第7話

ー/ー



「……僕と彼女とは、中二の秋の席替えがあった時に知り合いました。最初は他愛もないやり取りをしていたのですが、いつしか惹かれるようになりました。高校が離れ離れになると聞いて、卒業式の時に告白して交際を始めたのですが……」
「「うん、それで?」」

 我妻さん達が食い気味に相槌を打ってきた。
 我妻さんは目を輝かせながら、飯田さんは頬杖を突きながら、僕の話を興味深そうに聞いている。

「彼女は別々の高校に通うことになりました。彼女が通っている高校は夏の甲子園でも連続出場を果たす強豪校でして、そこのチア部に入ったんです。そうしたら練習で忙しくて、彼女となかなか連絡が取れなくなりました」
「強豪校か……。私のクラスに居た生徒が一人入ったけど、ウォークラリーが結構大変だと聞いたよ」
「そうだよね~。あそこは県外からの入学者も居るって聞くし、野球部やチア部、応援団の練習も凄いらしいね」
「はい。心美は野球のことはあまり詳しくないのですが、『甲子園に行けるなら、一生懸命頑張るよ!』と話していたので、僕は何も言えませんでした」

 僕は悲しげな表情を浮かべながら、心美のことを話した。
 僕にとって心美は、僕を優しく包んでくれる存在だった。
 一緒に居るだけで癒され、いつも笑顔を絶やすことのない女の子だった。

 思えば、心美は良く高校野球の話をしていた。
 何県の強豪校のピッチャーが凄いとか、何県のバッターが凄いなどと興奮気味に話していたよな。
 それで心美の第一志望と第二志望は甲子園の常連校で、そこに入るために一生懸命勉強していたなぁ。
 うちの学校も文化部と運動部は結構有名なところがあるので、うちの学校に入っていたら……と思うと、悔しくてならない。

 離ればなれになったとしても、僕と心美は繋がっていると思っていた。
 しかし、心美との付き合いもここ最近はめっきり減った。
 そして昨日のデートすっぽかしとチャラ男からの最後通告だ。
 心美は向こうの学校に呑まれてしまったんだ。

「それで、君とその彼女の家って近いのかな?」
「彼女は長町南駅から歩いてすぐの場所に住んでいますね。ここ最近はデートすることもなく、LINEでのやり取りが多かったです。しかし、夏休みを境にして一切メッセージが送られてこなくなりました。そんな時に昨日デートの約束があったのですが……」

 まずい。上手く言葉が出ない。
 昨日のあの一言が頭に突き刺さったままだ。
 でも、話さないと!

「ドタキャンされた上に、チャラ男に酷い事を言われました。自分のことをすべて否定された気分です……。……うぅ、彼女は、彼女は……」

 言ってしまった。
 涙が溢れそうだ。
 喉がカラカラに涸れてきた。
 このままだと涙と嗚咽が僕の口から溢れそうだ。

 僕に手を差し伸べた心美は、もう二度と僕の元には戻らない。
 アイツと寝た以上は――。

 僕は一体何のために生きているのだろうか?
 この先、どうやって生きていくのだろうか?
 考えただけでも、辛くなる。
 押し殺したはずの感情が一気に爆発しそうだ。

 どこからともなく上着を脱ぐ音が聞こえる。
 涙などを堪えながら音のする方向を向くと、二人が制服の上着を脱いでブラウス姿になっていた。
 我妻さんのスタイルの良さは分かっていたけど、飯田さんも我妻さんと同じようにスタイルが良い。
 泣きついたら涙が止まらなくなりそうだ。

「あ、あの……、我妻さん?」
「ヤス君、辛そうだね。胸、貸してあげるからさ。いっぱい泣いていいよ」
「えっ!? それはどういう……」
「富樫君、私も居るからな。遠慮しないで泣いていいぞ」

 我妻さんは僕を誘うように両手を広げている。
 それを見て、飯田さんも顔を赤らめながら両手を広げている。
 これは、泣きついていいってことだよな……。
 据え膳食わぬは男の恥だ!

 僕は二人に歩み寄り、そのたわわに実った果実のど真ん中に飛び込んだ。

「うぅ~……!」

 柔らかい胸の感触に包まれていると、目から涙が溢れてくる。
 もう限界だ。
 今まで抑えていた感情が、爆発する……!

「どうして、どうして心美があんなやつとくっつくんだよ! 僕じゃダメだったのかよ! 馬鹿野郎〜!!」
「うんうん、辛かったよね。今は泣いていいからね」
「これからは私達が居るからな、ヤス……」

 僕が大声で泣いている間、二人は優しく頭を撫でてくれた。

 その時、僕の頭の中に中学校の頃に辛いと思った時に何度も聞いた曲が響いた。
 叔父さんが小学校を卒業した時に映画館に行って見た映画の主題歌で、歌詞を読むだけでも泣けてくる名曲だ。

 辛いときはこの曲を聞け、と叔父さんから教えてもらった曲だった。
 今は泣いてもいい。僕は強くなりたい。

 僕は彼女達の胸の中、第三者(チャラ男)によって奪われた初恋に涙を流した。

 ☆

<Side:???>

「小母さん、パート帰りに押しかけて申し訳ありませんでした」
「いえいえ、良いのよ。それに今日はね、泰久が女の子を連れて……」
「え? ヤスが女の子を?」
「そうなのよ。クラスの女の子だって話していたわ」
「へー、そうなんですか」
「泰久は女の子と一緒に部屋に居るみたいだけど、どうする?」
「いえ、いいです。ヤスが学校に行っていれば大丈夫ですから」
「そう、ありがと」

 ヤスの小母さんと話を終えると、ウチは泰久の部屋の前に来た。
 三日前に振られたばかりのヤスが女の子を連れ込んでいるって、マ?
 それに、彼女を寝取られたならば、女の子に対するキョヒハンノーを示すはず。
 なのに、女の子が居るのっておかしくない?
 ちょっとだけでもいいから、聞いてみようっと。

『……、そこのチア部に……。そうしたら……、彼女と……』
『強豪校か……。私のクラスに……ウォークラリーが……』
『……県外からの入学者も……野球部や……』

 ……? ヤスの部屋に二人居るってコト?
 ヤスはこないだまでクズオカって子と一緒だったのに、どうしだんだろ?
 聞く限りでは、クズオカって子が別の学校に通ってしまい、カノジョが通っている先輩に取られたってことらしい。
 今日も寂しい思いをしているはずだから、いっそお邪魔して……。

『あ、あの……、……?』
『……辛そう……胸、……』
『えっ!? ……』
『富樫君、……』

 どうしたのかな、中に居る二人とも服を脱いでいるのかな?
 泣きつくんだったら、ウチの胸にすればいいのに。
 そうだ! こういうことが好きな知り合いが居るし、証拠を残しておかないと……。

『うぅ~……! うわ~~~~!! どうして、どうして心美があんなやつとくっつくんだよ! 僕じゃダメだったのかよ! 馬鹿野郎〜!!』

 ……うん、ボイスメモはこれくらいにしておこうかな。
 もし何かあったら、この声が役に立つかも。
 ウチに頭の上がらないヤスの事だから、ホイホイ乗ってくれると思うけどね。



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「……僕と彼女とは、中二の秋の席替えがあった時に知り合いました。最初は他愛もないやり取りをしていたのですが、いつしか惹かれるようになりました。高校が離れ離れになると聞いて、卒業式の時に告白して交際を始めたのですが……」
「「うん、それで?」」
 我妻さん達が食い気味に相槌を打ってきた。
 我妻さんは目を輝かせながら、飯田さんは頬杖を突きながら、僕の話を興味深そうに聞いている。
「彼女は別々の高校に通うことになりました。彼女が通っている高校は夏の甲子園でも連続出場を果たす強豪校でして、そこのチア部に入ったんです。そうしたら練習で忙しくて、彼女となかなか連絡が取れなくなりました」
「強豪校か……。私のクラスに居た生徒が一人入ったけど、ウォークラリーが結構大変だと聞いたよ」
「そうだよね~。あそこは県外からの入学者も居るって聞くし、野球部やチア部、応援団の練習も凄いらしいね」
「はい。心美は野球のことはあまり詳しくないのですが、『甲子園に行けるなら、一生懸命頑張るよ!』と話していたので、僕は何も言えませんでした」
 僕は悲しげな表情を浮かべながら、心美のことを話した。
 僕にとって心美は、僕を優しく包んでくれる存在だった。
 一緒に居るだけで癒され、いつも笑顔を絶やすことのない女の子だった。
 思えば、心美は良く高校野球の話をしていた。
 何県の強豪校のピッチャーが凄いとか、何県のバッターが凄いなどと興奮気味に話していたよな。
 それで心美の第一志望と第二志望は甲子園の常連校で、そこに入るために一生懸命勉強していたなぁ。
 うちの学校も文化部と運動部は結構有名なところがあるので、うちの学校に入っていたら……と思うと、悔しくてならない。
 離ればなれになったとしても、僕と心美は繋がっていると思っていた。
 しかし、心美との付き合いもここ最近はめっきり減った。
 そして昨日のデートすっぽかしとチャラ男からの最後通告だ。
 心美は向こうの学校に呑まれてしまったんだ。
「それで、君とその彼女の家って近いのかな?」
「彼女は長町南駅から歩いてすぐの場所に住んでいますね。ここ最近はデートすることもなく、LINEでのやり取りが多かったです。しかし、夏休みを境にして一切メッセージが送られてこなくなりました。そんな時に昨日デートの約束があったのですが……」
 まずい。上手く言葉が出ない。
 昨日のあの一言が頭に突き刺さったままだ。
 でも、話さないと!
「ドタキャンされた上に、チャラ男に酷い事を言われました。自分のことをすべて否定された気分です……。……うぅ、彼女は、彼女は……」
 言ってしまった。
 涙が溢れそうだ。
 喉がカラカラに涸れてきた。
 このままだと涙と嗚咽が僕の口から溢れそうだ。
 僕に手を差し伸べた心美は、もう二度と僕の元には戻らない。
 アイツと寝た以上は――。
 僕は一体何のために生きているのだろうか?
 この先、どうやって生きていくのだろうか?
 考えただけでも、辛くなる。
 押し殺したはずの感情が一気に爆発しそうだ。
 どこからともなく上着を脱ぐ音が聞こえる。
 涙などを堪えながら音のする方向を向くと、二人が制服の上着を脱いでブラウス姿になっていた。
 我妻さんのスタイルの良さは分かっていたけど、飯田さんも我妻さんと同じようにスタイルが良い。
 泣きついたら涙が止まらなくなりそうだ。
「あ、あの……、我妻さん?」
「ヤス君、辛そうだね。胸、貸してあげるからさ。いっぱい泣いていいよ」
「えっ!? それはどういう……」
「富樫君、私も居るからな。遠慮しないで泣いていいぞ」
 我妻さんは僕を誘うように両手を広げている。
 それを見て、飯田さんも顔を赤らめながら両手を広げている。
 これは、泣きついていいってことだよな……。
 据え膳食わぬは男の恥だ!
 僕は二人に歩み寄り、そのたわわに実った果実のど真ん中に飛び込んだ。
「うぅ~……!」
 柔らかい胸の感触に包まれていると、目から涙が溢れてくる。
 もう限界だ。
 今まで抑えていた感情が、爆発する……!
「どうして、どうして心美があんなやつとくっつくんだよ! 僕じゃダメだったのかよ! 馬鹿野郎〜!!」
「うんうん、辛かったよね。今は泣いていいからね」
「これからは私達が居るからな、ヤス……」
 僕が大声で泣いている間、二人は優しく頭を撫でてくれた。
 その時、僕の頭の中に中学校の頃に辛いと思った時に何度も聞いた曲が響いた。
 叔父さんが小学校を卒業した時に映画館に行って見た映画の主題歌で、歌詞を読むだけでも泣けてくる名曲だ。
 辛いときはこの曲を聞け、と叔父さんから教えてもらった曲だった。
 今は泣いてもいい。僕は強くなりたい。
 僕は彼女達の胸の中、第三者《チャラ男》によって奪われた初恋に涙を流した。
 ☆
<Side:???>
「小母さん、パート帰りに押しかけて申し訳ありませんでした」
「いえいえ、良いのよ。それに今日はね、泰久が女の子を連れて……」
「え? ヤスが女の子を?」
「そうなのよ。クラスの女の子だって話していたわ」
「へー、そうなんですか」
「泰久は女の子と一緒に部屋に居るみたいだけど、どうする?」
「いえ、いいです。ヤスが学校に行っていれば大丈夫ですから」
「そう、ありがと」
 ヤスの小母さんと話を終えると、ウチは泰久の部屋の前に来た。
 三日前に振られたばかりのヤスが女の子を連れ込んでいるって、マ?
 それに、彼女を寝取られたならば、女の子に対するキョヒハンノーを示すはず。
 なのに、女の子が居るのっておかしくない?
 ちょっとだけでもいいから、聞いてみようっと。
『……、そこのチア部に……。そうしたら……、彼女と……』
『強豪校か……。私のクラスに……ウォークラリーが……』
『……県外からの入学者も……野球部や……』
 ……? ヤスの部屋に二人居るってコト?
 ヤスはこないだまでクズオカって子と一緒だったのに、どうしだんだろ?
 聞く限りでは、クズオカって子が別の学校に通ってしまい、カノジョが通っている先輩に取られたってことらしい。
 今日も寂しい思いをしているはずだから、いっそお邪魔して……。
『あ、あの……、……?』
『……辛そう……胸、……』
『えっ!? ……』
『富樫君、……』
 どうしたのかな、中に居る二人とも服を脱いでいるのかな?
 泣きつくんだったら、ウチの胸にすればいいのに。
 そうだ! こういうことが好きな知り合いが居るし、証拠を残しておかないと……。
『うぅ~……! うわ~~~~!! どうして、どうして心美があんなやつとくっつくんだよ! 僕じゃダメだったのかよ! 馬鹿野郎〜!!』
 ……うん、ボイスメモはこれくらいにしておこうかな。
 もし何かあったら、この声が役に立つかも。
 ウチに頭の上がらないヤスの事だから、ホイホイ乗ってくれると思うけどね。