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第4話

ー/ー



「今通り過ぎたところにあるのが、さっき話した生協ね。大学生協とは別になるけど、メンバー登録すればだれでも使えるようになるよ」

 部屋の入り口で連絡先を交換した後で、俺は佳織さんと一緒にこの街を巡り歩いていた。

 よく考えてみれば、マンションの周辺には買い物できる店が多いじゃないか。

 道路を挟んで目の前にはコンビニとドラッグストアがある。

 それに、ちょっと歩けば先ほど案内してもらった生協にこれから向かう大型ショッピングモール、それにビデオレンタルショップだってある。いや、今はビデオを借りるよりもネットで見たほうが早いけど。

 こうして二人並んで道を歩くと、ほかの人たちからは俺と佳織さんが恋人同士に見えそうだ。

 出来れば高校時代に彼女と一緒に歩くというのを味わいたかった。

 親父の書斎に置いてあった漫画を読んで楽しそうな高校生活に憧れていたけれども、実際の高校生活は女難に見舞われたからなぁ……。

「トオル君、どうしたの?」
「ん? あ、いや、ちょっと高校時代を思い出してね」
「それじゃあ聞くけど、トオル君ってどのような高校生活を送りたかったの?」
「俺? 俺はね……、親父が読んでいたラブコメ漫画のような青春を送りたかったなぁ」
「どんな漫画だったの?」
「一話読み切り形式のラブコメディ漫画さ」

 父さんが好きだった漫画は、少年漫画誌で長く連載されていた連作形式のラブコメディ漫画だった。
 当時の流行をふんだんに取り入れる一方で、変わらない何かを感じさせる作風が実に見事だった。

「俺も高校に入ったら、その漫画に描いてあるような恋愛がしたいなって思ったけど……」

 話に詰まってしまい、何も言えなくなる。
 さっき佳織さんに話したとおり、幼馴染を兄貴に取られ、嘘の告白をされ、そして成人向け漫画のようにギャルの誘惑に負けて童貞を喪失したからな……。

「さっき話した通り、高校時代はいい思い出がなかったな。女のトラブルが嫌で家を出たようなものだからね。……ところで、佳織さんの実家ってどこ?」
「私? 私は泉区だよ。ほら、ここの向かい側にザ・モールがあるでしょ? 私の実家は地下鉄南北線の泉中央駅にあるから、実家に行こうと思えばすぐに帰れるからね」

 佳織さんが指し示した先には、ショッピングモールがあった。衣料品店はともかくとして、シネコンまであるのか……。俺が昨日まで住んでいた横須賀のショッピングモールに似てるな。ただ、横須賀の街と違って海が見えないけど。

「なるほど。ちなみに引っ越してきたのはいつ?」
「さっき話した通り、昨日かな。大学に入ったら一人暮らしをしたいって父さんに話したら、あっさり了解してくれたの」

 佳織さんがにこやかな笑顔で話すと、俺は一瞬だけ表情が曇った。

「いいなぁ。俺はタダでは帰れないな……。それに、俺が住んでいるところにも似たようなショッピングモールがあったなぁ」
「そうなの?」
「横須賀にアメリカ海軍の基地があるは分かる?」
「うん」
「その近くに、ここと同じように映画館が入っているショッピングモールがあるんだ。一日居ても飽きないよ」
「ふ~ん、一度行ってみたいなぁ」
「よせよ、飛び出してきた俺の身になってくれよ」

 そう話すと、佳織さんが笑顔を見せた。
 俺と同い年なのに、大人の雰囲気が漂うなぁ。

「ねぇ、モールで買い物していかない? 日用品で足りないものなどはある?」
「日用品かぁ……。お風呂の洗剤や洗濯用洗剤、洗顔用品などは荷物として持ってきていて、業者が用意してくれたから、足りないものはないな」
「それじゃあ、今夜の夕食は何にするの?」
「何にも考えていないな。さっき通り過ぎた弁当屋さんで弁当を買うか、カレーライスを作ってみようかなぁと思っていたけど」
「それじゃあ、私が作ってあげるよ」
「今日知り合ったばかりだというのに、良いのか?」
「袖振り合うも他生の縁、でしょ?」
「そ、そうだね」

 すると、佳織さんは腕を絡めてきた。

 女の人と知り合いたくないと思っていたのに、どうして彼女はここまでぐいぐいと俺に絡んでくるんだろうか……。って、さっき「友達になってください」って言ったからか。

 我ながら軽はずみなことをしたよ。

 ◇

「トオル君、どこに行こうとしたの?」
「ちょっとカップヌードルを買い込んでおこうかなと……」
「だめだよ、カップヌードルばっかりでは栄養が偏っちゃうよ。ほら、こっちだよ!」

 いざスーパーに入ると、佳織さんはショッピングカートを手に取って買い物に勤しんだ。

 この時間のスーパーは主婦や年配の女性が多く、俺たちのような十代の若者はそんなに見受けられない。二階の本屋やCDショップに行けば出会えるだろう。

 ただ、今は後回しだ。それよりも、日用品や食料の買い出しをしないといけない。

「カレーライスとなると、買うものはジャガイモに人参、玉ねぎ、カレー用の肉、それとカレールーだね」

 佳織さんは何を買っておくべきか指折り確認すると、俺のほうを向いた。

「ところで、トオル君って炊飯ジャーはある?」
「もちろん、ちゃんと部屋にあるよ。使うとしても明日からになりそうだけど」
「それじゃあ、レンジでチンするごはんを買っておいたら?」
「時間短縮になるからか?」
「そうだよ。急いでいるときにはこれが一番だから」
「分かった。ちょっと見てくるよ。それと、佳織さんの分は?」
「私の分? 今朝炊いたのがあるから大丈夫だよ」

 佳織さんはカレールーのある棚から、リンゴと蜂蜜が入った定番のものを手に取った。

 買い物をしているときの佳織さんの目つきは鋭く、特売品や新鮮な野菜を見逃さなかった。佳織さんのカートを見ると、定番のキャベツにブロッコリー、卵焼きなどに入れるニラがしっかりと入っていた。

 一方、俺のカートには牛乳にヨーグルト、それとお茶のペットボトルが入っている。もちろん、野菜ジュースもセットだ。

「トオル君のカート、飲み物ばかりだね」
「母さんからの言いつけで牛乳だけは飲んでおけと言われているし、野菜不足にならないように野菜ジュースも飲んでおけって、ね」
「野菜ジュースもいいけれど、野菜を使った料理を覚えたほうがいいよ。私はママから秘伝の料理をいろいろと教えてもらったよ」
「野菜を使った料理って、どうせサラダだろう」
「サラダだけが野菜料理じゃないよ。かぼちゃの煮物にきんぴらごぼう、筑前煮、野菜スープ……、色々あるよ」
「なるほど」
「感心していないで、トオル君もスマホにレシピアプリを入れようよ。せっかく一人暮らしをするならば、料理を色々覚えるのも悪くないよ」
「こっちに来るとき、母さんから最低限の料理だけは教えてもらったんだけどね……」
「工夫するのも悪くないよ」

 そういわれてみれば、そうだな。
 母さんの反対を押し切って始めた一人暮らしだ。いろいろ試してみようかな。

「それもいい……、かな」
「そうだね。それはそうと、そろそろお会計しようよ」
「いいけど、支払いはどうするんだ」
「さっき連絡先を交換したときに使ったスマホがあるからね。私はスマホでゲームはしない反面、支払い手段や友達との連絡用に使っているんだ。定期券としても使っていたからね」
「ふ~ん、俺も似たような感じだったよ」
「でしょ」

 買い物をしている間、佳織さんはずっと俺にいろいろなことを教えてくれた。
 佳織さんは、見た目は年上のお姉さんといった感じで、中身も見た目と同じ、もしくはそれ以上にしっかりした女性(ひと)だった。

 俺が知っている女性といえば、兄貴と一緒に住んでいる母さんと俺の貞操を平気で奪い去った清水しか印象にない。特に清水は俺を童貞呼ばわりして、抵抗する暇を与えずに俺の体を奪ったからな。

 俺の近くにいた女性がそんな奴らばかりだったせいもあって、女性不信になるのも無理はなかった。

 ちょっと話した感じでは、佳織さんは見た目と中身が一致している。見た目通りに清楚で、しゃべり方が柔和で、そして何でも知っている感じがする。

 あの日から女の人を避けていたけれども、佳織さんだったら許せそうな気がしてきた。



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「今通り過ぎたところにあるのが、さっき話した生協ね。大学生協とは別になるけど、メンバー登録すればだれでも使えるようになるよ」
 部屋の入り口で連絡先を交換した後で、俺は佳織さんと一緒にこの街を巡り歩いていた。
 よく考えてみれば、マンションの周辺には買い物できる店が多いじゃないか。
 道路を挟んで目の前にはコンビニとドラッグストアがある。
 それに、ちょっと歩けば先ほど案内してもらった生協にこれから向かう大型ショッピングモール、それにビデオレンタルショップだってある。いや、今はビデオを借りるよりもネットで見たほうが早いけど。
 こうして二人並んで道を歩くと、ほかの人たちからは俺と佳織さんが恋人同士に見えそうだ。
 出来れば高校時代に彼女と一緒に歩くというのを味わいたかった。
 親父の書斎に置いてあった漫画を読んで楽しそうな高校生活に憧れていたけれども、実際の高校生活は女難に見舞われたからなぁ……。
「トオル君、どうしたの?」
「ん? あ、いや、ちょっと高校時代を思い出してね」
「それじゃあ聞くけど、トオル君ってどのような高校生活を送りたかったの?」
「俺? 俺はね……、親父が読んでいたラブコメ漫画のような青春を送りたかったなぁ」
「どんな漫画だったの?」
「一話読み切り形式のラブコメディ漫画さ」
 父さんが好きだった漫画は、少年漫画誌で長く連載されていた連作形式のラブコメディ漫画だった。
 当時の流行をふんだんに取り入れる一方で、変わらない何かを感じさせる作風が実に見事だった。
「俺も高校に入ったら、その漫画に描いてあるような恋愛がしたいなって思ったけど……」
 話に詰まってしまい、何も言えなくなる。
 さっき佳織さんに話したとおり、幼馴染を兄貴に取られ、嘘の告白をされ、そして成人向け漫画のようにギャルの誘惑に負けて童貞を喪失したからな……。
「さっき話した通り、高校時代はいい思い出がなかったな。女のトラブルが嫌で家を出たようなものだからね。……ところで、佳織さんの実家ってどこ?」
「私? 私は泉区だよ。ほら、ここの向かい側にザ・モールがあるでしょ? 私の実家は地下鉄南北線の泉中央駅にあるから、実家に行こうと思えばすぐに帰れるからね」
 佳織さんが指し示した先には、ショッピングモールがあった。衣料品店はともかくとして、シネコンまであるのか……。俺が昨日まで住んでいた横須賀のショッピングモールに似てるな。ただ、横須賀の街と違って海が見えないけど。
「なるほど。ちなみに引っ越してきたのはいつ?」
「さっき話した通り、昨日かな。大学に入ったら一人暮らしをしたいって父さんに話したら、あっさり了解してくれたの」
 佳織さんがにこやかな笑顔で話すと、俺は一瞬だけ表情が曇った。
「いいなぁ。俺はタダでは帰れないな……。それに、俺が住んでいるところにも似たようなショッピングモールがあったなぁ」
「そうなの?」
「横須賀にアメリカ海軍の基地があるは分かる?」
「うん」
「その近くに、ここと同じように映画館が入っているショッピングモールがあるんだ。一日居ても飽きないよ」
「ふ~ん、一度行ってみたいなぁ」
「よせよ、飛び出してきた俺の身になってくれよ」
 そう話すと、佳織さんが笑顔を見せた。
 俺と同い年なのに、大人の雰囲気が漂うなぁ。
「ねぇ、モールで買い物していかない? 日用品で足りないものなどはある?」
「日用品かぁ……。お風呂の洗剤や洗濯用洗剤、洗顔用品などは荷物として持ってきていて、業者が用意してくれたから、足りないものはないな」
「それじゃあ、今夜の夕食は何にするの?」
「何にも考えていないな。さっき通り過ぎた弁当屋さんで弁当を買うか、カレーライスを作ってみようかなぁと思っていたけど」
「それじゃあ、私が作ってあげるよ」
「今日知り合ったばかりだというのに、良いのか?」
「袖振り合うも他生の縁、でしょ?」
「そ、そうだね」
 すると、佳織さんは腕を絡めてきた。
 女の人と知り合いたくないと思っていたのに、どうして彼女はここまでぐいぐいと俺に絡んでくるんだろうか……。って、さっき「友達になってください」って言ったからか。
 我ながら軽はずみなことをしたよ。
 ◇
「トオル君、どこに行こうとしたの?」
「ちょっとカップヌードルを買い込んでおこうかなと……」
「だめだよ、カップヌードルばっかりでは栄養が偏っちゃうよ。ほら、こっちだよ!」
 いざスーパーに入ると、佳織さんはショッピングカートを手に取って買い物に勤しんだ。
 この時間のスーパーは主婦や年配の女性が多く、俺たちのような十代の若者はそんなに見受けられない。二階の本屋やCDショップに行けば出会えるだろう。
 ただ、今は後回しだ。それよりも、日用品や食料の買い出しをしないといけない。
「カレーライスとなると、買うものはジャガイモに人参、玉ねぎ、カレー用の肉、それとカレールーだね」
 佳織さんは何を買っておくべきか指折り確認すると、俺のほうを向いた。
「ところで、トオル君って炊飯ジャーはある?」
「もちろん、ちゃんと部屋にあるよ。使うとしても明日からになりそうだけど」
「それじゃあ、レンジでチンするごはんを買っておいたら?」
「時間短縮になるからか?」
「そうだよ。急いでいるときにはこれが一番だから」
「分かった。ちょっと見てくるよ。それと、佳織さんの分は?」
「私の分? 今朝炊いたのがあるから大丈夫だよ」
 佳織さんはカレールーのある棚から、リンゴと蜂蜜が入った定番のものを手に取った。
 買い物をしているときの佳織さんの目つきは鋭く、特売品や新鮮な野菜を見逃さなかった。佳織さんのカートを見ると、定番のキャベツにブロッコリー、卵焼きなどに入れるニラがしっかりと入っていた。
 一方、俺のカートには牛乳にヨーグルト、それとお茶のペットボトルが入っている。もちろん、野菜ジュースもセットだ。
「トオル君のカート、飲み物ばかりだね」
「母さんからの言いつけで牛乳だけは飲んでおけと言われているし、野菜不足にならないように野菜ジュースも飲んでおけって、ね」
「野菜ジュースもいいけれど、野菜を使った料理を覚えたほうがいいよ。私はママから秘伝の料理をいろいろと教えてもらったよ」
「野菜を使った料理って、どうせサラダだろう」
「サラダだけが野菜料理じゃないよ。かぼちゃの煮物にきんぴらごぼう、筑前煮、野菜スープ……、色々あるよ」
「なるほど」
「感心していないで、トオル君もスマホにレシピアプリを入れようよ。せっかく一人暮らしをするならば、料理を色々覚えるのも悪くないよ」
「こっちに来るとき、母さんから最低限の料理だけは教えてもらったんだけどね……」
「工夫するのも悪くないよ」
 そういわれてみれば、そうだな。
 母さんの反対を押し切って始めた一人暮らしだ。いろいろ試してみようかな。
「それもいい……、かな」
「そうだね。それはそうと、そろそろお会計しようよ」
「いいけど、支払いはどうするんだ」
「さっき連絡先を交換したときに使ったスマホがあるからね。私はスマホでゲームはしない反面、支払い手段や友達との連絡用に使っているんだ。定期券としても使っていたからね」
「ふ~ん、俺も似たような感じだったよ」
「でしょ」
 買い物をしている間、佳織さんはずっと俺にいろいろなことを教えてくれた。
 佳織さんは、見た目は年上のお姉さんといった感じで、中身も見た目と同じ、もしくはそれ以上にしっかりした|女性《ひと》だった。
 俺が知っている女性といえば、兄貴と一緒に住んでいる母さんと俺の貞操を平気で奪い去った清水しか印象にない。特に清水は俺を童貞呼ばわりして、抵抗する暇を与えずに俺の体を奪ったからな。
 俺の近くにいた女性がそんな奴らばかりだったせいもあって、女性不信になるのも無理はなかった。
 ちょっと話した感じでは、佳織さんは見た目と中身が一致している。見た目通りに清楚で、しゃべり方が柔和で、そして何でも知っている感じがする。
 あの日から女の人を避けていたけれども、佳織さんだったら許せそうな気がしてきた。