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263 女子との他愛もない会話

ー/ー



 稲荷小学校に着き、6年4組の教室に入ると、藤城皐月(ふじしろさつき)はいつも最初に松井晴香(まついはるか)と顔を合わせる。晴香はいつも友達とワイワイ賑やかにお喋りをしていて、クラスがいい感じに賑やかになる。
「おはよー」
「おはよう」
 皐月が朝の挨拶をすると、まず最初に晴香が挨拶を返してくれて、続いて一緒にいる子たちもおはようと言ってくれる。
「あれっ? 小川の襟足(えりあし)、外ハネにしたの? カッコいいね」
「気づいてくれたんだ。ありがとう」
 小川美緒(おがわみお)筒井美耶(つついみや)が皐月の隣の席だった時、皐月の後ろの席に座っていた子だ。晴香がしょっちゅう美耶のところへ遊びに来ていたので、近くにいた美緒も自然と晴香たちと仲良くなっていた。
「知り合いの高校生が外ハネにしようとしたんだけど、失敗したって言ってた。ハネ過ぎたりたりして、難しいんだってね」
「そうなの。上手くやらないと後頭部がぺたんこになっちゃうし、気をつけないと襟足に巻き残しができちゃうし」
「小川の外ハネは完璧だよ。いつものボブもかわいいけど、今日みたいなのも大人っぽくていいよね」
 皐月が微笑むと、美緒は頬を赤く染めた。皐月は彼女たちから離れて、自分の席へ行った。

「今日はどうしたんだろうね? いつもの藤城君なら『寝癖?』とか言いそうなのに、おかしいよ」
「最近の藤城って、1学期の頃と雰囲気変わったよね。なんか余裕があるっていうか、イケメンっぽくなったっていうか」
 美緒は晴香の皐月に対するイメージの変化に驚いた。美緒は皐月の美耶への遠慮のない態度を見てきたので、皐月に対してやんちゃなイメージしかなかった。
「彼女でもできたんじゃない?」
 少女向けの恋愛漫画が好きな惣田由香里(そうだゆかり)はクラスメートの変化を何でも恋愛に話を結びつけたがる。由香里は晴香と五年生の時に同じクラスだった仲良しだ。
「美耶は何も言ってなかったよ?」
「違うよ、晴香。美耶ちゃんのことじゃない」
「じゃあ、誰?」
「藤城君ってさ、なんか五年生のかわいい子と付き合ってるって噂だよ。二人でいるところを見たっていう話も聞くし」
「へぇ……そうなんだ。初めて聞いた」
「晴香は博紀君しか興味ないもんね」
 月花博紀(げっかひろき)のファンクラブの女子といっても、ほとんどの会員は晴香のように博紀に対して本気の恋はしていない。大抵はイケメンの博紀を見て目の保養にしているだけだ。博紀はファンクラブの女の子を寄せ付けない雰囲気を出しているので、6年4組の女子で博紀に告白する子はいない。
「藤城君に彼女ができたとしたら、美耶ちゃん、泣いちゃいそうだね」
 美緒は美耶とも仲がいいので、美耶に感情移入をしている。美緒は皐月と美耶がカップルになったらいいなと思っている。
「藤城に女か……。せめて美耶にやさしくしてくれたらいいんだけど……」
「あれっ? 晴香らしくないこと言うね。晴香なら『藤城殺す』くらい言いそうなのに」
「由香里って私のこと何だと思ってるの?」
「晴香は美耶ちゃんラブだから、藤城君が美耶以外に女作ったら許さないだろうなって思ってた」
「だってしょうがないじゃない……。好きな子ができたなら」
 この時の感傷的な晴香は美緒や由香里の見たことのない晴香だった。

 皐月が自分の席へ行くと、いつものように栗林真理と二橋絵梨花(にはしえりか)が勉強をしていて、吉口千由紀(よしぐちちゆき)が読書をしていた。皐月が三人の邪魔にならないように小声で挨拶をすると、いつものように絵梨花が真っ先に手を止めて皐月のおはように応え、千由紀が続いて、最後に真理が無愛想な挨拶をする。真理の愛想のなさはクラスの子たちに皐月との関係を気取(けど)られないための演技だ。
「藤城さんの今日の髪の毛、いつもよりサラサラしているね」
 絵梨花は皐月と二人で家に帰って以来、他愛もない話をしてくるようになった。皐月から話しかけるのと同じくらいの頻度で絵梨花から話しかけてくる。皐月が隣の席の美耶と仲良くしていた頃と変わらないくらい、絵梨花と皐月の間柄は親しくなっていた。
「寝癖直しにヘアアイロンを使ってみたんだ。そしたら髪の仕上がりが綺麗になってさ、全体的にやったらこんな感じにいつもより髪が真っ直ぐになった。二橋さんの髪もサラサラだよね。やっぱ、ヘアアイロンしてるの?」
「私はお母さんにやってもらってる。でも、外出する前しかヘアアイロンはしないけどね。藤城さんは自分でヘアアイロンかけたの?」
「うん、自分でやった。初めてだったから、低温の120度で無難にやってみた。アイロンって熱いから、扱うの怖いね」
 祐希にやってもらったことを隠すために、ファッション誌で読んだ知識を喋ってごまかした。でも、真理は皐月が自分でやったことを疑っているような顔をしている。
 皐月はボロを出す前にこの場を離脱しようと、机の中に教科書などを詰め込んで、ランドセルを片付けに行った。



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 稲荷小学校に着き、6年4組の教室に入ると、|藤城皐月《ふじしろさつき》はいつも最初に|松井晴香《まついはるか》と顔を合わせる。晴香はいつも友達とワイワイ賑やかにお喋りをしていて、クラスがいい感じに賑やかになる。
「おはよー」
「おはよう」
 皐月が朝の挨拶をすると、まず最初に晴香が挨拶を返してくれて、続いて一緒にいる子たちもおはようと言ってくれる。
「あれっ? 小川の|襟足《えりあし》、外ハネにしたの? カッコいいね」
「気づいてくれたんだ。ありがとう」
 |小川美緒《おがわみお》は|筒井美耶《つついみや》が皐月の隣の席だった時、皐月の後ろの席に座っていた子だ。晴香がしょっちゅう美耶のところへ遊びに来ていたので、近くにいた美緒も自然と晴香たちと仲良くなっていた。
「知り合いの高校生が外ハネにしようとしたんだけど、失敗したって言ってた。ハネ過ぎたりたりして、難しいんだってね」
「そうなの。上手くやらないと後頭部がぺたんこになっちゃうし、気をつけないと襟足に巻き残しができちゃうし」
「小川の外ハネは完璧だよ。いつものボブもかわいいけど、今日みたいなのも大人っぽくていいよね」
 皐月が微笑むと、美緒は頬を赤く染めた。皐月は彼女たちから離れて、自分の席へ行った。
「今日はどうしたんだろうね? いつもの藤城君なら『寝癖?』とか言いそうなのに、おかしいよ」
「最近の藤城って、1学期の頃と雰囲気変わったよね。なんか余裕があるっていうか、イケメンっぽくなったっていうか」
 美緒は晴香の皐月に対するイメージの変化に驚いた。美緒は皐月の美耶への遠慮のない態度を見てきたので、皐月に対してやんちゃなイメージしかなかった。
「彼女でもできたんじゃない?」
 少女向けの恋愛漫画が好きな|惣田由香里《そうだゆかり》はクラスメートの変化を何でも恋愛に話を結びつけたがる。由香里は晴香と五年生の時に同じクラスだった仲良しだ。
「美耶は何も言ってなかったよ?」
「違うよ、晴香。美耶ちゃんのことじゃない」
「じゃあ、誰?」
「藤城君ってさ、なんか五年生のかわいい子と付き合ってるって噂だよ。二人でいるところを見たっていう話も聞くし」
「へぇ……そうなんだ。初めて聞いた」
「晴香は博紀君しか興味ないもんね」
 |月花博紀《げっかひろき》のファンクラブの女子といっても、ほとんどの会員は晴香のように博紀に対して本気の恋はしていない。大抵はイケメンの博紀を見て目の保養にしているだけだ。博紀はファンクラブの女の子を寄せ付けない雰囲気を出しているので、6年4組の女子で博紀に告白する子はいない。
「藤城君に彼女ができたとしたら、美耶ちゃん、泣いちゃいそうだね」
 美緒は美耶とも仲がいいので、美耶に感情移入をしている。美緒は皐月と美耶がカップルになったらいいなと思っている。
「藤城に女か……。せめて美耶にやさしくしてくれたらいいんだけど……」
「あれっ? 晴香らしくないこと言うね。晴香なら『藤城殺す』くらい言いそうなのに」
「由香里って私のこと何だと思ってるの?」
「晴香は美耶ちゃんラブだから、藤城君が美耶以外に女作ったら許さないだろうなって思ってた」
「だってしょうがないじゃない……。好きな子ができたなら」
 この時の感傷的な晴香は美緒や由香里の見たことのない晴香だった。
 皐月が自分の席へ行くと、いつものように栗林真理と|二橋絵梨花《にはしえりか》が勉強をしていて、|吉口千由紀《よしぐちちゆき》が読書をしていた。皐月が三人の邪魔にならないように小声で挨拶をすると、いつものように絵梨花が真っ先に手を止めて皐月のおはように応え、千由紀が続いて、最後に真理が無愛想な挨拶をする。真理の愛想のなさはクラスの子たちに皐月との関係を|気取《けど》られないための演技だ。
「藤城さんの今日の髪の毛、いつもよりサラサラしているね」
 絵梨花は皐月と二人で家に帰って以来、他愛もない話をしてくるようになった。皐月から話しかけるのと同じくらいの頻度で絵梨花から話しかけてくる。皐月が隣の席の美耶と仲良くしていた頃と変わらないくらい、絵梨花と皐月の間柄は親しくなっていた。
「寝癖直しにヘアアイロンを使ってみたんだ。そしたら髪の仕上がりが綺麗になってさ、全体的にやったらこんな感じにいつもより髪が真っ直ぐになった。二橋さんの髪もサラサラだよね。やっぱ、ヘアアイロンしてるの?」
「私はお母さんにやってもらってる。でも、外出する前しかヘアアイロンはしないけどね。藤城さんは自分でヘアアイロンかけたの?」
「うん、自分でやった。初めてだったから、低温の120度で無難にやってみた。アイロンって熱いから、扱うの怖いね」
 祐希にやってもらったことを隠すために、ファッション誌で読んだ知識を喋ってごまかした。でも、真理は皐月が自分でやったことを疑っているような顔をしている。
 皐月はボロを出す前にこの場を離脱しようと、机の中に教科書などを詰め込んで、ランドセルを片付けに行った。