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SCENE098 ある日のオフ

ー/ー



 翌日のこと、私は久々にオフの日ということにしてゆっくりと過ごすことにした。
 デバフは確かに六時間で切れていたのだが、いつもダンジョンに潜っているわけにはいかないからな。たまにはゆっくり羽も伸ばしたいというものだ。
 ところが、休みだというのに私の足はつい横浜駅に向かってしまう。ここの地下に横浜ダンジョンが口を開けているからな。
 この横浜ダンジョンで手に入る素材には、かなり稼がせてもらっている。六階層もそうだが、七階層にも足を踏み入れられるようになったおかげで、一段階強い素材が手に入るんでな。
 まあ、今日のところは地下に向かうのはやめて、地上でショッピングとでもしゃれこもうではないか。
 そう思ってやって来たというのに、私はふととある気配に気が付いてしまった。

(うん? この気配は確か……)

 姿は見えないが、覚えのある気配だったのでつい反応してしまう。
 いくら目を凝らしても姿が見えないんだが、これは一人しか思い当たる人物はいない。

(確か、セイレーンの下僕にされてしまった探索者だったか。ボス部屋まで乗り込んだ人物だから、もしかしたら……)

 探索者用の格好ではないのだが、私は気配に気が付いてしまったがゆえに尾行することにした。
 横浜駅に足を踏み入れると、ダンジョンの入口となる地下へと向かう。その一角には、ダンジョン管理局の人が立っており、彼らのチェックをパスすることでダンジョンに向かえる。
 私の前には一人いるはずなのだが、管理局の人たちはまったく気が付いていない。まったく隠密で気付かれないとはいっても、立派な犯罪だぞ。

「これは衣織さん。どうなさったのですか」

「うむ。オフで休んでいるつもりだったんが、気が変わったのでダンジョンに潜ることにしたのだ。このような姿は似合わないか?」

「いえ、とてもよく似合っておいででございます。ですが、ダンジョン用の装備ではございませんので、いくら復活するとはいってもお気を付けください」

「ああ、心配ありがとう」

 私は管理局の人間と言葉を交わすと、ライセンスを見せて中へと入っていく。
 あの下僕とかいうやつを見失うわけにはいかないからな。私はとにかくつかず離れずの位置を保ちながら、あとを追いかける。
 それにしても、まさか隠密を使っている奴の気配をしっかり察知できるようになるとはな。私もレベルが上がったということだろうか。
 となると、あのバトラーという瞬の執事と戦っていたのも無駄ではないということだな。
 だが、相手は隠密を使っている以上、気を抜くと簡単にまかれてしまう。見失わないように私は追いかけていく。

 そうして、五階層までやって来た。
 ここまでのモンスターは、私を見ると逃げ出していくのだが、ここからはそういうことにはなりにくい。となると、ここで追跡を失敗する可能性が高くなる。
 襲撃を受けるかどうかは、もはやお祈りレベルの話だ。

(なんとしても、あのセイレーンとかいうダンジョンマスターに直に会ってみたいからな。襲い掛かってくるんじゃないぞ)

 さすがの私も、神頼みといったところだ。
 モンスターの強さは苦戦するほどのものじゃないから、戦闘自体はすぐにどうとでもなる。いつもは持ち歩いている武器がないから、素手での戦いにはなるが、まあ、負ける気はしない。
 こうして、祈りが通じたのか五階層は無事に突破できた。
 不思議なことに、あいつの後ろをつけていると罠がまったくなかった。看破だったか第六感だったか、罠回避スキルもレベルが高いってことだな。

(なるほど、このスキルの組み合わせで危険を回避してボス部屋までたどり着いたのか。実際に見てみるとうらやましい限りの状況だな)

 私は追いかけながらそんなことを思っていた。
 だが、この追跡は六階層をもう少しというところで終わることになってしまった。

「ぐわあああっ!」

「ちっ!」

 タイミング悪く、モンスターの襲撃を受けてしまったのだ。もう少しで七階層へと降りる階段だったというのに、なんというタイミングの悪さだ。

「アクアリザードごときが、よくも邪魔してくれたな!」

 私はイラついたので、靴を脱いでかかとを思いっきり頭に突き刺してやった。ハイヒールのかかとをなめんじゃないよ。

「ギエエエエッ!」

 脳天に一発。アクアリザードを倒すことができた。
 だが、この一瞬は、私にとっては長すぎた。

「くそっ、完全に気配を見失ってしまったじゃないか。このバカタレが!」

 倒したアクアリザードに、私はもう一撃ハイヒールのかかとをお見舞いしてやった。

「しょうがない、これを引きずって帰るとするか……」

 もう追跡はできないことを悟った私は、ハイヒール二撃で沈んだアクアリザードを背負って、ダンジョンの来た道を引き返していった。
 ああ、途中でモンスターに襲われたが、この倒したアクアリザードを武器にして蹴散らしてやったよ。いやぁ、しっぽが握りやすいし、重さもそこそこあるからいい感じの鈍器になったな。

 ダンジョンの入口まで戻ってきた私は、管理局の人にアクアリザードを渡して、そのまま当初の予定通りのオフを楽しむことにした。
 ボス部屋まで追跡できなかったことは残念だったが、いずれ自力でたどり着いてやるさ。
 私は改めて、横浜ダンジョン制覇を目標として掲げ直したのだった。


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 翌日のこと、私は久々にオフの日ということにしてゆっくりと過ごすことにした。
 デバフは確かに六時間で切れていたのだが、いつもダンジョンに潜っているわけにはいかないからな。たまにはゆっくり羽も伸ばしたいというものだ。
 ところが、休みだというのに私の足はつい横浜駅に向かってしまう。ここの地下に横浜ダンジョンが口を開けているからな。
 この横浜ダンジョンで手に入る素材には、かなり稼がせてもらっている。六階層もそうだが、七階層にも足を踏み入れられるようになったおかげで、一段階強い素材が手に入るんでな。
 まあ、今日のところは地下に向かうのはやめて、地上でショッピングとでもしゃれこもうではないか。
 そう思ってやって来たというのに、私はふととある気配に気が付いてしまった。
(うん? この気配は確か……)
 姿は見えないが、覚えのある気配だったのでつい反応してしまう。
 いくら目を凝らしても姿が見えないんだが、これは一人しか思い当たる人物はいない。
(確か、セイレーンの下僕にされてしまった探索者だったか。ボス部屋まで乗り込んだ人物だから、もしかしたら……)
 探索者用の格好ではないのだが、私は気配に気が付いてしまったがゆえに尾行することにした。
 横浜駅に足を踏み入れると、ダンジョンの入口となる地下へと向かう。その一角には、ダンジョン管理局の人が立っており、彼らのチェックをパスすることでダンジョンに向かえる。
 私の前には一人いるはずなのだが、管理局の人たちはまったく気が付いていない。まったく隠密で気付かれないとはいっても、立派な犯罪だぞ。
「これは衣織さん。どうなさったのですか」
「うむ。オフで休んでいるつもりだったんが、気が変わったのでダンジョンに潜ることにしたのだ。このような姿は似合わないか?」
「いえ、とてもよく似合っておいででございます。ですが、ダンジョン用の装備ではございませんので、いくら復活するとはいってもお気を付けください」
「ああ、心配ありがとう」
 私は管理局の人間と言葉を交わすと、ライセンスを見せて中へと入っていく。
 あの下僕とかいうやつを見失うわけにはいかないからな。私はとにかくつかず離れずの位置を保ちながら、あとを追いかける。
 それにしても、まさか隠密を使っている奴の気配をしっかり察知できるようになるとはな。私もレベルが上がったということだろうか。
 となると、あのバトラーという瞬の執事と戦っていたのも無駄ではないということだな。
 だが、相手は隠密を使っている以上、気を抜くと簡単にまかれてしまう。見失わないように私は追いかけていく。
 そうして、五階層までやって来た。
 ここまでのモンスターは、私を見ると逃げ出していくのだが、ここからはそういうことにはなりにくい。となると、ここで追跡を失敗する可能性が高くなる。
 襲撃を受けるかどうかは、もはやお祈りレベルの話だ。
(なんとしても、あのセイレーンとかいうダンジョンマスターに直に会ってみたいからな。襲い掛かってくるんじゃないぞ)
 さすがの私も、神頼みといったところだ。
 モンスターの強さは苦戦するほどのものじゃないから、戦闘自体はすぐにどうとでもなる。いつもは持ち歩いている武器がないから、素手での戦いにはなるが、まあ、負ける気はしない。
 こうして、祈りが通じたのか五階層は無事に突破できた。
 不思議なことに、あいつの後ろをつけていると罠がまったくなかった。看破だったか第六感だったか、罠回避スキルもレベルが高いってことだな。
(なるほど、このスキルの組み合わせで危険を回避してボス部屋までたどり着いたのか。実際に見てみるとうらやましい限りの状況だな)
 私は追いかけながらそんなことを思っていた。
 だが、この追跡は六階層をもう少しというところで終わることになってしまった。
「ぐわあああっ!」
「ちっ!」
 タイミング悪く、モンスターの襲撃を受けてしまったのだ。もう少しで七階層へと降りる階段だったというのに、なんというタイミングの悪さだ。
「アクアリザードごときが、よくも邪魔してくれたな!」
 私はイラついたので、靴を脱いでかかとを思いっきり頭に突き刺してやった。ハイヒールのかかとをなめんじゃないよ。
「ギエエエエッ!」
 脳天に一発。アクアリザードを倒すことができた。
 だが、この一瞬は、私にとっては長すぎた。
「くそっ、完全に気配を見失ってしまったじゃないか。このバカタレが!」
 倒したアクアリザードに、私はもう一撃ハイヒールのかかとをお見舞いしてやった。
「しょうがない、これを引きずって帰るとするか……」
 もう追跡はできないことを悟った私は、ハイヒール二撃で沈んだアクアリザードを背負って、ダンジョンの来た道を引き返していった。
 ああ、途中でモンスターに襲われたが、この倒したアクアリザードを武器にして蹴散らしてやったよ。いやぁ、しっぽが握りやすいし、重さもそこそこあるからいい感じの鈍器になったな。
 ダンジョンの入口まで戻ってきた私は、管理局の人にアクアリザードを渡して、そのまま当初の予定通りのオフを楽しむことにした。
 ボス部屋まで追跡できなかったことは残念だったが、いずれ自力でたどり着いてやるさ。
 私は改めて、横浜ダンジョン制覇を目標として掲げ直したのだった。