第82話 魔王とエルフ
ー/ー「我の本当の名前と、何者であるか、だと?」
「はい。わたし、フィーしゃんがフィーしゃんであるってことしか知らないんでふ。フィーしゃんは、森の民エルフでもないし、力の民オーガでも山の民ドワーフないれすよね? ましてや知恵の民の人間でもない……」
今さら、そんなことを訊かれるとは思っていなかった。いや、むしろ今までよくもそこに触れずにこれたものだ。ずっと誤魔化し誤魔化しで伏せてきたことだ。
当然、ミモザが知っているはずもない。
「フィーさんは……一体何者なんですか?」
面を切って問いかけられ、改めてミモザは我のことを多くは知らないのだと思い知った。そのことも、ミモザの不安を募らせる要因となったのかもしれない。
不意に、言葉が詰まってしまった。すんなり答えていいのか分からなくなった。
これを答えてしまったらミモザが遠くに離れてしまうような、そんな錯覚を、まさに我が今、体現していたから。
「フィーさんは、魔力もそんな持ってなくて、わたしよりも非力で、武器だって扱えない。でも魔法という技術は誰よりも優れていて、あのダリアしゃんと同じくらい……ううん、それ以上の知識を持ってる。……どうしてれすか?」
ずっと疑問に思っていたことなのだろう。それを聞いてしまったら、ミモザも遠くに離れてしまうと確信めいたものを持っていたから。
「教えてください、フィーさん。あなたは誰なんですか?」
月が、とても綺麗だった。
いつの間にか窓の外に広がる星空があんなにも眩いのに、そのどれよりも輝きの劣らぬ銀色の月明かりは、我とミモザを照らしていた。
ああ、そうだな。そうだった。対等だ。
我だけ隠しごとなんて、もうしない。その心づもりだ。
「ふは……ふはは……、ふははははははははははっ!!!! ならばお答えしようか。その耳によぉく刻めよ、ミモザ」
ベッドの上、立ち上がり、そしてミモザを見下ろし、ソレを口にする。
この辺境の街パエデロスでは多くの住民が知らない、我の秘密。
「我の名は、フィテウマ・サタナムーン。月の民だ」
その言葉を聞き、ミモザは笑うでもなく、泣くでもなく、怒るでもなく、静かに受け入れるように、ただ黙っていた。
少なくとも、滑稽な冗談などではないと理解したようだ。
「フィテウマ……その名前は、世間知らずのわたしでも、知ってます。それは三年前に勇者しゃんに倒された魔王の名前……」
せめて、それだけは知っていてほしくはなかった。そんな希望も今絶たれた。
「魔王フィテウマは、巨大な軍を率いて人間さんたちと長い長い戦争をしていましたね。それこそ、世界が壊れるほどの」
ミモザの声に感情が偏っていく。大きくて固い食べ物をゆっくり咀嚼して飲み込んでいくように、少しずつ少しずつ、その口の中で次の言葉を噛みしめる。
「フィーしゃんは……、その魔王しゃん、なのですか?」
ミモザのその瞳に、言葉に宿る感情の正体は何だろう。
失望か、絶望か。はたまた怒りか、悲しみか。
どれとも分からない、ただただ困惑にも思えた。
我は、なんて返せばいい?
偶然にも同じ名前だっただけだと茶化せばいいのか?
今さらそんなことをするくらいなら、名乗りなどしない。
「そうだ、我は魔王。魔王フィテウマ・サタナムーン。かつて世界を恐怖に陥れた悪の権化。勇者ロータスの持つ聖剣にその心臓を貫かれ、全ての魔力を失い、ただの小娘に成り果てて、ついには軍からも追放されてしまった、かつての、魔王だ」
悪質な冗談だ、と笑い飛ばしてくれるだろうか。
そうしてくれた方がいっそ気が楽だったかもしれない。
ただ、ミモザの表情は汲み取れないくらいに複雑で、次の言葉を紡ぐのも難儀している、そんな顔をしている。
「追放……、追放……? フィーしゃんが……追放……?」
よっぽど気に掛かるワードだったのか、それともショックのあまり放心状態となってしまったのか、ボーッとしたまま、同じ言葉を繰り返した。
「フィーさん、今は魔王じゃないんでふか?」
「そうだ」
それを返すと、また思い悩む。さすがに一挙に話しすぎたのかもしれない。
いきなり魔王だと言われただけでも十分に困惑するだろうに、勇者に殺されただの、追放されただの、余計な言葉に惑わされて追いついていないのだろう。
「ふひぃー……、頭がパンパンになってきましらぁ……」
露骨なまでにミモザは頭を抱え込む。心なしか、頭のてっぺんから湯気でも噴き出しているようにさえ見えたくらいだ。
「でも、フィーしゃんは、フィーしゃんなのですね。元魔王さんでも、フィーさんなのですね」
そんな笑顔で答えられてしまっては、我の方が困惑してしまう。
「我のこと、怖くは、ないのか?」
「ビックリしましたけろ、一周回ってなんだかスッキリしましたぁ!」
ま、眩しい……ミモザの笑顔がこれ以上ないくらいに眩しい……。
「勿論魔王さんが沢山戦争して、色々な人間さんの命を奪われたこと、とっても悲しいことれす。でもそれはそういう立場だったから、ということでふし……」
「う、うむ……」
「そんなこと、言い出したらエルフだって沢山人間さんに襲われて、故郷も奪われているのれす。お互いがそういう関係だったから仕方のない話なのです」
思いもよらないあっけらかんとしたミモザの答えに、我の方がむしろ困惑してしまいそうだった。情報量が多すぎて思考を放棄したのではないかと疑うぞ。
確かにミモザの言う通り、人間とエルフとの戦争も歴史上、長く繰り広げられてきた。土台は決して同じものではないし、規模だって我の魔王軍がしてきたものとは雲泥の差のはずだ。
それでも、ミモザは無理やりにでもそうやって納得しようとしている。納得してくれようとしているのだ。きっとそれは我を気遣おうとするために……。
そうだ。これは今までずっと我が隠してきたことなのだ。その理由を、まさに今、受け入れようとしているに違いない。
「ぁ……でも……、フィーさんは魔王しゃんらったら、ダリアしゃんやマルペルしゃん、ロータスしゃんには内緒にしないといけないんれふかね……?」
思い出したかのようにミモザも血の気の引いたような顔つきで、普段の二割増しくらい舌っ足らずになる。動揺していることが丸わかりだ。
「――――大丈夫だ。その三人は我の正体を知っている」
「ぇ……」
その途端に、物凄い失望された顔になる。我としても心苦しい限りだ。
「勇者の連中は、我の正体をいち早く突き止めてきた。もう大分前のことだ。そのときに我は二度目の死を迎えるはずだった」
「そんな、でもどうして……、どうしてフィーしゃんは今、生きているのれすか?」
我は、ここで初めて、強く、深く、息を吸った。
話すまいと思っていた。しかし、いつかは話さねばなるまいとも思っていた。
きっと今がそのときなのだろうと、強い確信を抱く。
「ミモザが……いてくれたからだ」
「わたしが、いたから……?」
やはり、本人を前にすると、照れくさくて言葉がなかなか出てこない。
「ロータスたちは、我にかつての野望の炎がとうに消え失せていたことを見抜いた。そして、我にはこのパエデロスに親友と呼べる存在がいることを知っていた。ダリアも、マルペルも、勿論ロータスも……それだけは奪うことができなかったのだ。我に、ミモザという親友がいなければもう一度殺されていただろうな」
そんな言葉を受け取り、ミモザは顔を真っ赤にして、硬直した。何故だか分からないが頭から煙を噴いた気がした。
「はい。わたし、フィーしゃんがフィーしゃんであるってことしか知らないんでふ。フィーしゃんは、森の民エルフでもないし、力の民オーガでも山の民ドワーフないれすよね? ましてや知恵の民の人間でもない……」
今さら、そんなことを訊かれるとは思っていなかった。いや、むしろ今までよくもそこに触れずにこれたものだ。ずっと誤魔化し誤魔化しで伏せてきたことだ。
当然、ミモザが知っているはずもない。
「フィーさんは……一体何者なんですか?」
面を切って問いかけられ、改めてミモザは我のことを多くは知らないのだと思い知った。そのことも、ミモザの不安を募らせる要因となったのかもしれない。
不意に、言葉が詰まってしまった。すんなり答えていいのか分からなくなった。
これを答えてしまったらミモザが遠くに離れてしまうような、そんな錯覚を、まさに我が今、体現していたから。
「フィーさんは、魔力もそんな持ってなくて、わたしよりも非力で、武器だって扱えない。でも魔法という技術は誰よりも優れていて、あのダリアしゃんと同じくらい……ううん、それ以上の知識を持ってる。……どうしてれすか?」
ずっと疑問に思っていたことなのだろう。それを聞いてしまったら、ミモザも遠くに離れてしまうと確信めいたものを持っていたから。
「教えてください、フィーさん。あなたは誰なんですか?」
月が、とても綺麗だった。
いつの間にか窓の外に広がる星空があんなにも眩いのに、そのどれよりも輝きの劣らぬ銀色の月明かりは、我とミモザを照らしていた。
ああ、そうだな。そうだった。対等だ。
我だけ隠しごとなんて、もうしない。その心づもりだ。
「ふは……ふはは……、ふははははははははははっ!!!! ならばお答えしようか。その耳によぉく刻めよ、ミモザ」
ベッドの上、立ち上がり、そしてミモザを見下ろし、ソレを口にする。
この辺境の街パエデロスでは多くの住民が知らない、我の秘密。
「我の名は、フィテウマ・サタナムーン。月の民だ」
その言葉を聞き、ミモザは笑うでもなく、泣くでもなく、怒るでもなく、静かに受け入れるように、ただ黙っていた。
少なくとも、滑稽な冗談などではないと理解したようだ。
「フィテウマ……その名前は、世間知らずのわたしでも、知ってます。それは三年前に勇者しゃんに倒された魔王の名前……」
せめて、それだけは知っていてほしくはなかった。そんな希望も今絶たれた。
「魔王フィテウマは、巨大な軍を率いて人間さんたちと長い長い戦争をしていましたね。それこそ、世界が壊れるほどの」
ミモザの声に感情が偏っていく。大きくて固い食べ物をゆっくり咀嚼して飲み込んでいくように、少しずつ少しずつ、その口の中で次の言葉を噛みしめる。
「フィーしゃんは……、その魔王しゃん、なのですか?」
ミモザのその瞳に、言葉に宿る感情の正体は何だろう。
失望か、絶望か。はたまた怒りか、悲しみか。
どれとも分からない、ただただ困惑にも思えた。
我は、なんて返せばいい?
偶然にも同じ名前だっただけだと茶化せばいいのか?
今さらそんなことをするくらいなら、名乗りなどしない。
「そうだ、我は魔王。魔王フィテウマ・サタナムーン。かつて世界を恐怖に陥れた悪の権化。勇者ロータスの持つ聖剣にその心臓を貫かれ、全ての魔力を失い、ただの小娘に成り果てて、ついには軍からも追放されてしまった、かつての、魔王だ」
悪質な冗談だ、と笑い飛ばしてくれるだろうか。
そうしてくれた方がいっそ気が楽だったかもしれない。
ただ、ミモザの表情は汲み取れないくらいに複雑で、次の言葉を紡ぐのも難儀している、そんな顔をしている。
「追放……、追放……? フィーしゃんが……追放……?」
よっぽど気に掛かるワードだったのか、それともショックのあまり放心状態となってしまったのか、ボーッとしたまま、同じ言葉を繰り返した。
「フィーさん、今は魔王じゃないんでふか?」
「そうだ」
それを返すと、また思い悩む。さすがに一挙に話しすぎたのかもしれない。
いきなり魔王だと言われただけでも十分に困惑するだろうに、勇者に殺されただの、追放されただの、余計な言葉に惑わされて追いついていないのだろう。
「ふひぃー……、頭がパンパンになってきましらぁ……」
露骨なまでにミモザは頭を抱え込む。心なしか、頭のてっぺんから湯気でも噴き出しているようにさえ見えたくらいだ。
「でも、フィーしゃんは、フィーしゃんなのですね。元魔王さんでも、フィーさんなのですね」
そんな笑顔で答えられてしまっては、我の方が困惑してしまう。
「我のこと、怖くは、ないのか?」
「ビックリしましたけろ、一周回ってなんだかスッキリしましたぁ!」
ま、眩しい……ミモザの笑顔がこれ以上ないくらいに眩しい……。
「勿論魔王さんが沢山戦争して、色々な人間さんの命を奪われたこと、とっても悲しいことれす。でもそれはそういう立場だったから、ということでふし……」
「う、うむ……」
「そんなこと、言い出したらエルフだって沢山人間さんに襲われて、故郷も奪われているのれす。お互いがそういう関係だったから仕方のない話なのです」
思いもよらないあっけらかんとしたミモザの答えに、我の方がむしろ困惑してしまいそうだった。情報量が多すぎて思考を放棄したのではないかと疑うぞ。
確かにミモザの言う通り、人間とエルフとの戦争も歴史上、長く繰り広げられてきた。土台は決して同じものではないし、規模だって我の魔王軍がしてきたものとは雲泥の差のはずだ。
それでも、ミモザは無理やりにでもそうやって納得しようとしている。納得してくれようとしているのだ。きっとそれは我を気遣おうとするために……。
そうだ。これは今までずっと我が隠してきたことなのだ。その理由を、まさに今、受け入れようとしているに違いない。
「ぁ……でも……、フィーさんは魔王しゃんらったら、ダリアしゃんやマルペルしゃん、ロータスしゃんには内緒にしないといけないんれふかね……?」
思い出したかのようにミモザも血の気の引いたような顔つきで、普段の二割増しくらい舌っ足らずになる。動揺していることが丸わかりだ。
「――――大丈夫だ。その三人は我の正体を知っている」
「ぇ……」
その途端に、物凄い失望された顔になる。我としても心苦しい限りだ。
「勇者の連中は、我の正体をいち早く突き止めてきた。もう大分前のことだ。そのときに我は二度目の死を迎えるはずだった」
「そんな、でもどうして……、どうしてフィーしゃんは今、生きているのれすか?」
我は、ここで初めて、強く、深く、息を吸った。
話すまいと思っていた。しかし、いつかは話さねばなるまいとも思っていた。
きっと今がそのときなのだろうと、強い確信を抱く。
「ミモザが……いてくれたからだ」
「わたしが、いたから……?」
やはり、本人を前にすると、照れくさくて言葉がなかなか出てこない。
「ロータスたちは、我にかつての野望の炎がとうに消え失せていたことを見抜いた。そして、我にはこのパエデロスに親友と呼べる存在がいることを知っていた。ダリアも、マルペルも、勿論ロータスも……それだけは奪うことができなかったのだ。我に、ミモザという親友がいなければもう一度殺されていただろうな」
そんな言葉を受け取り、ミモザは顔を真っ赤にして、硬直した。何故だか分からないが頭から煙を噴いた気がした。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「我の本当の名前と、何者であるか、だと?」
「はい。わたし、フィーしゃんがフィーしゃんであるってことしか知らないんでふ。フィーしゃんは、森の民エルフでもないし、力の民オーガでも山の民ドワーフないれすよね? ましてや知恵の民の人間でもない……」
「はい。わたし、フィーしゃんがフィーしゃんであるってことしか知らないんでふ。フィーしゃんは、森の民エルフでもないし、力の民オーガでも山の民ドワーフないれすよね? ましてや知恵の民の人間でもない……」
今さら、そんなことを訊かれるとは思っていなかった。いや、むしろ今までよくもそこに触れずにこれたものだ。ずっと誤魔化し誤魔化しで伏せてきたことだ。
当然、ミモザが知っているはずもない。
当然、ミモザが知っているはずもない。
「フィーさんは……一体何者なんですか?」
面を切って問いかけられ、改めてミモザは我のことを多くは知らないのだと思い知った。そのことも、ミモザの不安を募らせる要因となったのかもしれない。
不意に、言葉が詰まってしまった。すんなり答えていいのか分からなくなった。
不意に、言葉が詰まってしまった。すんなり答えていいのか分からなくなった。
これを答えてしまったらミモザが遠くに離れてしまうような、そんな錯覚を、まさに我が今、体現していたから。
「フィーさんは、魔力もそんな持ってなくて、わたしよりも非力で、武器だって扱えない。でも魔法という技術は誰よりも優れていて、あのダリアしゃんと同じくらい……ううん、それ以上の知識を持ってる。……どうしてれすか?」
ずっと疑問に思っていたことなのだろう。それを聞いてしまったら、ミモザも遠くに離れてしまうと確信めいたものを持っていたから。
「教えてください、フィーさん。あなたは誰なんですか?」
月が、とても綺麗だった。
いつの間にか窓の外に広がる星空があんなにも眩いのに、そのどれよりも輝きの劣らぬ銀色の月明かりは、我とミモザを照らしていた。
いつの間にか窓の外に広がる星空があんなにも眩いのに、そのどれよりも輝きの劣らぬ銀色の月明かりは、我とミモザを照らしていた。
ああ、そうだな。そうだった。対等だ。
我だけ隠しごとなんて、もうしない。その心づもりだ。
我だけ隠しごとなんて、もうしない。その心づもりだ。
「ふは……ふはは……、ふははははははははははっ!!!! ならばお答えしようか。その耳によぉく刻めよ、ミモザ」
ベッドの上、立ち上がり、そしてミモザを見下ろし、ソレを口にする。
この辺境の街パエデロスでは多くの住民が知らない、我の秘密。
この辺境の街パエデロスでは多くの住民が知らない、我の秘密。
「我の名は、フィテウマ・サタナムーン。月の民だ」
その言葉を聞き、ミモザは笑うでもなく、泣くでもなく、怒るでもなく、静かに受け入れるように、ただ黙っていた。
少なくとも、滑稽な冗談などではないと理解したようだ。
少なくとも、滑稽な冗談などではないと理解したようだ。
「フィテウマ……その名前は、世間知らずのわたしでも、知ってます。それは三年前に勇者しゃんに倒された魔王の名前……」
せめて、それだけは知っていてほしくはなかった。そんな希望も今絶たれた。
「魔王フィテウマは、巨大な軍を率いて人間さんたちと長い長い戦争をしていましたね。それこそ、世界が壊れるほどの」
ミモザの声に感情が偏っていく。大きくて固い食べ物をゆっくり咀嚼して飲み込んでいくように、少しずつ少しずつ、その口の中で次の言葉を噛みしめる。
「フィーしゃんは……、その魔王しゃん、なのですか?」
ミモザのその瞳に、言葉に宿る感情の正体は何だろう。
失望か、絶望か。はたまた怒りか、悲しみか。
どれとも分からない、ただただ困惑にも思えた。
失望か、絶望か。はたまた怒りか、悲しみか。
どれとも分からない、ただただ困惑にも思えた。
我は、なんて返せばいい?
偶然にも同じ名前だっただけだと茶化せばいいのか?
今さらそんなことをするくらいなら、名乗りなどしない。
偶然にも同じ名前だっただけだと茶化せばいいのか?
今さらそんなことをするくらいなら、名乗りなどしない。
「そうだ、我は魔王。魔王フィテウマ・サタナムーン。かつて世界を恐怖に陥れた悪の権化。勇者ロータスの持つ聖剣にその心臓を貫かれ、全ての魔力を失い、ただの小娘に成り果てて、ついには軍からも追放されてしまった、かつての、魔王だ」
悪質な冗談だ、と笑い飛ばしてくれるだろうか。
そうしてくれた方がいっそ気が楽だったかもしれない。
そうしてくれた方がいっそ気が楽だったかもしれない。
ただ、ミモザの表情は汲み取れないくらいに複雑で、次の言葉を紡ぐのも難儀している、そんな顔をしている。
「追放……、追放……? フィーしゃんが……追放……?」
よっぽど気に掛かるワードだったのか、それともショックのあまり放心状態となってしまったのか、ボーッとしたまま、同じ言葉を繰り返した。
「フィーさん、今は魔王じゃないんでふか?」
「そうだ」
「そうだ」
それを返すと、また思い悩む。さすがに一挙に話しすぎたのかもしれない。
いきなり魔王だと言われただけでも十分に困惑するだろうに、勇者に殺されただの、追放されただの、余計な言葉に惑わされて追いついていないのだろう。
いきなり魔王だと言われただけでも十分に困惑するだろうに、勇者に殺されただの、追放されただの、余計な言葉に惑わされて追いついていないのだろう。
「ふひぃー……、頭がパンパンになってきましらぁ……」
露骨なまでにミモザは頭を抱え込む。心なしか、頭のてっぺんから湯気でも噴き出しているようにさえ見えたくらいだ。
「でも、フィーしゃんは、フィーしゃんなのですね。元魔王さんでも、フィーさんなのですね」
そんな笑顔で答えられてしまっては、我の方が困惑してしまう。
そんな笑顔で答えられてしまっては、我の方が困惑してしまう。
「我のこと、怖くは、ないのか?」
「ビックリしましたけろ、一周回ってなんだかスッキリしましたぁ!」
ま、眩しい……ミモザの笑顔がこれ以上ないくらいに眩しい……。
「ビックリしましたけろ、一周回ってなんだかスッキリしましたぁ!」
ま、眩しい……ミモザの笑顔がこれ以上ないくらいに眩しい……。
「勿論魔王さんが沢山戦争して、色々な人間さんの命を奪われたこと、とっても悲しいことれす。でもそれはそういう立場だったから、ということでふし……」
「う、うむ……」
「う、うむ……」
「そんなこと、言い出したらエルフだって沢山人間さんに襲われて、故郷も奪われているのれす。お互いがそういう関係だったから仕方のない話なのです」
思いもよらないあっけらかんとしたミモザの答えに、我の方がむしろ困惑してしまいそうだった。情報量が多すぎて思考を放棄したのではないかと疑うぞ。
思いもよらないあっけらかんとしたミモザの答えに、我の方がむしろ困惑してしまいそうだった。情報量が多すぎて思考を放棄したのではないかと疑うぞ。
確かにミモザの言う通り、人間とエルフとの戦争も歴史上、長く繰り広げられてきた。土台は決して同じものではないし、規模だって我の魔王軍がしてきたものとは雲泥の差のはずだ。
それでも、ミモザは無理やりにでもそうやって納得しようとしている。納得してくれようとしているのだ。きっとそれは我を気遣おうとするために……。
そうだ。これは今までずっと我が隠してきたことなのだ。その理由を、まさに今、受け入れようとしているに違いない。
そうだ。これは今までずっと我が隠してきたことなのだ。その理由を、まさに今、受け入れようとしているに違いない。
「ぁ……でも……、フィーさんは魔王しゃんらったら、ダリアしゃんやマルペルしゃん、ロータスしゃんには内緒にしないといけないんれふかね……?」
思い出したかのようにミモザも血の気の引いたような顔つきで、普段の二割増しくらい舌っ足らずになる。動揺していることが丸わかりだ。
思い出したかのようにミモザも血の気の引いたような顔つきで、普段の二割増しくらい舌っ足らずになる。動揺していることが丸わかりだ。
「――――大丈夫だ。その三人は我の正体を知っている」
「ぇ……」
その途端に、物凄い失望された顔になる。我としても心苦しい限りだ。
「ぇ……」
その途端に、物凄い失望された顔になる。我としても心苦しい限りだ。
「勇者の連中は、我の正体をいち早く突き止めてきた。もう大分前のことだ。そのときに我は二度目の死を迎えるはずだった」
「そんな、でもどうして……、どうしてフィーしゃんは今、生きているのれすか?」
「そんな、でもどうして……、どうしてフィーしゃんは今、生きているのれすか?」
我は、ここで初めて、強く、深く、息を吸った。
話すまいと思っていた。しかし、いつかは話さねばなるまいとも思っていた。
きっと今がそのときなのだろうと、強い確信を抱く。
話すまいと思っていた。しかし、いつかは話さねばなるまいとも思っていた。
きっと今がそのときなのだろうと、強い確信を抱く。
「ミモザが……いてくれたからだ」
「わたしが、いたから……?」
「わたしが、いたから……?」
やはり、本人を前にすると、照れくさくて言葉がなかなか出てこない。
「ロータスたちは、我にかつての野望の炎がとうに消え失せていたことを見抜いた。そして、我にはこのパエデロスに親友と呼べる存在がいることを知っていた。ダリアも、マルペルも、勿論ロータスも……それだけは奪うことができなかったのだ。我に、ミモザという親友がいなければもう一度殺されていただろうな」
そんな言葉を受け取り、ミモザは顔を真っ赤にして、硬直した。何故だか分からないが頭から煙を噴いた気がした。