第111話 族長のプライド
ー/ー
何が起きたのかを簡単に説明すると、だ。
アレフヘイムの里の周辺で逃げ回っていたノイデスは、一旦距離を置こうと森の方に逃げていったらしいのだが、運悪くそこはトロールの寝床。
おかげでトロールは目覚めてしまい、ノイデスはトンボ返り。あえなくしてアレフヘイムの里は怒ったトロールの襲撃に遭いましたとさ。
それだけでも状況は最悪だったのだが、外に惹きつけていたエルフの連中も丸ごと飛び込んできたものだから、我らはまとめて御用となり、エルフの収容所へと連行されるのであった……とほほ。
「貴様らの処罰は、族長さまが直々に判断する。それまでは大人しくしていろ!」
そういってエルフの看守が扉を閉める。これで外界から隔離されてしまった。
よもやこの我が檻の中とはな。悲しすぎる。
木造建築の建物の中に、木製の檻が外に突き出しているような構造をしており、なんだか檻は檻でも動物か何かを入れるケージのデカい奴みたいだ。
しかし、強度は材質的なものもあるが、魔法によって強化もされており、さらには防音やら視覚阻害まで施されている。
要は壊せないし、助けも呼べないし、外の様子も見られないということだ。
ぐぬぬ……、すぐ近くにミモザがいるかもしれんというのに、何も分からぬというのが悔しい。見た目だけなら木でできた隙間だらけの檻なんて蹴り飛ばせばどうとでもなりそうなのに、外の景色すら見えないとか歯痒くて仕方ない。
だが、悲しいかな、今の我にできることは何もないのだった。
※ ※ ※
「おい、起きろ。族長さまからのお呼び出しだ」
「んにゃ……?」
恐ろしく寝心地の悪い木製ベッドでようやく眠りに就けたかと思えば、いきなりドアをババンと開かれ、看守エルフに起こされる。
気分としては最悪なことこの上ない寝起きだったが、族長と話ができるのなら、ある意味で最後のチャンスといってもいいだろう。我の首を捧げてでもミモザの処刑を取り止めさせられるのならそれ以上に望むものなどない。
そもそも話の通じるような相手とは到底思えないが、いずれにせよ、どうにもならないのなら極刑も避けられないのだから最初から捨て身覚悟だ。
里にトロールぶち込んでおいて無罪放免もないだろうしな。
「さあ、ここだ。族長さまに粗相のないようにな」
物凄いキッツイ顔で睨まれたけど、現状以上に粗相があるのだろうか。
里に侵入して大暴れしてトロールで里壊しちゃってるし。
もう殺される覚悟で、我は案内されるがまま、その部屋へと入った。
ここは執務室だろうか。
とりあえず処刑台じゃなくてホッとしたが、なんともはや重々しい空気だ。
大きいデスクの向こうに、太陽に照らされる小麦の如く輝きを持った長い髪の女性が座っているのが見えた。あの偉そうな雰囲気からして族長なのだろう。
よくは分からんが、この施設の管理もしていたのか。
「来たか……」
族長らしき女エルフがこちらに向き直る。現状からしてこれ以上の驚きもないはずだったが、我はそこで驚いてしまった。何故って、そこに座っている女は、ミモザによく似ていたから。
正確には違う。ミモザよりも、そしてミモザの姉を自称するカシアよりも、さらに年上の、大人びた女だ。怒りを堪えているのか、かなり鋭い目つきをしている。
「この里には法律などというものは存在しない。何故ならこのワタシがルールだからだ。よって、お前さんらに侵入したことについても、里を破壊したことについても問う罪などはありはしない。全ては、このワタシの裁量によって決められる」
椅子から立ち上がったかと思えば、ズンズンズンと、長身のエルフが我に迫ってきた。なんという威圧感だろう。謝っても許さないぞオーラが半端ない。
「ワタシの名はプディカ。この里の族長を務めている。お前さんのことは、よぉぉぉく聞いているぞ、フィー」
は、はあ、それは光栄なことで。
パエデロスでの噂もこんなエルフの里にまで届いていたのか?
「ここまでわざわざご足労だったな。やはりお前さんの目的はミモザか?」
「ああ、その通りだ。処刑だか処罰だかは知らぬが、解放してくれないか? 我にできることなら何でもする。財産でもこの首でも全部捧げる!」
ギロッと睨まれた。しゅごい怖い……。
「……フィー。お前さんはアイツのなんだ?」
「親友だ。唯一無二の親友だ!」
「んなこたぁ分かってんだよぉっ!!」
「ひぇっ?!」
めっちゃ吼えられた。我泣きそう……。
「折角手がかりになりそうなものも回収しておいたのに、よくもま~、ここまで辿り着いたもんだよ。感心しちまうね~」
「は? 手がかり?」
そういってプディカが無言で何かを差し出してきた。どうやらそれは開封済みの封筒のようだった。中には手紙も入っている。これは読めということだろうか。
断るとまた怒鳴られそうだったからとりあえず受け取って中身を見てみる。
するとなんだこれは。とんでもなく汚い字で書かれていた。ひょっとしなくても、これはミモザの書いた字か。文字が潰れて読めない箇所も多いが――
『フィーさん へ わたし ちょっとようじが あるますの で じっかに かえります アレフヘイムのもり です きゅうに ごめんなさい おみせを しばらくを とじる おもって みなさんにも ごめんなさい たいせつな ようじ です ほんとうです ごめんなさい』
こんな文章が三枚綴りくらい続いている。凄い文章量だ。
そうか、ミモザもちゃんと書き置きは残しておいてくれたのか。それだけでも心の何処かのとっかかりが外れたようだ。
国語力ゼロかよ、と思ったけど、そもそもミモザはエルフの文字しか知らなかったはずだから、これでも一所懸命分かるよう頑張って書いたのだろう。それにしても汚くて読みづらいという点は否定できないが。
なんとか読み進めて、ようやく最後の一文まで辿り着く。
『おかーさん を おこらないで』
これはどういう意味だろう。支離滅裂な文章の締めで尚のこと支離滅裂だが、全く無意味な文章というわけでもないはずだ。
「まったく、わが娘ながら呆れちまうよ」
「え? 今、なんと……?」
とんでもなく衝撃的なことを口走らなかったか? アレフヘイムの族長は、ミモザの手紙を指して、わが娘と言ったのか? それはつまりどういうことだ? ひょっとして、もしかして、ミモザが自分の娘だという意味を持つということ?
「お、お、おかあさん……」
「誰がお前さんのお母さんだい!」
ひぃっ! 顔は似てるけど、ミモザと性格が全然違いすぎるじゃないか!
「フィー。お前さんはうちの娘と、ずぅ~いぶんと仲良くしてもらってくれちゃったりしてたみたいだね~?」
「あ、はいっ! 娘様とはいつも仲良くさせていただいております!」
「なんだい、急にかしこまりやがって」
まさかミモザの母がアレフヘイムの族長をやっているなんて、聞いてなかったぞ。
だったら尚更なんでなんだ。里から追放したり、連れ戻して処刑したり。それが実の娘にすることなのか?
「お前さんが言いたいことは分かるさ。なんで実の娘に酷い仕打ちばかり、ってな。あれは仮にもワタシの……族長の娘なんだ。それ相応の体面ってものがあるのさ」
「確かにミモザは潜在魔力を持たない。エルフとして、族長の娘として、立場がないかもしれない。だからといって、娘が積み上げてきたものまで奪うなんて、それは横暴すぎるんじゃないのか?」
ギロリ、とまた強く睨まれてしまった。
「部外者が好き勝手にほざくな。娘をどうしようとワタシの勝手だ」
なんて頭の固い奴だ。
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おかげでトロールは目覚めてしまい、ノイデスはトンボ返り。あえなくしてアレフヘイムの里は怒ったトロールの襲撃に遭いましたとさ。
それだけでも状況は最悪だったのだが、外に惹きつけていたエルフの連中も丸ごと飛び込んできたものだから、我らはまとめて御用となり、エルフの収容所へと連行されるのであった……とほほ。
「貴様らの処罰は、族長さまが直々に判断する。それまでは大人しくしていろ!」
そういってエルフの看守が扉を閉める。これで外界から隔離されてしまった。
よもやこの我が檻の中とはな。悲しすぎる。
木造建築の建物の中に、木製の檻が外に突き出しているような構造をしており、なんだか檻は檻でも動物か何かを入れるケージのデカい奴みたいだ。
しかし、強度は材質的なものもあるが、魔法によって強化もされており、さらには防音やら視覚阻害まで施されている。
要は壊せないし、助けも呼べないし、外の様子も見られないということだ。
ぐぬぬ……、すぐ近くにミモザがいるかもしれんというのに、何も分からぬというのが悔しい。見た目だけなら木でできた隙間だらけの檻なんて蹴り飛ばせばどうとでもなりそうなのに、外の景色すら見えないとか歯痒くて仕方ない。
だが、悲しいかな、今の我にできることは何もないのだった。
※ ※ ※
「おい、起きろ。族長さまからのお呼び出しだ」
「んにゃ……?」
恐ろしく寝心地の悪い木製ベッドでようやく眠りに就けたかと思えば、いきなりドアをババンと開かれ、看守エルフに起こされる。
気分としては最悪なことこの上ない寝起きだったが、族長と話ができるのなら、ある意味で最後のチャンスといってもいいだろう。我の首を捧げてでもミモザの処刑を取り止めさせられるのならそれ以上に望むものなどない。
そもそも話の通じるような相手とは到底思えないが、いずれにせよ、どうにもならないのなら極刑も避けられないのだから最初から捨て身覚悟だ。
里にトロールぶち込んでおいて無罪放免もないだろうしな。
「さあ、ここだ。族長さまに粗相のないようにな」
物凄いキッツイ顔で睨まれたけど、現状以上に粗相があるのだろうか。
里に侵入して大暴れしてトロールで里壊しちゃってるし。
もう殺される覚悟で、我は案内されるがまま、その部屋へと入った。
ここは執務室だろうか。
とりあえず処刑台じゃなくてホッとしたが、なんともはや重々しい空気だ。
大きいデスクの向こうに、太陽に照らされる小麦の如く輝きを持った長い髪の女性が座っているのが見えた。あの偉そうな雰囲気からして族長なのだろう。
よくは分からんが、この施設の管理もしていたのか。
「来たか……」
族長らしき女エルフがこちらに向き直る。現状からしてこれ以上の驚きもないはずだったが、我はそこで驚いてしまった。何故って、そこに座っている女は、ミモザによく似ていたから。
正確には違う。ミモザよりも、そしてミモザの姉を自称するカシアよりも、さらに年上の、大人びた女だ。怒りを堪えているのか、かなり鋭い目つきをしている。
「この里には法律などというものは存在しない。何故ならこのワタシがルールだからだ。よって、お前さんらに侵入したことについても、里を破壊したことについても問う罪などはありはしない。全ては、このワタシの裁量によって決められる」
椅子から立ち上がったかと思えば、ズンズンズンと、長身のエルフが我に迫ってきた。なんという威圧感だろう。謝っても許さないぞオーラが半端ない。
「ワタシの名はプディカ。この里の族長を務めている。お前さんのことは、よぉぉぉく聞いているぞ、フィー」
は、はあ、それは光栄なことで。
パエデロスでの噂もこんなエルフの里にまで届いていたのか?
「ここまでわざわざご足労だったな。やはりお前さんの目的はミモザか?」
「ああ、その通りだ。処刑だか処罰だかは知らぬが、解放してくれないか? 我にできることなら何でもする。財産でもこの首でも全部捧げる!」
ギロッと睨まれた。しゅごい怖い……。
「……フィー。お前さんはアイツのなんだ?」
「親友だ。唯一無二の親友だ!」
「んなこたぁ分かってんだよぉっ!!」
「ひぇっ?!」
めっちゃ吼えられた。我泣きそう……。
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これはどういう意味だろう。支離滅裂な文章の締めで尚のこと支離滅裂だが、全く無意味な文章というわけでもないはずだ。
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「え? 今、なんと……?」
とんでもなく衝撃的なことを口走らなかったか? アレフヘイムの族長は、ミモザの手紙を指して、わが娘と言ったのか? それはつまりどういうことだ? ひょっとして、もしかして、ミモザが自分の娘だという意味を持つということ?
「お、お、おかあさん……」
「誰がお前さんのお母さんだい!」
ひぃっ! 顔は似てるけど、ミモザと性格が全然違いすぎるじゃないか!
「フィー。お前さんはうちの娘と、ずぅ~いぶんと仲良くしてもらってくれちゃったりしてたみたいだね~?」
「あ、はいっ! 娘様とはいつも仲良くさせていただいております!」
「なんだい、急にかしこまりやがって」
まさかミモザの母がアレフヘイムの族長をやっているなんて、聞いてなかったぞ。
だったら尚更なんでなんだ。里から追放したり、連れ戻して処刑したり。それが実の娘にすることなのか?
「お前さんが言いたいことは分かるさ。なんで実の娘に酷い仕打ちばかり、ってな。あれは仮にもワタシの……族長の娘なんだ。それ相応の体面ってものがあるのさ」
「確かにミモザは潜在魔力を持たない。エルフとして、族長の娘として、立場がないかもしれない。だからといって、娘が積み上げてきたものまで奪うなんて、それは横暴すぎるんじゃないのか?」
ギロリ、とまた強く睨まれてしまった。
「部外者が好き勝手にほざくな。娘をどうしようとワタシの勝手だ」
なんて頭の固い奴だ。