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第1話:カオスな開幕、2LDKは次元戦場

ー/ー



都内の築古アパート「さくら荘」101号室、佐倉亮太(27)の2LDKは、この三日間で既に戦場跡と化していた。

一週間前に買ったばかりの冷蔵庫の表面は分厚い氷に覆われ、リビングの壁には星形の焦げ跡と、そこから漏れ出す強烈な冷気が同居している。

「ですから、マスター!この不埒な女を、私が異空間へ隔離しましょう!」

「不敬である、見習い! 王である我が君に、貴様のような低俗な魔力を近づけるな!」

ピンクの魔法少女衣装のルルと、銀髪に白い着物をまとったヒヨリが、既に口論と同時に属性攻撃を始めていた。ルルがステッキから放った光弾は、ヒヨリが瞬時に作り出した氷の盾に弾かれ、亮太の限定版フィギュア棚のギリギリの場所で炸裂した。

「あああ! フィギュア棚に当てるな! ルル! ヒヨリ! 落ち着け!」

亮太が崩壊寸前の棚を必死に抱え込んだ、その瞬間。

ドォン! ドォォォン!

玄関のドアが、まるで城門でも破るかのような凄まじい衝撃音と共にノックされた。

「はじめまして、私の夫! 長旅で少々疲れたが、これでようやく辿り着けた!」

ドアの向こうには、金色のポニーテールに精悍な顔立ち、そして尖ったエルフ耳を持つ長身の女性――エラシアが立っていた。腰の剣は抜き身ではないが、その気迫だけでルルとヒヨリの動きが止まる。

「な、何だと!? 夫ですって!?」

ルルが叫んだ。

「この無礼者め! 我が君は既に『氷雪郷の王』である!」

ヒヨリが剣呑な眼差しを向け、部屋の気温がさらに低下した。

エラシアは動じることなく、優雅に片膝をついた。

「古の誓約に基づき、私はこの佐倉亮太の夫となった。今すぐこの場から退去せよ、下賤な雌ども。私の夫のそばに立つのは私だけだ!」

「下賤だと!?」(ヒヨリ)

「雌だと!?」(ルル)

――バシュンッ!!

エラシアが剣を抜いた。その剣戟は、風を巻き込み、ヒヨリの足元を狙う。ヒヨリは間一髪で跳躍し、代わりにルルが放った魔力光弾を氷の壁で受け止めた。

「あああああ!やめろ!リビングで剣を振るな!壁を凍らせるな!大家さんから連絡が来るだろうが!」

亮太の叫びは、二人の美少女には届かない。2LDKは完全に属性バトルの戦場と化した。ルルの炎のエフェクトとヒヨリのブリザードがぶつかり合い、リビングは一瞬にして煮えたぎる蒸気に包まれた。

そのとき、天井からドォォォン!!と、凄まじい振動が響いた。家具が震え、フィギュア棚のガラスケースが軋む。

「ぐ、ぐぅううう……!」

亮太が上を見上げると、頭の中で、上階の住人である山田さん(40代、筋骨隆々とした体つきで、常にトレーニングウェア姿。妙に光る自信満々の目つきをしている)の痛々しい独白が聞こえてくるような気がした。

「これが…大地を揺らす、俺の『フォース』だ!アパートの地層が、俺の潜在能力に呼応し始めたというのか!?」

上階の山田さんの「勘違い特訓」が、いよいよ本格的に始まったのだ。

「うわあああ、上からも来るのかよ!?」

亮太が頭を抱え込んだ、その瞬間。隣室の壁が、凍りついたままヒビ割れ、ルルの放った魔力の塊が、隣の部屋の天井を貫通したらしい。

「きゃあああああ!!」

隣室から、切実な悲鳴が響いた。その直後、ヒビ割れた壁の向こうから、「ドオォン!」という耳をつんざくような激しい壁ドンが響いた。

次の瞬間、玄関のドアが再び開かれた。そこに立っていたのは、亮太の会社の2年後輩、神崎楓だった。茶色のセミロングの髪が揺れる、可憐な顔立ちの美人である。

(神崎さんだ。会社のフロアでは、誰もが憧れる『マドンナ』のような存在なのに、まさか、こんな形で顔を合わせるなんて……!)

つい先日知ったのだが、彼女は亮太の隣の部屋に住んでいたのだ。もちろんそのきっかけを作ったのは、ルルとヒヨリが先程のようなバトルを展開したためだ。

その時も彼女、佐倉楓は同じシチュエーションでその場に立っていた。

彼女の顔は怒りと恐怖で凍りつき、その手には、騒音を訴えるために使うはずの壁ドン棒が握られている。そして、その背後の壁には、ヒヨリの冷気で凍りついた氷の槍が突き刺さっていた。

「佐倉……さん……」

楓の声は、震えていた。

「あなた、この部屋で、一体何を飼っているんですか!?」

楓は一瞬、美少女三人を警戒するが、氷の槍を見て、すぐに表情を変えた。彼女は亮太を、「危険な女たちに脅されている可哀想な人」だと認識していた。

「もう、無理です……!」

楓は壁ドン棒を投げ捨て、一歩踏み出し、亮太の腕を掴んだ。

「佐倉さん!あなたは悪くない!今すぐ私と一緒に、私の部屋へ避難しましょう!安全な場所で、落ち着きましょう!そうしないと、あなた、本当にこの女たちに殺されるわよ!」

「待て! 夫をどこへ連れていくつもりだ、人間!」

エラシアが剣を構えた。

「マスターを放せ! 私が作った魔力空間のベッドで休むべきです!」

ルルがステッキを向けた。

「我が王の腕に触れるな!この凡庸な女!」

ヒヨリが足元から冷気を放出した。

四人のヒロインの主張と、隣人の常識が、亮太の腕を巡って激しく交錯する。

天井からは「俺の能力が暴走するぅぅ!」と山田さんの雄叫びが響き、足元ではルルとヒヨリの魔法の余波がフィギュア棚を揺らす。

亮太は、楓に引っ張られながら、絶望のあまり叫んだ。

「いやあああ! 僕のフィギュア棚がぁぁ! 誰か助けてくれ! 僕の平凡な日常を返してくれええええ!!」

佐倉亮太の受難と、カオスな共同生活は、こうして始まったのだった。




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一週間前に買ったばかりの冷蔵庫の表面は分厚い氷に覆われ、リビングの壁には星形の焦げ跡と、そこから漏れ出す強烈な冷気が同居している。
「ですから、マスター!この不埒な女を、私が異空間へ隔離しましょう!」
「不敬である、見習い! 王である我が君に、貴様のような低俗な魔力を近づけるな!」
ピンクの魔法少女衣装のルルと、銀髪に白い着物をまとったヒヨリが、既に口論と同時に属性攻撃を始めていた。ルルがステッキから放った光弾は、ヒヨリが瞬時に作り出した氷の盾に弾かれ、亮太の限定版フィギュア棚のギリギリの場所で炸裂した。
「あああ! フィギュア棚に当てるな! ルル! ヒヨリ! 落ち着け!」
亮太が崩壊寸前の棚を必死に抱え込んだ、その瞬間。
ドォン! ドォォォン!
玄関のドアが、まるで城門でも破るかのような凄まじい衝撃音と共にノックされた。
「はじめまして、私の夫! 長旅で少々疲れたが、これでようやく辿り着けた!」
ドアの向こうには、金色のポニーテールに精悍な顔立ち、そして尖ったエルフ耳を持つ長身の女性――エラシアが立っていた。腰の剣は抜き身ではないが、その気迫だけでルルとヒヨリの動きが止まる。
「な、何だと!? 夫ですって!?」
ルルが叫んだ。
「この無礼者め! 我が君は既に『氷雪郷の王』である!」
ヒヨリが剣呑な眼差しを向け、部屋の気温がさらに低下した。
エラシアは動じることなく、優雅に片膝をついた。
「古の誓約に基づき、私はこの佐倉亮太の夫となった。今すぐこの場から退去せよ、下賤な雌ども。私の夫のそばに立つのは私だけだ!」
「下賤だと!?」(ヒヨリ)
「雌だと!?」(ルル)
――バシュンッ!!
エラシアが剣を抜いた。その剣戟は、風を巻き込み、ヒヨリの足元を狙う。ヒヨリは間一髪で跳躍し、代わりにルルが放った魔力光弾を氷の壁で受け止めた。
「あああああ!やめろ!リビングで剣を振るな!壁を凍らせるな!大家さんから連絡が来るだろうが!」
亮太の叫びは、二人の美少女には届かない。2LDKは完全に属性バトルの戦場と化した。ルルの炎のエフェクトとヒヨリのブリザードがぶつかり合い、リビングは一瞬にして煮えたぎる蒸気に包まれた。
そのとき、天井からドォォォン!!と、凄まじい振動が響いた。家具が震え、フィギュア棚のガラスケースが軋む。
「ぐ、ぐぅううう……!」
亮太が上を見上げると、頭の中で、上階の住人である山田さん(40代、筋骨隆々とした体つきで、常にトレーニングウェア姿。妙に光る自信満々の目つきをしている)の痛々しい独白が聞こえてくるような気がした。
「これが…大地を揺らす、俺の『フォース』だ!アパートの地層が、俺の潜在能力に呼応し始めたというのか!?」
上階の山田さんの「勘違い特訓」が、いよいよ本格的に始まったのだ。
「うわあああ、上からも来るのかよ!?」
亮太が頭を抱え込んだ、その瞬間。隣室の壁が、凍りついたままヒビ割れ、ルルの放った魔力の塊が、隣の部屋の天井を貫通したらしい。
「きゃあああああ!!」
隣室から、切実な悲鳴が響いた。その直後、ヒビ割れた壁の向こうから、「ドオォン!」という耳をつんざくような激しい壁ドンが響いた。
次の瞬間、玄関のドアが再び開かれた。そこに立っていたのは、亮太の会社の2年後輩、神崎楓だった。茶色のセミロングの髪が揺れる、可憐な顔立ちの美人である。
(神崎さんだ。会社のフロアでは、誰もが憧れる『マドンナ』のような存在なのに、まさか、こんな形で顔を合わせるなんて……!)
つい先日知ったのだが、彼女は亮太の隣の部屋に住んでいたのだ。もちろんそのきっかけを作ったのは、ルルとヒヨリが先程のようなバトルを展開したためだ。
その時も彼女、佐倉楓は同じシチュエーションでその場に立っていた。
彼女の顔は怒りと恐怖で凍りつき、その手には、騒音を訴えるために使うはずの壁ドン棒が握られている。そして、その背後の壁には、ヒヨリの冷気で凍りついた氷の槍が突き刺さっていた。
「佐倉……さん……」
楓の声は、震えていた。
「あなた、この部屋で、一体何を飼っているんですか!?」
楓は一瞬、美少女三人を警戒するが、氷の槍を見て、すぐに表情を変えた。彼女は亮太を、「危険な女たちに脅されている可哀想な人」だと認識していた。
「もう、無理です……!」
楓は壁ドン棒を投げ捨て、一歩踏み出し、亮太の腕を掴んだ。
「佐倉さん!あなたは悪くない!今すぐ私と一緒に、私の部屋へ避難しましょう!安全な場所で、落ち着きましょう!そうしないと、あなた、本当にこの女たちに殺されるわよ!」
「待て! 夫をどこへ連れていくつもりだ、人間!」
エラシアが剣を構えた。
「マスターを放せ! 私が作った魔力空間のベッドで休むべきです!」
ルルがステッキを向けた。
「我が王の腕に触れるな!この凡庸な女!」
ヒヨリが足元から冷気を放出した。
四人のヒロインの主張と、隣人の常識が、亮太の腕を巡って激しく交錯する。
天井からは「俺の能力が暴走するぅぅ!」と山田さんの雄叫びが響き、足元ではルルとヒヨリの魔法の余波がフィギュア棚を揺らす。
亮太は、楓に引っ張られながら、絶望のあまり叫んだ。
「いやあああ! 僕のフィギュア棚がぁぁ! 誰か助けてくれ! 僕の平凡な日常を返してくれええええ!!」
佐倉亮太の受難と、カオスな共同生活は、こうして始まったのだった。