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第11話

ー/ー



 飛び石で入った授業などがあって、仙台で過ごしたゴールデンウィークはあっという間に過ぎていった。
 その間に新入生を歓迎する行事の一環として行われているスクラブル・ミーティングがあった。
 そこで陸奥大の人と一緒の席になり、一言二言交わしてからスクラブルを始めた。
 結果は見事に惨敗で、陸奥大の人に完膚なきまでに叩きのめされた。
 何を言っても言い訳にしかならないが、相手の単語力がすごかったとしか言いようがない。
 ただ、悔やんでばかりではいられない。今日はウェルカム・ディスカッションの日だ。
 会話の内容をまとめておいたんだ、抜かりはない。
 身だしなみチェックよし、ノートよし、電子辞書よし、スマホよし。さて、行くか。
 準備を済ませてからマンションの入り口付近に降りてくると、デニムとメッシュ編みの薄手ニットで決めた佳織がスマホを片手にたたずんでいた。

「おはよう、トオル君」
「おはよう」

 互いに挨拶を交わすと、いつものように俺たちはお互い無言で地下鉄の長町駅まで歩いて行った。
 毎日顔を合わせているためなのか、お互い話すことがないというのか、なんというのか。
 通りかかる人が見たら、気まずくなったカップルだと思われそうだ。
 毎日夕ご飯を作ったり食べたりしているのであれば、話すことなんて少ないけどね。

「佳織」

 改札を済ませてからプラットホームに降りると、俺はやっと口を開いた。

「なぁに、トオル君」
「今日は……、その、うまくいけそうか?」
「何が?」
「何がって、その、他校の学生とかとうまく話せるかってこと」
「大丈夫だよ。私は物怖じなんてしないから」

 そういえば、昨日俺が恥ずかしい体験を陸奥(とんぺい)の学生に話していた時も流暢な英語で何かを話していたな。
 今日の俺だと他大学の生徒にも()()恥ずかしい話をしそうだ。
 また気まずい思いをしそうだけど、そうなったらそうなっただ。

 ◇

 複雑な心境の中、愛佳さんから教えられた通りに地下鉄を乗り継ぐと、あっという間に陸奥大学の川内キャンパスにたどり着いた。
 地下鉄の車内では、俺たちはどのような大学が来るのかという話を延々としていた。
 先輩たちの話では、うちの大学と陸奥(とんぺい)、そして学院の三大学でATEL(All Tohoku ESS League)を構成している。どちらの大学も文化部としては老舗中の老舗で、うちの大学とはつながりが深い。
 それに毎年十一月になると、紅葉杯といってスピーチやディスカッション、ディベートの大会を三大学合同で行うことになる。
 先輩たちの話だと、陸奥地方の大学からも参加者が押し寄せるとのことだ。
 東京大学をはじめとした関東の大学生たちが仙台に押し寄せるそうで、昨年参加した愛佳さんは「すごく緊張したけど、楽しかったわ」とこないだのデイリーの時に話していた。

「今日は大丈夫……だよな」
「うん。来たとしても福島や岩手の大学からだから、緊張しないでもいいよ」

 南の2番出口から佳織と一言、二言話していると、あっという間に受付のある講義棟B棟の入り口にたどり着いた。
 受付で検温を済ませると、受付の人の案内に沿って名前と電話番号を記入する。
 流行り病の防止の観点からとのことなので、まぁ仕方のないことだな。
 それが終わると、パンフレットと参加者名簿などを渡される。
 俺と同席になっているのは……「Satoru Nakamura(MU2)」、「Ayane Takahashi(MGU2)」……って、いつメンに近い感じだ。

「ん? どうしたの、トオル君」

 俺の状況を知ってか知らずか、佳織がそっけない様子で俺のほうを見る。

「見ろよ、これ……」

 俺は参加者名簿を佳織に見せると、「ああ、なるほどね」と納得の表情をした。

「別にいいんじゃない? 昨日あれだけ練習したんだから、大丈夫だって」
「大丈夫なわけあるか。あの恥ずかしい話をしなきゃならなくなるんだぞ」
「まぁ、その時になったら、だよ」

 佳織は俺を励ましているように見えるけど、逆に俺を追い込んでいないか?
 まぁ、その時になったら話すまでだ。

 ◇

 開会式(オープニング・セレモニー)が終わってから、俺と佳織は別々の部屋に向かった。
 学院でいつも顔を合わせている愛佳さんと高校時代からの知り合いである中村先輩と一緒の部屋になるなんて、一体この組み合わせを考えた人はどういう頭をしているのだろうか。
 俺は緊張と不安の中、指定された教室に入った。

「失礼します」

 俺はネームプレートを手にして席に着くと、愛佳さんと中村先輩から声をかけられた。

「おう、スクラブルの時以来だな」
「いらっしゃい、徹君」

 愛佳さんは黒基調で佳織さんと同じような服を着ていた一方で、中村先輩は明るい色のジャケットを身に着けている以外は俺とほとんど変わらなかった。
 それ以外のメンバーはいつも一緒に居る愛佳さんと福島から来た学生が一人、そして……。

「こんにちは、鹿島君」

 ここの部屋のリーダーをしている陸奥大の三年生である長谷川(はせがわ)花梨(かりん)が俺の対面に座っていた。

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」

 俺は立ち上がって挨拶をすると、また席に座り込んだ。
 長谷川さんは紺色のジャケットにブラウス、そしてチェックのスカートと、ブラウスを身に着けていた。リボンを付けたら、どこからどう見てもクールビューティーな高校生にしか見えない。

「その恰好、似合いますね」
「ありがとう。高校時代は私服通学だったから制服に憧れていてね、それっぽい服装にしてきたのよ」
「そうだったんですか」
「ええ。そういう鹿島君は、高校時代は制服だったの?」
「制服はありませんでしたが、式典があるときは男子が学生服で、女子はブレザーを着ていました」
「へ~、意外だね」

 仙台に来てから驚いたこととして、高校で学生服を着ている生徒を全く見かけなかった。
 仙台に来てみたら、男子も女子と同じようにブレザーを着ている高校生が多かった。ただ、旧制中学から続く高校では学生服を着ていると悪友たちから聞いたときは「やっぱり、まだまだあるんだな」と思ったことか。
 学生服だと中学校から高校まで通して着られるから経済的な負担が軽くなるという意味では親にとってはありがたいけど、俺としてはブレザーも着てみたかったなぁ。
 それから長谷川さんと少しだけ話していると、「おいおいどうした、長谷川さんと親しくして」と、俺のすぐ右脇の席に座っていた中村先輩が話しかけてきた。

「実はこないだスクラブルの時に一緒のテーブルだったんですよ」
「ほ~、お前と長谷川さんが、ねぇ」

 中村先輩は感心しながらも、俺と長谷川さんの顔を交互に見つめていた。
 こないだのスクラブルでは長谷川さんの単語力に圧倒されて、こちらは手出しができなかった。
 スクラブルが終わった後にどうしてそこまで英単語が思い浮かぶんだと尋ねたところ、長谷川さんは毎日英字新聞を読んでいるからとあっさりと答えていた。
 カネはかかるけど、自分も取ってみたほうがいいのかな……と思っていると、「時間が押しているので、そろそろ英語で自己紹介しましょうよ」と長谷川さんが声をかけてきた。
 俺はノートと筆記用具、電子辞書とスマホを鞄から取り出して、いつでも準備できるような態勢を整えた。

「まずは私からね。I'm Karin Hasegawa, junior of Michinoku University...(私は長谷川花梨、陸奥大学の三年生です) 」
「I'm ... I came from Fukushima. 」

 正面に座った長谷川さんと名乗る三年生を皮切りに、右回りで自己紹介が始まった。
 すると、「So, Next is Toru Kashima. Please introduce yourself. (それでは、次は鹿島君だね。自己紹介をして) 」と長谷川さんが俺に目配せをしてきた。
 昨日のことがあるから、ここは普通に自己紹介をするか。

「Hello, I'm Toru Kashima, I'm a freshman of Michinoku Gakuin University...(こんにちは。陸奥学院大学の一年生、鹿島徹です)」

 女性陣が多いということもあって無難に自己紹介を終えると、俺は安堵のため息をついた。
 昨日のように変なこと――高校時代に次々に女難に見舞われたこと――を話したら、この場に居る女性陣から変な目で見られるのは間違いない。
 特に、下世話な話が含まれる修学旅行の話は慎重に扱わなければならない。
 真っ先に話した佳織は聞いたときには呆れ顔をしたものの、なんとか理解してもらえた。そのおかげで佳織とはいい関係を保っている。まぁ、あの話がなければ彼女とも友達になれなかったからな。
 そして、昨日は他大学という断り書きがつくも男子学生に話した。しかも英語で話せと中村先輩に脅さ……、否、勧められてまで。あれは正直恥ずかしかったけど、かえって羨ましがられた。俺からしてみれば災難だったけど。

 ◇

 それから無難に話は進み、第二外国語や大学生活についての話へと進んだ。
 俺と同じようにドイツ語を選んだ学生がいる反面、韓国語や中国語を選んでいる学生がいた。長谷川さんの話によると、陸奥大学ではスペイン語やロシア語、ギリシャ語、ラテン語、モンゴル語、チェコ語、アラビア語、果てはサンスクリットまで学べるとのことだった。
 愛佳さんが学部によってはヘブライ語が学べることを話したら、他大学の人が興味深く食いついていた。
 ラテン語やフランス語はともかくとして、ヘブライ語は読めるのか自信がない。文字を見ただけでも何を書いているのか全く分からないや。
 通学手段についての話では、泉から五橋にキャンパスが引っ越しすることを考えて女子寮に入った愛佳さんの話が印象深かった。
 寮生活は大変だったけど、規則正しい生活ができてよかったと話していた。

「じゃあ、時間が押してきているので最後のテーマね。ん~と……『What did you decide to study at that university? 』なんてのはどうかな」
「『なぜ今通っている大学にしたの?』ってことです?」
「そうね。テーマの一覧にもあるし、いいんじゃないの?」

 中村先輩と長谷川さんが互いに話し合うと、長谷川さんが『What did you decide to study at that university? 』と中村先輩に向けて質問してきた。

「I thought that I would rather study economics than law. Because...(俺は法律よりも経済を学ぼうと思ったからかな。それは……) 」

 すると、中村先輩は流暢な英語で長谷川さんの質問に答えた。
 そういえば、中村先輩は高校の頃に親のことをしきりに話していた。
 経済的な事情で親が高校に入ってからすぐに銀行で働いていたから、親の期待には答えないといけない、と散々こぼしていたのを思い出したよ。
 それからもう一人が長谷川さんの質問に答えると、いよいよ俺の番となった。
 どうしよう、正直に話すべきか、それともうまくぼかすべきか……。
 う~ん、迷う!



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 飛び石で入った授業などがあって、仙台で過ごしたゴールデンウィークはあっという間に過ぎていった。
 その間に新入生を歓迎する行事の一環として行われているスクラブル・ミーティングがあった。
 そこで陸奥大の人と一緒の席になり、一言二言交わしてからスクラブルを始めた。
 結果は見事に惨敗で、陸奥大の人に完膚なきまでに叩きのめされた。
 何を言っても言い訳にしかならないが、相手の単語力がすごかったとしか言いようがない。
 ただ、悔やんでばかりではいられない。今日はウェルカム・ディスカッションの日だ。
 会話の内容をまとめておいたんだ、抜かりはない。
 身だしなみチェックよし、ノートよし、電子辞書よし、スマホよし。さて、行くか。
 準備を済ませてからマンションの入り口付近に降りてくると、デニムとメッシュ編みの薄手ニットで決めた佳織がスマホを片手にたたずんでいた。
「おはよう、トオル君」
「おはよう」
 互いに挨拶を交わすと、いつものように俺たちはお互い無言で地下鉄の長町駅まで歩いて行った。
 毎日顔を合わせているためなのか、お互い話すことがないというのか、なんというのか。
 通りかかる人が見たら、気まずくなったカップルだと思われそうだ。
 毎日夕ご飯を作ったり食べたりしているのであれば、話すことなんて少ないけどね。
「佳織」
 改札を済ませてからプラットホームに降りると、俺はやっと口を開いた。
「なぁに、トオル君」
「今日は……、その、うまくいけそうか?」
「何が?」
「何がって、その、他校の学生とかとうまく話せるかってこと」
「大丈夫だよ。私は物怖じなんてしないから」
 そういえば、昨日俺が恥ずかしい体験を|陸奥《とんぺい》の学生に話していた時も流暢な英語で何かを話していたな。
 今日の俺だと他大学の生徒にも|あ《・》|の《・》恥ずかしい話をしそうだ。
 また気まずい思いをしそうだけど、そうなったらそうなっただ。
 ◇
 複雑な心境の中、愛佳さんから教えられた通りに地下鉄を乗り継ぐと、あっという間に陸奥大学の川内キャンパスにたどり着いた。
 地下鉄の車内では、俺たちはどのような大学が来るのかという話を延々としていた。
 先輩たちの話では、うちの大学と|陸奥《とんぺい》、そして学院の三大学でATEL(All Tohoku ESS League)を構成している。どちらの大学も文化部としては老舗中の老舗で、うちの大学とはつながりが深い。
 それに毎年十一月になると、紅葉杯といってスピーチやディスカッション、ディベートの大会を三大学合同で行うことになる。
 先輩たちの話だと、陸奥地方の大学からも参加者が押し寄せるとのことだ。
 東京大学をはじめとした関東の大学生たちが仙台に押し寄せるそうで、昨年参加した愛佳さんは「すごく緊張したけど、楽しかったわ」とこないだのデイリーの時に話していた。
「今日は大丈夫……だよな」
「うん。来たとしても福島や岩手の大学からだから、緊張しないでもいいよ」
 南の2番出口から佳織と一言、二言話していると、あっという間に受付のある講義棟B棟の入り口にたどり着いた。
 受付で検温を済ませると、受付の人の案内に沿って名前と電話番号を記入する。
 流行り病の防止の観点からとのことなので、まぁ仕方のないことだな。
 それが終わると、パンフレットと参加者名簿などを渡される。
 俺と同席になっているのは……「Satoru Nakamura(MU2)」、「Ayane Takahashi(MGU2)」……って、いつメンに近い感じだ。
「ん? どうしたの、トオル君」
 俺の状況を知ってか知らずか、佳織がそっけない様子で俺のほうを見る。
「見ろよ、これ……」
 俺は参加者名簿を佳織に見せると、「ああ、なるほどね」と納得の表情をした。
「別にいいんじゃない? 昨日あれだけ練習したんだから、大丈夫だって」
「大丈夫なわけあるか。あの恥ずかしい話をしなきゃならなくなるんだぞ」
「まぁ、その時になったら、だよ」
 佳織は俺を励ましているように見えるけど、逆に俺を追い込んでいないか?
 まぁ、その時になったら話すまでだ。
 ◇
 |開会式《オープニング・セレモニー》が終わってから、俺と佳織は別々の部屋に向かった。
 学院でいつも顔を合わせている愛佳さんと高校時代からの知り合いである中村先輩と一緒の部屋になるなんて、一体この組み合わせを考えた人はどういう頭をしているのだろうか。
 俺は緊張と不安の中、指定された教室に入った。
「失礼します」
 俺はネームプレートを手にして席に着くと、愛佳さんと中村先輩から声をかけられた。
「おう、スクラブルの時以来だな」
「いらっしゃい、徹君」
 愛佳さんは黒基調で佳織さんと同じような服を着ていた一方で、中村先輩は明るい色のジャケットを身に着けている以外は俺とほとんど変わらなかった。
 それ以外のメンバーはいつも一緒に居る愛佳さんと福島から来た学生が一人、そして……。
「こんにちは、鹿島君」
 ここの部屋のリーダーをしている陸奥大の三年生である|長谷川《はせがわ》|花梨《かりん》が俺の対面に座っていた。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
 俺は立ち上がって挨拶をすると、また席に座り込んだ。
 長谷川さんは紺色のジャケットにブラウス、そしてチェックのスカートと、ブラウスを身に着けていた。リボンを付けたら、どこからどう見てもクールビューティーな高校生にしか見えない。
「その恰好、似合いますね」
「ありがとう。高校時代は私服通学だったから制服に憧れていてね、それっぽい服装にしてきたのよ」
「そうだったんですか」
「ええ。そういう鹿島君は、高校時代は制服だったの?」
「制服はありませんでしたが、式典があるときは男子が学生服で、女子はブレザーを着ていました」
「へ~、意外だね」
 仙台に来てから驚いたこととして、高校で学生服を着ている生徒を全く見かけなかった。
 仙台に来てみたら、男子も女子と同じようにブレザーを着ている高校生が多かった。ただ、旧制中学から続く高校では学生服を着ていると悪友たちから聞いたときは「やっぱり、まだまだあるんだな」と思ったことか。
 学生服だと中学校から高校まで通して着られるから経済的な負担が軽くなるという意味では親にとってはありがたいけど、俺としてはブレザーも着てみたかったなぁ。
 それから長谷川さんと少しだけ話していると、「おいおいどうした、長谷川さんと親しくして」と、俺のすぐ右脇の席に座っていた中村先輩が話しかけてきた。
「実はこないだスクラブルの時に一緒のテーブルだったんですよ」
「ほ~、お前と長谷川さんが、ねぇ」
 中村先輩は感心しながらも、俺と長谷川さんの顔を交互に見つめていた。
 こないだのスクラブルでは長谷川さんの単語力に圧倒されて、こちらは手出しができなかった。
 スクラブルが終わった後にどうしてそこまで英単語が思い浮かぶんだと尋ねたところ、長谷川さんは毎日英字新聞を読んでいるからとあっさりと答えていた。
 カネはかかるけど、自分も取ってみたほうがいいのかな……と思っていると、「時間が押しているので、そろそろ英語で自己紹介しましょうよ」と長谷川さんが声をかけてきた。
 俺はノートと筆記用具、電子辞書とスマホを鞄から取り出して、いつでも準備できるような態勢を整えた。
「まずは私からね。I'm Karin Hasegawa, junior of Michinoku University...(私は長谷川花梨、陸奥大学の三年生です) 」
「I'm ... I came from Fukushima. 」
 正面に座った長谷川さんと名乗る三年生を皮切りに、右回りで自己紹介が始まった。
 すると、「So, Next is Toru Kashima. Please introduce yourself. (それでは、次は鹿島君だね。自己紹介をして) 」と長谷川さんが俺に目配せをしてきた。
 昨日のことがあるから、ここは普通に自己紹介をするか。
「Hello, I'm Toru Kashima, I'm a freshman of Michinoku Gakuin University...(こんにちは。陸奥学院大学の一年生、鹿島徹です)」
 女性陣が多いということもあって無難に自己紹介を終えると、俺は安堵のため息をついた。
 昨日のように変なこと――高校時代に次々に女難に見舞われたこと――を話したら、この場に居る女性陣から変な目で見られるのは間違いない。
 特に、下世話な話が含まれる修学旅行の話は慎重に扱わなければならない。
 真っ先に話した佳織は聞いたときには呆れ顔をしたものの、なんとか理解してもらえた。そのおかげで佳織とはいい関係を保っている。まぁ、あの話がなければ彼女とも友達になれなかったからな。
 そして、昨日は他大学という断り書きがつくも男子学生に話した。しかも英語で話せと中村先輩に脅さ……、否、勧められてまで。あれは正直恥ずかしかったけど、かえって羨ましがられた。俺からしてみれば災難だったけど。
 ◇
 それから無難に話は進み、第二外国語や大学生活についての話へと進んだ。
 俺と同じようにドイツ語を選んだ学生がいる反面、韓国語や中国語を選んでいる学生がいた。長谷川さんの話によると、陸奥大学ではスペイン語やロシア語、ギリシャ語、ラテン語、モンゴル語、チェコ語、アラビア語、果てはサンスクリットまで学べるとのことだった。
 愛佳さんが学部によってはヘブライ語が学べることを話したら、他大学の人が興味深く食いついていた。
 ラテン語やフランス語はともかくとして、ヘブライ語は読めるのか自信がない。文字を見ただけでも何を書いているのか全く分からないや。
 通学手段についての話では、泉から五橋にキャンパスが引っ越しすることを考えて女子寮に入った愛佳さんの話が印象深かった。
 寮生活は大変だったけど、規則正しい生活ができてよかったと話していた。
「じゃあ、時間が押してきているので最後のテーマね。ん~と……『What did you decide to study at that university? 』なんてのはどうかな」
「『なぜ今通っている大学にしたの?』ってことです?」
「そうね。テーマの一覧にもあるし、いいんじゃないの?」
 中村先輩と長谷川さんが互いに話し合うと、長谷川さんが『What did you decide to study at that university? 』と中村先輩に向けて質問してきた。
「I thought that I would rather study economics than law. Because...(俺は法律よりも経済を学ぼうと思ったからかな。それは……) 」
 すると、中村先輩は流暢な英語で長谷川さんの質問に答えた。
 そういえば、中村先輩は高校の頃に親のことをしきりに話していた。
 経済的な事情で親が高校に入ってからすぐに銀行で働いていたから、親の期待には答えないといけない、と散々こぼしていたのを思い出したよ。
 それからもう一人が長谷川さんの質問に答えると、いよいよ俺の番となった。
 どうしよう、正直に話すべきか、それともうまくぼかすべきか……。
 う~ん、迷う!