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第22話

ー/ー



 そして月曜日。

「おはよう、鹿島!」
「おはようございます、鹿島さん」

 押川記念館での礼拝が終わった後に講義棟へ戻ろうとしている俺に声をかけたのは――。

「吉田!? それと、大久保さんも?」

 そう、吉田と昨日俺とデートした大久保さんだった。
 大久保さんはというと、子供っぽい恰好からランタンスリーブTシャツに薄手のベストといった季節柄が現れた服装に変わっていた。
 この服、どこかで見覚えがあるぞ。

「その服って、もしかして……」
「実を言いますと、昨日デートから帰ったときに吉田君とばったり会いました。そこで話をしたら……」
「あっさりと付き合うことになって、そこで近くのショッピングモールで買ってあげたんだ」

 買ってあげたって、バイトはどうしたんだ。

「吉田、バイトがあったんじゃ……」
「ちょうど早く上がってな、それで帰り際に偶然大久保と会ったんだ。そこで改めて告白したら大久保もOKを出して、それで買ってあげようってことになったんだ」
「上手く行ったのは鹿島さんのおかげです。本当にありがとうございました!」

 そう話すと、大久保さんと吉田は深々とお辞儀をして去っていった。それにしても、吉田のバイトが早く終わるとは考えていなかったな。
 大久保さん、歩き方や喋り方が昨日と比べると段違いに変わっていた。もうこれで彼女も中学生呼ばわりされることはなくなりそうだ。
 問題は愛佳さん達とデートした遠藤と菅野だけど……。

「どうしたの、トオル君。早くしないと講義に間に合わないよ?」

 後ろから佳織に声をかけられた。びっくりするじゃないか!

「佳織、居るなら居るって言えよ!」
「だって、声をかけづらかったから……。ごめんね」
「別に怒ってないよ。講義棟に戻ろう」

 まぁ、吉田と大久保のラブラブぶりを見せつけられたら、ね。
 早く講義棟に戻って、次の講義に備えないと。
 問題の遠藤と菅野だけど、LEINを見た限りでは楽しそうにやっていたはずだ。講義に出席するだけの体力と気力があればいいけど。

「前のほうに座るの?」

 次の講義がある部屋に入ると、佳織が俺に聞いてきた。
 
「まぁ、あいつらのことがあるからね……」
「それもそうね」

 こないだ俺を嵌めようとしたあの二人は講義となるといつも前に座っているからな、あいつらがどうなっているか見てみたい。
 佳織と二手に分かれて座ると、前のほうにはうなだれていた二人の姿があった。

「よお、鹿島……」
「おはよう……」

 遠藤と菅野は俺を見るなり、気が抜けたコーラのような表情をして俺に挨拶をしてきた。

「どうしたんだ、お前ら」
「それはこっちのセリフだろ……。鹿島、なんて人を紹介したんだよお前は……」
「いや、俺は何にもしていないぞ」
「とぼけんなよ……。カラオケに付き合わされて、それから高橋さんにきっちりとお持ち帰りされたんだぜ……」
「ま、マジか……」
「俺もだよ……。小川さん、どれだけ体力があるんだよ……」

 菅野はぐったりとしていて、心ここにあらずといったところだった。
 月曜の一コマ目でこいつら二人と一緒にならなくて良かったよ。
 そこで愛佳さんのトークルームを見ると、俺と大久保さんが別れるか否かの時間帯に「これから私のアパートに向かうわ」とメッセージを入れていた。愛佳さんって、五橋の近くに住んでいたのか。
 そして、凜乃さんのトーク履歴には夜になって帰れなくなった男女が一夜を明かすといってそのまま朝までお楽しみをするホテルが映し出されていた。
 ただ、一方で気になることがあった。
 家に戻った後で、二人に大久保さんとのデートが無事終わったとメッセージを送っても、既読がなかなかつかなかった。ついたのを確認したのは今日になってからだ。
 ということは……、だよな。というか、さっきから後ろが騒がしいな。いったい誰が……。

「ねぇ、今度一緒に映画を見に行こうよ。鹿島さんと一緒に見た映画、面白かったよ!」
「いいなぁ、それ。まさか連載が完結したヤンキー漫画原作の映画か?」
「そうだよ! またアニメにもなるみたいだし、行こうよ!」
「もちろんさ」

 大久保と吉田の二人だ。
 笑いながら話す大久保さんの表情はとても明るく、俺に対してちょっと泣き笑いを浮かべていた笑顔が嘘のようだ。二人とも末長く爆発してくれ。
 一方では、「鹿島の馬鹿野郎……」と遠藤達が気力なさげにつぶやいた。
 お前ら二人はこれを機に真っ向な手段で彼女を見つけるようにしてくれ。いや、マジで。

 ◇

 今日は佳織がサンドウィッチを作ってくれたので、わざわざ学食に行くことはなかった。そうなると飲み物を用意すれば準備万端ということもあり、お昼を食べながらのエクササイズとなった。
 今日の愛佳さんは普段から蠱惑的な感じがするけど、今日は妖艶さを醸し出している。これはひょっとして……。失礼を承知で聞いてみよう。

「愛佳さん、昨日はあれからどうしました?」
「私も気になります。愛佳さん、昨日はメッセージを送っても既読がつかなかったから……」

 佳織も気になっていたのか。

「ん? あれ? 実はね、あれから遠藤君とその……、ね」

 あれ? 愛佳さん、いつもの冷静さが見られないぞ。何かごまかしているように見受けられるけど、一体どういうことだってばよ?

「愛佳さん、まさか……、()()()()か?」
「え?」
「その、エッチなことを……。私、そういうことをしたことがないからわかりませんが……」

 佳織投手、ピッチャーの愛佳さんに向かって剛速球をぶちかましました! 佳織選手の顔が何気に赤くなっております!
 ……って、こっちに来てからよく見るようになった野球の実況風に語っているんだよ、俺。

「ええ、()()わよ。……三回だけ。カラオケに行った後で遠藤君を私のアパートに連れ込んだのよ。そこで『佳織と付き合いたい!』って正直な気持ちを打ち明けたから、『それなら、まずは私で予行演習してみたら?』って誘ったのよ。そうしたら意外と……、ね」

 愛佳さんは顔を真っ赤にして、俺たちの顔を見ないようにした。
 そりゃあ、遠藤も腑抜けになるわけだ。
 
「その、ね。据え膳食わぬは男の恥って言うじゃない。だから……ね」
「愛佳さん、そこは()じゃなくて()ですよ」
「そんなことはどうだっていいわ、佳織ちゃん。でも、こういうのは遠慮したいわ。……第一、誘ってくれないアイツが……」

 そういえば、先週の火曜日に愛佳さんの彼氏の話をしていた。そこでデートになかなか誘ってくれないと愚痴っていたけど、本当なのだろうか。
 
「あの、つかぬことを伺いますが、愛佳さんの彼氏って中村先輩じゃあ……」

 すると、愛佳さんは首を横に振って「中村とは何でもないわよ」と答えた。
 親しい口ぶりで話していたからてっきり彼氏だと思ったけど、違うのか。

「それに、どうして彼氏だと思ったの?」
「中村先輩、愛佳さんのことを呼び捨てにしていたから……」
「中村は私と似てフランクだから、そう思われても仕方ないわ。中村は陸奥(とんぺい)に可愛い彼女が居るわよ。但し、同じサークルじゃないけどね」
「それじゃあ、愛佳さんの彼氏ってここの大学に通っている人ですか」
「そうね。同じ大学のボランティアサークルに居るわ」

 ボランティアサークルといえば、新歓パンフのその他公認団体のトップに書いてあるところと世界最大規模の奉仕団体の学生団体があったはずだ。前者はともかく、後者は奉仕団体が絡んでくるからまずないだろう。

「ところで、徹君は仙台七夕って知っている?」
「ええ、父さんから聞きました。来月の六日から八日まで、ですよね」
「そう。今その準備で忙しいのよ」

 小学校の頃だったかな、一度だけ仙台にある父さんの実家に泊まったことがあった。
 その時はちょうど仙台七夕があって、その前日の花火大会に行ったことがある。会場周辺は混んでいてなかなか思うように見られなかったけど、あの光景は今でも忘れられない。
 閑話休題。今は愛佳さんの彼氏のことだった。
 愛佳さんの話から想像すると、愛佳さんの彼氏がいるのは新歓パンフの「その他公認団体」でトップを飾っていたサークルだろう。

「それに、あそこは女性会員が多いじゃない。下手したら浮気している可能性も……」

 そう話すと、愛佳さんは腕を組んでため息をついた。
 ボランティアサークルとはいえ、男女比が一対二で後期の具体的な活動が全く見えない。前期は七夕があるからそちらに全力投球するとして、後期は……。
 待てよ? もうそろそろ前期の試験がやってくる頃じゃないか!

「愛佳さん、そろそろ試験ですよね。そちらはどうしようかと考えていたんですが」
「そうね。私でよければ教えられるところはあるけど、二人ともどうするの?」

 どうするのって言われても、カリキュラムがいろいろと変わっているからなぁ。

「私は……、先輩にいろいろと教えてもらえたらなぁって。トオル君はどうするの?」
「俺か? 俺は……」

 俺のことで迷惑をかけてしまった以上は、愛佳さんの好意に甘んじよう。
 俺は「ぜひお願いします」と話すと、軽く頭を下げた。

「ふむ、よろしい。……って、もう午後一時ね。そろそろ講義の準備に取り掛かりましょう」

 そう言って愛佳さんがいろいろと片付けると、俺達も円形テーブルにあるものを片付けた。
 いつも通りといえばいつも通りだけど、これから八月の前半までは試験に集中講義とやらなきゃならないことが目白押しだ。
 母さんからいつ帰省するの? とLEINがあったけど、お盆の直前でいいだろう。夏祭りもあるし。



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 そして月曜日。
「おはよう、鹿島!」
「おはようございます、鹿島さん」
 押川記念館での礼拝が終わった後に講義棟へ戻ろうとしている俺に声をかけたのは――。
「吉田!? それと、大久保さんも?」
 そう、吉田と昨日俺とデートした大久保さんだった。
 大久保さんはというと、子供っぽい恰好からランタンスリーブTシャツに薄手のベストといった季節柄が現れた服装に変わっていた。
 この服、どこかで見覚えがあるぞ。
「その服って、もしかして……」
「実を言いますと、昨日デートから帰ったときに吉田君とばったり会いました。そこで話をしたら……」
「あっさりと付き合うことになって、そこで近くのショッピングモールで買ってあげたんだ」
 買ってあげたって、バイトはどうしたんだ。
「吉田、バイトがあったんじゃ……」
「ちょうど早く上がってな、それで帰り際に偶然大久保と会ったんだ。そこで改めて告白したら大久保もOKを出して、それで買ってあげようってことになったんだ」
「上手く行ったのは鹿島さんのおかげです。本当にありがとうございました!」
 そう話すと、大久保さんと吉田は深々とお辞儀をして去っていった。それにしても、吉田のバイトが早く終わるとは考えていなかったな。
 大久保さん、歩き方や喋り方が昨日と比べると段違いに変わっていた。もうこれで彼女も中学生呼ばわりされることはなくなりそうだ。
 問題は愛佳さん達とデートした遠藤と菅野だけど……。
「どうしたの、トオル君。早くしないと講義に間に合わないよ?」
 後ろから佳織に声をかけられた。びっくりするじゃないか!
「佳織、居るなら居るって言えよ!」
「だって、声をかけづらかったから……。ごめんね」
「別に怒ってないよ。講義棟に戻ろう」
 まぁ、吉田と大久保のラブラブぶりを見せつけられたら、ね。
 早く講義棟に戻って、次の講義に備えないと。
 問題の遠藤と菅野だけど、LEINを見た限りでは楽しそうにやっていたはずだ。講義に出席するだけの体力と気力があればいいけど。
「前のほうに座るの?」
 次の講義がある部屋に入ると、佳織が俺に聞いてきた。
「まぁ、あいつらのことがあるからね……」
「それもそうね」
 こないだ俺を嵌めようとしたあの二人は講義となるといつも前に座っているからな、あいつらがどうなっているか見てみたい。
 佳織と二手に分かれて座ると、前のほうにはうなだれていた二人の姿があった。
「よお、鹿島……」
「おはよう……」
 遠藤と菅野は俺を見るなり、気が抜けたコーラのような表情をして俺に挨拶をしてきた。
「どうしたんだ、お前ら」
「それはこっちのセリフだろ……。鹿島、なんて人を紹介したんだよお前は……」
「いや、俺は何にもしていないぞ」
「とぼけんなよ……。カラオケに付き合わされて、それから高橋さんにきっちりとお持ち帰りされたんだぜ……」
「ま、マジか……」
「俺もだよ……。小川さん、どれだけ体力があるんだよ……」
 菅野はぐったりとしていて、心ここにあらずといったところだった。
 月曜の一コマ目でこいつら二人と一緒にならなくて良かったよ。
 そこで愛佳さんのトークルームを見ると、俺と大久保さんが別れるか否かの時間帯に「これから私のアパートに向かうわ」とメッセージを入れていた。愛佳さんって、五橋の近くに住んでいたのか。
 そして、凜乃さんのトーク履歴には夜になって帰れなくなった男女が一夜を明かすといってそのまま朝までお楽しみをするホテルが映し出されていた。
 ただ、一方で気になることがあった。
 家に戻った後で、二人に大久保さんとのデートが無事終わったとメッセージを送っても、既読がなかなかつかなかった。ついたのを確認したのは今日になってからだ。
 ということは……、だよな。というか、さっきから後ろが騒がしいな。いったい誰が……。
「ねぇ、今度一緒に映画を見に行こうよ。鹿島さんと一緒に見た映画、面白かったよ!」
「いいなぁ、それ。まさか連載が完結したヤンキー漫画原作の映画か?」
「そうだよ! またアニメにもなるみたいだし、行こうよ!」
「もちろんさ」
 大久保と吉田の二人だ。
 笑いながら話す大久保さんの表情はとても明るく、俺に対してちょっと泣き笑いを浮かべていた笑顔が嘘のようだ。二人とも末長く爆発してくれ。
 一方では、「鹿島の馬鹿野郎……」と遠藤達が気力なさげにつぶやいた。
 お前ら二人はこれを機に真っ向な手段で彼女を見つけるようにしてくれ。いや、マジで。
 ◇
 今日は佳織がサンドウィッチを作ってくれたので、わざわざ学食に行くことはなかった。そうなると飲み物を用意すれば準備万端ということもあり、お昼を食べながらのエクササイズとなった。
 今日の愛佳さんは普段から蠱惑的な感じがするけど、今日は妖艶さを醸し出している。これはひょっとして……。失礼を承知で聞いてみよう。
「愛佳さん、昨日はあれからどうしました?」
「私も気になります。愛佳さん、昨日はメッセージを送っても既読がつかなかったから……」
 佳織も気になっていたのか。
「ん? あれ? 実はね、あれから遠藤君とその……、ね」
 あれ? 愛佳さん、いつもの冷静さが見られないぞ。何かごまかしているように見受けられるけど、一体どういうことだってばよ?
「愛佳さん、まさか……、|し《・》|ま《・》|し《・》|た《・》か?」
「え?」
「その、エッチなことを……。私、そういうことをしたことがないからわかりませんが……」
 佳織投手、ピッチャーの愛佳さんに向かって剛速球をぶちかましました! 佳織選手の顔が何気に赤くなっております!
 ……って、こっちに来てからよく見るようになった野球の実況風に語っているんだよ、俺。
「ええ、|し《・》|た《・》わよ。……三回だけ。カラオケに行った後で遠藤君を私のアパートに連れ込んだのよ。そこで『佳織と付き合いたい!』って正直な気持ちを打ち明けたから、『それなら、まずは私で予行演習してみたら?』って誘ったのよ。そうしたら意外と……、ね」
 愛佳さんは顔を真っ赤にして、俺たちの顔を見ないようにした。
 そりゃあ、遠藤も腑抜けになるわけだ。
「その、ね。据え膳食わぬは男の恥って言うじゃない。だから……ね」
「愛佳さん、そこは|男《・》じゃなくて|女《・》ですよ」
「そんなことはどうだっていいわ、佳織ちゃん。でも、こういうのは遠慮したいわ。……第一、誘ってくれないアイツが……」
 そういえば、先週の火曜日に愛佳さんの彼氏の話をしていた。そこでデートになかなか誘ってくれないと愚痴っていたけど、本当なのだろうか。
「あの、つかぬことを伺いますが、愛佳さんの彼氏って中村先輩じゃあ……」
 すると、愛佳さんは首を横に振って「中村とは何でもないわよ」と答えた。
 親しい口ぶりで話していたからてっきり彼氏だと思ったけど、違うのか。
「それに、どうして彼氏だと思ったの?」
「中村先輩、愛佳さんのことを呼び捨てにしていたから……」
「中村は私と似てフランクだから、そう思われても仕方ないわ。中村は|陸奥《とんぺい》に可愛い彼女が居るわよ。但し、同じサークルじゃないけどね」
「それじゃあ、愛佳さんの彼氏ってここの大学に通っている人ですか」
「そうね。同じ大学のボランティアサークルに居るわ」
 ボランティアサークルといえば、新歓パンフのその他公認団体のトップに書いてあるところと世界最大規模の奉仕団体の学生団体があったはずだ。前者はともかく、後者は奉仕団体が絡んでくるからまずないだろう。
「ところで、徹君は仙台七夕って知っている?」
「ええ、父さんから聞きました。来月の六日から八日まで、ですよね」
「そう。今その準備で忙しいのよ」
 小学校の頃だったかな、一度だけ仙台にある父さんの実家に泊まったことがあった。
 その時はちょうど仙台七夕があって、その前日の花火大会に行ったことがある。会場周辺は混んでいてなかなか思うように見られなかったけど、あの光景は今でも忘れられない。
 閑話休題。今は愛佳さんの彼氏のことだった。
 愛佳さんの話から想像すると、愛佳さんの彼氏がいるのは新歓パンフの「その他公認団体」でトップを飾っていたサークルだろう。
「それに、あそこは女性会員が多いじゃない。下手したら浮気している可能性も……」
 そう話すと、愛佳さんは腕を組んでため息をついた。
 ボランティアサークルとはいえ、男女比が一対二で後期の具体的な活動が全く見えない。前期は七夕があるからそちらに全力投球するとして、後期は……。
 待てよ? もうそろそろ前期の試験がやってくる頃じゃないか!
「愛佳さん、そろそろ試験ですよね。そちらはどうしようかと考えていたんですが」
「そうね。私でよければ教えられるところはあるけど、二人ともどうするの?」
 どうするのって言われても、カリキュラムがいろいろと変わっているからなぁ。
「私は……、先輩にいろいろと教えてもらえたらなぁって。トオル君はどうするの?」
「俺か? 俺は……」
 俺のことで迷惑をかけてしまった以上は、愛佳さんの好意に甘んじよう。
 俺は「ぜひお願いします」と話すと、軽く頭を下げた。
「ふむ、よろしい。……って、もう午後一時ね。そろそろ講義の準備に取り掛かりましょう」
 そう言って愛佳さんがいろいろと片付けると、俺達も円形テーブルにあるものを片付けた。
 いつも通りといえばいつも通りだけど、これから八月の前半までは試験に集中講義とやらなきゃならないことが目白押しだ。
 母さんからいつ帰省するの? とLEINがあったけど、お盆の直前でいいだろう。夏祭りもあるし。