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第89話 新装開店、リニューアルオープン!

ー/ー



 まるでお祭りのような賑わいだ。ここまで大騒ぎするほどのことなのかと思わないでもない。何故か屋台を開いている行商人までおるぞ。

 今日は、改築工事を行ったミモザの店が開店する日だ。常連客やら野次馬やらがこれでもかというくらいにたかっている。少しは盛り上がるだろう程度には思っていたが、よもやここまで盛り上がるとは。

「ふわぁ……お店の前がしゅごいことになってまふ」

 ミモザも窓辺から見える景色を興奮気味に言う。

 店内の様子はほどほどに緊張している。
 初めて店を開いたときとは幾分かマシなのかもしれない。

 改築工事を行った店はかなり広くなっていた。そりゃあまあ、周辺の土地も買い取って店の敷地ごとグンと伸ばしたのだから当然と言えば当然だが。
 我としては、もっと二階、三階と高く構えた店にしてしまってもいいとは思ったが、そこのところはミモザの意向だ。

 ずらりと並んだ冒険用の魔具の棚から携帯食料の棚。
 この辺りは今まで通りの構え。

 それに加え、前だったら密かにやっていた修繕サービスもオープンにやるようになり、工房の一部も店の片隅に食い込んでいる。

 結構な大改造になるが、改築費用やら何やらについては今回我は関与していない。
 全額ミモザが負担している。何せ、ミモザの店なのだからな。

 ちなみに程度に言っておくと、以前の店舗の諸経費はとっくに完済している。
 なんだかそう考えると、ミモザの店だけでなく、ミモザも大きくなったなぁ、と思わされてしまうものだ。相変わらず背の丈は我と大差ないくらいだが。

「そろそろ時間じゃないのか? 準備の方は良いのだろうな」
「はい、それは大丈夫れす! みなさん、よろしくお願いしまふですっ!」

 そういってミモザはくるっと振り向き、店内に配備された店員たちに声を掛ける。
 お店を大きくしたついでに、店員もミモザが新しく雇った。今までは我の使用人たちを借り出していたようなものだったからな。

「デニアしゃん!」
「はぁい」
「ヤスミしゃん!」
「はいっ!」
「ノイデスしゃん!」
「おう!」
「サンシしゃん!」
「お任せください」

 ミモザが一人一人を点呼していく。店員の求人と面接は我も立ち会っている。パエデロスの外からやってきたものも含まれておったからな。
 いつぞやも我が新しい使用人を雇おうとしたときも不届きなものも混じっていた前科もあって、その辺りはしっかりと目を光らせておいた。

 背が高く、さらっとした白髪で褐色の女はエルフのデニア。胸に栄養が持っていかれすぎているのか、見るからに頭の回転が遅いおっとり女だが、あれでいて気配りはしっかりできていて、使用人としての経験も長いらしい。

 黒髪を奇妙な形に結んだツインテールの小娘はヤスミ。遠方にある東の島国出身らしく、何やら独特の価値観を持っている変な奴。人間としてもかなり若い方ではあるが、持ち前の明るさは今回雇った中ではダントツだろう。

 一際目を見張る黒光りする筋肉質な女はノイデス。聞くところによるとオーガと人間のハーフなんだとか。接客面はまるで期待していないが、工房の方では準備段階からミモザの助手としてかなり助かっていたようだ。

 そして最後は、我やミモザくらいに小さい小娘のまた小娘はサンシ。見間違うことはない、山の民ドワーフだ。実際に会うまではもう少し野性的で野蛮な印象を持っておったのだが、人情に厚く礼儀正しい常識人。ちなみにミモザとほぼ同い年。

 その他に何人か我の使用人も店内に配備されていたりするが、それは今日限りのつもりでいる。ミモザ当人からもお願いされていることだ。
 名残惜しくはあるが、ここはあくまでミモザの店であり、長いことおんぶに抱っこのなあなあで営業してきたが、ミモザはそろそろ卒業したいそうだ。

 我もこれ以上は口出すまい。むしろ、口も手も足も金も何もかも出し過ぎているわけで、ようやく過保護も辞め時を見つけたという感じだ。

「店長ぉ~っ、扉を開けてきますねぇ~」
 緊張感を欠くようなおっとりボイスでデニアが玄関前に着く。

「いよいよですね。拙者も緊張してまいりました」
 息を整えるようにもふぅと深呼吸をしたのはヤスミだ。

「くぅ~、腕が鳴るぜ!」
 客と一戦を交えるつもりかと言わんばかりにノイデスが拳をポキポキ鳴らす。

「……」
 冷静沈着を装うようにサンシは手元の工具を撫でている。

 各々がそれぞれの覚悟を抱き、店の扉は開かれた。

「いらっしゃいましぇえええぇぇ!!!!!」

 次の瞬間には、ミモザの精一杯の大音声なんぞあっさり掻き消えるほどの客たちの雑踏が店内をドドドドと制圧する。まさに波が押し寄せてくるように、店内はあれよあれよという間に客で一気に埋め尽くされていった。

 ※ ※ ※

 ※ ※

 ※

「お疲れさまれした!!」

 最後の客を見送り、店の玄関を閉じて一呼吸。ミモザは眩しいくらいの笑顔で、今日の仕事の締めの一言を店内に響かせる。

 上々といったところだろうか。売り上げについてはリニューアルしたてだから普段よりも格段に伸び伸びではあったし、大盛況のまま初日を終えられた。

 基本的には、我とミモザと会計の方に回っているのはいつも通り。
 そこにおっとりデニアと、てきぱきヤスミが間に入り込み、接客は完璧だった。
 この店に置いてある商品はミモザのオリジナルばかりで、使用用途やら性能やらを覚えておくのも大変なはずだが、それも感じさせないくらい。

 よからぬ客も幾分か現れたが、ノイデスの威圧にたじろいでどうにかなった場面も何度かあった。魔具製作の助手が本分であまり客の前に出せるような奴じゃないとは思っていたが、存外、ボディガードとしては優秀なようだ。

 そんな中でも陰の功労者として、サンシも大活躍していた。店の片隅の工房を担当してもらっていたわけだが、思いの外、修繕サービスの入りも多く、これは回しきれないのでは、という不安を払うように、ほぼ一人でやりきっていた。

「いやぁ~、さすがですね。パエデロスでの噂は聞いていましたが、私の想像を遙かに超えていました。店長さんの魔具のおかげなのでしょうねぇ」
 疲れの色を見せるデニアは、ミモザの目の高さに合わせて膝を折り、敬うよう、賞賛の言葉を並べる。

「拙者も良い経験になりました。今後とも何卒よしなに!」
 デニアとは対照的に、まだ元気が余っているのか、ヤスミは明るく振る舞い、ミモザに向けてビシッと深く頭をたれた。

「うしっ! 終わったな! 師匠っ! 次の分の製作しようぜ!」
「ほわぁっ!」
 こっちに至っては未だ活力がみなぎっている様子で、ノイデスは意気揚々とミモザの身体を持ち上げ、肩にかついでいく。って、おい、待てコラ。

「ノイデスさん。お嬢はお疲れだ。休息することも大事なのですよ」
 と、サンシが工房からノイデスの行く手を阻む。ノイデスと比べると大人と子供ほどの体格差があって、見た目と中身のギャップに頭がおかしくなりそうだ。

「サンシの言う通りだ。ミモザを降ろせ」
「うぃっす、フィー様」
 そういって一応は素直にノイデスはミモザをそっと降ろす。……やれやれ。

 新しく雇われた店員たちは我の使用人とは違って御しきれないところはあるが、仮にもパエデロスの、ないしは我やミモザの噂を聞きつけて集まった者ばかり。
 ある程度は敬い、そして慕っていることは間違いない。

 我の関与していない連中がミモザの店で働くことには無論、不安も大きかったが、今日の働きっぷりを見た感じでは、とりあえず大丈夫と見ていいだろう。


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 まるでお祭りのような賑わいだ。ここまで大騒ぎするほどのことなのかと思わないでもない。何故か屋台を開いている行商人までおるぞ。
 今日は、改築工事を行ったミモザの店が開店する日だ。常連客やら野次馬やらがこれでもかというくらいにたかっている。少しは盛り上がるだろう程度には思っていたが、よもやここまで盛り上がるとは。
「ふわぁ……お店の前がしゅごいことになってまふ」
 ミモザも窓辺から見える景色を興奮気味に言う。
 店内の様子はほどほどに緊張している。
 初めて店を開いたときとは幾分かマシなのかもしれない。
 改築工事を行った店はかなり広くなっていた。そりゃあまあ、周辺の土地も買い取って店の敷地ごとグンと伸ばしたのだから当然と言えば当然だが。
 我としては、もっと二階、三階と高く構えた店にしてしまってもいいとは思ったが、そこのところはミモザの意向だ。
 ずらりと並んだ冒険用の魔具の棚から携帯食料の棚。
 この辺りは今まで通りの構え。
 それに加え、前だったら密かにやっていた修繕サービスもオープンにやるようになり、工房の一部も店の片隅に食い込んでいる。
 結構な大改造になるが、改築費用やら何やらについては今回我は関与していない。
 全額ミモザが負担している。何せ、ミモザの店なのだからな。
 ちなみに程度に言っておくと、以前の店舗の諸経費はとっくに完済している。
 なんだかそう考えると、ミモザの店だけでなく、ミモザも大きくなったなぁ、と思わされてしまうものだ。相変わらず背の丈は我と大差ないくらいだが。
「そろそろ時間じゃないのか? 準備の方は良いのだろうな」
「はい、それは大丈夫れす! みなさん、よろしくお願いしまふですっ!」
 そういってミモザはくるっと振り向き、店内に配備された店員たちに声を掛ける。
 お店を大きくしたついでに、店員もミモザが新しく雇った。今までは我の使用人たちを借り出していたようなものだったからな。
「デニアしゃん!」
「はぁい」
「ヤスミしゃん!」
「はいっ!」
「ノイデスしゃん!」
「おう!」
「サンシしゃん!」
「お任せください」
 ミモザが一人一人を点呼していく。店員の求人と面接は我も立ち会っている。パエデロスの外からやってきたものも含まれておったからな。
 いつぞやも我が新しい使用人を雇おうとしたときも不届きなものも混じっていた前科もあって、その辺りはしっかりと目を光らせておいた。
 背が高く、さらっとした白髪で褐色の女はエルフのデニア。胸に栄養が持っていかれすぎているのか、見るからに頭の回転が遅いおっとり女だが、あれでいて気配りはしっかりできていて、使用人としての経験も長いらしい。
 黒髪を奇妙な形に結んだツインテールの小娘はヤスミ。遠方にある東の島国出身らしく、何やら独特の価値観を持っている変な奴。人間としてもかなり若い方ではあるが、持ち前の明るさは今回雇った中ではダントツだろう。
 一際目を見張る黒光りする筋肉質な女はノイデス。聞くところによるとオーガと人間のハーフなんだとか。接客面はまるで期待していないが、工房の方では準備段階からミモザの助手としてかなり助かっていたようだ。
 そして最後は、我やミモザくらいに小さい小娘のまた小娘はサンシ。見間違うことはない、山の民ドワーフだ。実際に会うまではもう少し野性的で野蛮な印象を持っておったのだが、人情に厚く礼儀正しい常識人。ちなみにミモザとほぼ同い年。
 その他に何人か我の使用人も店内に配備されていたりするが、それは今日限りのつもりでいる。ミモザ当人からもお願いされていることだ。
 名残惜しくはあるが、ここはあくまでミモザの店であり、長いことおんぶに抱っこのなあなあで営業してきたが、ミモザはそろそろ卒業したいそうだ。
 我もこれ以上は口出すまい。むしろ、口も手も足も金も何もかも出し過ぎているわけで、ようやく過保護も辞め時を見つけたという感じだ。
「店長ぉ~っ、扉を開けてきますねぇ~」
 緊張感を欠くようなおっとりボイスでデニアが玄関前に着く。
「いよいよですね。拙者も緊張してまいりました」
 息を整えるようにもふぅと深呼吸をしたのはヤスミだ。
「くぅ~、腕が鳴るぜ!」
 客と一戦を交えるつもりかと言わんばかりにノイデスが拳をポキポキ鳴らす。
「……」
 冷静沈着を装うようにサンシは手元の工具を撫でている。
 各々がそれぞれの覚悟を抱き、店の扉は開かれた。
「いらっしゃいましぇえええぇぇ!!!!!」
 次の瞬間には、ミモザの精一杯の大音声なんぞあっさり掻き消えるほどの客たちの雑踏が店内をドドドドと制圧する。まさに波が押し寄せてくるように、店内はあれよあれよという間に客で一気に埋め尽くされていった。
 ※ ※ ※
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「お疲れさまれした!!」
 最後の客を見送り、店の玄関を閉じて一呼吸。ミモザは眩しいくらいの笑顔で、今日の仕事の締めの一言を店内に響かせる。
 上々といったところだろうか。売り上げについてはリニューアルしたてだから普段よりも格段に伸び伸びではあったし、大盛況のまま初日を終えられた。
 基本的には、我とミモザと会計の方に回っているのはいつも通り。
 そこにおっとりデニアと、てきぱきヤスミが間に入り込み、接客は完璧だった。
 この店に置いてある商品はミモザのオリジナルばかりで、使用用途やら性能やらを覚えておくのも大変なはずだが、それも感じさせないくらい。
 よからぬ客も幾分か現れたが、ノイデスの威圧にたじろいでどうにかなった場面も何度かあった。魔具製作の助手が本分であまり客の前に出せるような奴じゃないとは思っていたが、存外、ボディガードとしては優秀なようだ。
 そんな中でも陰の功労者として、サンシも大活躍していた。店の片隅の工房を担当してもらっていたわけだが、思いの外、修繕サービスの入りも多く、これは回しきれないのでは、という不安を払うように、ほぼ一人でやりきっていた。
「いやぁ~、さすがですね。パエデロスでの噂は聞いていましたが、私の想像を遙かに超えていました。店長さんの魔具のおかげなのでしょうねぇ」
 疲れの色を見せるデニアは、ミモザの目の高さに合わせて膝を折り、敬うよう、賞賛の言葉を並べる。
「拙者も良い経験になりました。今後とも何卒よしなに!」
 デニアとは対照的に、まだ元気が余っているのか、ヤスミは明るく振る舞い、ミモザに向けてビシッと深く頭をたれた。
「うしっ! 終わったな! 師匠っ! 次の分の製作しようぜ!」
「ほわぁっ!」
 こっちに至っては未だ活力がみなぎっている様子で、ノイデスは意気揚々とミモザの身体を持ち上げ、肩にかついでいく。って、おい、待てコラ。
「ノイデスさん。お嬢はお疲れだ。休息することも大事なのですよ」
 と、サンシが工房からノイデスの行く手を阻む。ノイデスと比べると大人と子供ほどの体格差があって、見た目と中身のギャップに頭がおかしくなりそうだ。
「サンシの言う通りだ。ミモザを降ろせ」
「うぃっす、フィー様」
 そういって一応は素直にノイデスはミモザをそっと降ろす。……やれやれ。
 新しく雇われた店員たちは我の使用人とは違って御しきれないところはあるが、仮にもパエデロスの、ないしは我やミモザの噂を聞きつけて集まった者ばかり。
 ある程度は敬い、そして慕っていることは間違いない。
 我の関与していない連中がミモザの店で働くことには無論、不安も大きかったが、今日の働きっぷりを見た感じでは、とりあえず大丈夫と見ていいだろう。