キィィ キィィ
「いらっしゃいませ、お客様。お探しのものは何でしょうか」
ーー地方都市の片隅、住宅街の一角。
キーボードを叩く音だけが、夜の静寂の中に響く。
健太は運営するオカルトサイト「冥界リポート」の更新作業中だった。
怪談は、真実の追究よりも楽しむもの。
それが彼の日常だった。
モニターに浮かぶ、依頼メッセージを見つめる。送信者の名前は、リミナル・モール。
「⋯⋯廃墟で一晩、か。王道すぎるかなー」
動画配信のネタ探しに煮詰まった健太にとっては、悪くない企画だった。
ターゲットは、街の郊外にある巨大ショッピングセンター――メビウス・ゲート。
かつてはランドマークと称されたが、今はただの廃墟になっている。
壁にはひびが入り、ガラス窓は煤け、テナントはほとんど撤退していた。
残っているのは、建物外にあるコンビニくらい。都市伝説として語られる「呪われた商業施設」という噂も、この街では有名だ。
足元で「ニャア」と高い声。
チロだ。
長いしっぽを揺らし、健太の足に頭を擦りつける。
「行ってくるよ。すぐ戻るからな」
チロは喉を鳴らし、体を預ける。
その柔らかさが、これから踏み込む異界の恐怖をわずかに遠ざけてくれた。
リュックを背負い歩く健太の背後で、車のヘッドライトが夜を切り裂く。
メビウス・ゲートの巨大な影が闇に沈む。
深夜零時、警備員の気配はない。健太は裏手の搬入口から身を低くして滑り込んだ。