第12話
ー/ー 黒須さんに迷惑をかけるのも良くないし、ここは覚悟を決めて話すか。
念には念を入れて、誰にも話さないように付け加えておこう。
「さっきの話の続きになりますが、この話は他言無用でお願いしますね」
「大丈夫だよ。アタシは口が堅いから、絶対に誰も言わないからね」
「ホントに?」
「うん」
「ホントのホントに?」
「うん。マジだから」
「それならお話します。実は僕、一昨日失恋したばかりなんです」
「え……」
失恋の事実を告げた途端、黒須さんは言葉を失った。
夕暮れ間近の時間帯であるにも拘らず、部活動に励む生徒たちの熱気は北校舎四階のこの教室まで伝わってくる。
一方で、僕たちは熱気とは無縁の中、ただただ次の言葉を待つほかなかった。
「どういうことなの?」
「実は、中学校に入り直したときにガールフレンドが出来ました。彼女は高校野球が好きで、甲子園の常連校に通うと言い出して聞きませんでした。ここ半年は交流が少なくなって一昨日にデートに行こうとしたらすっぽかされました」
「……」
「それで駅前にある彼女のマンションに向かったら、彼女とチャラ男が一緒に出てくるのを見ました。チャラ男は僕に話しかけてきて、僕を負け犬呼ばわりしました。僕には、もう何もありません」
アイツの一言は今でも胸に突き刺さっている。
僕を負け犬呼ばわりして、自分は勝ち誇ったかのようなドヤ顔をしていたアイツのことを思うと、反吐が出る。
学校のメンツのために問題に向き合わない教職員たちにあきれ返って生まれ育った街を捨てたのに、そいつは僕を嘲笑った。
僕を立ち直らせた心美を奪ったアイツのことが憎い。
殺してやりたいほど憎い。
仮にアイツに立ち向かったとしても、僕ごときでは相手にならない。
それならばサッカーでアイツと立ち向かえばいいのではないか? と一瞬思った。
当校のサッカー部は――私立校には及ばぬものの――県下きっての強豪校としてもその名が知られている。
うちのクラスにはそんなサッカー部に所属していて、一年生にして名選手と称される渋谷隆晴が居る。
ただ、今の僕の体力と技量では、渋谷の足を引っ張ることになりかねない。
渋谷や僕を馬鹿にしたチャラ男に比べれば、僕は何にも無い。無さすぎる。
「ううっ……」
僕は泣いた。
昨日と同じように泣いた。
何も無いことに泣いた。
強大な相手に立ち向かいたくても、武器が無い自分に泣いた。
僕があのチャラ男に立ち向かうのは、余りにも無謀すぎる。
レベル1でひのきのぼうを持って強敵に立ち向かうようなものだ。
であれば、どうすればいい?
二度と恋なんてしようと思わず、アイツの言う通り自分の殻に閉じこもるしかないのか。
「心美は身も心もチャラ男に奪われて! アイツは僕を負け犬呼ばわりしたんだ! 僕には勉強することしかないっていうのかよぉ!!」
僕は涙声で、何もない自分を嘆くかのように叫んだ。
校舎の外で練習しているサッカー部や野球部、そして陸上部の部員にも聞こえたのかもしれない。
しかし、そこまで叫ばなければならないほどに、僕の心は憔悴しきっていた。
「ううっ……!」
「富樫君……」
黒須さんが心配そうな顔で僕を見つめる中、僕は机の上で大粒の涙を流した。
「僕には……、僕には……」
他人に比べて何にもなさすぎる自分が悔しくてたまらない。
自分が情けなくてたまらない。
僕はこれから、どうすればいいんだろう。
クラスでは空気扱いされ、陽キャ連中から掃除を押し付けられるなど、再びいじめの対象となるしかないのか。
必死に勉強して東京の大学に行き、そこで大学デビューをするしかないのか。
いや、それしか僕には残された手段がない。
僕には、馬鹿な一〇代みたいに外ではしゃぐことなんて出来ない。
僕の人生のピークは小学六年で終わった。
今の僕は、陽キャに嘘告白のターゲットにされるだけの日陰者でしかないんだ――。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
黒須さんに迷惑をかけるのも良くないし、ここは覚悟を決めて話すか。
念には念を入れて、誰にも話さないように付け加えておこう。
「さっきの話の続きになりますが、この話は他言無用でお願いしますね」
「大丈夫だよ。アタシは口が堅いから、絶対に誰も言わないからね」
「ホントに?」
「うん」
「ホントのホントに?」
「うん。マジだから」
「それならお話します。実は僕、一昨日失恋したばかりなんです」
「え……」
失恋の事実を告げた途端、黒須さんは言葉を失った。
夕暮れ間近の時間帯であるにも拘らず、部活動に励む生徒たちの熱気は北校舎四階のこの教室まで伝わってくる。
一方で、僕たちは熱気とは無縁の中、ただただ次の言葉を待つほかなかった。
「どういうことなの?」
「実は、中学校に入り直したときにガールフレンドが出来ました。彼女は高校野球が好きで、甲子園の常連校に通うと言い出して聞きませんでした。ここ半年は交流が少なくなって一昨日にデートに行こうとしたらすっぽかされました」
「……」
「それで駅前にある彼女のマンションに向かったら、彼女とチャラ男が一緒に出てくるのを見ました。チャラ男は僕に話しかけてきて、僕を負け犬呼ばわりしました。僕には、もう何もありません」
アイツの一言は今でも胸に突き刺さっている。
僕を負け犬呼ばわりして、自分は勝ち誇ったかのようなドヤ顔をしていたアイツのことを思うと、反吐が出る。
学校のメンツのために問題に向き合わない教職員たちにあきれ返って生まれ育った街を捨てたのに、そいつは僕を嘲笑った。
僕を立ち直らせた心美を奪ったアイツのことが憎い。
殺してやりたいほど憎い。
仮にアイツに立ち向かったとしても、僕ごときでは相手にならない。
それならばサッカーでアイツと立ち向かえばいいのではないか? と一瞬思った。
当校のサッカー部は――私立校には及ばぬものの――県下きっての強豪校としてもその名が知られている。
うちのクラスにはそんなサッカー部に所属していて、一年生にして名選手と称される渋谷《しぶや》隆晴《たかはる》が居る。
ただ、今の僕の体力と技量では、渋谷の足を引っ張ることになりかねない。
渋谷や僕を馬鹿にしたチャラ男に比べれば、僕は何にも無い。無さすぎる。
「ううっ……」
僕は泣いた。
昨日と同じように泣いた。
何も無いことに泣いた。
強大な相手に立ち向かいたくても、武器が無い自分に泣いた。
僕があのチャラ男に立ち向かうのは、余りにも無謀すぎる。
レベル1でひのきのぼうを持って強敵に立ち向かうようなものだ。
であれば、どうすればいい?
二度と恋なんてしようと思わず、アイツの言う通り自分の殻に閉じこもるしかないのか。
「心美は身も心もチャラ男に奪われて! アイツは僕を負け犬呼ばわりしたんだ! 僕には勉強することしかないっていうのかよぉ!!」
僕は涙声で、何もない自分を嘆くかのように叫んだ。
校舎の外で練習しているサッカー部や野球部、そして陸上部の部員にも聞こえたのかもしれない。
しかし、そこまで叫ばなければならないほどに、僕の心は憔悴しきっていた。
「ううっ……!」
「富樫君……」
黒須さんが心配そうな顔で僕を見つめる中、僕は机の上で大粒の涙を流した。
「僕には……、僕には……」
他人に比べて何にもなさすぎる自分が悔しくてたまらない。
自分が情けなくてたまらない。
僕はこれから、どうすればいいんだろう。
クラスでは空気扱いされ、陽キャ連中から掃除を押し付けられるなど、再びいじめの対象となるしかないのか。
必死に勉強して東京の大学に行き、そこで大学デビューをするしかないのか。
いや、それしか僕には残された手段がない。
僕には、馬鹿な一〇代みたいに外ではしゃぐことなんて出来ない。
僕の人生のピークは小学六年で終わった。
今の僕は、陽キャに嘘告白のターゲットにされるだけの日陰者でしかないんだ――。