77. 絶対に、許さないっ!
ー/ー ヴォォォォ……。
ドクロマークから、禍々しい紫の霧が射出される。
それはまるでドクロの形をした生き物のように、うねりながら、一気にエリナに迫っていく。
死の気配。
触れただけで命を奪われそうな、おぞましい瘴気。
「危ない!」
シエルが慌てて弓を引き絞り、矢を放つ。
シュッ! シュッ! シュッ!
だが、矢は霧を素通りするばかりで効果はなかった。
物理攻撃が通用しない。
呪詛そのものに、矢は無力だった。
ひっ!
エリナはいきなりの横からの攻撃に、対応が遅れた。
カインとの戦いに集中していた彼女の視界に、死の霧が迫る。
避けられない。
間に合わない。
その瞬間――。
「エリナっ!」
レオンがとっさに駆け出し、体を張ってエリナの前に飛び込んだ。
その背中には、迷いがなかった。
ただ、仲間を守る――それだけの想いで。
考えるより先に、体が動いていた。
ズゴォォォッ!
紫の霧がレオンを包み込む。
瞬間、パキン!という繊細なガラス細工が砕けるような澄んだ音が、レオンの中で響きわたった。
それは、何か大切なものが壊れていく音だった。
同時に、全身を激痛が襲う。
「ぐっ……あぁぁぁぁっ!」
レオンが倒れる。
まるで全身の骨が砕かれるような、内臓が引き裂かれるような、筆舌に尽くしがたい苦痛。
それは肉体だけでなく、魂そのものを蝕む痛みだった。
自分の中で、何かが消えていく。
大切な何かが、砕け散っていく。
その感覚が、痛みよりも恐ろしかった。
「レオン! レオンっ!」
エリナが悲鳴を上げる。
その声は、五年前に家族を失った時以上の絶望に満ちていた。
目の前で、大切な人が倒れた。
自分を守るために。
自分のせいで――。
一方、セリナは虚ろな目でその場に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……レオン……なんで、邪魔するのよぉ……」
自分も生気を吸われ、もう立っていられなかった。
髪は完全に白く変色し、顔は老婆そのもの。
かつての妖艶な美しさは、跡形もなく消え去っていた。
「ハハハハッ! お前らの大好きなレオンがやられたぞ? ざまぁみろ!」
カインが高笑いした。
傷だらけの体で、それでも嘲笑を浮かべている。
「あぁ、レオン……。くぅぅぅ……」
エリナは倒れたレオンを見つめ、そして――。
その瞳に、炎が宿った。
黒曜石のような瞳に、抑えきれない殺意が燃え上がる。
大切な人を傷つけられた怒りが、彼女の全身を支配していた。
もう、容赦はしない。
「もう、怒った! 絶対に許さない!」
エリナの声が、夜の空気を震わせる。
「お前を……絶対に、許さないっ!」
エリナは剣を構え直すと、猛ラッシュで一気にカインに襲い掛かった。
その速度は、先ほどまでとは比べ物にならない。
怒りが、彼女の潜在能力をさらに引き出していた。
キン! キン! キキキンッ!
剣戟の音が、夜に響く。
火花が散り、金属がぶつかり合う音が途切れることなく続く。
「ぐっ……うおぉっ!」
必死にさばくカインだったが、どんどん速度の上がるエリナのラッシュに耐えきれず、あちこちに手傷を負っていく。
ザシュッ!
腕を斬られ――。
ザクッ!
肩を斬られ――。
ザンッ!
胸を斬られ――。
そして最後に、足を深々と斬られて――。
ドサッ!と、カインは倒れ、カランカラカラと太陽の剣が転がっていく。
かつて輝いていた英雄は、今や無様に地に這いつくばっていた。
全身から血を流し、もはや剣を握る力すら残っていない。
「勝負……あった、な……」
レオンがよろよろと立ち上がりながら、苦しそうに呟いた。
その体は今にも倒れそうなほど衰弱していた。
だが――その翠色の瞳だけは、まっすぐにカインを見据えていた。
◇
全てが――終わった。
長い因縁が、ここに決着を迎えたのだった。
だが――。
「馬鹿め! アルカナが勝手に襲ってきたことにしてやる! 俺のパトロンの貴族様が警備隊を派遣するからな! お前らこそ捕まるんだぞ!」
カインが喚く。
血まみれの顔で、必死に叫んでいた。
その声は、もはや英雄のものではない。
あらゆる汚い手を使って陥れようとする姿は、あまりにも惨めで――かつて太陽のように輝いていた男の面影など、微塵も残っていなかった。
「それは通らんよ、カイン君」
その時――闇から、重厚な声が響いた。
ギルドマスターが、物陰から姿を現す。
その表情には、深い失望と、そして静かな怒りが浮かんでいた。
灰色の髭を蓄えた老練な冒険者は、まるで裁判官のように厳かにカインを見下ろしていた。
ドクロマークから、禍々しい紫の霧が射出される。
それはまるでドクロの形をした生き物のように、うねりながら、一気にエリナに迫っていく。
死の気配。
触れただけで命を奪われそうな、おぞましい瘴気。
「危ない!」
シエルが慌てて弓を引き絞り、矢を放つ。
シュッ! シュッ! シュッ!
だが、矢は霧を素通りするばかりで効果はなかった。
物理攻撃が通用しない。
呪詛そのものに、矢は無力だった。
ひっ!
エリナはいきなりの横からの攻撃に、対応が遅れた。
カインとの戦いに集中していた彼女の視界に、死の霧が迫る。
避けられない。
間に合わない。
その瞬間――。
「エリナっ!」
レオンがとっさに駆け出し、体を張ってエリナの前に飛び込んだ。
その背中には、迷いがなかった。
ただ、仲間を守る――それだけの想いで。
考えるより先に、体が動いていた。
ズゴォォォッ!
紫の霧がレオンを包み込む。
瞬間、パキン!という繊細なガラス細工が砕けるような澄んだ音が、レオンの中で響きわたった。
それは、何か大切なものが壊れていく音だった。
同時に、全身を激痛が襲う。
「ぐっ……あぁぁぁぁっ!」
レオンが倒れる。
まるで全身の骨が砕かれるような、内臓が引き裂かれるような、筆舌に尽くしがたい苦痛。
それは肉体だけでなく、魂そのものを蝕む痛みだった。
自分の中で、何かが消えていく。
大切な何かが、砕け散っていく。
その感覚が、痛みよりも恐ろしかった。
「レオン! レオンっ!」
エリナが悲鳴を上げる。
その声は、五年前に家族を失った時以上の絶望に満ちていた。
目の前で、大切な人が倒れた。
自分を守るために。
自分のせいで――。
一方、セリナは虚ろな目でその場に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……レオン……なんで、邪魔するのよぉ……」
自分も生気を吸われ、もう立っていられなかった。
髪は完全に白く変色し、顔は老婆そのもの。
かつての妖艶な美しさは、跡形もなく消え去っていた。
「ハハハハッ! お前らの大好きなレオンがやられたぞ? ざまぁみろ!」
カインが高笑いした。
傷だらけの体で、それでも嘲笑を浮かべている。
「あぁ、レオン……。くぅぅぅ……」
エリナは倒れたレオンを見つめ、そして――。
その瞳に、炎が宿った。
黒曜石のような瞳に、抑えきれない殺意が燃え上がる。
大切な人を傷つけられた怒りが、彼女の全身を支配していた。
もう、容赦はしない。
「もう、怒った! 絶対に許さない!」
エリナの声が、夜の空気を震わせる。
「お前を……絶対に、許さないっ!」
エリナは剣を構え直すと、猛ラッシュで一気にカインに襲い掛かった。
その速度は、先ほどまでとは比べ物にならない。
怒りが、彼女の潜在能力をさらに引き出していた。
キン! キン! キキキンッ!
剣戟の音が、夜に響く。
火花が散り、金属がぶつかり合う音が途切れることなく続く。
「ぐっ……うおぉっ!」
必死にさばくカインだったが、どんどん速度の上がるエリナのラッシュに耐えきれず、あちこちに手傷を負っていく。
ザシュッ!
腕を斬られ――。
ザクッ!
肩を斬られ――。
ザンッ!
胸を斬られ――。
そして最後に、足を深々と斬られて――。
ドサッ!と、カインは倒れ、カランカラカラと太陽の剣が転がっていく。
かつて輝いていた英雄は、今や無様に地に這いつくばっていた。
全身から血を流し、もはや剣を握る力すら残っていない。
「勝負……あった、な……」
レオンがよろよろと立ち上がりながら、苦しそうに呟いた。
その体は今にも倒れそうなほど衰弱していた。
だが――その翠色の瞳だけは、まっすぐにカインを見据えていた。
◇
全てが――終わった。
長い因縁が、ここに決着を迎えたのだった。
だが――。
「馬鹿め! アルカナが勝手に襲ってきたことにしてやる! 俺のパトロンの貴族様が警備隊を派遣するからな! お前らこそ捕まるんだぞ!」
カインが喚く。
血まみれの顔で、必死に叫んでいた。
その声は、もはや英雄のものではない。
あらゆる汚い手を使って陥れようとする姿は、あまりにも惨めで――かつて太陽のように輝いていた男の面影など、微塵も残っていなかった。
「それは通らんよ、カイン君」
その時――闇から、重厚な声が響いた。
ギルドマスターが、物陰から姿を現す。
その表情には、深い失望と、そして静かな怒りが浮かんでいた。
灰色の髭を蓄えた老練な冒険者は、まるで裁判官のように厳かにカインを見下ろしていた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
ヴォォォォ……。
ドクロマークから、禍々しい紫の霧が射出される。
それはまるでドクロの形をした生き物のように、うねりながら、一気にエリナに迫っていく。
死の気配。
触れただけで命を奪われそうな、おぞましい瘴気。
「危ない!」
シエルが慌てて弓を引き絞り、矢を放つ。
シュッ! シュッ! シュッ!
だが、矢は霧を素通りするばかりで効果はなかった。
物理攻撃が通用しない。
呪詛そのものに、矢は無力だった。
ひっ!
エリナはいきなりの横からの攻撃に、対応が遅れた。
カインとの戦いに集中していた彼女の視界に、死の霧が迫る。
避けられない。
間に合わない。
その瞬間――。
「エリナっ!」
レオンがとっさに駆け出し、体を張ってエリナの前に飛び込んだ。
その背中には、迷いがなかった。
ただ、仲間を守る――それだけの想いで。
考えるより先に、体が動いていた。
ズゴォォォッ!
紫の霧がレオンを包み込む。
瞬間、パキン!という繊細なガラス細工が砕けるような澄んだ音が、レオンの中で響きわたった。
それは、何か大切なものが壊れていく音だった。
同時に、全身を激痛が襲う。
「ぐっ……あぁぁぁぁっ!」
レオンが倒れる。
まるで全身の骨が砕かれるような、内臓が引き裂かれるような、筆舌に尽くしがたい苦痛。
それは肉体だけでなく、魂そのものを蝕む痛みだった。
自分の中で、何かが消えていく。
大切な何かが、砕け散っていく。
その感覚が、痛みよりも恐ろしかった。
「レオン! レオンっ!」
エリナが悲鳴を上げる。
その声は、五年前に家族を失った時以上の絶望に満ちていた。
目の前で、大切な人が倒れた。
自分を守るために。
自分のせいで――。
一方、セリナは虚ろな目でその場に崩れ落ちる。
「はぁ……はぁ……レオン……なんで、邪魔するのよぉ……」
自分も生気を吸われ、もう立っていられなかった。
髪は完全に白く変色し、顔は老婆そのもの。
かつての妖艶な美しさは、跡形もなく消え去っていた。
「ハハハハッ! お前らの大好きなレオンがやられたぞ? ざまぁみろ!」
カインが高笑いした。
傷だらけの体で、それでも嘲笑を浮かべている。
「あぁ、レオン……。くぅぅぅ……」
エリナは倒れたレオンを見つめ、そして――。
その瞳に、炎が宿った。
黒曜石のような瞳に、抑えきれない殺意が燃え上がる。
大切な人を傷つけられた怒りが、彼女の全身を支配していた。
もう、容赦はしない。
「もう、怒った! 絶対に許さない!」
エリナの声が、夜の空気を震わせる。
「お前を……絶対に、許さないっ!」
エリナは剣を構え直すと、猛ラッシュで一気にカインに襲い掛かった。
その速度は、先ほどまでとは比べ物にならない。
怒りが、彼女の潜在能力をさらに引き出していた。
キン! キン! キキキンッ!
剣戟の音が、夜に響く。
火花が散り、金属がぶつかり合う音が途切れることなく続く。
「ぐっ……うおぉっ!」
必死にさばくカインだったが、どんどん速度の上がるエリナのラッシュに耐えきれず、あちこちに手傷を負っていく。
ザシュッ!
腕を斬られ――。
ザクッ!
肩を斬られ――。
ザンッ!
胸を斬られ――。
そして最後に、足を深々と斬られて――。
ドサッ!と、カインは倒れ、カランカラカラと太陽の剣が転がっていく。
かつて輝いていた英雄は、今や無様に地に這いつくばっていた。
全身から血を流し、もはや剣を握る力すら残っていない。
「勝負……あった、な……」
レオンがよろよろと立ち上がりながら、苦しそうに呟いた。
その体は今にも倒れそうなほど衰弱していた。
だが――その翠色の瞳だけは、まっすぐにカインを見据えていた。
◇
全てが――終わった。
長い因縁が、ここに決着を迎えたのだった。
だが――。
「馬鹿め! アルカナが勝手に襲ってきたことにしてやる! 俺のパトロンの貴族様が警備隊を派遣するからな! お前らこそ捕まるんだぞ!」
カインが喚く。
血まみれの顔で、必死に叫んでいた。
その声は、もはや英雄のものではない。
あらゆる汚い手を使って陥れようとする姿は、あまりにも惨めで――かつて太陽のように輝いていた男の面影など、微塵も残っていなかった。
「それは通らんよ、カイン君」
その時――闇から、重厚な声が響いた。
ギルドマスターが、物陰から姿を現す。
その表情には、深い失望と、そして静かな怒りが浮かんでいた。
灰色の髭を蓄えた老練な冒険者は、まるで裁判官のように厳かにカインを見下ろしていた。