118. 三位一体

ー/ー



「レオン! シエル!」

 ルナの声が響いた。

「無事!?」

「ああ! 助かった!」

 レオンが木の上から叫んだ。その声には、安堵と感謝が込められていた。

 『アルカナ』のメンバーがついに集結する。五人の絆が、今ここに試されようとしていた。

「みんな……」

 シエルの目から涙が溢れた。仲間が来てくれた。自分を助けるために、危険を冒してまで駆けつけてくれたのだ。その事実が、シエルの心を熱くした。

「ありがとう……みんな……」


      ◇


 エリナとギルバートの剣がせめぎ合う。ガキィン、ガキィンと金属音が響き渡る。ルナの炎がうねり、ミーシャの魔法が光る。騎士たちと『アルカナ』の激突。公園全体が戦場と化していた。

 その静寂を破ったのは、凛として、しかしどこか震える少女の声だった。

「そこまでです、皆さん!」

 全員の視線が声の主へと集まる。木の枝から軽やかに舞い降りたシエルが、ギルバートの前に進み出て、かつての師と、そして己の過去と、まっすぐに向き合った。

「ギルバート先生。この戦いを終わらせましょう」

 彼女の碧眼には、もう怯えの色はない。その瞳には、燃えるような決意の炎が宿っていた。

「ボクと、あなたの一騎打ちにしましょう。ボクが勝てば、あなたは騎士団を率いて王都へ帰る。ボクが負ければ、あなたの言う通り、アステリア家へ戻りましょう」

「お嬢様……!」

 ギルバートが驚きに目を見開く。それはあまりにも自分に有利な賭け。王国最強と謳われる剣士に、弓手が一騎打ちを挑むなど――。

 しかしシエルの瞳には、強い意志が宿っていた。

「シエル! 何言ってるの? 私たちは家族だろう! 一人で背負い込むな!」

 エリナが叫んだ。

「そうよ! あたしたちは負けないわ!」

 ルナが前に出ようとする。けれどシエルは首を横に振った。

「ありがとう、みんな。でも、これはボクの戦いなの」

 その声は穏やかだった。けれど揺るぎない強さがあった。

「ボクが逃げ出したことで、この戦いは始まった。だから、ボクが終わらせる。それに……」

 シエルは、ギルバートを見た。

「先生は、ボクの大切な人だから。ボクが直接戦いで語り合いたいの」

 その言葉に、ギルバートの表情が揺れた。

「お嬢様……。分かりました。でも……手加減は……しませんよ?」

 ギルバートはブワっと覇気を全身から噴き出した。

 本気だ――。

 シエルは思わず覇気に飲み込まれそうになって、キュッと口を結ぶ。

 それを見たレオンはポンとシエルの肩に手を置くと、そっと囁いた。

「かつて見た未来のアルカナは五人だった。自信をもって練習の成果を見せればいい……」

 その言葉にシエルの瞳に力が戻ってくる。

 力強く頷いたシエルに、レオンはグッとサムアップして見せると、仲間たちを引き揚げさせた――――。

「本当に、大丈夫なの?」

 エリナが不安そうにレオンを見る。

「ああ」

 レオンはピンと伸びたシエルの背中を見つめながら答えた。

「あいつは、もう弱くない。信じてやろう」


       ◇


 公園の中央で、二人だけが対峙する。元師弟の、あまりにも物悲しい決闘。周囲の騎士たちも『アルカナ』のメンバーも、固唾を呑んで見守っている。

 風が吹く。シエルの銀髪が陽を浴びて輝いた。

 ギルバートは大剣を構える。その顔には、複雑な感情が浮かんでいた。

「お嬢様……参ります……」

 その声には、悲しみと、そして敬意が込められていた。

「お願いします、先生」

 シエルが弓を構え、矢を番える。その手は、もう震えていない。

 静寂――――。

 木の葉が揺れる音。遠くで鳥が鳴く声。そして、二人の呼吸。

 先に動いたのは、ギルバートだった。

「お覚悟を!」

 大地を蹴る音は一度。しかしその姿は残像を残し、一気にシエルの懐へと迫る。王国最強と謳われる剣士の、常人では目で追うことすら不可能な神速の踏み込み。地面が抉れ、砂埃が舞い上がる。

 みんな息を呑む。弓手は接近戦に弱い。懐に入られた時点で勝負は決まる。誰もがそう思った。

 だが、シエルは動じない。その瞳は冷静そのもの。まるで時間がゆっくり流れているかのように、ギルバートの動きを捉えている。

三位一体(トリニティ)!」

 彼女の手元で、三本の矢が同時に放たれる。一本はギルバートの眉間へ、もう一本は心臓へ。そして最後の一本は、まるで狙いを外したかのように、高く、高く、青空へと舞い上がった。

 三つの軌跡が、陽を浴びて光跡を描く――――。

「甘い!」

 ギルバートは迫りくる二本の矢を、まるで水面を撫でるかのように最小限の動きで、しかし完璧に斬り落とした。カン、カンと軽快な音が響き、矢は地面に落ちる。

(見事な腕だ、お嬢様。だが、弓兵が剣士に懐へ入られた時点で勝負は決した!)

 ギルバートは弓を斬り払おうと振りかぶり――。

「セイヤッ!」

 大剣が振り下ろされる。その速度は、まさに神速。避けることなど不可能。

 その瞬間――ヒュッ、と首筋に感じた、カミソリのような冷たい風――――。



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「レオン! シエル!」
 ルナの声が響いた。
「無事!?」
「ああ! 助かった!」
 レオンが木の上から叫んだ。その声には、安堵と感謝が込められていた。
 『アルカナ』のメンバーがついに集結する。五人の絆が、今ここに試されようとしていた。
「みんな……」
 シエルの目から涙が溢れた。仲間が来てくれた。自分を助けるために、危険を冒してまで駆けつけてくれたのだ。その事実が、シエルの心を熱くした。
「ありがとう……みんな……」
      ◇
 エリナとギルバートの剣がせめぎ合う。ガキィン、ガキィンと金属音が響き渡る。ルナの炎がうねり、ミーシャの魔法が光る。騎士たちと『アルカナ』の激突。公園全体が戦場と化していた。
 その静寂を破ったのは、凛として、しかしどこか震える少女の声だった。
「そこまでです、皆さん!」
 全員の視線が声の主へと集まる。木の枝から軽やかに舞い降りたシエルが、ギルバートの前に進み出て、かつての師と、そして己の過去と、まっすぐに向き合った。
「ギルバート先生。この戦いを終わらせましょう」
 彼女の碧眼には、もう怯えの色はない。その瞳には、燃えるような決意の炎が宿っていた。
「ボクと、あなたの一騎打ちにしましょう。ボクが勝てば、あなたは騎士団を率いて王都へ帰る。ボクが負ければ、あなたの言う通り、アステリア家へ戻りましょう」
「お嬢様……!」
 ギルバートが驚きに目を見開く。それはあまりにも自分に有利な賭け。王国最強と謳われる剣士に、弓手が一騎打ちを挑むなど――。
 しかしシエルの瞳には、強い意志が宿っていた。
「シエル! 何言ってるの? 私たちは家族だろう! 一人で背負い込むな!」
 エリナが叫んだ。
「そうよ! あたしたちは負けないわ!」
 ルナが前に出ようとする。けれどシエルは首を横に振った。
「ありがとう、みんな。でも、これはボクの戦いなの」
 その声は穏やかだった。けれど揺るぎない強さがあった。
「ボクが逃げ出したことで、この戦いは始まった。だから、ボクが終わらせる。それに……」
 シエルは、ギルバートを見た。
「先生は、ボクの大切な人だから。ボクが直接戦いで語り合いたいの」
 その言葉に、ギルバートの表情が揺れた。
「お嬢様……。分かりました。でも……手加減は……しませんよ?」
 ギルバートはブワっと覇気を全身から噴き出した。
 本気だ――。
 シエルは思わず覇気に飲み込まれそうになって、キュッと口を結ぶ。
 それを見たレオンはポンとシエルの肩に手を置くと、そっと囁いた。
「かつて見た未来のアルカナは五人だった。自信をもって練習の成果を見せればいい……」
 その言葉にシエルの瞳に力が戻ってくる。
 力強く頷いたシエルに、レオンはグッとサムアップして見せると、仲間たちを引き揚げさせた――――。
「本当に、大丈夫なの?」
 エリナが不安そうにレオンを見る。
「ああ」
 レオンはピンと伸びたシエルの背中を見つめながら答えた。
「あいつは、もう弱くない。信じてやろう」
       ◇
 公園の中央で、二人だけが対峙する。元師弟の、あまりにも物悲しい決闘。周囲の騎士たちも『アルカナ』のメンバーも、固唾を呑んで見守っている。
 風が吹く。シエルの銀髪が陽を浴びて輝いた。
 ギルバートは大剣を構える。その顔には、複雑な感情が浮かんでいた。
「お嬢様……参ります……」
 その声には、悲しみと、そして敬意が込められていた。
「お願いします、先生」
 シエルが弓を構え、矢を番える。その手は、もう震えていない。
 静寂――――。
 木の葉が揺れる音。遠くで鳥が鳴く声。そして、二人の呼吸。
 先に動いたのは、ギルバートだった。
「お覚悟を!」
 大地を蹴る音は一度。しかしその姿は残像を残し、一気にシエルの懐へと迫る。王国最強と謳われる剣士の、常人では目で追うことすら不可能な神速の踏み込み。地面が抉れ、砂埃が舞い上がる。
 みんな息を呑む。弓手は接近戦に弱い。懐に入られた時点で勝負は決まる。誰もがそう思った。
 だが、シエルは動じない。その瞳は冷静そのもの。まるで時間がゆっくり流れているかのように、ギルバートの動きを捉えている。
「|三位一体《トリニティ》!」
 彼女の手元で、三本の矢が同時に放たれる。一本はギルバートの眉間へ、もう一本は心臓へ。そして最後の一本は、まるで狙いを外したかのように、高く、高く、青空へと舞い上がった。
 三つの軌跡が、陽を浴びて光跡を描く――――。
「甘い!」
 ギルバートは迫りくる二本の矢を、まるで水面を撫でるかのように最小限の動きで、しかし完璧に斬り落とした。カン、カンと軽快な音が響き、矢は地面に落ちる。
(見事な腕だ、お嬢様。だが、弓兵が剣士に懐へ入られた時点で勝負は決した!)
 ギルバートは弓を斬り払おうと振りかぶり――。
「セイヤッ!」
 大剣が振り下ろされる。その速度は、まさに神速。避けることなど不可能。
 その瞬間――ヒュッ、と首筋に感じた、カミソリのような冷たい風――――。