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15-.⑥それは真か真実か

ー/ー



 かつて魔王は、眷属である魔族たちの統率を図るため、各種属の上級魔族の中から秀でた者を選定し、将としての役目を与えた。
 その中のひとり、アンデット属の将を務めていたのがウベルこと、サリエルだったのだ。

「は……ははは……そうですね、ここまで傷つき、力を入れることもままならず、ワタシになすがままにされている……そこまで衰えたお前を恐れ震えるなぞどうかして――」
「ん?あぁ、そうかそうか」
「カッァ?!」

 カタールの刃が、声帯を貫いていた。

「あまりにもバカらしいことを言うもんだから忘れてたわ」

 ゴボゴボと黒い血が首から泡立ち、息苦しそうに吐きながら咳き込み、へたり込むサリエル。
 視界に足先が映り込む……多くの若い冒険者が好んで選ぶ、有名な職人が仕上げたセンスのいいブーツだ。

「この姿で、こんな状態なら、そう思っちまうのも仕方はねぇ」

 出血のせいで視力がおぼろげになったせいではない……まばたきをするたび、視界に入っていた世界が変わっていく。

「あぁ……あの時のことは忘れていませんよ……」
「なんだ、もう治ったのか?あの時ってのは、お前が裏切った時か?」
「そう……っぐ!で……ふよ」
「懐かしいじゃねぇの、こんなふうだったか?」

 顔を上げようとしたが、それより早く、目の前から片足が消えていた。
 サリエルの頭を踏み、頬を床に強く押し付けていた。

「ゼン………ッ!!!」
「こんなところに女を誘拐して遊んでるなんて、いい趣味持つようになったなぁ?」
「お前に……言われたくはありませんね!!?」
「俺は誘拐なんかしなくても十分なイイ女がいる、一緒にすんじゃねぇよ?」

 赤黒い髪、細い三つ編みが両サイドで揺れる……ゼクスと名乗った若者は、ゼン・セクズの姿へ。

「ちっ!!退きなさい!!」
「おっと」

 ゼンの足を手刀で払い、屈辱的な姿から抜け出したサリエルは、ゼンの姿を上から下までしっかりと、時間をかけて目に焼き付けていた。

「なぜわざわざ姿を変えていたのですか?」
「答えてやってもいいが、お前も俺の質問に答えろよ?」
「……いいでしょう、あなたがお話好きなのは知っていますからね?」

 今の王都に出入りし滞在するにあたって、ゼンの姿で居ることが最大のリスクであること。
 そもそも、ゼンの能力自体は計り知れない力ではあるが、体は一般人と変わらない。
 ギルド特製の武器を扱うにも、どうせなら力のある人間の形を取るほうが楽しめる。
【乙女様】に関しても、対面した際、ゼンの姿よりも警戒されないだろう『若く優しく勇ましい冒険者』を選んだ、と。

「まぁ、こいつの性能は道端にいる魔物でも狩って試しゃいいと思ってたが、都合よく【乙女様】行方不明事件が起こったおかげで予想以上に楽しめた、と。そんなところか」
「相変わらず……自分の為だけの行動をとる方ですね……」
「自分らしく生きることは悪いことじゃねぇだろ?」
「ふふ……同意します、ワタシもワタシを満たすためにこうしていますからね」

 何が起こっているのだろうと。
 知った顔同士の会話ということだけは理解できた。
 理解したくないのは、自分とセリハを命がけで守ってくれた人物が、現国王代理である勇者ソウゴから通達されていた要注意人物であったこと。

「ゼ……クス……?」
「あ?わりぃわりぃ、こっちが終わったら聞いてやる、静かに待ってろ」

 ちらりとティオを見ただけ、ゼンの中での最優先度はサリエル、すぐ対話を再開させた。

「お前が聞きたいのはそれだけでいいのか?」
「そうですねぇ……ゼン、お前の質問によってはまたこちらからお聞きするかもしれませんねぇ?」

 距離をとって、明らかにゼンを警戒しているくせに、強気な言い方をするサリエル。元々こういう性格だと知っているゼンは、余計な返事はせずに、質問をする。

「この誘拐は、誰に指示された?」

 変わることのない表情、それが逆に答え。

「絶対的な力を持つ、お前が抗えない存在、いるんだろ?」
「クヒッ!誤魔化しても無駄なのでしょう……おりますよ?ワタシにファイン殿下の魔力を喰わせてくれた……尊いお方が」
「喰わせた?」

 ゼンが知らないと踏んだのか、意気揚々と笑みを浮かべながら語り始める。

「そうです、王都の結界は魔族専用の【魂喰らい(ソウルイーター)】なんです……魔族にとって魔力は魂と同等のものですからねぇ?セリハは喰らった魔力を溜め込む器であり、吸引装置……許容量が歴代の器よりもはるかに高く、それに伴い吸い上げる強さも強大です」

 ペロリと舌なめずりをして、なぜかティオをみながら話を続けるサリエル。

「ワタシも魔族でありますが……特別な加護と啓示を授かり、聖堂に赴くことができました……その時のワタシの姿はとてもみすぼらしい姿でありましたがぁ――」

 瞬間移動したかのような速さでティオの顔面に自分の顔面を擦り付ける程近づき、傍らでぼんやりとして宙を見ているセリハの乳房を血が滲むほどの強さで掴みながら、

「黒髪の異端児として蔑まれながら生きてきたはずのセリハ……それでも心は美しいまま壊れることなく、他人を敬い慈悲を与え――そう、こんなワタシにも優しく……えぇ!それはもう!甘美で、熱く、とろけてしまうほどの温もりを与えてくれましてねぇ?!」
「ィダッ!……ぁ……ぁああ!!そんな!やめろ!!見せないでくれぇ!!!!」

 ゴッと鈍い音を立て、ティオの額に自分の額をぶつけ、押しつけ……その日、その時の光景を脳内に直接流し込み、高らかに笑いだす。

「アーーッヒャッハッハッハッハッ!!どうですぅ?かわいらしいでしょう?あなたとセリハが今後どうなるかはわかりませんがぁ……どこをどうすれば甘い声を上げ、喜び、強く腕を、脚を、絡ませてくれるか……事前にお勉強できたというのにぃ?どぉしてそんな、なっっさけない顔をなさるのですかぁ???」

 変わり果てたセリハを見たときと同じ……いや、それ以上の絶望がティオを襲った。

「一番手っ取り早い魔力の摂取方法でしたのでね、不本意でしたが頂いておきました……まぁ、セリハが美味しかった、というよりは、ファイン殿下の最上の魔力の方がワタシに喜びと興奮と高揚感を与えてくれましたがね?アーヒッヒッヒッヒッィ!!」
「で?」

 笑い声を遮るゼンの声。

「俺が聞いてんのは、お前がそう動くように指示した奴だ。お前が女を喰った話なんて聞いてねぇよ」
「相手にされていない彼が可哀想だと思ったんですよ……それくらいの戯れ……余興は許してくれてもいいでしょうに……せっかちなお方だ」

 両腕をいつのまにか落とされていたサリエル……背中から黒い血でできた羽を生やし、軽く床を蹴って宙へと飛び上がった。
 ゆっくりと回りながら、その羽根を見せつけるように舞い上がっていく。

「この姿を……よーく、見てください?」

 腕も徐々に再生されていく。
 天井に空いた穴から差し込む日差しで、サリエルに後光が指す。

「ワタシが愛した者の魂を手に入れる力を与えてくださり、新たな力で舞い上がり、飛び立つ力を与えてくださった!!その恩を仇で返すほどワタシは愚かではない……たとえそれが!!神であろうと!!」

 羽根が羽ばたく大きな音、舞い落ちる黒い羽根。

「はっ!神墜ち、か」

 見上げる先には天使の影……影だけは、天使。


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 かつて魔王は、眷属である魔族たちの統率を図るため、各種属の上級魔族の中から秀でた者を選定し、将としての役目を与えた。 その中のひとり、アンデット属の将を務めていたのがウベルこと、サリエルだったのだ。
「は……ははは……そうですね、ここまで傷つき、力を入れることもままならず、ワタシになすがままにされている……そこまで衰えたお前を恐れ震えるなぞどうかして――」
「ん?あぁ、そうかそうか」
「カッァ?!」
 カタールの刃が、声帯を貫いていた。
「あまりにもバカらしいことを言うもんだから忘れてたわ」
 ゴボゴボと黒い血が首から泡立ち、息苦しそうに吐きながら咳き込み、へたり込むサリエル。
 視界に足先が映り込む……多くの若い冒険者が好んで選ぶ、有名な職人が仕上げたセンスのいいブーツだ。
「この姿で、こんな状態なら、そう思っちまうのも仕方はねぇ」
 出血のせいで視力がおぼろげになったせいではない……まばたきをするたび、視界に入っていた世界が変わっていく。
「あぁ……あの時のことは忘れていませんよ……」
「なんだ、もう治ったのか?あの時ってのは、お前が裏切った時か?」
「そう……っぐ!で……ふよ」
「懐かしいじゃねぇの、こんなふうだったか?」
 顔を上げようとしたが、それより早く、目の前から片足が消えていた。
 サリエルの頭を踏み、頬を床に強く押し付けていた。
「ゼン………ッ!!!」
「こんなところに女を誘拐して遊んでるなんて、いい趣味持つようになったなぁ?」
「お前に……言われたくはありませんね!!?」
「俺は誘拐なんかしなくても十分なイイ女がいる、一緒にすんじゃねぇよ?」
 赤黒い髪、細い三つ編みが両サイドで揺れる……ゼクスと名乗った若者は、ゼン・セクズの姿へ。
「ちっ!!退きなさい!!」
「おっと」
 ゼンの足を手刀で払い、屈辱的な姿から抜け出したサリエルは、ゼンの姿を上から下までしっかりと、時間をかけて目に焼き付けていた。
「なぜわざわざ姿を変えていたのですか?」
「答えてやってもいいが、お前も俺の質問に答えろよ?」
「……いいでしょう、あなたがお話好きなのは知っていますからね?」
 今の王都に出入りし滞在するにあたって、ゼンの姿で居ることが最大のリスクであること。
 そもそも、ゼンの能力自体は計り知れない力ではあるが、体は一般人と変わらない。
 ギルド特製の武器を扱うにも、どうせなら力のある人間の形を取るほうが楽しめる。
【乙女様】に関しても、対面した際、ゼンの姿よりも警戒されないだろう『若く優しく勇ましい冒険者』を選んだ、と。
「まぁ、こいつの性能は道端にいる魔物でも狩って試しゃいいと思ってたが、都合よく【乙女様】行方不明事件が起こったおかげで予想以上に楽しめた、と。そんなところか」
「相変わらず……自分の為だけの行動をとる方ですね……」
「自分らしく生きることは悪いことじゃねぇだろ?」
「ふふ……同意します、ワタシもワタシを満たすためにこうしていますからね」
 何が起こっているのだろうと。
 知った顔同士の会話ということだけは理解できた。
 理解したくないのは、自分とセリハを命がけで守ってくれた人物が、現国王代理である勇者ソウゴから通達されていた要注意人物であったこと。
「ゼ……クス……?」
「あ?わりぃわりぃ、こっちが終わったら聞いてやる、静かに待ってろ」
 ちらりとティオを見ただけ、ゼンの中での最優先度はサリエル、すぐ対話を再開させた。
「お前が聞きたいのはそれだけでいいのか?」
「そうですねぇ……ゼン、お前の質問によってはまたこちらからお聞きするかもしれませんねぇ?」
 距離をとって、明らかにゼンを警戒しているくせに、強気な言い方をするサリエル。元々こういう性格だと知っているゼンは、余計な返事はせずに、質問をする。
「この誘拐は、誰に指示された?」
 変わることのない表情、それが逆に答え。
「絶対的な力を持つ、お前が抗えない存在、いるんだろ?」
「クヒッ!誤魔化しても無駄なのでしょう……おりますよ?ワタシにファイン殿下の魔力を喰わせてくれた……尊いお方が」
「喰わせた?」
 ゼンが知らないと踏んだのか、意気揚々と笑みを浮かべながら語り始める。
「そうです、王都の結界は魔族専用の【|魂喰らい《ソウルイーター》】なんです……魔族にとって魔力は魂と同等のものですからねぇ?セリハは喰らった魔力を溜め込む器であり、吸引装置……許容量が歴代の器よりもはるかに高く、それに伴い吸い上げる強さも強大です」
 ペロリと舌なめずりをして、なぜかティオをみながら話を続けるサリエル。
「ワタシも魔族でありますが……特別な加護と啓示を授かり、聖堂に赴くことができました……その時のワタシの姿はとてもみすぼらしい姿でありましたがぁ――」
 瞬間移動したかのような速さでティオの顔面に自分の顔面を擦り付ける程近づき、傍らでぼんやりとして宙を見ているセリハの乳房を血が滲むほどの強さで掴みながら、
「黒髪の異端児として蔑まれながら生きてきたはずのセリハ……それでも心は美しいまま壊れることなく、他人を敬い慈悲を与え――そう、こんなワタシにも優しく……えぇ!それはもう!甘美で、熱く、とろけてしまうほどの温もりを与えてくれましてねぇ?!」
「ィダッ!……ぁ……ぁああ!!そんな!やめろ!!見せないでくれぇ!!!!」
 ゴッと鈍い音を立て、ティオの額に自分の額をぶつけ、押しつけ……その日、その時の光景を脳内に直接流し込み、高らかに笑いだす。
「アーーッヒャッハッハッハッハッ!!どうですぅ?かわいらしいでしょう?あなたとセリハが今後どうなるかはわかりませんがぁ……どこをどうすれば甘い声を上げ、喜び、強く腕を、脚を、絡ませてくれるか……事前にお勉強できたというのにぃ?どぉしてそんな、なっっさけない顔をなさるのですかぁ???」
 変わり果てたセリハを見たときと同じ……いや、それ以上の絶望がティオを襲った。
「一番手っ取り早い魔力の摂取方法でしたのでね、不本意でしたが頂いておきました……まぁ、セリハが美味しかった、というよりは、ファイン殿下の最上の魔力の方がワタシに喜びと興奮と高揚感を与えてくれましたがね?アーヒッヒッヒッヒッィ!!」
「で?」
 笑い声を遮るゼンの声。
「俺が聞いてんのは、お前がそう動くように指示した奴だ。お前が女を喰った話なんて聞いてねぇよ」
「相手にされていない彼が可哀想だと思ったんですよ……それくらいの戯れ……余興は許してくれてもいいでしょうに……せっかちなお方だ」
 両腕をいつのまにか落とされていたサリエル……背中から黒い血でできた羽を生やし、軽く床を蹴って宙へと飛び上がった。
 ゆっくりと回りながら、その羽根を見せつけるように舞い上がっていく。
「この姿を……よーく、見てください?」
 腕も徐々に再生されていく。
 天井に空いた穴から差し込む日差しで、サリエルに後光が指す。
「ワタシが愛した者の魂を手に入れる力を与えてくださり、新たな力で舞い上がり、飛び立つ力を与えてくださった!!その恩を仇で返すほどワタシは愚かではない……たとえそれが!!神であろうと!!」
 羽根が羽ばたく大きな音、舞い落ちる黒い羽根。
「はっ!神墜ち、か」
 見上げる先には天使の影……影だけは、天使。