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女同士は結婚できません

ー/ー



 二年の皇子じゃない方が、一年の王子にキスしたニュースは、放課後までに知らないものがいないほどに広まった。
 無論写真付きで。

 そうとは知らない紅緒はその放課後、嵐が去った後のような教室にひろよちんと二人きりで残っていた。
「ひろよちん、みんな帰っちゃったね。なんか、置いてけぼり食らったみたい」
 ひろよちんがスマホをいじりながら、いたずらっぽく笑っている。
 いつもは無表情のひろよちんだが、紅緒といるときはたいてい笑顔だ。
 だから男子がひろよちんを指して『アイスドール』と呼ぶ意味が、紅緒には分からない。
 美人という意味なら、まぁ分からないでもないが。

「私らに聞こえないところで、話がしたいんじゃない? いろいろと」
 間を置いて、紅緒のスマホの通知音が鳴る。
「すごい恥ずい写真が来たんだけど」
 紅緒がこれ以上ないくらい眉間にシワを寄せ、スマホとひろよちんの顔を見比べる。

「あ、見た? 皇子先輩、シャットアウトしてくれてたんだけどさ。身内に裏切られたら敵わんよな」
 そう言ってひろよちんは自分のスマホを、机に腰掛けた紅緒へ見せる。
「うわっ」
 今届いたのと同じ画像、ズームで撮られたらしいサロンパスと自分の写真を見て思わず声が出る。
「何、私だけクラスLINEからはぶられてたの」
「ちがうちがう、よく見て」

 ひろよちんがくすくす笑って言う。
 指先で画面をタップし、LINEを開いて発信元を見せた。
 その時、サロンパスとひろよちんの握手の写真がサッと見えた。
「うう、おのれ、いっちゃんめ。遠くから見てやがったな。どうしてくれよう」
「あー、でもスッキリしたわ」
「へ?」
 スマホを閉じ、ひろよちんが両手を上げて1つ伸びをする。
 
「べーちゃんに告られたし」
「照れるなぁ。ひろよちんは昔っから私の女神様なのに、先に言われちゃったよ」
 うれしいっ、とひろよちんが笑いながら紅緒の脇をつつく。
 反射で身体を折り曲げた紅緒は、飛び切りの笑顔だ。

「そうだよね。わたしら、幼稚園でお互い一目惚れしたんだもんね」
「そうだよぉ。思わず抱きつくくらい、べーちゃんはカッコよかったのよ。今もだけど」
「わたしはひろよちん見た時、こんな可愛い子初めて見たって思ったよ」
 そこでまた二人は、声に出して笑う。

「それで、わたしがお嫁さんになってって言ったら」
 と紅緒。
「女の子同士は結婚できません」
 と、ひろよちんがすまして答える。
「そう先生に言われたのよねぇ」
 続けて悲し気に泣きまねをして、
「泣いたわ~。だって()()()()()が女の子だったんだもん」
 それを聞いた紅緒が机から降り、椅子に座っている博代を背中から抱きしめた。
「ありがとうひろよちん。女の子だと分かっても好きでいてくれて」
「だって、べーちゃんは私の憧れの王子様だから」
 そう言って、両手を紅緒の手に重ねた。

「好きだっていうの、我慢してた。だって、編に意識されて避けられたら哀しいもん。口も利いてくれなくなったらって考えたらさ、怖くてさ。わざわざ言うこと無いじゃないって思ってた」
「そんなことないよ」
 紅緒が体を離し、床にぺたんと腰を落とした。
 博代は机に頬杖をつき、紅緒をみる。

「ねぇ」
 ひろよちんが左右を確認し、紅緒を手招きする。
「ん?」
 顔を近づけた紅緒に、そっと耳打ちした。
「べーちゃん、困らせてごめんね。これからもずっと憧れの王子様でいてね」
「ひろよちん、かわいい~っ。背の低い王子でごめんよぉ」
 そう言って、両手を伸ばし膝立ちで大げさにもう一度抱きしめる。
「気にしてなーい。こっちこそ、デカい女神でごめんよ~」
 ひろよちんも負けずに抱き返し、頬をくっつけてきた。
「あ、皇子じゃない方にはナイショだね」
 快活に笑うと、ひろよちんは行こっかと言って紅緒を立ち上がらせた。

「それとも、バスケ部の練習行く?」
「ひろよちんが行きたいなら。浜ちゃんも、きっと走ってるし、ね」

 紅緒とひろよちんは、昔からのバスケ仲間だ。
 ミニバスからの仲間で、一緒に10年近くやって来た。
 しかし、哀しいことに男女共学になってまだ日が浅いこの高校に、女子バスケ部は無い。
 しかし実力を知ってる中学の先輩のおかげで、紅緒たちはたまに男子バスケ部の練習に参加させてもらっていた。
 こんな日は体を動かすのが一番だ、ということで下だけジャージに着替えて二人は校庭へ出た。

 校庭の二百メートルトラックの向こう側、バスケットコートでは部員が集まって来ていた。
 グランドを横切る時、浜ちゃんが反対側のコーナーを回っているのが見えた。
 彼女は陸上部のエースで二百、四百、そして八百の選手だ。
 新人戦では既に記録を期待されている。

「走ってる走ってる。さすが走り屋、早いねぇ」
 紅緒が手をかざして浜ちゃんを見た。
 あっという間に紅緒たちの前に来る。
 差し出した紅緒とひろよちんの左手を連続でハイタッチし、走り去った。

 バスケット部のエリアに入ると、直樹がちょうどシュートを決めたところだった。
 スリーポイントの精度を上げるのが、今季の目標らしい。

「ナイッシュー」
「よぉ」
 紅緒たちに気づき、直樹がゴールポスト下で自分が投げたボールを捕まえ、一度バウンドさせて紅緒に投げてよこす。
 容赦ない速度だ。
 
「久々にやる? 今日顧問いないし」
 それを受けて、紅緒がひろよちんへパスした。
「いーよ。ひろよちんも入るよ」
 よし、と直樹が相方の田中に合図を送った。 


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 二年の皇子じゃない方が、一年の王子にキスしたニュースは、放課後までに知らないものがいないほどに広まった。
 無論写真付きで。
 そうとは知らない紅緒はその放課後、嵐が去った後のような教室にひろよちんと二人きりで残っていた。
「ひろよちん、みんな帰っちゃったね。なんか、置いてけぼり食らったみたい」
 ひろよちんがスマホをいじりながら、いたずらっぽく笑っている。
 いつもは無表情のひろよちんだが、紅緒といるときはたいてい笑顔だ。
 だから男子がひろよちんを指して『アイスドール』と呼ぶ意味が、紅緒には分からない。
 美人という意味なら、まぁ分からないでもないが。
「私らに聞こえないところで、話がしたいんじゃない? いろいろと」
 間を置いて、紅緒のスマホの通知音が鳴る。
「すごい恥ずい写真が来たんだけど」
 紅緒がこれ以上ないくらい眉間にシワを寄せ、スマホとひろよちんの顔を見比べる。
「あ、見た? 皇子先輩、シャットアウトしてくれてたんだけどさ。身内に裏切られたら敵わんよな」
 そう言ってひろよちんは自分のスマホを、机に腰掛けた紅緒へ見せる。
「うわっ」
 今届いたのと同じ画像、ズームで撮られたらしいサロンパスと自分の写真を見て思わず声が出る。
「何、私だけクラスLINEからはぶられてたの」
「ちがうちがう、よく見て」
 ひろよちんがくすくす笑って言う。
 指先で画面をタップし、LINEを開いて発信元を見せた。
 その時、サロンパスとひろよちんの握手の写真がサッと見えた。
「うう、おのれ、いっちゃんめ。遠くから見てやがったな。どうしてくれよう」
「あー、でもスッキリしたわ」
「へ?」
 スマホを閉じ、ひろよちんが両手を上げて1つ伸びをする。
「べーちゃんに告られたし」
「照れるなぁ。ひろよちんは昔っから私の女神様なのに、先に言われちゃったよ」
 うれしいっ、とひろよちんが笑いながら紅緒の脇をつつく。
 反射で身体を折り曲げた紅緒は、飛び切りの笑顔だ。
「そうだよね。わたしら、幼稚園でお互い一目惚れしたんだもんね」
「そうだよぉ。思わず抱きつくくらい、べーちゃんはカッコよかったのよ。今もだけど」
「わたしはひろよちん見た時、こんな可愛い子初めて見たって思ったよ」
 そこでまた二人は、声に出して笑う。
「それで、わたしがお嫁さんになってって言ったら」
 と紅緒。
「女の子同士は結婚できません」
 と、ひろよちんがすまして答える。
「そう先生に言われたのよねぇ」
 続けて悲し気に泣きまねをして、
「泣いたわ~。だって|ベ《・》|ニ《・》|オ《・》|く《・》|ん《・》が女の子だったんだもん」
 それを聞いた紅緒が机から降り、椅子に座っている博代を背中から抱きしめた。
「ありがとうひろよちん。女の子だと分かっても好きでいてくれて」
「だって、べーちゃんは私の憧れの王子様だから」
 そう言って、両手を紅緒の手に重ねた。
「好きだっていうの、我慢してた。だって、編に意識されて避けられたら哀しいもん。口も利いてくれなくなったらって考えたらさ、怖くてさ。わざわざ言うこと無いじゃないって思ってた」
「そんなことないよ」
 紅緒が体を離し、床にぺたんと腰を落とした。
 博代は机に頬杖をつき、紅緒をみる。
「ねぇ」
 ひろよちんが左右を確認し、紅緒を手招きする。
「ん?」
 顔を近づけた紅緒に、そっと耳打ちした。
「べーちゃん、困らせてごめんね。これからもずっと憧れの王子様でいてね」
「ひろよちん、かわいい~っ。背の低い王子でごめんよぉ」
 そう言って、両手を伸ばし膝立ちで大げさにもう一度抱きしめる。
「気にしてなーい。こっちこそ、デカい女神でごめんよ~」
 ひろよちんも負けずに抱き返し、頬をくっつけてきた。
「あ、皇子じゃない方にはナイショだね」
 快活に笑うと、ひろよちんは行こっかと言って紅緒を立ち上がらせた。
「それとも、バスケ部の練習行く?」
「ひろよちんが行きたいなら。浜ちゃんも、きっと走ってるし、ね」
 紅緒とひろよちんは、昔からのバスケ仲間だ。
 ミニバスからの仲間で、一緒に10年近くやって来た。
 しかし、哀しいことに男女共学になってまだ日が浅いこの高校に、女子バスケ部は無い。
 しかし実力を知ってる中学の先輩のおかげで、紅緒たちはたまに男子バスケ部の練習に参加させてもらっていた。
 こんな日は体を動かすのが一番だ、ということで下だけジャージに着替えて二人は校庭へ出た。
 校庭の二百メートルトラックの向こう側、バスケットコートでは部員が集まって来ていた。
 グランドを横切る時、浜ちゃんが反対側のコーナーを回っているのが見えた。
 彼女は陸上部のエースで二百、四百、そして八百の選手だ。
 新人戦では既に記録を期待されている。
「走ってる走ってる。さすが走り屋、早いねぇ」
 紅緒が手をかざして浜ちゃんを見た。
 あっという間に紅緒たちの前に来る。
 差し出した紅緒とひろよちんの左手を連続でハイタッチし、走り去った。
 バスケット部のエリアに入ると、直樹がちょうどシュートを決めたところだった。
 スリーポイントの精度を上げるのが、今季の目標らしい。
「ナイッシュー」
「よぉ」
 紅緒たちに気づき、直樹がゴールポスト下で自分が投げたボールを捕まえ、一度バウンドさせて紅緒に投げてよこす。
 容赦ない速度だ。
「久々にやる? 今日顧問いないし」
 それを受けて、紅緒がひろよちんへパスした。
「いーよ。ひろよちんも入るよ」
 よし、と直樹が相方の田中に合図を送った。