今週は
藤城皐月たちの班が給食当番だ。給食が終わり、みんなで給食室に食器を返しに行くと、その帰りに皐月は
栗林真理に呼び止められた。
「ねえ、皐月が買ったっていう服、もしかして
明日美姐さんが選んだの?」
「そうだよ。なんで知ってんだよ?」
「お母さんが言ってた。明日美姐さんが皐月の服を選ぶって張り切ってたって」
明日美が皐月の母の
小百合に皐月の服の話を持ち掛けた時、そばに
凛子がいたのだろう。それなら真理がこの話を母の凛子から聞いていてもおかしくはない。
「
満姐さんにも服、選んでもらったんだよね」
「満姉ちゃんはまだ。今度の日曜日に選んでもらうことになってる。二人ともせっかくの休みなのに、俺の服選びに付き合わせちゃって、悪いなって思う」
本当は満と買い物に出かけることを楽しみにしているが、皐月は真理に悟られないように負の感情を強調した。
「別にいいんじゃない? 姐さんたちだって若い男の子と一緒に出かけられるんだから、悪いことないでしょ。いつも酔っ払いのおじさんの相手ばかりしてるんだし」
「へぇ〜、真理って寛大だな。てっきりヤキモチでも妬くのかと思った」
「なんで私がヤキモチ妬くの? 相手は芸妓だよ?」
「まあ、そりゃそうか。相手は大人だもんな」
真理が明日美に嫉妬していないことがわかったのは収穫だった。真理は皐月が小さいころから明日美にかわいがられているところを見てきた。明日美が皐月の恋愛の相手だとは思いもよらないのだろう。
「それに皐月のやることにいちいち嫉妬してたら身が持たないよ。今朝だって松井さんたちと仲良くしてたでしょ?」
「なんだ、見てたのか」
「皐月が誰と仲良くしようが構わないけどさ、私と二人でいるときだけは他の女のこと考えないでほしいな」
「真理、お前……そんなこと考えてたのか?」
「お母さんの影響かな……。これって愛人の発想だよね」
真理はなんともない顔をしながら悲しいことを言う。真理は凛子に恋人がいることを嫌っていて、凛子が恋人に会う日は情緒が不安定になる。そんな時、真理は皐月にすがるようになった。
「今日、学校が終わったら真理ん
家に行こうか?」
「大丈夫。最近は勉強が調子いいから、精神的に安定している」
「そうか」
「うん。それに皐月と会うと、その後勉強したくなくなっちゃうから」
教材室の前を歩いていると、真理が無造作に引き戸を開けた。周囲を確認すると、皐月の手を引いて教材室にもぐり込んだ。
「どうしたんだよ」
真理が皐月の首に腕をまわしてきて、キスをしてきた。真理はいきなり舌を入れてきた。さっき給食で食べたナポリタンの匂いがした。
「どうしよう……。家に来てほしくなっちゃった」
「行こうか?」
「いい。受験が終わるまでは勉強に集中しなきゃ」
「そうか……偉いな」
今度は皐月から優しく口づけした。
「さすがに学校はヤバいから、もう行こう。俺、先に出るから」
「うん」
「いつでも会いに行くから」
「ありがとう」
皐月と真理は自然と抱き合い、お互いに腕を背中にまわして唇を重ねた。二人は会わないと決めたことで急に寂しさが募り、ベッドの上でするようなディープキスにエスカレートした。外から子供たちの声が聞こえる教材室で舌を絡め合っていると、頭がおかしくなりそうなほど興奮してくる。
真理を教材室に残し、皐月は慌てて玄関へ向かった。5時間目の体育の授業の準備をしなくてすむように、皐月は体操服で登校して来た。少しでも昼休みに遊ぶ時間を長く取りたいと思って準備していたのに、予定が狂った。
靴箱で皐月は口元を手でぬぐい、臍の下のチェックをした。靴に履き替えていても皐月はまだ真理のことを考えていた。
本当はドッヂボールなんかしないで、昼休みはずっと真理と二人でいたかった。真理の家に会いに行くことを断られたのは寂しかったが、そのことを思い出したおかげで皐月の体の変化が元に戻った。
走って校庭に出て、太陽の光を浴びると興奮が冷めてきた。明日美のことを思い出して罪悪感に襲われたが、走る足を速めて息が上がると、考える余裕がなくなってくる。グラウンドでみんなの姿を見つけると、皐月の気持ちは自然と遊びモードに切り替わっていた。