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碧空の境界線

ー/ー




      ー*ー*ー*ー

  碧空を 真っ直ぐ横切る飛行機雲
  竹林の葉陰に 見え隠れする

      ー*ー*ー*ー



 大学の講義が休みの日、洸太(こうた)は古びた庭園の奥にある竹林に足を運んでいた。

見上げるほどの高さに伸びた竹が整然と並び、風が渡るたび、硬い幹同士が「カラン」と乾いた音を打ち合わせる。


ふと立ち止まり、顔を上げる。


重なり合う葉の隙間から、吸い込まれるように澄んだ碧空がのぞいていた。

そこを、一本の真っ白な飛行機雲が、ためらいなく横切っていく。

空を切り裂くというより、縫い止めるような、異様にまっすぐな線だった。
「……来たな」


 手の中の古い方位磁針に視線を落とすと、針が躊躇なく回転を始める。


この街では、ときおり空に引かれる“線”を合図に、世界の裏側が薄く透ける瞬間が訪れる。


竹の葉陰に隠れ、現れては消える飛行機雲。

地上から見れば、ただの水蒸気の名残。だが、特定の感覚を持つ者には、それは理をつなぎ留める鎖として映る。

空の碧が深いほど、その拘束は強く、世界はきつく結ばれる。

背後で、「カサッ」と落ち葉を踏む音がした。


振り返ると、そこには、さっきまで確かに存在しなかった少女が立っていた。
真っ白な服。揺れない足元。瞳だけが、空と同じ碧を宿している。


「迷った?」
問いかけに、少女は答えず、飛行機雲を指差した。


「あの線が消える前に帰らないと。……道、つないで」
カイは黙って頷き、足元に落ちていた小枝を拾う。


落ち葉を掃き、空の白線と並行になるよう、地面に一本の溝を刻んだ。

空の白。地の黒。
二つの線が重なった瞬間、竹林の空気がかすかに震え、少女の輪郭が陽炎のように揺らいだ。


次の瞬間、彼女は音もなく、碧空へと溶けていった。

あとに残ったのは、風に鳴る竹の葉のざわめきと、ほどけかけた飛行機雲の痕跡だけだった。



*日記風雑感*

冬の晴れ間。乾いた空気の中で見上げる空の色は、どこまでも澄んでいる。
上空で聴こえる鳶の高らかな声。遠く、近く、そして遠く。



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      ー*ー*ー*ー
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  竹林の葉陰に 見え隠れする
      ー*ー*ー*ー
 大学の講義が休みの日、|洸太《こうた》は古びた庭園の奥にある竹林に足を運んでいた。
見上げるほどの高さに伸びた竹が整然と並び、風が渡るたび、硬い幹同士が「カラン」と乾いた音を打ち合わせる。
ふと立ち止まり、顔を上げる。
重なり合う葉の隙間から、吸い込まれるように澄んだ碧空がのぞいていた。
そこを、一本の真っ白な飛行機雲が、ためらいなく横切っていく。
空を切り裂くというより、縫い止めるような、異様にまっすぐな線だった。
「……来たな」
 手の中の古い方位磁針に視線を落とすと、針が躊躇なく回転を始める。
この街では、ときおり空に引かれる“線”を合図に、世界の裏側が薄く透ける瞬間が訪れる。
竹の葉陰に隠れ、現れては消える飛行機雲。
地上から見れば、ただの水蒸気の名残。だが、特定の感覚を持つ者には、それは理をつなぎ留める鎖として映る。
空の碧が深いほど、その拘束は強く、世界はきつく結ばれる。
背後で、「カサッ」と落ち葉を踏む音がした。
振り返ると、そこには、さっきまで確かに存在しなかった少女が立っていた。
真っ白な服。揺れない足元。瞳だけが、空と同じ碧を宿している。
「迷った?」
問いかけに、少女は答えず、飛行機雲を指差した。
「あの線が消える前に帰らないと。……道、つないで」
カイは黙って頷き、足元に落ちていた小枝を拾う。
落ち葉を掃き、空の白線と並行になるよう、地面に一本の溝を刻んだ。
空の白。地の黒。
二つの線が重なった瞬間、竹林の空気がかすかに震え、少女の輪郭が陽炎のように揺らいだ。
次の瞬間、彼女は音もなく、碧空へと溶けていった。
あとに残ったのは、風に鳴る竹の葉のざわめきと、ほどけかけた飛行機雲の痕跡だけだった。
*日記風雑感*
冬の晴れ間。乾いた空気の中で見上げる空の色は、どこまでも澄んでいる。
上空で聴こえる鳶の高らかな声。遠く、近く、そして遠く。