第12話
ー/ー「Mr. Kashima, it's your turn. Hurry up! (鹿島君、あなたの番だよ。早く!)」
長谷川さんが俺に対して早く答えるように急かしてきた。
俺はすぐさま今日話す内容を想定したノートをめくりあげる。
確か、父さんの生まれ故郷である仙台で学んでみたいってことを英語で書いたはずだ。
さすがに女が原因で仙台に逃げてきたなんて、人前では話せないよ。
俺はノートと長谷川さんたちの顔を交互に見ながら、少しずつ英語で仙台の大学を選んだ理由を話し始める。
「My father told me that my father met my mother in Sendai when he was in TGU. So..., (俺の父さんが学院に居たとき、母さんと出会ったからと話していました。それで……) 」
次は高校一年の頃から……ってことを話していいのかな? いや、そこは高校時代の……。
おかしいぞ。次の単語が思ったように出てこない。
代わりに思い出すのは……。
『お前みたいな中途半端な奴が、恵令奈のことを好きなわけないだろ』
『せいぜい恵令奈に声をかけられただけでもありがたく思えよ』
『ねぇ、どうして私のことを無視するの』
『勉強なんてしても成績が上がらなければ意味ないじゃん。それよりも私と気持ちよくなろうよ』
封印したい高校時代の嫌な思い出ばかりが……!
だめだ、だめだ! そんなことを話して、何になるんだ?
もし話したとしても、女の人相手だとあきれ返るだけだぞ! ここで負けるわけには……!
俺は必死に抵抗をするが、緊張でうまく言葉が出ない。いやな思い出は出てくるというのに……。
いっそこのまましゃべらないよりは、本当のことを話そう。出来る限り英語で話そう。
もうどう思われても仕方ないや。
「In fact, I'd like to escape from Yokosuka. Because... (本当は、横須賀から逃げたかったんです。というのも……)」
覚悟が決まると、俺はゆっくりと、少しずつ英語で高校時代のことを話し始めた。
何分間話したのか、よく覚えていない。
嘘の告白をされたこと、修学旅行で襲われたこと、そして襲ってきた相手に付きまとわれたことを、ありのままに話した。
すべて話し終えた途端、俺はどっと汗が全身から噴き出した。
こないだ話すように仕向けた中村先輩はともかくとして、スクラブルで一緒になった長谷川さんや同じ大学の愛佳さん達に聞かせてしまったよ。
「Mr. K..., 鹿島君。それって……」
長谷川さんは英語で話すのをやめて、日本語で俺に話しかけてきた。
「ええ、本当です。嘘の告白をされた後で七帝柔道を小説で知って、旧帝大を目指してひたすら勉強をしました。しかし、修学旅行でギャルに襲撃されたことが後を引いて、結果はこのザマです」
修学旅行で俺の寝込みを襲った清水はしつこかった。
別のクラスになって落ち着いたけども、それが尾を引いてもうちょっとのところで力尽きた。
清水のあの声と仕草が焼き付いて離れなかったと言えばそれまでだけど、もうちょっと頑張れたらなぁ……。
「大学に現役で入れたんでしょ。いいじゃない、気にすることないよ」
長谷川さんは肩を落としていた俺を見るなり、俺を励ましてくれた。
「え? どうしてですか?」
「しつこくされたんでしょ? 私だったら、学校に行かなくなるよ。鹿島君は強いよ」
「そうですか? それだったら国立に入りたかったんだけど……」
「いや、頑張ったんだから、胸を張りなよ」
「そ、そうですね……」
こないだのスクラブルでは新入りである俺と陸奥大の新入生を完膚なきまでに叩きのめした長谷川さんにそう言われると、不思議に悪い気がしなかった。
「そうよ、徹君。もうちょっと自信を持ちなさいな」
すると、左隣に座っている愛佳さんが俺の肩を叩いて励ましてくれた。
ふと愛佳さんの顔を見ると、心なしか微笑んでいるように見えた。
良かった。恥を忍んで話した甲斐はあったよ。
その後も様々な話が飛び出すとちょうど時間と相成って、一通り終了と相成った。
俺としては、陸奥大学に乗り込んでの練習をしたおかげで話したいことが話せたから大満足だった。
まぁ、あの恥ずかしい話は……、別にいいや。
◇
「どうだった、愛佳さんと一緒に居て」
クロージングセレモニーが行われる大講堂で、俺は佳織と合流した。
佳織には引っ越し当日に話した高校時代の嫌な思い出をほかの人に披露したけど、それって大丈夫だったのだろうか。
「まぁ、楽しかったよ。長谷川さんも居たし」
「え? トオル君、長谷川さんと話したの?」
「そうだけど」
そりゃあ一緒の席だったから、話して当たり前だろう。
それに長谷川さんは部屋のリーダーだったからな。
「それがどうかしたのか?」
「こないだ陸奥大学に行った時のことは覚えているでしょ?」
ああ、確か高校時代の女難を話したら逆に男子学生から羨ましがられた時のことだな。
「そこで、長谷川さんと一緒の席になったの。それで、隣に住んでいる子が同じ大学に通っていますよって話したの」
「それで今日も一緒になったというのか?」
スクラブルといい、ウェルカム・ディスカッションといい、長谷川さんと立て続けに一緒の席になったことは裏があったのだろうか。
「ううん、おそらくそうなったのはたまたまだよ。たまたま」
まぁ、今日話した長谷川さんも悪い人ではなかったな。
長谷川さんだけでなく、同じ席に居た愛佳さんも俺の話を聞いて俺のことを励ましてくれたならば、英会話サークルに入った甲斐があった……よな。
◇
「ウェルカム・ディスカッション、お疲れさまでした! そして各大学の新入生の皆さん、ようこそESSへ! 乾杯!」
「乾杯!」
閉会式が終わってから一度部屋に戻り、俺と佳織は打ち上げコンパ兼合同新歓コンパの待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所には愛佳さんに長谷川さんを含め、実に二十人くらいの学生が居た。
流行り病のこともあって、これだけの規模の人数が集まって大丈夫なのかと思ったら、余計な心配は無用だと長谷川さんが話してくれた。
中学校時代と同じように普通の生活を送れるようになれば、それに越したことはないけど。
陸奥大学の部長が乾杯の音頭をとると、二十歳を過ぎた学生たちは一斉にビールをあおった。
俺達のような二十歳未満の学生は全員ウーロン茶で乾杯を済ませた。
法律違反とはいえ、一日でも早くビールが飲みたい!
「と~お~る~、くんっ」
「うひゃぁっ……、って、愛佳さんじゃないですか!」
後ろから艶めかしい声が聞こえると思ったら、最初の一杯を飲んでちょっとだけ酔っていた愛佳さんの姿があった。
この酔い方だと、この前と同じことになりかねないぞ。
「ちゃんと楽しんでいる?」
「愛佳さん、ちゃんと食べていますか?」
「大丈夫よぉ、一杯飲んでからお通しはすべてお腹に収めたからぁ」
「それなら良かったです。こないだみたいなマネはしないでくださいね」
「佳織ちゃんまでそんなこと言うんだぁ」
「わ、私はそんなこと……」
佳織は酔っぱらった愛佳さんに絡まられたくないせいもあって、ちょっと俯きながらソフトドリンク……というか、ウーロン茶を飲んでいた。
俺は俺で最初の一杯はコーラを飲み、それからはずっとウーロン茶を飲んでいる。
油モノが多いから、よく合うんだなぁ、これが。
すると、愛佳さんは佳織に目が移ったせいもあって……。
「佳織ちゃん、胸大きいわね~。触らせてよ~」
「やめてくださいよ、愛佳さん。ほかの人たちが見ていますから」
「いいじゃないのよぉ~、減るもんじゃないし」
酒の勢いで愛佳さんが佳織の胸を触りはじめていた。
愛佳さんはケラケラと笑っているけど、佳織はちょっと嫌がっている。
どちらも胸がでかいから目のやり場に困る。正直、たまりません。性欲を持て余す。
佳織や愛佳さん以外の女子学生がいるけれども、二人とも胸が大きい上に美人だ。
ほかの大学に通っている女子大生よりも目立つじゃないか。
「ねえ、徹君」
すると、右脇からスクラブルの時も一緒だった長谷川さんが俺に近づいて話しかけてきた。
長谷川さんの顔は酒を飲んだせいもあってか、ほんのりと赤くなっていた。
「は、はい。何ですか?」
「コンパ、楽しんでいる?」
「え、ええ、まぁ……。それと……」
俺は「ディスカッションの時は突然変なことを話して申し訳ありませんでした」と言って、長谷川さんに頭を下げた。
「別にいいよ。私は気にしていないから」
「えっ?」
「話に詰まってつい……、って感じで暴露したんでしょ、君の辛い過去を」
「そうですね。ノートを見ながら話していたんですが、そこでつい高校時代のことを思い出して……」
話し終えた途端、やってしまった! と思ったけどね。
「でも、それでいいじゃない? それを話せるのは君の強みだよ。私の高校時代はもっと大変だったよ」
「長谷川さんも、ですか」
「そうね。いろいろあったなぁ……」
そう話すと、長谷川さんは遠いところを見つめながら物思いにふけった。
長谷川さんの高校時代に何があったのかは推察するしかないが、俺と同じ、もしくはそれ以上のことがあったのだろう。
「きゃっ、何するのよ佳織ちゃん!」
「お返しですよ、愛佳さん」
「いやだ、もう、やめてよ~!」
ふと隣の席を見ると、佳織が逆に愛佳さんに対してちょっかいをかけた。
佳織は俺と同じように酒が飲めない年齢なのに、結構楽しんでいるな。
「まぁ、今が楽しければそれでいいんじゃない? 人それぞれだから、さ」
困惑した表情で愛佳さん達を見ると、長谷川さんは一瞬だけ笑顔になった。
それから長谷川さんは俺の肩を掌で軽く叩き、「じゃあね」と陸奥大学の人たちが座っているところに戻っていった。
「人それぞれ、か……」
そう独り言ちてから、俺は隣の席に目を向けた。
「ふぅ……。佳織ちゃん、結構大胆ね。素面なのに」
「愛佳さんがべたべた触るからです! ……女の人に触られたの、高校の時以来ですよ」
「そうなの?」
「私、高校の頃はチア部に居て、よく先輩や後輩に胸を触られていましたよ」
「それって、アンタの胸がでかいからじゃないの?」
「な、愛佳さんだってデカいじゃないですか。そういう愛佳さんって、何カップですか?」
「私はGカップかな。そういう佳織ちゃんだって結構あるでしょ」
「私はFカップですね。チアをやっていましたけど、スポーツブラが欠かせませんでした」
「くすっ、私もよ。こう見えても高校時代はバスケをやっていてね……」
佳織と愛佳さんは胸を触りあっていたかと思いきや、ついついお互いのことについて話していた。
人それぞれに過去があって、その積み重なりがあってからこそ今がある。
たとえ今が辛くとも、将来はさらに悪くなっていることもあれば、逆に良くなることだってある。
辛い高校時代があったからこそ今がある。
過去は過去、今は今だ。
過去のことでくよくよするよりは、前に進もう。
その後、俺と佳織は先輩たちと一緒に二次会へと向かい、お互いの部屋に戻ったのは終電ぎりぎりのタイミングだった。
佳織が愛佳さんに胸を揉まれたこと以外は大したトラブルもなかった。
二次会でカラオケをしている間、愛佳さんは歌わずに合いの手ばかり入れていたけれども、それはそれで良かった。
愛佳さん、見た目はすごい美人なのに、酒を飲んだ時と飲まないときのギャップがすさまじすぎる。
酒を飲まなければ、いい人なのになぁ。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「Mr. Kashima, it's your turn. Hurry up! (鹿島君、あなたの番だよ。早く!)」
長谷川さんが俺に対して早く答えるように急かしてきた。
俺はすぐさま今日話す内容を想定したノートをめくりあげる。
確か、父さんの生まれ故郷である仙台で学んでみたいってことを英語で書いたはずだ。
さすがに女が原因で仙台に逃げてきたなんて、人前では話せないよ。
俺はノートと長谷川さんたちの顔を交互に見ながら、少しずつ英語で仙台の大学を選んだ理由を話し始める。
「My father told me that my father met my mother in Sendai when he was in TGU. So..., (俺の父さんが学院に居たとき、母さんと出会ったからと話していました。それで……) 」
次は高校一年の頃から……ってことを話していいのかな? いや、そこは高校時代の……。
おかしいぞ。次の単語が思ったように出てこない。
代わりに思い出すのは……。
『お前みたいな中途半端な奴が、恵令奈のことを好きなわけないだろ』
『せいぜい恵令奈に声をかけられただけでもありがたく思えよ』
『ねぇ、どうして私のことを無視するの』
『勉強なんてしても成績が上がらなければ意味ないじゃん。それよりも私と気持ちよくなろうよ』
封印したい高校時代の嫌な思い出ばかりが……!
だめだ、だめだ! そんなことを話して、何になるんだ?
もし話したとしても、女の人相手だとあきれ返るだけだぞ! ここで負けるわけには……!
俺は必死に抵抗をするが、緊張でうまく言葉が出ない。いやな思い出は出てくるというのに……。
いっそこのまましゃべらないよりは、本当のことを話そう。出来る限り英語で話そう。
もうどう思われても仕方ないや。
「In fact, I'd like to escape from Yokosuka. Because... (本当は、横須賀から逃げたかったんです。というのも……)」
覚悟が決まると、俺はゆっくりと、少しずつ英語で高校時代のことを話し始めた。
何分間話したのか、よく覚えていない。
嘘の告白をされたこと、修学旅行で襲われたこと、そして襲ってきた相手に付きまとわれたことを、ありのままに話した。
すべて話し終えた途端、俺はどっと汗が全身から噴き出した。
こないだ話すように仕向けた中村先輩はともかくとして、スクラブルで一緒になった長谷川さんや同じ大学の愛佳さん達に聞かせてしまったよ。
「Mr. K..., 鹿島君。それって……」
長谷川さんは英語で話すのをやめて、日本語で俺に話しかけてきた。
「ええ、本当です。嘘の告白をされた後で七帝柔道を小説で知って、旧帝大を目指してひたすら勉強をしました。しかし、修学旅行でギャルに襲撃されたことが後を引いて、結果はこのザマです」
修学旅行で俺の寝込みを襲った清水はしつこかった。
別のクラスになって落ち着いたけども、それが尾を引いてもうちょっとのところで力尽きた。
清水のあの声と仕草が焼き付いて離れなかったと言えばそれまでだけど、もうちょっと頑張れたらなぁ……。
「大学に現役で入れたんでしょ。いいじゃない、気にすることないよ」
長谷川さんは肩を落としていた俺を見るなり、俺を励ましてくれた。
「え? どうしてですか?」
「しつこくされたんでしょ? 私だったら、学校に行かなくなるよ。鹿島君は強いよ」
「そうですか? それだったら国立に入りたかったんだけど……」
「いや、頑張ったんだから、胸を張りなよ」
「そ、そうですね……」
こないだのスクラブルでは新入りである俺と陸奥大の新入生を完膚なきまでに叩きのめした長谷川さんにそう言われると、不思議に悪い気がしなかった。
「そうよ、徹君。もうちょっと自信を持ちなさいな」
すると、左隣に座っている愛佳さんが俺の肩を叩いて励ましてくれた。
ふと愛佳さんの顔を見ると、心なしか微笑んでいるように見えた。
良かった。恥を忍んで話した甲斐はあったよ。
その後も様々な話が飛び出すとちょうど時間と相成って、一通り終了と相成った。
俺としては、陸奥大学に乗り込んでの練習をしたおかげで話したいことが話せたから大満足だった。
まぁ、あの恥ずかしい話は……、別にいいや。
◇
「どうだった、愛佳さんと一緒に居て」
クロージングセレモニーが行われる大講堂で、俺は佳織と合流した。
佳織には引っ越し当日に話した高校時代の嫌な思い出をほかの人に披露したけど、それって大丈夫だったのだろうか。
「まぁ、楽しかったよ。長谷川さんも居たし」
「え? トオル君、長谷川さんと話したの?」
「そうだけど」
そりゃあ一緒の席だったから、話して当たり前だろう。
それに長谷川さんは部屋のリーダーだったからな。
「それがどうかしたのか?」
「こないだ陸奥大学に行った時のことは覚えているでしょ?」
ああ、確か高校時代の女難を話したら逆に男子学生から羨ましがられた時のことだな。
「そこで、長谷川さんと一緒の席になったの。それで、隣に住んでいる子が同じ大学に通っていますよって話したの」
「それで今日も一緒になったというのか?」
スクラブルといい、ウェルカム・ディスカッションといい、長谷川さんと立て続けに一緒の席になったことは裏があったのだろうか。
「ううん、おそらくそうなったのはたまたまだよ。たまたま」
まぁ、今日話した長谷川さんも悪い人ではなかったな。
長谷川さんだけでなく、同じ席に居た愛佳さんも俺の話を聞いて俺のことを励ましてくれたならば、英会話サークルに入った甲斐があった……よな。
◇
「ウェルカム・ディスカッション、お疲れさまでした! そして各大学の新入生の皆さん、ようこそESSへ! 乾杯!」
「乾杯!」
|閉会式《クロージング・セレモニー》が終わってから一度部屋に戻り、俺と佳織は打ち上げコンパ兼合同新歓コンパの待ち合わせ場所に向かった。
待ち合わせ場所には愛佳さんに長谷川さんを含め、実に二十人くらいの学生が居た。
流行り病のこともあって、これだけの規模の人数が集まって大丈夫なのかと思ったら、余計な心配は無用だと長谷川さんが話してくれた。
中学校時代と同じように普通の生活を送れるようになれば、それに越したことはないけど。
陸奥大学の部長が乾杯の音頭をとると、二十歳を過ぎた学生たちは一斉にビールをあおった。
俺達のような二十歳未満の学生は全員ウーロン茶で乾杯を済ませた。
法律違反とはいえ、一日でも早くビールが飲みたい!
「と~お~る~、くんっ」
「うひゃぁっ……、って、愛佳さんじゃないですか!」
後ろから艶めかしい声が聞こえると思ったら、最初の一杯を飲んでちょっとだけ酔っていた愛佳さんの姿があった。
この酔い方だと、この前と同じことになりかねないぞ。
「ちゃんと楽しんでいる?」
「愛佳さん、ちゃんと食べていますか?」
「大丈夫よぉ、一杯飲んでからお通しはすべてお腹に収めたからぁ」
「それなら良かったです。こないだみたいなマネはしないでくださいね」
「佳織ちゃんまでそんなこと言うんだぁ」
「わ、私はそんなこと……」
佳織は酔っぱらった愛佳さんに絡まられたくないせいもあって、ちょっと俯きながらソフトドリンク……というか、ウーロン茶を飲んでいた。
俺は俺で最初の一杯はコーラを飲み、それからはずっとウーロン茶を飲んでいる。
油モノが多いから、よく合うんだなぁ、これが。
すると、愛佳さんは佳織に目が移ったせいもあって……。
「佳織ちゃん、胸大きいわね~。触らせてよ~」
「やめてくださいよ、愛佳さん。ほかの人たちが見ていますから」
「いいじゃないのよぉ~、減るもんじゃないし」
酒の勢いで愛佳さんが佳織の胸を触りはじめていた。
愛佳さんはケラケラと笑っているけど、佳織はちょっと嫌がっている。
どちらも胸がでかいから目のやり場に困る。正直、たまりません。性欲を持て余す。
佳織や愛佳さん以外の女子学生がいるけれども、二人とも胸が大きい上に美人だ。
ほかの大学に通っている女子大生よりも目立つじゃないか。
「ねえ、徹君」
すると、右脇からスクラブルの時も一緒だった長谷川さんが俺に近づいて話しかけてきた。
長谷川さんの顔は酒を飲んだせいもあってか、ほんのりと赤くなっていた。
「は、はい。何ですか?」
「コンパ、楽しんでいる?」
「え、ええ、まぁ……。それと……」
俺は「ディスカッションの時は突然変なことを話して申し訳ありませんでした」と言って、長谷川さんに頭を下げた。
「別にいいよ。私は気にしていないから」
「えっ?」
「話に詰まってつい……、って感じで暴露したんでしょ、君の辛い過去を」
「そうですね。ノートを見ながら話していたんですが、そこでつい高校時代のことを思い出して……」
話し終えた途端、やってしまった! と思ったけどね。
「でも、それでいいじゃない? それを話せるのは君の強みだよ。私の高校時代はもっと大変だったよ」
「長谷川さんも、ですか」
「そうね。いろいろあったなぁ……」
そう話すと、長谷川さんは遠いところを見つめながら物思いにふけった。
長谷川さんの高校時代に何があったのかは推察するしかないが、俺と同じ、もしくはそれ以上のことがあったのだろう。
「きゃっ、何するのよ佳織ちゃん!」
「お返しですよ、愛佳さん」
「いやだ、もう、やめてよ~!」
ふと隣の席を見ると、佳織が逆に愛佳さんに対してちょっかいをかけた。
佳織は俺と同じように酒が飲めない|年齢《トシ》なのに、結構楽しんでいるな。
「まぁ、今が楽しければそれでいいんじゃない? 人それぞれだから、さ」
困惑した表情で愛佳さん達を見ると、長谷川さんは一瞬だけ笑顔になった。
それから長谷川さんは俺の肩を掌で軽く叩き、「じゃあね」と陸奥大学の人たちが座っているところに戻っていった。
「人それぞれ、か……」
そう独り言ちてから、俺は隣の席に目を向けた。
「ふぅ……。佳織ちゃん、結構大胆ね。|素面《シラフ》なのに」
「愛佳さんがべたべた触るからです! ……女の人に触られたの、高校の時以来ですよ」
「そうなの?」
「私、高校の頃はチア部に居て、よく先輩や後輩に胸を触られていましたよ」
「それって、アンタの胸がでかいからじゃないの?」
「な、愛佳さんだってデカいじゃないですか。そういう愛佳さんって、何カップですか?」
「私はGカップかな。そういう佳織ちゃんだって結構あるでしょ」
「私はFカップですね。チアをやっていましたけど、スポーツブラが欠かせませんでした」
「くすっ、私もよ。こう見えても高校時代はバスケをやっていてね……」
佳織と愛佳さんは胸を触りあっていたかと思いきや、ついついお互いのことについて話していた。
人それぞれに過去があって、その積み重なりがあってからこそ今がある。
たとえ今が辛くとも、将来はさらに悪くなっていることもあれば、逆に良くなることだってある。
辛い高校時代があったからこそ今がある。
過去は過去、今は今だ。
過去のことでくよくよするよりは、前に進もう。
その後、俺と佳織は先輩たちと一緒に二次会へと向かい、お互いの部屋に戻ったのは終電ぎりぎりのタイミングだった。
佳織が愛佳さんに胸を揉まれたこと以外は大したトラブルもなかった。
二次会でカラオケをしている間、愛佳さんは歌わずに合いの手ばかり入れていたけれども、それはそれで良かった。
愛佳さん、見た目はすごい美人なのに、酒を飲んだ時と飲まないときのギャップがすさまじすぎる。
酒を飲まなければ、いい人なのになぁ。