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はちのへ!

ー/ー



 昼下がりの高速道路。



 メルセデス190Eが猛スピードで車列を縫うように疾走していた。

 ウィンカーも無視、後方から異常接近、もはや煽り運転というレベルではない。



 ——パアアアアアァン!



 鳴り響くクラクションを背後に、車は一切減速せず走り続ける。



「ひえええ〜田舎もんばっかだぜぇ〜!」



 ヴァイがハンドルを片手で握りながら叫ぶ。そのもう一方の手にはタバコが挟まっている。

 助手席に座るエリシアは、そんな状況にも関わらず、スマホを弄りながら退屈そうな表情を浮かべていた。



 少し前、メーターが「200km/h」を超えた瞬間にはしゃいでいたエリシアだったが、その興奮もすぐに冷めてしまったようだ。



「200なんて所詮、地上の速度ですわよね……。」



 彼女はぼんやりと呟きながら、画面をスワイプしている。
 ヴァイはそんな彼女をチラリと見て笑う。



「おいおい、退屈してんじゃねえよ!次は300km/h行くぞぉ!」

「……あぁ、好きになさいませ。」



 エリシアは興味なさげに答えると、再びスマホに目を戻した。
 車はさらにスピードを上げ、ほかの車両が次々と後方に消えていく。

 一方で、追い越されていく運転手たちの車内では、驚愕と恐怖が交錯していた——。



 突如としてヴァイの運転に変化が訪れた。



 これまで車列を縫うように疾走していたメルセデス190Eが、いきなり走行車線に割り込み、まるで模範的なドライバーのように速度を落とした。



「……どうしたんですの?」



 エリシアがスマホから目を上げて、ヴァイを横目で見やる。
 ヴァイはタバコをくわえたまま、軽く指を前方に向けた。



「先頭、覆面だわ。」
「……あっそ。」



 エリシアは興味なさげに呟くと、再びスマホの画面に視線を落とした。

 メルセデスはそれまでの荒々しさが嘘のように穏やかに流れ、交通法規を忠実に守りながら走り続けた。

 ヴァイが再びアクセルを踏み込もうとした瞬間、エリシアがふと前方を指差した。



「ちょっと、あの車のナンバー……何て書いてありますの?」



 ヴァイは軽く視線を前にやり、ナンバープレートを確認する。



「みず……と?」



 エリシアが首をかしげながらそう言うと、ヴァイは即座に訂正した。



「みと、な。水戸。」
「……ふぅん。」



 エリシアは特に興味なさそうに応じると、再びスマホに戻る。
 ヴァイは少し笑いながらアクセルを踏み込み、車列をまた縫い始めた。



「おいおい、『みずと』ってどこの未開都市だよ。」

「どうでもいいですわ。」



 エリシアの適当な返答を聞きながら、ヴァイは楽しそうにハンドルを切る。その車内は、相変わらず奇妙な静と動が混じり合っていた。



 エリシアの目に、今度は「八戸」と書かれたナンバープレートが入った。



「……や、やと?」



 ヴァイは苦笑いしながら、またも即座に訂正した。



「ちげえよ、はちのへ、な。八戸。」

「ふぅん。」



 エリシアは興味なさげにスマホをいじりながら、ふと呟く。



「日本の地名は本当にめんどくさいですわね。読む人を惑わせるためにわざと難しくしているんじゃありませんの?」



 ヴァイは肩をすくめ、片手でタバコを軽く持ち上げる。



「ま、そういう文化だろ。気にすんな。」
「ふむ……まぁ、どうでもいいですけど。」



 エリシアは適当に話を切り上げると再びスマホに集中し始めた。一方、ヴァイはアクセルを軽く踏みながら、ニヤリと笑う。



 ヴァイが思い出したように話を続けた。



「知ってるか?一戸(いちのへ)ってのもあるんだぜ。」



 エリシアは一瞬スマホから目を上げ、興味なさそうに相槌を打つ。



「へぇ、一戸。じゃあ二戸、三戸、四戸……?」



 ヴァイは肩を揺らして笑いながら、頭を横に振った。



「四戸はねえよ。」

「……はぁぁああ!?どういうことですの?」



 エリシアは完全にスマホを放り出し、ヴァイを睨むように振り向いた。



「一戸、二戸、三戸って来て、四戸がない?日本人の命名センスどうなってますの!?」



 ヴァイはタバコをふかしながら苦笑いを浮かべた。



「知らねえよ、歴史的なアレだろ。四戸だけスキップしてんだよ。」



「……信じられませんわね。四戸がないなら次はどうなるんですの?」



「五戸(ごのへ)だ。」



 エリシアは目を細めてヴァイを睨みつけたが、最終的に肩をすくめて深いため息をついた。



「……日本の地名、本当にめんどくさいですわね。」



 ヴァイはニヤリと笑いながらアクセルを踏み込んだ。



「四戸探しに行くか?どっかに隠れてるかもな!」

「……行きませんわよ。」



 車内には、呆れるエリシアと笑いが止まらないヴァイの声が響いていた。



 エリシアは腕を組みながら順番に呟き始めた。



「一戸、二戸、三戸……五戸、六戸、七戸、八戸、九戸……」



 横で聞いていたヴァイが突然ハンドルを叩きながら怒鳴った。



「ッンダァ!このプリウスぶっ殺すぞ!」



 エリシアはチラリとヴァイを見たが、すぐに無視して続けた。



「で……じゅうのへ?十戸ですの?」



 ヴァイはタバコを吸いながらニヤリと笑い、首を横に振った。



「いや、10になるとな……」



 ここで声のトーンを上げた。





「十和田になるんだぜええええ!」

「はああああぁあああ!?」



 エリシアは目を見開き、スマホを放り出してヴァイを睨んだ。



「どういうことですの!?急に『和田』なんですの!?『十戸』じゃありませんの!?」



 ヴァイはアクセルを少し踏み込みながら肩をすくめた。



「さあな!日本の地名の妙ってやつだ。面白えだろ?」

「面白くありませんわ!そんなの無駄に覚えるだけ損ですわよ!」



 エリシアが憤慨している間も、ヴァイは愉快そうに笑い続けていた。車は依然として猛スピードで高速道路を疾走している。



次のエピソードへ進む あの鳥


みんなのリアクション

 昼下がりの高速道路。
 メルセデス190Eが猛スピードで車列を縫うように疾走していた。
 ウィンカーも無視、後方から異常接近、もはや煽り運転というレベルではない。
 ——パアアアアアァン!
 鳴り響くクラクションを背後に、車は一切減速せず走り続ける。
「ひえええ〜田舎もんばっかだぜぇ〜!」
 ヴァイがハンドルを片手で握りながら叫ぶ。そのもう一方の手にはタバコが挟まっている。
 助手席に座るエリシアは、そんな状況にも関わらず、スマホを弄りながら退屈そうな表情を浮かべていた。
 少し前、メーターが「200km/h」を超えた瞬間にはしゃいでいたエリシアだったが、その興奮もすぐに冷めてしまったようだ。
「200なんて所詮、地上の速度ですわよね……。」
 彼女はぼんやりと呟きながら、画面をスワイプしている。
 ヴァイはそんな彼女をチラリと見て笑う。
「おいおい、退屈してんじゃねえよ!次は300km/h行くぞぉ!」
「……あぁ、好きになさいませ。」
 エリシアは興味なさげに答えると、再びスマホに目を戻した。
 車はさらにスピードを上げ、ほかの車両が次々と後方に消えていく。
 一方で、追い越されていく運転手たちの車内では、驚愕と恐怖が交錯していた——。
 突如としてヴァイの運転に変化が訪れた。
 これまで車列を縫うように疾走していたメルセデス190Eが、いきなり走行車線に割り込み、まるで模範的なドライバーのように速度を落とした。
「……どうしたんですの?」
 エリシアがスマホから目を上げて、ヴァイを横目で見やる。
 ヴァイはタバコをくわえたまま、軽く指を前方に向けた。
「先頭、覆面だわ。」
「……あっそ。」
 エリシアは興味なさげに呟くと、再びスマホの画面に視線を落とした。
 メルセデスはそれまでの荒々しさが嘘のように穏やかに流れ、交通法規を忠実に守りながら走り続けた。
 ヴァイが再びアクセルを踏み込もうとした瞬間、エリシアがふと前方を指差した。
「ちょっと、あの車のナンバー……何て書いてありますの?」
 ヴァイは軽く視線を前にやり、ナンバープレートを確認する。
「みず……と?」
 エリシアが首をかしげながらそう言うと、ヴァイは即座に訂正した。
「みと、な。水戸。」
「……ふぅん。」
 エリシアは特に興味なさそうに応じると、再びスマホに戻る。
 ヴァイは少し笑いながらアクセルを踏み込み、車列をまた縫い始めた。
「おいおい、『みずと』ってどこの未開都市だよ。」
「どうでもいいですわ。」
 エリシアの適当な返答を聞きながら、ヴァイは楽しそうにハンドルを切る。その車内は、相変わらず奇妙な静と動が混じり合っていた。
 エリシアの目に、今度は「八戸」と書かれたナンバープレートが入った。
「……や、やと?」
 ヴァイは苦笑いしながら、またも即座に訂正した。
「ちげえよ、はちのへ、な。八戸。」
「ふぅん。」
 エリシアは興味なさげにスマホをいじりながら、ふと呟く。
「日本の地名は本当にめんどくさいですわね。読む人を惑わせるためにわざと難しくしているんじゃありませんの?」
 ヴァイは肩をすくめ、片手でタバコを軽く持ち上げる。
「ま、そういう文化だろ。気にすんな。」
「ふむ……まぁ、どうでもいいですけど。」
 エリシアは適当に話を切り上げると再びスマホに集中し始めた。一方、ヴァイはアクセルを軽く踏みながら、ニヤリと笑う。
 ヴァイが思い出したように話を続けた。
「知ってるか?一戸(いちのへ)ってのもあるんだぜ。」
 エリシアは一瞬スマホから目を上げ、興味なさそうに相槌を打つ。
「へぇ、一戸。じゃあ二戸、三戸、四戸……?」
 ヴァイは肩を揺らして笑いながら、頭を横に振った。
「四戸はねえよ。」
「……はぁぁああ!?どういうことですの?」
 エリシアは完全にスマホを放り出し、ヴァイを睨むように振り向いた。
「一戸、二戸、三戸って来て、四戸がない?日本人の命名センスどうなってますの!?」
 ヴァイはタバコをふかしながら苦笑いを浮かべた。
「知らねえよ、歴史的なアレだろ。四戸だけスキップしてんだよ。」
「……信じられませんわね。四戸がないなら次はどうなるんですの?」
「五戸(ごのへ)だ。」
 エリシアは目を細めてヴァイを睨みつけたが、最終的に肩をすくめて深いため息をついた。
「……日本の地名、本当にめんどくさいですわね。」
 ヴァイはニヤリと笑いながらアクセルを踏み込んだ。
「四戸探しに行くか?どっかに隠れてるかもな!」
「……行きませんわよ。」
 車内には、呆れるエリシアと笑いが止まらないヴァイの声が響いていた。
 エリシアは腕を組みながら順番に呟き始めた。
「一戸、二戸、三戸……五戸、六戸、七戸、八戸、九戸……」
 横で聞いていたヴァイが突然ハンドルを叩きながら怒鳴った。
「ッンダァ!このプリウスぶっ殺すぞ!」
 エリシアはチラリとヴァイを見たが、すぐに無視して続けた。
「で……じゅうのへ?十戸ですの?」
 ヴァイはタバコを吸いながらニヤリと笑い、首を横に振った。
「いや、10になるとな……」
 ここで声のトーンを上げた。
「十和田になるんだぜええええ!」
「はああああぁあああ!?」
 エリシアは目を見開き、スマホを放り出してヴァイを睨んだ。
「どういうことですの!?急に『和田』なんですの!?『十戸』じゃありませんの!?」
 ヴァイはアクセルを少し踏み込みながら肩をすくめた。
「さあな!日本の地名の妙ってやつだ。面白えだろ?」
「面白くありませんわ!そんなの無駄に覚えるだけ損ですわよ!」
 エリシアが憤慨している間も、ヴァイは愉快そうに笑い続けていた。車は依然として猛スピードで高速道路を疾走している。