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SCENE082 第二回の打ち合わせ

ー/ー



 翌日、日下さんが一人でダンジョンにやって来た。

「ウィンクさん、事前の打ち合わせを……ひゃっ!」

 やって来た日下さんは、昨日からダンジョンにやって来たラティナさんを見てびっくりしていた。
 それもそうか。僕のダンジョンにはほとんどモンスターがいないもんね。

「日下さん、おはようございます。明日が体験の日ですよね?」

「は、はい、そうです。しかし、びっくりしましたね。この子はモンスターなのですか?」

 僕の質問に答えながら、ラティナさんを怯えた様子で見ている。
 初めて見るからしょうがないかな。探索者ならまだしも、日下さんは非戦闘系の事務員だものね。

「初めてお目にかかります。私はラティナ・ロックウェルと申します。ロックウェル伯爵家の長女でございます」

 岩だらけの体ではあるものの、ラティナさんの所作は本当に美しい。ネット小説でよく見る貴族って、こんな感じなんだろうな。
 ラティナさんの丁寧な挨拶を見て、怖がっていた日下さんは少しずつ落ち着いてきているようだった。
 全身が岩だとはいっても、所作の一つ一つからあふれ出る気品というのは、魅了持ちの僕ですら見惚れてしまうくらいだもの。日下さんだって同じだと思うよ。

「こ、これは、ご丁寧な挨拶をありがとうございます。私はダンジョン管理局の職員で日下まことと申します」

 びしっと背筋を伸ばして、腰を90度に折り曲げて頭を下げている。さすが、事務員といった感じの挨拶だと思う。

「まこと様でございますか。どうぞ顔をお上げください」

「はい」

 顔を上げた日下さんは、じっとラティナさんを見つめている。

「ああ、なんてきれいな目をしているのでしょうか。これでいてモンスターだなんて、ウィンクさんもそうですが、モンスターの常識が覆されそうです」

「大げさなことを申しますな。テーブルと椅子をご用意しましたので、おかけくださいませ」

「バトラー様、これはありがとうございます」

 ごつごつとした岩なのに、本当に笑顔が柔らかい。本当に不思議な感じがする。
 とりあえず僕たちは、バトラーが用意したテーブルを囲んで座る。
 日下さんの用件は、明日から行われるダンジョン体験のことだろうから、ラティナさんのことから話すべきだろうかな。

「ウィンクさん」

「は、はい、何でしょうか、日下さん」

 話を切り出す前に、日下さんから話しかけられてしまった。
 びっくりした僕は、ひとまず落ち着こうとして、バトラーが淹れてくれた紅茶を飲む。

「失礼しました。本日の用件は、明日からのダンジョン体験のことなのですが、その前にラティナさんのことを詳しくお聞かせくださいませんかね。もしかしたら、体験の内容に影響を及ぼすかもしれませんのでね」

「分かりました」

 僕はちらりとラティナさんに視線を送る。僕の視線に気が付いたラティナさんは、にこっと笑って軽く頷いてくれた。

「私から説明いたします」

 ラティナさんが、改めて詳しい自己紹介を始めてくれた。
 北関東にある廃鉱山ダンジョンのダンジョンマスターの娘で、事故によってこちらの世界に飛ばされてきたこと。衣織お姉さんの手によって、僕のダンジョンまでやって来たことを話してくれた。うん、僕が説明する余地ないね。

「なるほど……。ゴーレムのような物質系モンスターだと、そのような方法を取ってダンジョン間の移動ができるのですか。それは新しい情報ですね」

「僕たちも昨日知りましたよ。衣織お姉さんってば、いつも人を驚かせてばかりで、本当に困ります」

「私もそのような提案をされて、驚きましたよ。ですが、無事にこうやって別のダンジョンに移動ができましたので、試してみるものだなと思いました」

 僕たちが困った表情をしている中、ラティナさんだけがにこやかな笑顔を見せていた。僕たちみたいな事情を抱えていないからだろう。

「大体事情は分かりました。ひとまず、ラティナさんが元々いらした廃鉱山ダンジョンは、ギルド『百鬼夜行』に任せておけばいいのですね」

「はい。衣織様がお仲間に頼まれたそうです。あちらの方々も協力的でしたので、私はとても安心しました」

 ラティナさんは本当に嬉しそうな顔をしている。自分の父親がダンジョンマスターをしていて、そのダンジョンの安全が確保されるからだろう。
 モンスターたちも、上位クラスになると、僕たちとあんまり変わらないのかもしれない。セイレーンさんもそういう感じなところがあるみたいだし。僕自身もモンスターになったけど、本当によく分からないなぁ。

「……というわけでございます。今回の参加者は、谷地が対応しておりますので、明日のお昼前にはこちらに到着して、プログラムを開始できるかと思います」

「そうですか、分かりました。僕たちの方は、ひとまず前回と同じような感じでいいのですかね」

「はい、そのようにお願いします。こういった調整などは、私たちダンジョン管理局の仕事ですので、ウィンクさんはいつも通り振る舞っていただければ、それでいいのですよ」

「はい、そうさせてもらいます」

 こうして、ダンジョン管理局へのラティナさんの紹介と、第二回のダンジョン体験の打ち合わせが終わる。
 ラティナさんはどういうことがあるのか分からないみたいだけど、どういうわけか楽しそうににこにことした笑顔を見せている。

「とても楽しそうですね」

「はい。こちらの世界に来てからはずっと引きこもっておりましたので、人々との交流が楽しみで仕方がないのです」

「な、なるほど……」

 そうだった。こちらに飛ばされてからというもの、父親に見つからないようにして過ごしていたんだった。
 とりあえず、それはそれとして。明日からは二日間にわたってのダンジョン体験だ。
 今回も参加者たちには満足して帰ってもらわないとね。
 ダンジョンを提供する立場として、僕は改めて気合いを入れ直していた。


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 翌日、日下さんが一人でダンジョンにやって来た。
「ウィンクさん、事前の打ち合わせを……ひゃっ!」
 やって来た日下さんは、昨日からダンジョンにやって来たラティナさんを見てびっくりしていた。
 それもそうか。僕のダンジョンにはほとんどモンスターがいないもんね。
「日下さん、おはようございます。明日が体験の日ですよね?」
「は、はい、そうです。しかし、びっくりしましたね。この子はモンスターなのですか?」
 僕の質問に答えながら、ラティナさんを怯えた様子で見ている。
 初めて見るからしょうがないかな。探索者ならまだしも、日下さんは非戦闘系の事務員だものね。
「初めてお目にかかります。私はラティナ・ロックウェルと申します。ロックウェル伯爵家の長女でございます」
 岩だらけの体ではあるものの、ラティナさんの所作は本当に美しい。ネット小説でよく見る貴族って、こんな感じなんだろうな。
 ラティナさんの丁寧な挨拶を見て、怖がっていた日下さんは少しずつ落ち着いてきているようだった。
 全身が岩だとはいっても、所作の一つ一つからあふれ出る気品というのは、魅了持ちの僕ですら見惚れてしまうくらいだもの。日下さんだって同じだと思うよ。
「こ、これは、ご丁寧な挨拶をありがとうございます。私はダンジョン管理局の職員で日下まことと申します」
 びしっと背筋を伸ばして、腰を90度に折り曲げて頭を下げている。さすが、事務員といった感じの挨拶だと思う。
「まこと様でございますか。どうぞ顔をお上げください」
「はい」
 顔を上げた日下さんは、じっとラティナさんを見つめている。
「ああ、なんてきれいな目をしているのでしょうか。これでいてモンスターだなんて、ウィンクさんもそうですが、モンスターの常識が覆されそうです」
「大げさなことを申しますな。テーブルと椅子をご用意しましたので、おかけくださいませ」
「バトラー様、これはありがとうございます」
 ごつごつとした岩なのに、本当に笑顔が柔らかい。本当に不思議な感じがする。
 とりあえず僕たちは、バトラーが用意したテーブルを囲んで座る。
 日下さんの用件は、明日から行われるダンジョン体験のことだろうから、ラティナさんのことから話すべきだろうかな。
「ウィンクさん」
「は、はい、何でしょうか、日下さん」
 話を切り出す前に、日下さんから話しかけられてしまった。
 びっくりした僕は、ひとまず落ち着こうとして、バトラーが淹れてくれた紅茶を飲む。
「失礼しました。本日の用件は、明日からのダンジョン体験のことなのですが、その前にラティナさんのことを詳しくお聞かせくださいませんかね。もしかしたら、体験の内容に影響を及ぼすかもしれませんのでね」
「分かりました」
 僕はちらりとラティナさんに視線を送る。僕の視線に気が付いたラティナさんは、にこっと笑って軽く頷いてくれた。
「私から説明いたします」
 ラティナさんが、改めて詳しい自己紹介を始めてくれた。
 北関東にある廃鉱山ダンジョンのダンジョンマスターの娘で、事故によってこちらの世界に飛ばされてきたこと。衣織お姉さんの手によって、僕のダンジョンまでやって来たことを話してくれた。うん、僕が説明する余地ないね。
「なるほど……。ゴーレムのような物質系モンスターだと、そのような方法を取ってダンジョン間の移動ができるのですか。それは新しい情報ですね」
「僕たちも昨日知りましたよ。衣織お姉さんってば、いつも人を驚かせてばかりで、本当に困ります」
「私もそのような提案をされて、驚きましたよ。ですが、無事にこうやって別のダンジョンに移動ができましたので、試してみるものだなと思いました」
 僕たちが困った表情をしている中、ラティナさんだけがにこやかな笑顔を見せていた。僕たちみたいな事情を抱えていないからだろう。
「大体事情は分かりました。ひとまず、ラティナさんが元々いらした廃鉱山ダンジョンは、ギルド『百鬼夜行』に任せておけばいいのですね」
「はい。衣織様がお仲間に頼まれたそうです。あちらの方々も協力的でしたので、私はとても安心しました」
 ラティナさんは本当に嬉しそうな顔をしている。自分の父親がダンジョンマスターをしていて、そのダンジョンの安全が確保されるからだろう。
 モンスターたちも、上位クラスになると、僕たちとあんまり変わらないのかもしれない。セイレーンさんもそういう感じなところがあるみたいだし。僕自身もモンスターになったけど、本当によく分からないなぁ。
「……というわけでございます。今回の参加者は、谷地が対応しておりますので、明日のお昼前にはこちらに到着して、プログラムを開始できるかと思います」
「そうですか、分かりました。僕たちの方は、ひとまず前回と同じような感じでいいのですかね」
「はい、そのようにお願いします。こういった調整などは、私たちダンジョン管理局の仕事ですので、ウィンクさんはいつも通り振る舞っていただければ、それでいいのですよ」
「はい、そうさせてもらいます」
 こうして、ダンジョン管理局へのラティナさんの紹介と、第二回のダンジョン体験の打ち合わせが終わる。
 ラティナさんはどういうことがあるのか分からないみたいだけど、どういうわけか楽しそうににこにことした笑顔を見せている。
「とても楽しそうですね」
「はい。こちらの世界に来てからはずっと引きこもっておりましたので、人々との交流が楽しみで仕方がないのです」
「な、なるほど……」
 そうだった。こちらに飛ばされてからというもの、父親に見つからないようにして過ごしていたんだった。
 とりあえず、それはそれとして。明日からは二日間にわたってのダンジョン体験だ。
 今回も参加者たちには満足して帰ってもらわないとね。
 ダンジョンを提供する立場として、僕は改めて気合いを入れ直していた。