局魔女に世界を蝕まれるのと、解決する為にひと勝負出るのと、どっちが賢いか分かるでしょ!」
「ゲゲゲッ!」
「フーダニット卿の暴走を止めてくれたから少しは見込みあるかと思ってたのに……がっかりだわ」
「まぁまぁ、アリスさんその程度で……男爵は男爵なりに、危険を最小限にしようと考えただけで、悪気はないんだ。マクガフィンが魔女をどうにかしようと考えていてくれたとも知らなかった、俺から礼を言わせてくれ」
カエル男爵はすっかり縮こまって、ガマガエルの様な太々しい雰囲気は何処へやら、アオガエルのような可愛らしい見た目になってしまった。我に返って気付いた私は動揺してしまう。
「えっ、えええええ!男爵!?御免なさい!カッとなってつい言い過ぎたわ、アナタにはアナタの立場があるんだものね?分かったから、ね?」
一応、取り繕ってはみるものの、彼のショックは相当な様で、ガマガエルの姿に戻る事は無かった。そして、いつもの野太い声ではなく小さな、甲高い声で返事をした。
「アリスさんなら……きっと勝てる……ケロロロ……」
「男爵もこう言っている事だし、俺もアリスさんが彼を追い掛ける事に賛成だ。不安要素がずっとあの厄介なエリアで燻っている事の方が面倒臭い。頼んだよ、お嬢さん」
「自分も、動くなら今!と思います……旦那様はやけに落ち着いてますね?」
「まぁね……アリスさんの発想に感動していてね。お陰で新しいアイデアが閃きそうですよ」
「ありがとう皆。私、絶対にマクガフィンを助けてくるわ。相手が誰でも、きっと負けないから」
「頼もしい限りです。では逆行エリアまでお見送りしましょう」
こうして、私達は再び逆行エリアの白い円の前に集まった。
「アリスさん、今のあなたになら伝えても良さそうだ。エリア内で限り無く自由に振る舞う方法について……」
「あらありがとう。是非、教えて欲しいわ」
「大切なのは、主軸を何処に置くか、です。もし何も主軸にしなければ、説明した通り総てが逆行します。周囲を主軸に捉えれば、自分の状態が巻き戻ります。自分を主軸に捉えれば、周りが巻き戻ります。逆行エリアを主軸に捉えれば、外の世界が巻き戻ります。上手く意識するコツは、世界の中心が常に自分にあると信じる事です」
フーダニット卿は周りに聴こえないくらいの小声で私の耳にその言葉そっと囁くと、ランタンを手渡した。
「行ってらっしゃい。どうかお元気で、マクガフィンさんにもよろしくお伝え下さい」
「ええ。色々とお世話になったわね。本当にありがとう、皆さんもお元気で!」
手を振る彼らに背を向け、私は白い円と向き合う。ランタンを持った左手を握り締め、右手を前に出す。円から出るイメージで円に触れた瞬間、引っ張られる様に身体が浮いた。グーッと伸ばされる様な感覚に襲われて……気付くと私は、同じ体勢で鏡写しになった自分を見ていた。奥には、フーダニット卿と賢者の面々。映り込んだ私は手を下げ、振り返って彼らに手を振る。遠ざかり、ランタンをフーダニット卿に渡す……この光景は、さっきまでの巻き戻しだ。どうやら無事、逆行エリアに入れたようだ。
現実世界の後ろ歩きの形で、私は奥へと戻って行く。ランタンの指し示す方向から歩いて来た、その巻き戻しのイメージ……
「待っててねマクガフィン。絶対、見つけ出してみせるから」
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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「えっ、そうなの?時間を自由に操れるんじゃないの?」
「あぁ、それはあくまで逆行エリア内での話ですよ。アチラからコチラへは遡る形でしか出現出来ません。それは彼も理解している筈ですよ?」
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「彼は《出口》を探すとも言っていました。恐らくきっと《出口》となる円卓の城を見つけ出し、そこで今の時代になるまでずっと待ち続けているのでしょう。我々が彼を見つけ出すと共にアリスさんが出来るだけ早く元の世界へ戻るには、その方法しかありません」
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「こちらの世界での時間経過はその本人の意識に依りますから、彼が新品の状態を保つのはそれほど難しい事ではありませんよ」
「あ、確かにそうだったわね……」
「だからワシらは逆行エリアが理解出来んのよ、時間などただの幻想に過ぎん。世界はただ動いているだけだというのに、それを遡ってどうしたいのやら……」
「吾輩はただ、自分の理想を突き詰める一環で創り出しただけですから」
「だからと言って自ら老いと若返りを繰り返すこともなかろうて」
「体験しなければ分からない事もありますよ。さて、捜しましょうか。まずサーチ範囲を拡げて……おや?もう反応が」
「旦那様、この反応って……」
「ふむ、おかしいですねぇ」
「ねぇフーダニット卿、どういう事?」
「懐中時計の反応と、逆行エリアの位置が重なっているんですよ」
「つまり、どういう事?」
「マクガフィンは未だ、逆行エリアから出られずにいるらしいですね。彼はこちらの世界に帰って来る事なく、ずっと逆行エリアの中を彷徨い続けている……」
「そんな!一体どうして?」
「吾輩にも分かりません。何かトラブルが起きたのか……」
「不安要素を出すようで悪いのだが、確か魔女も逆行エリア内に居るのではなかったか?奴は二次元の形をとって自由に過ごしておるのだろう」
「そう言われればそうでした。旦那様、マズいかも知れませんよ」
「とにかく、確認しましょう!」
いつの間に拾っていたのか、フーダニット卿はランタンを再び取り出すと私にかざした。影の刺す方向は先程と変わらない。という事は影の少女も同じく、未だ逆行エリア内に居ることになる。
「コレは、確かにマズいですね。もしかすると彼は、魔女の何かしらによってエリア内の軌跡として永久に取り込まれてしまったかも……」
「永久に……」
そこで私の頭に、ピーンと閃いた事があった。現実では、既に起きてしまった出来事に介入する術は無い。しかし逆行エリアなら。未来から遡って、マクガフィンがアクシデントを起こす前まで追い付ける。観測してしまえば、過去改変と同じ様にその原因になる出来事も完全に把握した状態で……
「ねぇカエル男爵、いまマクガフィンに起こり得る中で一番最悪な事態って何?」
「それは当然、円卓の城に辿り着く前に逆行エリアで遭難する事だろうな。仮に身体を新品に出来たとて、此方に戻ってアリスさんに受け入れて貰わねば意味が無いし、《出口》を見つけられねば元の世界に帰るという本懐も果たせん。その原因が魔女との会敵ともなれば、最悪と言えるだろう」
「じゃあネコの侯爵、その最悪の事態を回避する為にはどうすれば良いと思う?」
「回避と言っても……もう過ぎてしまった事だろう?」
「違うわよ!マクガフィンが囚われてるっていう事態は“まだ”逆行エリアの中で起きている出来事だわ。今から入っていけば追い付ける!でしょう?」
「なるほど!確かにアリスさんの仰る通りだ……まだ可能性はある!」
「俺には何の事やらさっぱりだ……」
「良いですか侯爵、思考して頂く為にざっくりとした概念をお教えします。アチラの世界は未来から過去へと遡って行く世界ですから、決まった結果が収束し閉じている世界に思えます。吾輩もあくまで、入って出る為の中継地としか捉えていませんでした。しかし、内部で起こった事はコチラの世界に出なければ確定しません。つまり、もし逆行エリア内で起きていることに対して未来から中に入る事で新たに観測し直せば、その事象は新しい観測者によって別の結果を得られる……結果の軌跡を踏まえて、完全な方法で処理する事が可能なのです」
「つまりね、逆行エリア内で何か壊れたものがあったとして、それがそのままコチラの世界に出て来てしまったら、壊れた状態で存在が確定する。けどもしエリア内でそれを観測する新たな存在が現れたとしたら、観測者はそれが壊れるまでの過程を観測する事で、壊れる前の状態まで見る事が出来る、更に壊れる原因も知る事が出来て、壊れる前にコチラの世界に出す事で、壊れていない状態の存在を確定する事が出来るのよ!」
「もし、その観測者を更に後から見る新しい観測者が現れれば、次はその観測者が好きに結果をいじる事が出来るというわけです。完全な後攻有利……。本来、逆行エリア内で他の存在を追跡するのは時空の揺れによって不可能に近いですから、考えたこともありませんでした。しかし、アリスさんと魔女は影という、切っても切れない線で繋がっているから追跡も可能です」
「あぁ!そういう事か、ややこしい……完全な後出しジャンケンなら、いくら相手が魔女と言えど負けは無いか。追い掛けてマクガフィンを一番都合の良い状態で外に出して、存在を確定させてやるのが良いだろう」
「凄いですよアリスさん!完璧な計画です!惚れ惚れします!」
「ただ一つ、気になる点があるな」
サラリーの賞賛を眺めながら、ネコの侯爵がボソリと呟いた。
「それは何?」
「これが魔女の罠である可能性だ。逆行エリアにアリスさんを誘い込んでいるとは考えられないか?」
「一体何のために……?」
「例えば、逆行エリアでの振る舞い方を勉強する為とか。二次元に頼っている間は、あの世界で出来る事など高が知れているだろう、もしかすると魔女は、逆行エリアを使い熟す為に敢えてマクガフィンを捕らえているのかも……」
「グェッグェッ!その可能性は大いに有り得るな。先刻の提案を聞くに、アリスさんはもう随分と時間逆行に対しての理解を深めたと見受けられる。もしかすると相当なポテンシャルを秘めておるのやも知れん、既にワシらでは及ばん領域に居る……もし魔女がそのアリスさんの素養を盗んでしまえば、今度こそ手が付けられんぞ。逆行エリアにこのままずっと、マクガフィンと共に閉じ込めておくのが良かろう」
「そんな!有り得ないわ!」
「アリスさんは《出口》を見つけて帰れれば良いのだろう?ならばワシらも協力するから、コチラで地道に探せば良い。な?」
「……この傍観者が」
「アリスさん?」
「アナタの言ってる事は只の逃げよ!私が行かなくったって魔女は自由にコチラの世界に戻って来て、好き勝手やるに決まってるわ!現にアナタ達賢者から《出口》の意識を奪ってるじゃない!私を止めても無意味よ、それよりもさっさと私が二人に追い付いて、魔女からマクガフィンを取り返した方が絶対に良い!マクガフィンはそもそも、魔女が力を蓄える前に倒そうとしてたのよ?彼の勇気を無碍にして心が痛まない?のうのうと問題を先延ばしにして結局魔女に世界を蝕まれるのと、解決する為にひと勝負出るのと、どっちが賢いか分かるでしょ!」
「ゲゲゲッ!」
「フーダニット卿の暴走を止めてくれたから少しは見込みあるかと思ってたのに……がっかりだわ」
「まぁまぁ、アリスさんその程度で……男爵は男爵なりに、危険を最小限にしようと考えただけで、悪気はないんだ。マクガフィンが魔女をどうにかしようと考えていてくれたとも知らなかった、俺から礼を言わせてくれ」
カエル男爵はすっかり縮こまって、ガマガエルの様な太々しい雰囲気は何処へやら、アオガエルのような可愛らしい見た目になってしまった。我に返って気付いた私は動揺してしまう。
「えっ、えええええ!男爵!?御免なさい!カッとなってつい言い過ぎたわ、アナタにはアナタの立場があるんだものね?分かったから、ね?」
一応、取り繕ってはみるものの、彼のショックは相当な様で、ガマガエルの姿に戻る事は無かった。そして、いつもの野太い声ではなく小さな、甲高い声で返事をした。
「アリスさんなら……きっと勝てる……ケロロロ……」
「男爵もこう言っている事だし、俺もアリスさんが彼を追い掛ける事に賛成だ。不安要素がずっとあの厄介なエリアで燻っている事の方が面倒臭い。頼んだよ、お嬢さん」
「自分も、動くなら今!と思います……旦那様はやけに落ち着いてますね?」
「まぁね……アリスさんの発想に感動していてね。お陰で新しいアイデアが閃きそうですよ」
「ありがとう皆。私、絶対にマクガフィンを助けてくるわ。相手が誰でも、きっと負けないから」
「頼もしい限りです。では逆行エリアまでお見送りしましょう」
こうして、私達は再び逆行エリアの白い円の前に集まった。
「アリスさん、今のあなたになら伝えても良さそうだ。エリア内で限り無く自由に振る舞う方法について……」
「あらありがとう。是非、教えて欲しいわ」
「大切なのは、主軸を何処に置くか、です。もし何も主軸にしなければ、説明した通り総てが逆行します。周囲を主軸に捉えれば、自分の状態が巻き戻ります。自分を主軸に捉えれば、周りが巻き戻ります。逆行エリアを主軸に捉えれば、外の世界が巻き戻ります。上手く意識するコツは、世界の中心が常に自分にあると信じる事です」
フーダニット卿は周りに聴こえないくらいの小声で私の耳にその言葉そっと囁くと、ランタンを手渡した。
「行ってらっしゃい。どうかお元気で、マクガフィンさんにもよろしくお伝え下さい」
「ええ。色々とお世話になったわね。本当にありがとう、皆さんもお元気で!」
手を振る彼らに背を向け、私は白い円と向き合う。ランタンを持った左手を握り締め、右手を前に出す。円から出るイメージで円に触れた瞬間、引っ張られる様に身体が浮いた。グーッと伸ばされる様な感覚に襲われて……気付くと私は、同じ体勢で鏡写しになった自分を見ていた。奥には、フーダニット卿と賢者の面々。映り込んだ私は手を下げ、振り返って彼らに手を振る。遠ざかり、ランタンをフーダニット卿に渡す……この光景は、さっきまでの巻き戻しだ。どうやら無事、逆行エリアに入れたようだ。
現実世界の後ろ歩きの形で、私は奥へと戻って行く。ランタンの指し示す方向から歩いて来た、その巻き戻しのイメージ……
「待っててねマクガフィン。絶対、見つけ出してみせるから」