120. とてつもないチート

ー/ー



「ええ。あなた一人に格好つけさせるわけにはいきませんわ」

 ミーシャが微笑む。

「あたしたちの出番ね! 燃えてきたわ!」

 ルナが拳を握る。

「私も、全力で戦うわよ!」

 エリナが剣を鞘の中でガチャリと鳴らす。

 『アルカナ』のメンバーが顔を見合わせ、力強く頷いた。そしてギルバートと蒼き獅子騎士団も、深々と頭を下げる。

「我ら蒼き獅子騎士団、シエル様と『アルカナ』に、この剣を捧げます!」

 公園に騎士たちの声が響き渡る。青空の下、二つの勢力が一つになった。

 レオンはぐっとこぶしを握る。来るぞ、本当の戦いが――。

 運命に導かれ、僕たちはここに集まった。簡単ではないだろうが、この仲間たちがいればきっと道は開けるのだ。

 新たな戦いの幕が、今、上がろうとしていた。


      ◇


 その晩、レオンは寝付けずにいた。

 ベッドに横たわり、白い天井を見つめる。

 静かな夜だった。時計の音だけが、カチ、カチと規則正しく響いている。遠くで犬が吠える声。風が木々を揺らす音。全てが、平和な夜を物語っている。

 けれど、レオンの心は穏やかではなかった。

 胸の奥底で、何かが蠢いている。それは不安という名の、黒い影。それが、心を侵食していく。

 寄生体――。

 あの、おぞましい核。

 ミーシャが魔法で撮影しておいてくれた映像に、浮き上がったおぞましい真っ赤な瞳――――。

 全てを憎む、純粋な悪意を放っていたという。

(あれを、使役しているのは……)

 レオンの思考が、暗い方向へと向かっていく。

(超常の呪術を操る者など限られている。僕のスキルを破壊した連中と同じだろう)

 全てが繋がっているはずだ。自分の【運命鑑定】を破壊したのも、ゴブリンに寄生体を埋め込んだのも、シエルの父を操っているのも、全て同じ存在。

 闇組織――。

(一体、何が目的なのか……?)

 レオンは寝返りを打った。シーツが擦れる音。枕の感触。けれど、全く落ち着かない。

 目を閉じる。けれど、瞼の裏に浮かぶのは、あの憎悪に満ちた赤い瞳。

(スキルを破壊できて、寄生体も放てる……)

 レオンの額に、冷や汗が滲む。

(それほどの力を持つスキル保持者が、今、世界を狙っている……)

 その事実が、重くのしかかる。

 蒼き獅子騎士団と共に、その闇組織と対峙することになったが――――。

(勝てるのだろうか?)

 弱気が、頭をもたげる。

 蒼き獅子騎士団。王国最強の騎士団。三十人の精鋭。ギルバート団長の圧倒的な力。

 それでも、勝てるのか?

(もちろん、警備隊などの力も借りることにはなるだろう……)

 レオンは、指を折りながら考える。

 王都の警備隊。数百人の兵士。魔法使い。聖職者。全ての力を結集すれば。

 けれど――。

(公爵ですら、乗っ取られている……)

 その事実が、全てを暗くする。

 公爵が操られているなら、他にも操られている者がいるだろう。警備隊の隊長が。貴族が。役人が。誰が敵で、誰が味方か、分からない。

(どこまで、力は借りられるだろうか?)

 不安が、膨らんでいく。

(下手をしたら、逆に警備隊に捕縛されてしまうリスクだってある……)

 想像するだけで、背筋が凍る。

 闇組織が警備隊を掌握していたら。自分たちが反逆者として捕らえられ処刑される。そんな未来も、ありえるのだ。

「くっ!」

 レオンは奥歯をギリッと鳴らした。その音が、静寂の中で妙に大きく響く。

 そして、一番の懸念は相手も【運命鑑定】に似たような未来を見通せるスキルを持っているだろうことだ。どんなに隠れて密かに襲っても必ず勝てる手を打ってくる。【運命鑑定】がそうだったようにとてつもないチートなのだ。

 そんなの勝てる訳ない――――。

「くぅぅぅ……」

 拳を握る。爪が、手のひらに食い込む。痛い。けれど、その痛みで現実を感じる。

 もちろん、【運命鑑定】が成功を保証しなかったように、付け入るスキはあるのだろう。敵のスキルの意表を突く、運命を超えるほどの逆転の一手を放てば――――。

「無理じゃん……」

 どう考えても危険な賭けにしか見えない。

 レオンは目をぎゅっとつぶって寝返りを打った。

 闇組織は、倒さねばならない……。

 それは分かっている。放っておけば、世界が滅ぶかもしれない。多くの人が、犠牲になる。

(けれど……)

 レオンの脳裏に、四人の少女の顔が鮮明に浮かび上がった。

 エリナの凛とした横顔。ミーシャの優雅な微笑み。ルナの元気な笑顔。シエルの純粋な瞳。

 みんな、大切な仲間だ。かけがえのない、家族だ。

(四人を、危険にさらしてまで……やるべきことなのだろうか?)

 その問いが、胸を締め付ける。



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「ええ。あなた一人に格好つけさせるわけにはいきませんわ」
 ミーシャが微笑む。
「あたしたちの出番ね! 燃えてきたわ!」
 ルナが拳を握る。
「私も、全力で戦うわよ!」
 エリナが剣を鞘の中でガチャリと鳴らす。
 『アルカナ』のメンバーが顔を見合わせ、力強く頷いた。そしてギルバートと蒼き獅子騎士団も、深々と頭を下げる。
「我ら蒼き獅子騎士団、シエル様と『アルカナ』に、この剣を捧げます!」
 公園に騎士たちの声が響き渡る。青空の下、二つの勢力が一つになった。
 レオンはぐっとこぶしを握る。来るぞ、本当の戦いが――。
 運命に導かれ、僕たちはここに集まった。簡単ではないだろうが、この仲間たちがいればきっと道は開けるのだ。
 新たな戦いの幕が、今、上がろうとしていた。
      ◇
 その晩、レオンは寝付けずにいた。
 ベッドに横たわり、白い天井を見つめる。
 静かな夜だった。時計の音だけが、カチ、カチと規則正しく響いている。遠くで犬が吠える声。風が木々を揺らす音。全てが、平和な夜を物語っている。
 けれど、レオンの心は穏やかではなかった。
 胸の奥底で、何かが蠢いている。それは不安という名の、黒い影。それが、心を侵食していく。
 寄生体――。
 あの、おぞましい核。
 ミーシャが魔法で撮影しておいてくれた映像に、浮き上がったおぞましい真っ赤な瞳――――。
 全てを憎む、純粋な悪意を放っていたという。
(あれを、使役しているのは……)
 レオンの思考が、暗い方向へと向かっていく。
(超常の呪術を操る者など限られている。僕のスキルを破壊した連中と同じだろう)
 全てが繋がっているはずだ。自分の【運命鑑定】を破壊したのも、ゴブリンに寄生体を埋め込んだのも、シエルの父を操っているのも、全て同じ存在。
 闇組織――。
(一体、何が目的なのか……?)
 レオンは寝返りを打った。シーツが擦れる音。枕の感触。けれど、全く落ち着かない。
 目を閉じる。けれど、瞼の裏に浮かぶのは、あの憎悪に満ちた赤い瞳。
(スキルを破壊できて、寄生体も放てる……)
 レオンの額に、冷や汗が滲む。
(それほどの力を持つスキル保持者が、今、世界を狙っている……)
 その事実が、重くのしかかる。
 蒼き獅子騎士団と共に、その闇組織と対峙することになったが――――。
(勝てるのだろうか?)
 弱気が、頭をもたげる。
 蒼き獅子騎士団。王国最強の騎士団。三十人の精鋭。ギルバート団長の圧倒的な力。
 それでも、勝てるのか?
(もちろん、警備隊などの力も借りることにはなるだろう……)
 レオンは、指を折りながら考える。
 王都の警備隊。数百人の兵士。魔法使い。聖職者。全ての力を結集すれば。
 けれど――。
(公爵ですら、乗っ取られている……)
 その事実が、全てを暗くする。
 公爵が操られているなら、他にも操られている者がいるだろう。警備隊の隊長が。貴族が。役人が。誰が敵で、誰が味方か、分からない。
(どこまで、力は借りられるだろうか?)
 不安が、膨らんでいく。
(下手をしたら、逆に警備隊に捕縛されてしまうリスクだってある……)
 想像するだけで、背筋が凍る。
 闇組織が警備隊を掌握していたら。自分たちが反逆者として捕らえられ処刑される。そんな未来も、ありえるのだ。
「くっ!」
 レオンは奥歯をギリッと鳴らした。その音が、静寂の中で妙に大きく響く。
 そして、一番の懸念は相手も【運命鑑定】に似たような未来を見通せるスキルを持っているだろうことだ。どんなに隠れて密かに襲っても必ず勝てる手を打ってくる。【運命鑑定】がそうだったようにとてつもないチートなのだ。
 そんなの勝てる訳ない――――。
「くぅぅぅ……」
 拳を握る。爪が、手のひらに食い込む。痛い。けれど、その痛みで現実を感じる。
 もちろん、【運命鑑定】が成功を保証しなかったように、付け入るスキはあるのだろう。敵のスキルの意表を突く、運命を超えるほどの逆転の一手を放てば――――。
「無理じゃん……」
 どう考えても危険な賭けにしか見えない。
 レオンは目をぎゅっとつぶって寝返りを打った。
 闇組織は、倒さねばならない……。
 それは分かっている。放っておけば、世界が滅ぶかもしれない。多くの人が、犠牲になる。
(けれど……)
 レオンの脳裏に、四人の少女の顔が鮮明に浮かび上がった。
 エリナの凛とした横顔。ミーシャの優雅な微笑み。ルナの元気な笑顔。シエルの純粋な瞳。
 みんな、大切な仲間だ。かけがえのない、家族だ。
(四人を、危険にさらしてまで……やるべきことなのだろうか?)
 その問いが、胸を締め付ける。