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第61話 聞き手

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 昨夜、正殿で宿直(とのい)をした背の高い巫女が立ち上がって一礼をした。大原弓と名乗り、鈴がついた棒を持って舞った。

「聞き手だね」と悠木。

「そうよ」と桐子。

「姉さんのにおいがする」と悠木。

「聞き手ってなんですか?」と恵子。

「神のお告げを聞く人だよ」と悠木。

「それでは、特別な人なのですね」と恵子。

「そうは見えないけど」と悠木。

「真面目だから、信頼しているの」と桐子。

「春、石を持ってきなさい」と桐子が巫女の遠藤春に言った。

 春は一礼して宝物殿に向かった。うやうやしく弁当箱ほどの木箱を両手で抱えて戻ってきた。

「開けて黒魚之風大神に見せなさい」と桐子。

 春は箱を開けた。中には濃い緑色のピンポン玉ほどの大きさの石が布に覆われていた。

「この石、懐かしいな」と言って悠木が石を手に取った。「初めてここに訪ねてきたとき、お世話になった巫女さんにあげたんだ。これがなぜ、ここの宝物殿にあるんだい?」

「個人で持つようなものではないからよ」と桐子。「わかってるでしょ。あんたがこれを置いていった後、大変だったのよ」

「姉さんが取り上げたの?」と悠木。

「ゲートを出たらこの石が光ったのよ」と桐子。「あなたが奥之院に石を持ってくるように雪に頼んだのでしょ」

「本当に祭りで身につけてくれたんだ」と悠木。「うれしいな」

「春と弓は雪の孫よ」と桐子。

「少し光っています」と恵子。

「そうよ」と桐子。「あなたたちはどう?」と悠木から石を取って巫女たちに見せた。

「翡翠のようですが、中から光っているように見えます」と裕香。

「以前とは輝きが違って見えます」と智美。咲子が頷いた。

「合格ね」と桐子。

「どういう意味でしょうか?」とサキ。

「ゲートに近づくと光るんだよ。その石」と悠木。

 巫女たちが一斉に悠木を見た。

「だから姉さんがゲートを開いた時に、光ったんだろう」と悠木。

「そんな石があるのですか?」と恵子。

「この世界のものではない」と桐子。「この子が、冥界から持ち込んだのだ」

「ゲート戦争の後、記念に持ち帰ったんだ」と悠木。「ぼくが住んでた城の近くで採れたんだよ」

「そんな貴重なものをくださったのですか?」と春。

「ぼくには必要ないものだよ」と悠木。「ゲートが見えるからね」

「冥界にはこんな石がたくさんあるのですか?」とサキ。

「私もこんなに大きなものを見るのは初めてよ」と桐子。「冥界でも貴族以上の身分がなければ、この石を所有できないはずよ」

「黒魚之風大神様は貴族だったのでしょうか?」と裕香。

「いや。平民だよ」と悠木。「賤民に近いくらいの。君たちも知ってるはずだけど」

「ではなぜこの石をお持ちだったのでしょうか?」と裕香。

「この子は結構名の知れた武将だったのよ」と桐子。「ゲート戦争の激戦地になった犬之首城と鱗山城の領主よ。賤民としての身分を隠して成り上がったの」

「その城の名前を知っています」と咲子。「城主は犬首夜太郎と聞いています。捕虜や敗残兵になったアバターを多く保護したことで現実界でも知られています」

「よく知ってるね。ぼくがその城主だった」と悠木。「女王から許可をもらって現世にアバターを返してたんだ。交渉の際にこの石を献上品に持っていったら、戦働きを褒められて逆に石をくれたんだ。だからぼくは公式に認められた所有者だったよ」

「冥界では今でもあなたの物ってことになってるわよ。きっと」と桐子。

「そうかもしれないね」と悠木。「でも女王はもう忘れてるよ。そんな古い話」

「どうかしらね?」と桐子。



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 昨夜、正殿で|宿直《とのい》をした背の高い巫女が立ち上がって一礼をした。大原弓と名乗り、鈴がついた棒を持って舞った。
「聞き手だね」と悠木。
「そうよ」と桐子。
「姉さんのにおいがする」と悠木。
「聞き手ってなんですか?」と恵子。
「神のお告げを聞く人だよ」と悠木。
「それでは、特別な人なのですね」と恵子。
「そうは見えないけど」と悠木。
「真面目だから、信頼しているの」と桐子。
「春、石を持ってきなさい」と桐子が巫女の遠藤春に言った。
 春は一礼して宝物殿に向かった。うやうやしく弁当箱ほどの木箱を両手で抱えて戻ってきた。
「開けて黒魚之風大神に見せなさい」と桐子。
 春は箱を開けた。中には濃い緑色のピンポン玉ほどの大きさの石が布に覆われていた。
「この石、懐かしいな」と言って悠木が石を手に取った。「初めてここに訪ねてきたとき、お世話になった巫女さんにあげたんだ。これがなぜ、ここの宝物殿にあるんだい?」
「個人で持つようなものではないからよ」と桐子。「わかってるでしょ。あんたがこれを置いていった後、大変だったのよ」
「姉さんが取り上げたの?」と悠木。
「ゲートを出たらこの石が光ったのよ」と桐子。「あなたが奥之院に石を持ってくるように雪に頼んだのでしょ」
「本当に祭りで身につけてくれたんだ」と悠木。「うれしいな」
「春と弓は雪の孫よ」と桐子。
「少し光っています」と恵子。
「そうよ」と桐子。「あなたたちはどう?」と悠木から石を取って巫女たちに見せた。
「翡翠のようですが、中から光っているように見えます」と裕香。
「以前とは輝きが違って見えます」と智美。咲子が頷いた。
「合格ね」と桐子。
「どういう意味でしょうか?」とサキ。
「ゲートに近づくと光るんだよ。その石」と悠木。
 巫女たちが一斉に悠木を見た。
「だから姉さんがゲートを開いた時に、光ったんだろう」と悠木。
「そんな石があるのですか?」と恵子。
「この世界のものではない」と桐子。「この子が、冥界から持ち込んだのだ」
「ゲート戦争の後、記念に持ち帰ったんだ」と悠木。「ぼくが住んでた城の近くで採れたんだよ」
「そんな貴重なものをくださったのですか?」と春。
「ぼくには必要ないものだよ」と悠木。「ゲートが見えるからね」
「冥界にはこんな石がたくさんあるのですか?」とサキ。
「私もこんなに大きなものを見るのは初めてよ」と桐子。「冥界でも貴族以上の身分がなければ、この石を所有できないはずよ」
「黒魚之風大神様は貴族だったのでしょうか?」と裕香。
「いや。平民だよ」と悠木。「賤民に近いくらいの。君たちも知ってるはずだけど」
「ではなぜこの石をお持ちだったのでしょうか?」と裕香。
「この子は結構名の知れた武将だったのよ」と桐子。「ゲート戦争の激戦地になった犬之首城と鱗山城の領主よ。賤民としての身分を隠して成り上がったの」
「その城の名前を知っています」と咲子。「城主は犬首夜太郎と聞いています。捕虜や敗残兵になったアバターを多く保護したことで現実界でも知られています」
「よく知ってるね。ぼくがその城主だった」と悠木。「女王から許可をもらって現世にアバターを返してたんだ。交渉の際にこの石を献上品に持っていったら、戦働きを褒められて逆に石をくれたんだ。だからぼくは公式に認められた所有者だったよ」
「冥界では今でもあなたの物ってことになってるわよ。きっと」と桐子。
「そうかもしれないね」と悠木。「でも女王はもう忘れてるよ。そんな古い話」
「どうかしらね?」と桐子。