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第23話

ー/ー



 前期期末試験が無事終わった。補講や授業の予備日、集中講義が残っているものの、夏休みを待つばかりだ。
 自己採点ベースだとほぼすべての科目でかなり優秀な成績をとることになりそうだ。下手したら特待生……は考えすぎか。佳織と普段から一緒になって勉強したおかげだ。
 俺と大久保さんをくっつけようとして、かえってひどい目に遭った遠藤と菅野はどうしたかって? 試験期間に入ると、案の定二人とも愛佳さんの連絡先を教えてくれ、と俺にLEINを何度も送ってきた。悪いが、お前らに教えるほどこちらは暇じゃない。愛佳さんはうちのサークルの先輩で彼氏持ちだからな。
 結局、あの二人はテストが終わった日にはげっそりとした顔で大学をとぼとぼと後にした。二人とも、LEINのグループチャットで「必要な単位を落とした」とぼやいていた。そのままずるずるとパチンコにハマって、挙句ぼろ負けして店の外で絶叫しないことを願うね。
 さて、俺と佳織、愛佳さん、そして佳織の妹の四人でどこか行こうという話になったのは、前期の期末試験勉強真っ只中の金曜日のお昼時だった。

 ☆

「二人とも、勉強頑張っている?」
「ええ」

 その日も、俺たちは愛佳さんと一緒に学食でお昼を食べていた。
 いつもだったらランチをがつがつ食べるはずの愛佳さんだが、今日に限ってはかけそばにしている。一体どういうことだ?

「今日は定食じゃないんですね」
「彼氏に見せたい水着を買ったばかりでね、ちょっとお財布がピンチなのよ」
「こないだ話したボランティアサークルの人ですか」
「佳織ちゃんの言う通りね。ただ、七夕が終わってからでもいいからデートに行かない? と誘っても乗り気じゃないのよね……」

 愛佳さんはそう話すと、腕を組んでは渋い顔をした。
 こないだも話していたけど、そこまで乗り気じゃないと浮気されている可能性は高いだろう。愛佳さんはスタイルが抜群なのに、もったいない。
 俺もどこか行きたいけど、近場にいいところがあるのかなぁ。

「……そうだ! テストが終わったら三人で遊びに行きませんか?」

 そう話すと、佳織がスマホを操作してから愛佳さんに見せた。

「『ベルサンピアみやぎ泉』といって、普段はホテルや体育館にゴルフの練習場がある保養施設で、夏になるとプールで賑わうそうです。私、子供の頃何度も父さんに連れられて行ったことがありますよ」
「なるほど、ここってウォータースライダーなどがあるところよね」
「そうですね。私と愛佳さん、トオル君、そしてここに居ない山本君を含めて一緒に行きません?」
「いいわね。でも、同じ学部の私達三人ならばともかく、山本君は大丈夫かしら?」
「だったら俺が聞いてみますよ。最近よく俺の部屋に来ていますから」
「それじゃあ、お任せするわね」

 山本は背が小さいからこの二人のボディガードが務まるか微妙だけど、聞くだけ聞いてみるか。

「愛佳さん、後は私の妹も連れてきていいですか」
「いいけど、どうして?」
「大学受験の間はあまり構ってあげられなかったので、一緒に遊ぶのもいいかなぁって。ダメですか?」
「大丈夫よ。何かあったら守ってあげられる?」
「もちろんです! 子供の頃にちょっとだけ空手をやっていましたから」

 女性にしては握力がかなり強いと思ったら、そういうことだったのか。というか、妹さんもやっているのは意外だな。

「佳織、空手をやっていたのって本当か?」
「本当だよ。父さんの勧めでちょっとだけやったことがあるの。始めて一年と経たないうちに胸が大きくなり始めて、それで……ね。でも、高校に入ってチアを始めた時に活かせたから良かったよ」

 こないだのスピーチ大会でハイキックを上手く決めていたけど、それも小さい頃に空手をやっていたからこそだろう。
 佳織は照れくさそうに話しているけど、何事も積み重ねだよな。

「それじゃあ、決まりですね。細かいことは後で連絡してもいいですか?」
「ええ、構わないわ。楽しみにしているわね」

 こうして、テストが終わった後に俺達三人と佳織の妹を含めた四人で保養施設にあるプールへ行くこととなった。とはいえ、水着がないと話にならないので、佳織と相談してその翌日に買い出しとセットで水着を買いに行くこととなった。
 買ったのは柄のないシンプルな水着で、佳織も「良いじゃない」とほめてくれた。
 一方の佳織はプールに行く時まで内緒だよ、と意味ありげな微笑みを浮かべたまま詳細を教えてくれなかった。もう四ヶ月近くも一緒に居るから教えてくれたっていいだろう、本当に。

 ☆

 それからテストが無事終わり、一部の科目を除いては前期分の講義が終わった。
 今日は佳織と愛佳さん、俺の三人でプールへと向かうことになった。
 なお、山本に連絡したら「俺はアルバイトで忙しいから、俺の分も楽しんで来い」とあっさりと断られてしまった。
 果たして俺一人で大丈夫なのだろうか心配だけど、なるようになれ、だ。
 なお、待ち合わせ場所は泉中央駅の近くにあるコンビニの駐車場となった。そうなると、佳織が実家から車を持ってくるってことになるのだろうか。

「ねぇ、本当にここでいいのかしら?」

 スポーティーなサングラスを外した愛佳さんは心配するような目つきで俺を見つつ、辺りをキョロキョロと見まわした。

「大丈夫ですよ。昨日佳織から『親に連絡したら、車を貸してくれるって』ってLEINが来ていましたから」
「そう? それならいいんだけど……」

 すると、大学の近辺にある駐車場でよく見かける軽自動車がクラクションを鳴らしてから、こちらに向かってきた。
 割と手慣れた感じでピタリと駐車場に止めると、「トオル君、愛佳さん! お待たせ!」の声とともに佳織が車から降りてきた。
 佳織も愛佳さんと同じように体にフィットした服装をしているけど、少しだけガードを固めにしていた。
 車の後ろには初心者マークが貼ってあり、ドライブレコーダーまで用意されているということは、佳織の車なのだろうか。
 
「佳織、これっていったい……」
「母さんの車を借りてきたんだ。もちろん、初心者マークも付いているよ」

 昨日かおととい買い物をしたときに百円ショップで買い物をしていたけど、そういうことだったのか。
 ん、待てよ? そうなると運転は……。

「運転って誰がやっているんだ?」
「もちろん私だよ。免許は推薦入試が終わってから卒業式までの間に取ったの。父さんは勘弁してくれってぼやいたけどね」

 確かに、入学金を払った後でやれ免許だ、やれ一人暮らしの準備だとなると相当お金が吹っ飛ぶだろう。それに、妹が高校に通っていると猶更だ。本当に生活できているのか、佳織の家は。
 人の家のことについて心配していると、助手席の開く音が聞こえた。そこからは佳織と背丈がそんなに変わらない一方で目つきが少し鋭く、ウルフカットにしている女性が出てきた。

「なんか男の声がすると思ったら、お前が姉貴の彼氏なのか?」

 それに、言葉遣いが姉に比べると荒っぽい。本当に佳織の妹なのか?
 あと、俺と佳織は恋人同士ではない。毎日食事を作っていたりするから間違われることはあるけど。

「彼氏ではないけど、そういう君は一体……?」
「アタシ? アタシは佳織の妹で、里果って言うんだ。こう見えても泉第一高校の英語科の二年生で、チア部に居る。よろしくな」

 そう話すと、里果ちゃんは俺に向かって握手を求めてきた。
 なんだ、話してみると結構いい子そうじゃないか。ただ、佳織と里果ちゃんって性格も違えば口調も違うような……。

「よ、よろしく」

 俺は里果ちゃんの手を握り返した。
 里果ちゃんの手は佳織と同じように柔らかくて、温かかった。
 だけど、握る力はちょっとだけ佳織よりも強いような気がした。

「そちらの髪が長い女の人は誰なんだ?」
「私? 私は高橋愛佳。佳織ちゃんとは同じサークルに居るの。いつも里果ちゃんのことは佳織ちゃんから聞いてるわ」
「ふーん……」

 すると、里果ちゃんは愛佳さんをじろじろと見まわした。

「な、何よ急にじろじろと見て」
「いや、ちょっとアタシに比べて綺麗な人だなぁって」
「き、綺麗だなんてそんな……。私は酔っぱらって迷惑をかけたりすることもあるし、その……」

 愛佳さんは里果ちゃんに褒められると、急に頬が赤くなった。愛佳さんは照れ屋さんなのか?

「と、とにかく今日はよろしくね」
「よろしくな。……大学に入ってから彼氏と先輩が出来るなんて、意外だったぜ」

 そう話すと、里果ちゃんはまた車に乗り込んだ。

「そろそろ行きませんか?」
「そうね。暑い中立っているのもあれだし、行きましょうか」

 俺は黙って頷くと、後部座席に乗ってシートベルトを締めた。
 あとは佳織の運転で目的地となるベルサンピアみやぎ泉へ向かうだけだ。
 だけど、佳織の運転で大丈夫かな……。

 ◇

 それから二〇分後、無事目的地となるベルサンピアみやぎ泉に到着した。
 佳織の運転は非常に落ち着いたもので、初心者の模範となるものだった。スピードを出しすぎず、交通マナーを的確に守って……といった感じで、非常に乗り心地は良かった。
 後部座席からそれぞれの荷物を取り出すと、俺達はそれぞれの更衣室へと向かうことになった。

「佳織ちゃん、初心者なのに上手いわね」
「ありがとうございます。最初は車に乗って通おうと考えていましたから。愛佳さんはどうなんですか?」
「私は今年の三月に免許を取ったけど、ペーパードライバー一直線よ。佳織ちゃんが羨ましいわ。車って高いんでしょ」
「そんなことないですよ。母さんの車は数年前に買ったもので、買い物用の足として使っています。私の実家は車がないとどこにも行けないから、父さんと母さんも車を持っていますよ」
「いいなぁ、俺の家なんて父さんしか持っていないからな」
「私が住んでいるところの周辺はそうだよ。車がなきゃ生活できないからね」

 俺の家は父さんが車を持っていて、母さんはそれに乗って通勤しているから、父さんが忙しい時は母さん一人だけで歩いて帰るってことがざらにある。維持費や税金、任意保険の費用がかかるから、務めることになったとしても生活できるかわからない。ましてや都心に近いところだから、車に代わる交通手段は割と豊富だ。
 仙台に住んでもう四ヶ月近くになるけど、仙台も実家がある横須賀と似ている。違うところは私鉄がないことと、中心街や住宅街を離れるとすぐに田んぼが見えることだ。俺の近所だと田んぼはまず見ることがなかったのに。

「なぁ、愛佳さんって車の免許を持っているのか?」
「もちろんよ、里果ちゃん。車の免許は今年春休みにアルバイトで実家へ戻った時に父さんから言われてね、その時に取ったのよ」
「ちなみにどこでアルバイトをしていたんだ?」
「コンビニよ。歩いて行けるところだったから、ちょうど良かったわ」
「ふーん、大学に入ったら車の免許を取っておこうかな……」

 里果ちゃん達と話していると、いつの間にか更衣室で二手に分かれることとなった。
 スピーチ大会の時に選んでいた佳織の水着が気になるけど、愛佳さんがテスト中に話していた彼氏に見せたい水着も気になる。
 俺はチノパンを脱げばいいだけだけど、果たして佳織以外の女性陣に受け入れてもらえるのだろうか。



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みんなのリアクション

 前期期末試験が無事終わった。補講や授業の予備日、集中講義が残っているものの、夏休みを待つばかりだ。
 自己採点ベースだとほぼすべての科目でかなり優秀な成績をとることになりそうだ。下手したら特待生……は考えすぎか。佳織と普段から一緒になって勉強したおかげだ。
 俺と大久保さんをくっつけようとして、かえってひどい目に遭った遠藤と菅野はどうしたかって? 試験期間に入ると、案の定二人とも愛佳さんの連絡先を教えてくれ、と俺にLEINを何度も送ってきた。悪いが、お前らに教えるほどこちらは暇じゃない。愛佳さんはうちのサークルの先輩で彼氏持ちだからな。
 結局、あの二人はテストが終わった日にはげっそりとした顔で大学をとぼとぼと後にした。二人とも、LEINのグループチャットで「必要な単位を落とした」とぼやいていた。そのままずるずるとパチンコにハマって、挙句ぼろ負けして店の外で絶叫しないことを願うね。
 さて、俺と佳織、愛佳さん、そして佳織の妹の四人でどこか行こうという話になったのは、前期の期末試験勉強真っ只中の金曜日のお昼時だった。
 ☆
「二人とも、勉強頑張っている?」
「ええ」
 その日も、俺たちは愛佳さんと一緒に学食でお昼を食べていた。
 いつもだったらランチをがつがつ食べるはずの愛佳さんだが、今日に限ってはかけそばにしている。一体どういうことだ?
「今日は定食じゃないんですね」
「彼氏に見せたい水着を買ったばかりでね、ちょっとお財布がピンチなのよ」
「こないだ話したボランティアサークルの人ですか」
「佳織ちゃんの言う通りね。ただ、七夕が終わってからでもいいからデートに行かない? と誘っても乗り気じゃないのよね……」
 愛佳さんはそう話すと、腕を組んでは渋い顔をした。
 こないだも話していたけど、そこまで乗り気じゃないと浮気されている可能性は高いだろう。愛佳さんはスタイルが抜群なのに、もったいない。
 俺もどこか行きたいけど、近場にいいところがあるのかなぁ。
「……そうだ! テストが終わったら三人で遊びに行きませんか?」
 そう話すと、佳織がスマホを操作してから愛佳さんに見せた。
「『ベルサンピアみやぎ泉』といって、普段はホテルや体育館にゴルフの練習場がある保養施設で、夏になるとプールで賑わうそうです。私、子供の頃何度も父さんに連れられて行ったことがありますよ」
「なるほど、ここってウォータースライダーなどがあるところよね」
「そうですね。私と愛佳さん、トオル君、そしてここに居ない山本君を含めて一緒に行きません?」
「いいわね。でも、同じ学部の私達三人ならばともかく、山本君は大丈夫かしら?」
「だったら俺が聞いてみますよ。最近よく俺の部屋に来ていますから」
「それじゃあ、お任せするわね」
 山本は背が小さいからこの二人のボディガードが務まるか微妙だけど、聞くだけ聞いてみるか。
「愛佳さん、後は私の妹も連れてきていいですか」
「いいけど、どうして?」
「大学受験の間はあまり構ってあげられなかったので、一緒に遊ぶのもいいかなぁって。ダメですか?」
「大丈夫よ。何かあったら守ってあげられる?」
「もちろんです! 子供の頃にちょっとだけ空手をやっていましたから」
 女性にしては握力がかなり強いと思ったら、そういうことだったのか。というか、妹さんもやっているのは意外だな。
「佳織、空手をやっていたのって本当か?」
「本当だよ。父さんの勧めでちょっとだけやったことがあるの。始めて一年と経たないうちに胸が大きくなり始めて、それで……ね。でも、高校に入ってチアを始めた時に活かせたから良かったよ」
 こないだのスピーチ大会でハイキックを上手く決めていたけど、それも小さい頃に空手をやっていたからこそだろう。
 佳織は照れくさそうに話しているけど、何事も積み重ねだよな。
「それじゃあ、決まりですね。細かいことは後で連絡してもいいですか?」
「ええ、構わないわ。楽しみにしているわね」
 こうして、テストが終わった後に俺達三人と佳織の妹を含めた四人で保養施設にあるプールへ行くこととなった。とはいえ、水着がないと話にならないので、佳織と相談してその翌日に買い出しとセットで水着を買いに行くこととなった。
 買ったのは柄のないシンプルな水着で、佳織も「良いじゃない」とほめてくれた。
 一方の佳織はプールに行く時まで内緒だよ、と意味ありげな微笑みを浮かべたまま詳細を教えてくれなかった。もう四ヶ月近くも一緒に居るから教えてくれたっていいだろう、本当に。
 ☆
 それからテストが無事終わり、一部の科目を除いては前期分の講義が終わった。
 今日は佳織と愛佳さん、俺の三人でプールへと向かうことになった。
 なお、山本に連絡したら「俺はアルバイトで忙しいから、俺の分も楽しんで来い」とあっさりと断られてしまった。
 果たして俺一人で大丈夫なのだろうか心配だけど、なるようになれ、だ。
 なお、待ち合わせ場所は泉中央駅の近くにあるコンビニの駐車場となった。そうなると、佳織が実家から車を持ってくるってことになるのだろうか。
「ねぇ、本当にここでいいのかしら?」
 スポーティーなサングラスを外した愛佳さんは心配するような目つきで俺を見つつ、辺りをキョロキョロと見まわした。
「大丈夫ですよ。昨日佳織から『親に連絡したら、車を貸してくれるって』ってLEINが来ていましたから」
「そう? それならいいんだけど……」
 すると、大学の近辺にある駐車場でよく見かける軽自動車がクラクションを鳴らしてから、こちらに向かってきた。
 割と手慣れた感じでピタリと駐車場に止めると、「トオル君、愛佳さん! お待たせ!」の声とともに佳織が車から降りてきた。
 佳織も愛佳さんと同じように体にフィットした服装をしているけど、少しだけガードを固めにしていた。
 車の後ろには初心者マークが貼ってあり、ドライブレコーダーまで用意されているということは、佳織の車なのだろうか。
「佳織、これっていったい……」
「母さんの車を借りてきたんだ。もちろん、初心者マークも付いているよ」
 昨日かおととい買い物をしたときに百円ショップで買い物をしていたけど、そういうことだったのか。
 ん、待てよ? そうなると運転は……。
「運転って誰がやっているんだ?」
「もちろん私だよ。免許は推薦入試が終わってから卒業式までの間に取ったの。父さんは勘弁してくれってぼやいたけどね」
 確かに、入学金を払った後でやれ免許だ、やれ一人暮らしの準備だとなると相当お金が吹っ飛ぶだろう。それに、妹が高校に通っていると猶更だ。本当に生活できているのか、佳織の家は。
 人の家のことについて心配していると、助手席の開く音が聞こえた。そこからは佳織と背丈がそんなに変わらない一方で目つきが少し鋭く、ウルフカットにしている女性が出てきた。
「なんか男の声がすると思ったら、お前が姉貴の彼氏なのか?」
 それに、言葉遣いが姉に比べると荒っぽい。本当に佳織の妹なのか?
 あと、俺と佳織は恋人同士ではない。毎日食事を作っていたりするから間違われることはあるけど。
「彼氏ではないけど、そういう君は一体……?」
「アタシ? アタシは佳織の妹で、里果って言うんだ。こう見えても泉第一高校の英語科の二年生で、チア部に居る。よろしくな」
 そう話すと、里果ちゃんは俺に向かって握手を求めてきた。
 なんだ、話してみると結構いい子そうじゃないか。ただ、佳織と里果ちゃんって性格も違えば口調も違うような……。
「よ、よろしく」
 俺は里果ちゃんの手を握り返した。
 里果ちゃんの手は佳織と同じように柔らかくて、温かかった。
 だけど、握る力はちょっとだけ佳織よりも強いような気がした。
「そちらの髪が長い女の人は誰なんだ?」
「私? 私は高橋愛佳。佳織ちゃんとは同じサークルに居るの。いつも里果ちゃんのことは佳織ちゃんから聞いてるわ」
「ふーん……」
 すると、里果ちゃんは愛佳さんをじろじろと見まわした。
「な、何よ急にじろじろと見て」
「いや、ちょっとアタシに比べて綺麗な人だなぁって」
「き、綺麗だなんてそんな……。私は酔っぱらって迷惑をかけたりすることもあるし、その……」
 愛佳さんは里果ちゃんに褒められると、急に頬が赤くなった。愛佳さんは照れ屋さんなのか?
「と、とにかく今日はよろしくね」
「よろしくな。……大学に入ってから彼氏と先輩が出来るなんて、意外だったぜ」
 そう話すと、里果ちゃんはまた車に乗り込んだ。
「そろそろ行きませんか?」
「そうね。暑い中立っているのもあれだし、行きましょうか」
 俺は黙って頷くと、後部座席に乗ってシートベルトを締めた。
 あとは佳織の運転で目的地となるベルサンピアみやぎ泉へ向かうだけだ。
 だけど、佳織の運転で大丈夫かな……。
 ◇
 それから二〇分後、無事目的地となるベルサンピアみやぎ泉に到着した。
 佳織の運転は非常に落ち着いたもので、初心者の模範となるものだった。スピードを出しすぎず、交通マナーを的確に守って……といった感じで、非常に乗り心地は良かった。
 後部座席からそれぞれの荷物を取り出すと、俺達はそれぞれの更衣室へと向かうことになった。
「佳織ちゃん、初心者なのに上手いわね」
「ありがとうございます。最初は車に乗って通おうと考えていましたから。愛佳さんはどうなんですか?」
「私は今年の三月に免許を取ったけど、ペーパードライバー一直線よ。佳織ちゃんが羨ましいわ。車って高いんでしょ」
「そんなことないですよ。母さんの車は数年前に買ったもので、買い物用の足として使っています。私の実家は車がないとどこにも行けないから、父さんと母さんも車を持っていますよ」
「いいなぁ、俺の家なんて父さんしか持っていないからな」
「私が住んでいるところの周辺はそうだよ。車がなきゃ生活できないからね」
 俺の家は父さんが車を持っていて、母さんはそれに乗って通勤しているから、父さんが忙しい時は母さん一人だけで歩いて帰るってことがざらにある。維持費や税金、任意保険の費用がかかるから、務めることになったとしても生活できるかわからない。ましてや都心に近いところだから、車に代わる交通手段は割と豊富だ。
 仙台に住んでもう四ヶ月近くになるけど、仙台も実家がある横須賀と似ている。違うところは私鉄がないことと、中心街や住宅街を離れるとすぐに田んぼが見えることだ。俺の近所だと田んぼはまず見ることがなかったのに。
「なぁ、愛佳さんって車の免許を持っているのか?」
「もちろんよ、里果ちゃん。車の免許は今年春休みにアルバイトで実家へ戻った時に父さんから言われてね、その時に取ったのよ」
「ちなみにどこでアルバイトをしていたんだ?」
「コンビニよ。歩いて行けるところだったから、ちょうど良かったわ」
「ふーん、大学に入ったら車の免許を取っておこうかな……」
 里果ちゃん達と話していると、いつの間にか更衣室で二手に分かれることとなった。
 スピーチ大会の時に選んでいた佳織の水着が気になるけど、愛佳さんがテスト中に話していた彼氏に見せたい水着も気になる。
 俺はチノパンを脱げばいいだけだけど、果たして佳織以外の女性陣に受け入れてもらえるのだろうか。