第85話 彼女は悪役令嬢

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「なんだと!? なんで我がそんなことをせねばならぬのだ!!」

 我の屋敷の応接室に寄って集って並んでいるのは、勇者ロータスと、女魔法使いダリアと、女僧侶マルペル。ついでとばかりに屈強な戦士リンドーだった。

 そうそうたるメンツだ。かつて我が魔王軍を率いていた頃、我の城に攻め込んできて、あまつさえ我の命を奪った宿敵ともいえる連中だ。

 今では停戦協定を結んでいるからいいものを、こうも雁首揃えてくるとそれだけで危機感を覚えなくもない。不意打ちで心臓を刺されないかヒヤヒヤする。
 我の隣に座っているミモザも意味もなく怯えているではないか。

 こんな連中と同じテーブルを囲っているというこの事態がもう悪夢だ。

「フィーはパエデロスでもトップクラスの資産家なんだ。この街のためにも援助してもらいたい。この通りだ。頼む」
 キリッと真面目な顔でロータスが答える。これって厚顔無恥って奴じゃないの?

「ほら、ロータスがこうやって頭を下げてるんだからさぁ……ちょっとくらいお金を分けてくれたっていいんじゃない?」
 苦笑いながらも隣に座るダリアも大したキモの太さをしている。

「無茶を要求していることは重々承知してます。ですが、フィーちゃんにも是非協力してもらいたいんですよ」
 マルペルに至っては我の眼前にまで迫り、両手を握ってくる。

「おいおい、お嬢ちゃん、あんまり強気に出られる立場だと思ってるのか?」
 リンドーなど、今にも殴りかかってきそうな殺気を放っている。

「フィーしゃんをいじめないれくだしゃい!」
 我の背中から手を回し、ミモザが庇う。

「リンドー。俺たちは脅迫しにきたわけじゃない。あまり威圧しないでくれ」
 ロータスに制止され、舌打ちしつつもリンドーの視線が明後日の方向に向く。

「フィー、頼む。どうかこの通りだ。資金援助をお願いしたい……!」
 口を開けば金、金、金! 勇者として恥ずかしくないのか。

 全く以て意味の分からん状況だ。
 この街の治安維持を努めてきたトップの男に頭を下げさせて懇願させる。
 これではまるで我は悪役令嬢みたいではないか。

 気分がいいこともないが、要は我に取引を持ちかけているということだ。
 莫大な資産を持っているから、パエデロスの発展のために貸せと。

 はした金とは言わんが、我なら十分な資金を援助できるほどの蓄えはある。
 ほんの少し前にオークションで宝を売りさばいたからな。

 むしろあのときに会場を熱狂させすぎたせいで今に至ると言っても過言ではないのかもしれない。何せ、相当の額の金が動き、その様子がパエデロス中に知れ渡ってしまったのだから。

 どう取り繕っても「我、実はお金持ってないんです」などとは言い訳できまい。

 ロータスたちも資金繰りには日々悪戦苦闘しているのは分かっている。
 このパエデロスを発展させるために、これまでどれだけのことをしてきたかを知らないなどとはシラを切れないくらいに。

 それで資金難に陥っているというのならロータスたちの管理不足、自業自得なのではないか、とも思うが、事はそこまで単純な話ではない。

 あれはついぞ先日のことのように思う。
 パエデロスは一つの国家になるために遠方の先進国、レッドアイズ国から支援を受ける予定だった。

 パエデロスは生活水準も安定し、豊かな土地となりつつある一方、レッドアイズ国は名声こそあれど貧乏大国に落ちぶれておったからな。そこんところを持ちつ持たれつで上手いことバランスをとるような話になっていた。

 が、ご存じの通り、レッドアイズ国は国王がアカンことをしたせいで、マイナス方面にぶっちぎり。かつての栄光などクソ食らえ状態となってしまった。
 それだけでは済まされず、パエデロスにも悪評の余波が押し寄せてきたのだ。

 パエデロスの治安を維持しているリーダーのロータスという男は、レッドアイズ国に所属していて、そんでもって圧倒的な軍事力によって世界を恐怖のどん底に陥れた魔王の討伐に成功した。今や歴史の教科書に載ってるレベルの生きた伝説だ。

 それってつまり、今や悪名高き最低国のレッドアイズ国とロータスとの関係は切っても切れないようなものであり、レッドアイズ国が落ちぶれるということは即ちロータスも道連れということ他ならない。

 世間的な評価は「えーマジ、勇者!? キモーイ」「勇者が許されるのは魔王討伐したときまでだよね! キャハハハハハハ」ってなもんだろう。

 ロータスからしてみりゃあ積み上げたもの全部ぶっ壊されたようなものよ。身につけたもの取っ払われて裸一貫で一人相撲とってるも同然。

 その点で言うと、我はパエデロスの外にまでその名が知れ渡る謎の令嬢。
 実のところは先のオークションでも貴族や王族がこっそりと紛れ込んでいたらしく、どえりゃあ財宝をガッポガッポ持ってる資産家という認識も根付いたらしい。

 あのロータスが頭を下げてまで我に資金援助を乞う理由は大体そこだ。

 無論、金に困っていることも紛れもない事実だが、それは二の次で、本命は我を広告塔にしたいというのもあるだろう。こんなの交渉ってレベルじゃねーぞ!
 どう見ても我の名声に乗っかりたいだけです。本当にありがとうございました。

 ここで金をポンとくれてやったところで我へのメリットは如何ほどのものか。

 まずスカッとする。勇者ロータスをひざまずかせて、借しを作れるし。
 あと、停戦協定がより強固なものとなろう。ロータスは不義理な男ではないし。
 逆に断ることの方が大ブーイングものだろう。

 でもなぁ、しかしなぁ、相手は我の心臓に剣をブッ刺して魔力の全てを消し飛ばした奴だぞ。こんなん許せる? ねぇ、許せる?
 お前のこと殺したけど、謝るから金貸してくれ、って言われてホイホイ貸す?

 ぶっちゃけどの面下げて会いにきとんじゃ、って話だ。
 むりむりむり、やっぱむり。勇者の助けになりたいとか。絶対いえない。

「フィーしゃん……勇者しゃんの助けになりましょう? わたし、フィーさんが勇者しゃんとケンカしてるの見たくないれす……」
「いいだろう、ロータスよ。我が支援してやろうではないか。せいぜい無様な結果に終わらすでないぞ。今後のパエデロスの繁栄に期待させてもらおうか」

 ダリアとリンドーが唖然とした顔をしている。
 マルペルもキョトンとした顔をしている。
 ロータスだけは、この上なくイケメンスマイルで返してくる。

「ありがとう、フィー。この恩は忘れない」
 そしてそのまま立ち上がり、我の元までとことこと歩いてきたかと思えばひざまずいて我の手をとってきた。やめろや、その紳士ムーブ。ドキっとくるではないか。

「ふ、ふん……、目の前の厄介ごとを解消しておきたかっただけだ。ロータスのためではないのだからなっ!」
 おい、ダリア、何をそこでニヤニヤしておるのだ。マルペルもほのぼのしい笑顔で見守っているんじゃない! リンドーもドン引いた顔をするでないわ!

 全く以て、全く以て、全っっっく以て不本意である。
 だが、今後パエデロスが発展していく上では避けては通れまい。
 人間やら、エルフやら、オーガやら、なんやらかんやら異種族が呑気に暮らす平和すぎる街がただただそこに存在しているだけでいいはずもない。

 国としての地位も獲得しないことには、いつまで経っても辺境の地。
 領土問題でいざこざが起き始めるまで秒読みだった状態だ。
 今回のことで、パエデロスが大きく発展していくならそれもよかろう。

 我はただ、勇者に貸しを作った悪役令嬢としていさせてもらうまでだ。


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「なんだと!? なんで我がそんなことをせねばならぬのだ!!」
 我の屋敷の応接室に寄って集って並んでいるのは、勇者ロータスと、女魔法使いダリアと、女僧侶マルペル。ついでとばかりに屈強な戦士リンドーだった。
 そうそうたるメンツだ。かつて我が魔王軍を率いていた頃、我の城に攻め込んできて、あまつさえ我の命を奪った宿敵ともいえる連中だ。
 今では停戦協定を結んでいるからいいものを、こうも雁首揃えてくるとそれだけで危機感を覚えなくもない。不意打ちで心臓を刺されないかヒヤヒヤする。
 我の隣に座っているミモザも意味もなく怯えているではないか。
 こんな連中と同じテーブルを囲っているというこの事態がもう悪夢だ。
「フィーはパエデロスでもトップクラスの資産家なんだ。この街のためにも援助してもらいたい。この通りだ。頼む」
 キリッと真面目な顔でロータスが答える。これって厚顔無恥って奴じゃないの?
「ほら、ロータスがこうやって頭を下げてるんだからさぁ……ちょっとくらいお金を分けてくれたっていいんじゃない?」
 苦笑いながらも隣に座るダリアも大したキモの太さをしている。
「無茶を要求していることは重々承知してます。ですが、フィーちゃんにも是非協力してもらいたいんですよ」
 マルペルに至っては我の眼前にまで迫り、両手を握ってくる。
「おいおい、お嬢ちゃん、あんまり強気に出られる立場だと思ってるのか?」
 リンドーなど、今にも殴りかかってきそうな殺気を放っている。
「フィーしゃんをいじめないれくだしゃい!」
 我の背中から手を回し、ミモザが庇う。
「リンドー。俺たちは脅迫しにきたわけじゃない。あまり威圧しないでくれ」
 ロータスに制止され、舌打ちしつつもリンドーの視線が明後日の方向に向く。
「フィー、頼む。どうかこの通りだ。資金援助をお願いしたい……!」
 口を開けば金、金、金! 勇者として恥ずかしくないのか。
 全く以て意味の分からん状況だ。
 この街の治安維持を努めてきたトップの男に頭を下げさせて懇願させる。
 これではまるで我は悪役令嬢みたいではないか。
 気分がいいこともないが、要は我に取引を持ちかけているということだ。
 莫大な資産を持っているから、パエデロスの発展のために貸せと。
 はした金とは言わんが、我なら十分な資金を援助できるほどの蓄えはある。
 ほんの少し前にオークションで宝を売りさばいたからな。
 むしろあのときに会場を熱狂させすぎたせいで今に至ると言っても過言ではないのかもしれない。何せ、相当の額の金が動き、その様子がパエデロス中に知れ渡ってしまったのだから。
 どう取り繕っても「我、実はお金持ってないんです」などとは言い訳できまい。
 ロータスたちも資金繰りには日々悪戦苦闘しているのは分かっている。
 このパエデロスを発展させるために、これまでどれだけのことをしてきたかを知らないなどとはシラを切れないくらいに。
 それで資金難に陥っているというのならロータスたちの管理不足、自業自得なのではないか、とも思うが、事はそこまで単純な話ではない。
 あれはついぞ先日のことのように思う。
 パエデロスは一つの国家になるために遠方の先進国、レッドアイズ国から支援を受ける予定だった。
 パエデロスは生活水準も安定し、豊かな土地となりつつある一方、レッドアイズ国は名声こそあれど貧乏大国に落ちぶれておったからな。そこんところを持ちつ持たれつで上手いことバランスをとるような話になっていた。
 が、ご存じの通り、レッドアイズ国は国王がアカンことをしたせいで、マイナス方面にぶっちぎり。かつての栄光などクソ食らえ状態となってしまった。
 それだけでは済まされず、パエデロスにも悪評の余波が押し寄せてきたのだ。
 パエデロスの治安を維持しているリーダーのロータスという男は、レッドアイズ国に所属していて、そんでもって圧倒的な軍事力によって世界を恐怖のどん底に陥れた魔王の討伐に成功した。今や歴史の教科書に載ってるレベルの生きた伝説だ。
 それってつまり、今や悪名高き最低国のレッドアイズ国とロータスとの関係は切っても切れないようなものであり、レッドアイズ国が落ちぶれるということは即ちロータスも道連れということ他ならない。
 世間的な評価は「えーマジ、勇者!? キモーイ」「勇者が許されるのは魔王討伐したときまでだよね! キャハハハハハハ」ってなもんだろう。
 ロータスからしてみりゃあ積み上げたもの全部ぶっ壊されたようなものよ。身につけたもの取っ払われて裸一貫で一人相撲とってるも同然。
 その点で言うと、我はパエデロスの外にまでその名が知れ渡る謎の令嬢。
 実のところは先のオークションでも貴族や王族がこっそりと紛れ込んでいたらしく、どえりゃあ財宝をガッポガッポ持ってる資産家という認識も根付いたらしい。
 あのロータスが頭を下げてまで我に資金援助を乞う理由は大体そこだ。
 無論、金に困っていることも紛れもない事実だが、それは二の次で、本命は我を広告塔にしたいというのもあるだろう。こんなの交渉ってレベルじゃねーぞ!
 どう見ても我の名声に乗っかりたいだけです。本当にありがとうございました。
 ここで金をポンとくれてやったところで我へのメリットは如何ほどのものか。
 まずスカッとする。勇者ロータスをひざまずかせて、借しを作れるし。
 あと、停戦協定がより強固なものとなろう。ロータスは不義理な男ではないし。
 逆に断ることの方が大ブーイングものだろう。
 でもなぁ、しかしなぁ、相手は我の心臓に剣をブッ刺して魔力の全てを消し飛ばした奴だぞ。こんなん許せる? ねぇ、許せる?
 お前のこと殺したけど、謝るから金貸してくれ、って言われてホイホイ貸す?
 ぶっちゃけどの面下げて会いにきとんじゃ、って話だ。
 むりむりむり、やっぱむり。勇者の助けになりたいとか。絶対いえない。
「フィーしゃん……勇者しゃんの助けになりましょう? わたし、フィーさんが勇者しゃんとケンカしてるの見たくないれす……」
「いいだろう、ロータスよ。我が支援してやろうではないか。せいぜい無様な結果に終わらすでないぞ。今後のパエデロスの繁栄に期待させてもらおうか」
 ダリアとリンドーが唖然とした顔をしている。
 マルペルもキョトンとした顔をしている。
 ロータスだけは、この上なくイケメンスマイルで返してくる。
「ありがとう、フィー。この恩は忘れない」
 そしてそのまま立ち上がり、我の元までとことこと歩いてきたかと思えばひざまずいて我の手をとってきた。やめろや、その紳士ムーブ。ドキっとくるではないか。
「ふ、ふん……、目の前の厄介ごとを解消しておきたかっただけだ。ロータスのためではないのだからなっ!」
 おい、ダリア、何をそこでニヤニヤしておるのだ。マルペルもほのぼのしい笑顔で見守っているんじゃない! リンドーもドン引いた顔をするでないわ!
 全く以て、全く以て、全っっっく以て不本意である。
 だが、今後パエデロスが発展していく上では避けては通れまい。
 人間やら、エルフやら、オーガやら、なんやらかんやら異種族が呑気に暮らす平和すぎる街がただただそこに存在しているだけでいいはずもない。
 国としての地位も獲得しないことには、いつまで経っても辺境の地。
 領土問題でいざこざが起き始めるまで秒読みだった状態だ。
 今回のことで、パエデロスが大きく発展していくならそれもよかろう。
 我はただ、勇者に貸しを作った悪役令嬢としていさせてもらうまでだ。