65. お前もかぁぁぁぁ!

ー/ー



「へ……?」

 レオンが固まった。思考が停止する。

「き、貴族には側室は普通に居るわ……」

 シエルが顔を赤くしながら踏み込む。その声は、小さく震えていた。

「そう、私が正妻で、側室ワン、ツー、スリーでもいいのよ? ふふっ」

 ミーシャが楽しそうにみんなを指さす。その笑顔は、まるで女王のようだった。

「なんであんたが正妻なのよ!?」

 ルナが怒った。その緋色の瞳が、炎のように燃えている。

「まぁ、あくまで一例だわ」

 ミーシャは優雅に微笑む。その余裕ある態度が、かえってルナの怒りを煽った。

「ぶーーっ!」

「はいはい、落ち着いて。どうなるかなんて未来のことは分からない。ただ……僕が好きなのは『仲良くできる優しい子』、これだけは言っておくよ」

「あら、私だわ!」

 ミーシャがおどけた調子で言った。

「はぁっ!? あんた面白いわ! ははっ」

 ルナが天を仰いで笑った。

 そのやり取りがおかしくて、みんなつられて笑ってしまう。

 重かった空気が、一気に軽くなる。笑い声が部屋に響き渡った。温かい空気が、テーブルを包む。

 これでいい、とレオンは思った。

 争うのではなく、笑い合える関係。それこそが、アルカナの在るべき姿だ。

「じゃあ、『レオン争奪優しい子選手権』ってこと? いいじゃない、楽しくやろ」

 シエルは楽しそうに碧眼を輝かせた。

「そうよ? 楽しくね? レオンにキスとか……絶対ダメよ?」

 エリナはギラリと瞳を光らせる。その黒曜石のような瞳には、明確な警告が込められていた。

「分かったわ」

「はぁい……」

「しょうがないわねぇ……」

 三人の少女は渋々承諾する。

「ふぅ、良かった。エリナのおかげだよ。ありがとう」

 レオンは優しい瞳で笑いかけた。

 その笑顔を見た瞬間、エリナの心臓が跳ねた。

「え?」

 男と距離を取り続けてきたエリナには、男女の距離感の機微が分からない。

 この時エリナの中で、ある仮説が頭をもたげた。

 こんなに可愛い女の子たち三人から言い寄られても、毅然とNOと言い放つレオン。

 もしかして他に好きな人が居るのではないだろうか?

 『アルカナのメンバーの誰か』で、三人以外と言えば……私?!

 その瞬間エリナの中で勘違いが暴走した。

 えっ!? うそ……。

 その暴走した妄想に、エリナの心臓は早鐘のように高鳴った。

 レオンは自分のことを好きだから三人をけん制している?

 だから、自分に「ありがとう」と言ってくれる?

 だから、自分を特別扱いしてくれる?

 エリナの中で妄想がどんどん膨らんでいく。

 いや、まさか、そんな……。

 でも、もしかしたら……。

 エリナはそっとレオンを見た。

 レオンはにっこりと自分を見てほほ笑んでいる。

 そののびやかな笑顔、美しい翠色の瞳。今まで気づかなかったが、レオンは整った顔立ちをしていた。優しげな眉、すっと通った鼻筋、柔らかな唇――。

(そうかも!?)

 この瞬間、エリナの瞳にポゥっと桃色の輝きがともった。


       ◇


 崩壊の危機が何とか回避できた――。

 やれやれ、これで一段落だ。エリナがまともで良かった。

 レオンは深くため息をつく。

 その時だった――――。

 ピロン! 

【スキルメッセージ】
【好感度状況】
エリナ:70→110【ラブ】※注意

「……へ?」

 レオンは固まった。

 目の前のメッセージを、二度見する。

 見間違いではない。

 エリナの好感度が、一気に四十も上昇して、【ラブ】になっている。

(エリナ……お前もかぁぁぁぁ!)

 思わずレオンは頭を抱えた。

 いったいどこで地雷を踏んでしまったのだろうか?

 普通に話しただけだ。感謝しただけだ。なのに、なぜ――。

 レオンはキュッと口を結んだ。

「ふふふ……レオンの独り占めなんて……私が絶対許さないんだから……」

 エリナは嬉しそうにレオンの腕をガシッとつかむ。

 そのほほは紅潮し、心なしか息も荒かった。その黒曜石のような瞳には、今までにない熱が宿っている。

 これは、さっきまでのクールな剣士ではない。

 完全に、恋する乙女の目だ。

 レオンは絶望した。

 運命は――また、新たな試練をレオンに課したのだ。

 四人。

 四人全員が、自分に恋している。

 世界一を目指すよりも、この少女たちの暴走を止める方が、よほど困難かもしれない――そんな予感が、彼の胸をよぎった。

 だが――少女たちはみんなとても幸せそうな笑顔なのだ。

 幸せなら……いいのかなぁ……。

 それはレオンにとって唯一の救いだった。

 こうして、英雄たちの夜は更けていく。

 笑い声と、甘い空気と、そして――レオンの深いため息と共に。

 伝説の始まりは、思いがけない方向へと転がり始めていた。



次のエピソードへ進む 66. 迫る悪意


みんなのリアクション

「へ……?」
 レオンが固まった。思考が停止する。
「き、貴族には側室は普通に居るわ……」
 シエルが顔を赤くしながら踏み込む。その声は、小さく震えていた。
「そう、私が正妻で、側室ワン、ツー、スリーでもいいのよ? ふふっ」
 ミーシャが楽しそうにみんなを指さす。その笑顔は、まるで女王のようだった。
「なんであんたが正妻なのよ!?」
 ルナが怒った。その緋色の瞳が、炎のように燃えている。
「まぁ、あくまで一例だわ」
 ミーシャは優雅に微笑む。その余裕ある態度が、かえってルナの怒りを煽った。
「ぶーーっ!」
「はいはい、落ち着いて。どうなるかなんて未来のことは分からない。ただ……僕が好きなのは『仲良くできる優しい子』、これだけは言っておくよ」
「あら、私だわ!」
 ミーシャがおどけた調子で言った。
「はぁっ!? あんた面白いわ! ははっ」
 ルナが天を仰いで笑った。
 そのやり取りがおかしくて、みんなつられて笑ってしまう。
 重かった空気が、一気に軽くなる。笑い声が部屋に響き渡った。温かい空気が、テーブルを包む。
 これでいい、とレオンは思った。
 争うのではなく、笑い合える関係。それこそが、アルカナの在るべき姿だ。
「じゃあ、『レオン争奪優しい子選手権』ってこと? いいじゃない、楽しくやろ」
 シエルは楽しそうに碧眼を輝かせた。
「そうよ? 楽しくね? レオンにキスとか……絶対ダメよ?」
 エリナはギラリと瞳を光らせる。その黒曜石のような瞳には、明確な警告が込められていた。
「分かったわ」
「はぁい……」
「しょうがないわねぇ……」
 三人の少女は渋々承諾する。
「ふぅ、良かった。エリナのおかげだよ。ありがとう」
 レオンは優しい瞳で笑いかけた。
 その笑顔を見た瞬間、エリナの心臓が跳ねた。
「え?」
 男と距離を取り続けてきたエリナには、男女の距離感の機微が分からない。
 この時エリナの中で、ある仮説が頭をもたげた。
 こんなに可愛い女の子たち三人から言い寄られても、毅然とNOと言い放つレオン。
 もしかして他に好きな人が居るのではないだろうか?
 『アルカナのメンバーの誰か』で、三人以外と言えば……私?!
 その瞬間エリナの中で勘違いが暴走した。
 えっ!? うそ……。
 その暴走した妄想に、エリナの心臓は早鐘のように高鳴った。
 レオンは自分のことを好きだから三人をけん制している?
 だから、自分に「ありがとう」と言ってくれる?
 だから、自分を特別扱いしてくれる?
 エリナの中で妄想がどんどん膨らんでいく。
 いや、まさか、そんな……。
 でも、もしかしたら……。
 エリナはそっとレオンを見た。
 レオンはにっこりと自分を見てほほ笑んでいる。
 そののびやかな笑顔、美しい翠色の瞳。今まで気づかなかったが、レオンは整った顔立ちをしていた。優しげな眉、すっと通った鼻筋、柔らかな唇――。
(そうかも!?)
 この瞬間、エリナの瞳にポゥっと桃色の輝きがともった。
       ◇
 崩壊の危機が何とか回避できた――。
 やれやれ、これで一段落だ。エリナがまともで良かった。
 レオンは深くため息をつく。
 その時だった――――。
 ピロン! 
【スキルメッセージ】
【好感度状況】
エリナ:70→110【ラブ】※注意
「……へ?」
 レオンは固まった。
 目の前のメッセージを、二度見する。
 見間違いではない。
 エリナの好感度が、一気に四十も上昇して、【ラブ】になっている。
(エリナ……お前もかぁぁぁぁ!)
 思わずレオンは頭を抱えた。
 いったいどこで地雷を踏んでしまったのだろうか?
 普通に話しただけだ。感謝しただけだ。なのに、なぜ――。
 レオンはキュッと口を結んだ。
「ふふふ……レオンの独り占めなんて……私が絶対許さないんだから……」
 エリナは嬉しそうにレオンの腕をガシッとつかむ。
 そのほほは紅潮し、心なしか息も荒かった。その黒曜石のような瞳には、今までにない熱が宿っている。
 これは、さっきまでのクールな剣士ではない。
 完全に、恋する乙女の目だ。
 レオンは絶望した。
 運命は――また、新たな試練をレオンに課したのだ。
 四人。
 四人全員が、自分に恋している。
 世界一を目指すよりも、この少女たちの暴走を止める方が、よほど困難かもしれない――そんな予感が、彼の胸をよぎった。
 だが――少女たちはみんなとても幸せそうな笑顔なのだ。
 幸せなら……いいのかなぁ……。
 それはレオンにとって唯一の救いだった。
 こうして、英雄たちの夜は更けていく。
 笑い声と、甘い空気と、そして――レオンの深いため息と共に。
 伝説の始まりは、思いがけない方向へと転がり始めていた。