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1,レオン・クロックワーク覚醒

ー/ー



 最初に言っておくけれど、これは勇者が敵と戦う類いの物語ではない。



「……レ……レオン。ねえ、レオン。

 ……レオンったら。ねえ……返事して!」
 
 
 
 あの日、震える泣き声に呼ばれて、俺は覚醒した。 
 
 
 
 暗闇の中で目を開ける。しゃくり上げながら泣き声が言う。
 
「レオン、お願いだからここに来て。僕のところに。

 ギアアークの勇者レオン・クロックワーク、僕を助けて!」
 
 
 声がするほうに顔を向けると、暗い中に、そこだけ薄ぼんやりとした光が見える。目をこらしながら、ゆっくりと起き上る。
 
 だんだん視界がクリアになり、境界の曖昧な丸い穴の向こうが明るく見えた。台の上で、少年が顔をくしゃくしゃにして泣いている。
 
 自分も、穴のこちら側で彼と同じような台の上にいる。それがベッドというものだということは、後から知った。
 
 彼のところに行かなくては。そう思い、台から両足を下ろして立ち上がると、少年がこちらを見た。
 
「レオン? レオンなの?」

 涙でいっぱいの目が見開かれる。
 
「あ……」

 自分がレオンなのかどうかわからないが、とにかく丸い穴を通り抜けて少年のそばまで歩いて行く。すると、彼が叫んだ。
 
「レオン、本当に来てくれたんだね!」

 だが、なんと答えればいいのかわからない。自分には何一つわからない。
 
 ただ少年の顔を見つめていると、彼は何かに気づいたように、「ああそうか」とつぶやいた。
 
 
「あのね、君はレオン・クロックワーク。蒸気都市ギアアークで、人間を機械化しようとするクロノスオーダーと戦う勇者なんだよ」

「蒸気……?」

「そう。君は蒸気都市ギアアークを守るため、日夜敵勢力と戦っているんだ」

 一生懸命に説明してくれるが、まったく意味がわからない。戸惑っていると、彼が脇の台の上にあった四角く薄い板を差し出しながら言った。
 
「まずは鏡を見てよ」

 それは、滑らかな表面に、物が映る道具だった。そこに、自分の顔が映る。 
 
 驚きとともにじっと見入っていると、さっきまで泣いていた少年が、うれしそうに説明する。
 
「はちみつ色の髪に鳶色の瞳、17歳、身長180cm、筋肉質ながら、すらりとしてしなやかな体形のとびきりのイケメン。それにその、カッコいいスチームパンクファッション。

 ああ、僕が思い描いた通りだ!」
 
 つまり、それが自分のことらしい。振り返ると、少年が言った。
 
「わかってるよ、僕もそうだったから」

「え?」

「僕は事故に遭って怪我をしたときに、今までのことは全部忘れちゃったんだ。記憶喪失ってやつ。

 だから最初はなんにもわからなかったけど、おじいちゃんとおばあちゃんや恭平くんがいろいろ教えてくれて、たいていのことはわかるようになった。
 
 後遺症があって学校には行けないけど、家で勉強したり本を読んだりして過ごしているんだよ」
 
「はあ」

「レオンも今までのこと、何も覚えていないんでしょう? でも大丈夫。

 全部僕が教えてあげるからね」
 
「はあ」

 何を言われても、「はあ」としか答えられない。

「それにしても、本当に僕のところに来てくれるなんて!」

 少年が感嘆の声を上げた。色白の頬に赤みが差している。
 
 
 
 少年の名前は北城律人といった。現在11歳。
 
 10歳のときに交通事故に遭い、両親を亡くした上に、それ以前の記憶も失ったという。それだけでなく、後遺症のために歩くのに杖が必要になり、しばしば起こる頭痛や体調不良のために学校に通うことも出来ないのだそうだ。
 
 過去の記憶がないため、両親や、元気だった頃の自分を思い出して辛くなるようなことはないが、体が思うようにならないことがもどかしいという。
 
 今は祖父母と、亡き父の末の弟である年若い叔父の恭平と暮らしているそうだ。みな律人のことを、とても大切にしてくれるという。
 
 退屈している律人のために、恭平が本を何冊も買ってきてくれ、その中の、スチームパンクの世界で戦う勇者の物語にハマったのだそうだ。
 
 物語の虜になった律人は、自分でもオリジナルのキャラクターを創り出したいと思い立った。そして、想像を重ね、試行錯誤した末に生み出されたのが、ギアアークの勇者レオン・クロックワークだったのだ。
 
 
 どんなに家族に愛されていても、体の不自由さや痛みは変わらない。家族の前では明るくふるまっていても、体調が悪いときには気持ちがひどく落ち込んで、一人部屋で寝ていると、涙が止まらなくなることもあるという。
 
 そんなとき、思わず、自分が創ったキャラクターに助けを求めた。その声が、彼の創造物である俺を目覚めさせたのだった。


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 最初に言っておくけれど、これは勇者が敵と戦う類いの物語ではない。
「……レ……レオン。ねえ、レオン。
 ……レオンったら。ねえ……返事して!」
 あの日、震える泣き声に呼ばれて、俺は覚醒した。 
 暗闇の中で目を開ける。しゃくり上げながら泣き声が言う。
「レオン、お願いだからここに来て。僕のところに。
 ギアアークの勇者レオン・クロックワーク、僕を助けて!」
 声がするほうに顔を向けると、暗い中に、そこだけ薄ぼんやりとした光が見える。目をこらしながら、ゆっくりと起き上る。
 だんだん視界がクリアになり、境界の曖昧な丸い穴の向こうが明るく見えた。台の上で、少年が顔をくしゃくしゃにして泣いている。
 自分も、穴のこちら側で彼と同じような台の上にいる。それがベッドというものだということは、後から知った。
 彼のところに行かなくては。そう思い、台から両足を下ろして立ち上がると、少年がこちらを見た。
「レオン? レオンなの?」
 涙でいっぱいの目が見開かれる。
「あ……」
 自分がレオンなのかどうかわからないが、とにかく丸い穴を通り抜けて少年のそばまで歩いて行く。すると、彼が叫んだ。
「レオン、本当に来てくれたんだね!」
 だが、なんと答えればいいのかわからない。自分には何一つわからない。
 ただ少年の顔を見つめていると、彼は何かに気づいたように、「ああそうか」とつぶやいた。
「あのね、君はレオン・クロックワーク。蒸気都市ギアアークで、人間を機械化しようとするクロノスオーダーと戦う勇者なんだよ」
「蒸気……?」
「そう。君は蒸気都市ギアアークを守るため、日夜敵勢力と戦っているんだ」
 一生懸命に説明してくれるが、まったく意味がわからない。戸惑っていると、彼が脇の台の上にあった四角く薄い板を差し出しながら言った。
「まずは鏡を見てよ」
 それは、滑らかな表面に、物が映る道具だった。そこに、自分の顔が映る。 
 驚きとともにじっと見入っていると、さっきまで泣いていた少年が、うれしそうに説明する。
「はちみつ色の髪に鳶色の瞳、17歳、身長180cm、筋肉質ながら、すらりとしてしなやかな体形のとびきりのイケメン。それにその、カッコいいスチームパンクファッション。
 ああ、僕が思い描いた通りだ!」
 つまり、それが自分のことらしい。振り返ると、少年が言った。
「わかってるよ、僕もそうだったから」
「え?」
「僕は事故に遭って怪我をしたときに、今までのことは全部忘れちゃったんだ。記憶喪失ってやつ。
 だから最初はなんにもわからなかったけど、おじいちゃんとおばあちゃんや恭平くんがいろいろ教えてくれて、たいていのことはわかるようになった。
 後遺症があって学校には行けないけど、家で勉強したり本を読んだりして過ごしているんだよ」
「はあ」
「レオンも今までのこと、何も覚えていないんでしょう? でも大丈夫。
 全部僕が教えてあげるからね」
「はあ」
 何を言われても、「はあ」としか答えられない。
「それにしても、本当に僕のところに来てくれるなんて!」
 少年が感嘆の声を上げた。色白の頬に赤みが差している。
 少年の名前は北城律人といった。現在11歳。
 10歳のときに交通事故に遭い、両親を亡くした上に、それ以前の記憶も失ったという。それだけでなく、後遺症のために歩くのに杖が必要になり、しばしば起こる頭痛や体調不良のために学校に通うことも出来ないのだそうだ。
 過去の記憶がないため、両親や、元気だった頃の自分を思い出して辛くなるようなことはないが、体が思うようにならないことがもどかしいという。
 今は祖父母と、亡き父の末の弟である年若い叔父の恭平と暮らしているそうだ。みな律人のことを、とても大切にしてくれるという。
 退屈している律人のために、恭平が本を何冊も買ってきてくれ、その中の、スチームパンクの世界で戦う勇者の物語にハマったのだそうだ。
 物語の虜になった律人は、自分でもオリジナルのキャラクターを創り出したいと思い立った。そして、想像を重ね、試行錯誤した末に生み出されたのが、ギアアークの勇者レオン・クロックワークだったのだ。
 どんなに家族に愛されていても、体の不自由さや痛みは変わらない。家族の前では明るくふるまっていても、体調が悪いときには気持ちがひどく落ち込んで、一人部屋で寝ていると、涙が止まらなくなることもあるという。
 そんなとき、思わず、自分が創ったキャラクターに助けを求めた。その声が、彼の創造物である俺を目覚めさせたのだった。