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Episode B

ー/ー



 太陽はすでに地平線の向こうへ半分沈み、空は朱色から紫へと、ゆっくり色を深めていた。


焦っていた。曲がり角。


僕は「ぱ」の着地で、思わず両足の幅を狭くしてしまった。



「戻りだ、ゴメン」



先に進んでいたタカシが、遠くからこちらを振り返り、手を振るのが見えた。彼はもう、次の角へたどり着くころだろう。



 誰が言い出したのかは知らない。この、何度も続く曲がり角を日没の時間に通った人間は、二度と姿を現さない――そんな噂があった。


タカシの声は、すでに遠い。


僕はまた、さっきの角へと引き返した。途方に暮れ、アスファルトの上に伸びていく、濃くなる影を見つめる。



喉の奥がひりつく。



もう一度、「前の角」からやり直す。太陽は完全に姿を消し、残光だけがかろうじて世界を照らしていた。



「けん、けん、ぱ!」



今度こそ完璧だ、と思った。



だが次の角の手前で、またも右足と左足が揃わず、身体がぐらつく。三度目の「戻り」だった。



膝が笑う。



もう、間に合わない――そう思った瞬間、耳の奥で、かすかなリズムが鳴った。


「けん、けん、ぱ」


古びているのに、どこか楽しげな足音。


「けん、けん、ぱ」


タカシの軽快なそれとは違う。



音は、遠い曲がり角の向こうから、少しずつ少しずつ近づいてくるように感じられた。


僕は息を止める。

近づいてくる足音のリズムは、まるで時間から切り離され、この曲がり角そのものに染み込んでいるかのようだった。


固唾を飲んだ、その瞬間。


最後の残光が消え、世界は青と黒の、曖昧な闇に包まれる。


「けん、けん、ぱ」


もう遠くない。


足音は、僕が立っているこの曲がり角の、すぐ隣で響いていた。


恐る恐る、音のする方を見る。


そこには、セピア色の写真から抜け出してきたような、古びた服装の子どもたちがいた。

彼らは笑いながら、夢中になって、終わることのないけんけんぱを続けている。疲れを知らない足。純粋な楽しさだけを映した表情。



そして、彼らが踏みしめる地面は、光を呑み込んだように暗かった。



彼らの瞳が、一斉に僕を捉える。



その瞬間、僕の足は無意識に地面を離れていた。



誘われるように、右足が上がり、左足が地面を蹴る。



「⋯⋯けん」



もう、家へ帰ることは考えなかった。


永遠の遊びが始まる場所。


日没の曲がり角に、新しい一員が加わったのだ。









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みんなのリアクション

 太陽はすでに地平線の向こうへ半分沈み、空は朱色から紫へと、ゆっくり色を深めていた。
焦っていた。曲がり角。
僕は「ぱ」の着地で、思わず両足の幅を狭くしてしまった。
「戻りだ、ゴメン」
先に進んでいたタカシが、遠くからこちらを振り返り、手を振るのが見えた。彼はもう、次の角へたどり着くころだろう。
 誰が言い出したのかは知らない。この、何度も続く曲がり角を日没の時間に通った人間は、二度と姿を現さない――そんな噂があった。
タカシの声は、すでに遠い。
僕はまた、さっきの角へと引き返した。途方に暮れ、アスファルトの上に伸びていく、濃くなる影を見つめる。
喉の奥がひりつく。
もう一度、「前の角」からやり直す。太陽は完全に姿を消し、残光だけがかろうじて世界を照らしていた。
「けん、けん、ぱ!」
今度こそ完璧だ、と思った。
だが次の角の手前で、またも右足と左足が揃わず、身体がぐらつく。三度目の「戻り」だった。
膝が笑う。
もう、間に合わない――そう思った瞬間、耳の奥で、かすかなリズムが鳴った。
「けん、けん、ぱ」
古びているのに、どこか楽しげな足音。
「けん、けん、ぱ」
タカシの軽快なそれとは違う。
音は、遠い曲がり角の向こうから、少しずつ少しずつ近づいてくるように感じられた。
僕は息を止める。
近づいてくる足音のリズムは、まるで時間から切り離され、この曲がり角そのものに染み込んでいるかのようだった。
固唾を飲んだ、その瞬間。
最後の残光が消え、世界は青と黒の、曖昧な闇に包まれる。
「けん、けん、ぱ」
もう遠くない。
足音は、僕が立っているこの曲がり角の、すぐ隣で響いていた。
恐る恐る、音のする方を見る。
そこには、セピア色の写真から抜け出してきたような、古びた服装の子どもたちがいた。
彼らは笑いながら、夢中になって、終わることのないけんけんぱを続けている。疲れを知らない足。純粋な楽しさだけを映した表情。
そして、彼らが踏みしめる地面は、光を呑み込んだように暗かった。
彼らの瞳が、一斉に僕を捉える。
その瞬間、僕の足は無意識に地面を離れていた。
誘われるように、右足が上がり、左足が地面を蹴る。
「⋯⋯けん」
もう、家へ帰ることは考えなかった。
永遠の遊びが始まる場所。
日没の曲がり角に、新しい一員が加わったのだ。