表示設定
表示設定
目次 目次




ep.6 シャルちゃん

ー/ー



 あたしはその後、シャルルージュちゃんが管理する三日月館にしばらく住むことになった。
 家族はいたけれど、記憶を失っていたあたしはどこにも行く当てもなかったから。
「パパとママが見つかるまでよ」って言ってくれた。それでも嬉しかった。
 三日月館にいた時間はそこまで長いものではなかったけど、それでも大切な思い出だった。

「千寿流、お前また虐められてんのか? 俺がいっちょやり返してきてやるからそいつのデッキ教えろよ」

「でっき? なにそれ? あたし、虐められてなんかないけど」

「ノリ悪いぞお前! そういう時は黙って助けてくれーって言えっつの!」

「無茶言うのはやめてあげなよ、千寿流はカード分からないんですから」

 カードゲームがとっても好きな子。
 あたしは頑張って覚えようとしたけどやっぱりわからなかった。カードゲームってすごく難しい。

「千寿流、人生の先輩でもある私が良い事を教えてあげますよ」

「えっと、どんなこと?」

「どんな下らないことも笑いにつなげる事、ですよ」

「カード濡らされて笑うのは違うと思うけど、それって笑える? あのカード光ってたし」

「……慣れました」

 その子に付き合っていつも負けてる子。
 大事なカードにジュースとかもこぼされて笑っていられるのは凄いけど。
 あたしにはちょっと真似できないな。

「ねぇ、ちずちゃん、今度いっしょに卓球しよ! 体弱くても簡単なものなら出来ると思うんだ!」

「うん! でも、あたし卓球やったことないよ? 大丈夫かなぁ」

「私もやったことないから! いっしょに上手になってみんなを驚かしちゃおっか!」

 体が少し弱いけど前向きでいっしょに笑ってくれる子。
 あたしより年上ってこともあって、いつも引っ張ってってくれる頼れるお姉ちゃんだ。
 あたしもいつかこんなしっかりしたお姉ちゃんになりたいな。

 他にもたくさん。色々な人と友だちになれた。
 何で忘れてしまったんだろうか。それとも思い出せて良かったというべきか。

「そう、忘れてもいいのよ。記憶はあなたの事をいつまでも待ってくれているのだから。もし、あなたが忘れても、思い出せなくても、あなたの帰りをずっと待っていてくれるの」

 これは、シャルルージュちゃんの声?

「シャルルージュちゃんっ、あたしは!」

「ふふふ、なにそれ。いつもみたいに“シャルちゃん”って呼んでくれないのかしら?」



 ……ず……る……

 ち……ず……るっ

「ちずるっ!」

 少女の声で現実に引き戻される。
 今のは夢、それとも過去の記憶なのか。
 そして、ここは館の入り口?

ep.6 シャルちゃん

「ちずる! はやくいこうっ! クラマが まってるよ!」

「――――うん、シャルちゃん!」



 中庭に出る。あれから少し時間が経ち、日が昇り始めていた。

「えひひ、いい天気だね!」

「ちずる クラマのこと ほんとうに どこにいるか わかるの?」

 紫髪の少女、シャルルージュ・クレッセンは千寿流に再度問いかける。

「え、え~と、その知ってるっていうか、この館にいるのかなぁ~って。ほ、ほら、お外に出てるかもしれないでしょ? こんなに天気いいんだし!」

 一言一言でどもる上ずった声。挙動不審の塊。クラマという子は知らない。だから、当然どこにいるのかも知らない。
 内心千寿流もごまかしきれていると思ってはいないが、とにかくこの不気味な館から離れたい一心だった。

「なるほど! さすがだね ちずる! じゃあ さっそく クラマをさがしに でかけよう!」

「あぁ! シャルちゃん、ちょっとまって!」

 この先にはあの門がある。何回試しても同じ場所に戻されてしまう難攻不落の門。いや、門ではなく結界という方が相応しいだろうか?

 ずきりと右膝の傷がうずいた。
 あれだけ何回も試した。いろんなところから脱出しようと試みた。
 今回もきっとどうせ駄目なんだ。気持ちは曇り空のような暗い灰色に染まっていた。

「ん? どうしたの? はやくきてよ ちずる」

「あ……れ?」

 シャルはそこに門など無かったかのように、いとも容易く通り抜ける。
 白昼夢でも見ていたのだろうか、何度試しても駄目だった。
 夢の中は想像の世界だ。だから、何をするにも自由。自由も不自由も、そこに在る。もしかしたら囚われていると妄想して、自らを閉じ込めてしまっていたのかもしれない。
 もし、そうだとしたのなら、何の問題もない。夢は覚めた。彼女の声で。見上げた空は鬱屈とした灰色を洗うかのような青。
 目をきゅっとつぶって門をくぐる。今度はどうかそのままでと、祈るように大地を踏みしめた。


スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む ep.7 英雄変革


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 あたしはその後、シャルルージュちゃんが管理する三日月館にしばらく住むことになった。
 家族はいたけれど、記憶を失っていたあたしはどこにも行く当てもなかったから。
「パパとママが見つかるまでよ」って言ってくれた。それでも嬉しかった。
 三日月館にいた時間はそこまで長いものではなかったけど、それでも大切な思い出だった。
「千寿流、お前また虐められてんのか? 俺がいっちょやり返してきてやるからそいつのデッキ教えろよ」
「でっき? なにそれ? あたし、虐められてなんかないけど」
「ノリ悪いぞお前! そういう時は黙って助けてくれーって言えっつの!」
「無茶言うのはやめてあげなよ、千寿流はカード分からないんですから」
 カードゲームがとっても好きな子。
 あたしは頑張って覚えようとしたけどやっぱりわからなかった。カードゲームってすごく難しい。
「千寿流、人生の先輩でもある私が良い事を教えてあげますよ」
「えっと、どんなこと?」
「どんな下らないことも笑いにつなげる事、ですよ」
「カード濡らされて笑うのは違うと思うけど、それって笑える? あのカード光ってたし」
「……慣れました」
 その子に付き合っていつも負けてる子。
 大事なカードにジュースとかもこぼされて笑っていられるのは凄いけど。
 あたしにはちょっと真似できないな。
「ねぇ、ちずちゃん、今度いっしょに卓球しよ! 体弱くても簡単なものなら出来ると思うんだ!」
「うん! でも、あたし卓球やったことないよ? 大丈夫かなぁ」
「私もやったことないから! いっしょに上手になってみんなを驚かしちゃおっか!」
 体が少し弱いけど前向きでいっしょに笑ってくれる子。
 あたしより年上ってこともあって、いつも引っ張ってってくれる頼れるお姉ちゃんだ。
 あたしもいつかこんなしっかりしたお姉ちゃんになりたいな。
 他にもたくさん。色々な人と友だちになれた。
 何で忘れてしまったんだろうか。それとも思い出せて良かったというべきか。
「そう、忘れてもいいのよ。記憶はあなたの事をいつまでも待ってくれているのだから。もし、あなたが忘れても、思い出せなくても、あなたの帰りをずっと待っていてくれるの」
 これは、シャルルージュちゃんの声?
「シャルルージュちゃんっ、あたしは!」
「ふふふ、なにそれ。いつもみたいに“シャルちゃん”って呼んでくれないのかしら?」
 ……ず……る……
 ち……ず……るっ
「ちずるっ!」
 少女の声で現実に引き戻される。
 今のは夢、それとも過去の記憶なのか。
 そして、ここは館の入り口?
「ちずる! はやくいこうっ! クラマが まってるよ!」
「――――うん、シャルちゃん!」
 中庭に出る。あれから少し時間が経ち、日が昇り始めていた。
「えひひ、いい天気だね!」
「ちずる クラマのこと ほんとうに どこにいるか わかるの?」
 紫髪の少女、シャルルージュ・クレッセンは千寿流に再度問いかける。
「え、え~と、その知ってるっていうか、この館にいるのかなぁ~って。ほ、ほら、お外に出てるかもしれないでしょ? こんなに天気いいんだし!」
 一言一言でどもる上ずった声。挙動不審の塊。クラマという子は知らない。だから、当然どこにいるのかも知らない。
 内心千寿流もごまかしきれていると思ってはいないが、とにかくこの不気味な館から離れたい一心だった。
「なるほど! さすがだね ちずる! じゃあ さっそく クラマをさがしに でかけよう!」
「あぁ! シャルちゃん、ちょっとまって!」
 この先にはあの門がある。何回試しても同じ場所に戻されてしまう難攻不落の門。いや、門ではなく結界という方が相応しいだろうか?
 ずきりと右膝の傷がうずいた。
 あれだけ何回も試した。いろんなところから脱出しようと試みた。
 今回もきっとどうせ駄目なんだ。気持ちは曇り空のような暗い灰色に染まっていた。
「ん? どうしたの? はやくきてよ ちずる」
「あ……れ?」
 シャルはそこに門など無かったかのように、いとも容易く通り抜ける。
 白昼夢でも見ていたのだろうか、何度試しても駄目だった。
 夢の中は想像の世界だ。だから、何をするにも自由。自由も不自由も、そこに在る。もしかしたら囚われていると妄想して、自らを閉じ込めてしまっていたのかもしれない。
 もし、そうだとしたのなら、何の問題もない。夢は覚めた。彼女の声で。見上げた空は鬱屈とした灰色を洗うかのような青。
 目をきゅっとつぶって門をくぐる。今度はどうかそのままでと、祈るように大地を踏みしめた。