第81話 対等
ー/ー「――フィーしゃん、ごめんなさい」
そのとき、一筋の光が差し込んだ、そんな気がした。
虚空の中に全てが収束し、潰えた世界が今再び、開闢の時を迎えた。
万物の誕生が何十億という歴史を跳躍し、ここに完結して――……
「み、ミモザ……? みも、ざ? みも、みも、みも……ミモジャアアアアァァァァアアアァァ…………ッッ!!!!」
幻ではない、真の太陽が我の前に顕現し、悠久の漆黒を照らし出したのだ。
「ひゃぅっ! フィー、しゃん……く、くるしい、れふ……」
「うぉぉぉぉん……ミモザァァァ……、ミモザァァァ……すまなかったぁ……、我が全部悪かったのだぁ……、ミモザの気持ちを汲み取れなかった我が何もかも悪かったのだぁぁぁ……っ!!」
ああ、この感触は、間違いなくミモザだ。この太陽のような金色の髪も、荘厳な森のような香りも、全てが偽りなきミモザであることを証明している。
この腕の中でミモザの全てを感じられる――――……
「こら、フィー。ミモザちゃんが潰れちゃうでしょうが! まず話を聞いてあげなさいよ! 今度こそミモザちゃんに嫌われちゃうぞ!」
「ふひゃぁっ!? みみみみ、ミモザ! はははは、話を、話を聞かせてくれ。わわわわ、我のなななな、何がいけなかったのだ。我の態度か? 我の顔か? 我の声か? 吐息か? ああああ、我の全財産を全てミモザに献上する! 全てを悔い改める! だからどうか、どうか……ぐぎゃっ!」
唐突に後頭部に痛烈な衝撃が走る。
「だからミモザちゃんの話をまず聞けっての!」
「ダリア! キサマ! いつの間に我の屋敷に足を踏み入れた!?」
「ぁーもぅ! 話が進まない! 私ら出ていくから、あとは二人でしっかりと話し合ってよね。ほらマルペル、行くよ」
「あ、はい。そうですね。お邪魔になりますしね」
そういうと、何処から沸いて出てきたのか、マルペルも揃って我の部屋から出ていった。そして空気を読むかのように使用人たちもぞろぞろとそれに続いていく。
気が付けば、我の部屋の中には我とミモザだけ。
……はて? これはどういう状況だったっけ?
なんで我はベッドの上で、ミモザに抱きついておるんだったか。
何か、記憶が飛んでいるような……。
「フィーしゃん……」
「み、ミモザ……」
いいや、もはやそれはどうでもいい。こうして目の前にミモザがいるのだから。
今こそ、話を聞くときだ。
「ミモザ、どうか話を聞かせてくれ。我に至らぬことがあるのなら何でも言ってくれ。全てを改めるぞ」
「ち、違うんれす……フィーしゃんは、何も悪くないんでふ……。わたしは、わたしが、フィーしゃんのそばにいるのに、その、ふさわしくないって、そう思って……」
ミモザの肩がそっと竦み、その小さな身体がまた小さくなって見えた。
俯いた顔は憂いに満ちていて、今にも消え入りそうな儚い表情だ。
「何を言っておるのだ。ふさわしくないなんてことあるものか。我には、ミモザ以外におらぬのだぞ!」
「ふひゅぅぅぅ……うれひぃれふぅ……、でも、でも、でも……わたしがどんなに頑張っても、フィーしゃんにはとても遠く届かない気がして、それどころが、どんどん離れていっているような、そんな不安を覚えたのでふ……」
涙の溢れそうな顔で、かわりにメガネを溢れ落とす。
普段からそんなことを思っていたのか。
「届かないとはどういう意味だ。我ならここに、目の前におるだろう。こうやって手で触れることもできる。ほら、髪も、顔も、肩も、胸も、全部、届く」
ズレたメガネを拾い上げ、ミモザの顔に返す。
「我こそ、ミモザには遠く及ばぬことは多い。我にはミモザのように愛嬌よく振る舞えない。他人に優しくすることもままならない。それでも、ミモザが遠くに離れていっているなどとは我は思ったことはないぞ」
「フィー……しゃん……」
メガネのレンズごしににじんだミモザと、そしてその瞳に映る我の顔が見えた。
透き通るような空色の瞳は、一点の曇りもなく我を見つめている。
「ミモザ、お前はいつだったかも自分のことを落ちこぼれだと言っていたが、そんなことは決してない。お前の造る魔具は一級品だ。それは店の客が証明している。セールストークだってずっと上手くなったし、みんなお前の魔具を頼りにしているんだ」
「ふみゅぅ……」
ミモザの頬がほんのりと赤くなっていくのが見えた。
「もちろん、我だってミモザの魔具には沢山助けられた。ミモザの魔具があったから、我は過酷な冒険にも旅立てた。ミモザの力が手元にあったからだ。オークション会場でも見ていただろう? あの宝の数々を。我だけの力では、いや、ミモザの力がなければ手に入らなかったものだ」
「わたし……、わたし……、フィーさんなら、なんでも、なんでも全部できると思ってました。なんでも全部、持っていると思っていました。だって、あんなに凄いお宝を持ち帰ってくるんでふから……」
「はっ、そんなわけなかろう。我にはできないことばかりだ。ミモザがいなければ我には何もできやしない」
事実、今の我には自分で魔法を使うことすらできない。単純な身体能力だってミモザの足下にも及ばないのだ。ミモザの魔具を持たない我に何ができるというのか。
「なあ、ミモザ。あのときの冒険でよく分かったよ。我自身がどれだけ無力だったことか。そして我自身がどれだけ寂しがりであるか。よぉくな」
こうやってミモザと触れ合っているだけで、とてつもなく心地よい気分になるのもきっとそう。我はこんなぬくもりをずっと求めているのだ。
「フィーしゃん、ごめんなさい……、わたし、こんなだから、フィーさんには釣り合わないから……だから、どんどん違う世界まで離れていくような気がしたから……そばにいるだけで迷惑だと思ったから、だから、だから、あんな酷いこと、言ってしまったのです……」
「ふふ……なんと言ったかな。もう覚えてはおらんよ」
なんか本当にその部分だけ記憶が飛んでて覚えてないし。なんだったらそこから今に至るまでの記憶が切り取られたかのようにないし。
「ミモザ、お前が自分にどんな引け目を負っていようが我はお前の凄さを分かっているつもりだ。釣り合いがとれないなどと打算的なことを考えるな。そんなくだらない物差しは捨ててしまえ。我とミモザは対等。そうであろう?」
「対等……れすか」
「そうとも。我とミモザは親友よ。今さらそれを疑う余地もあるまい。ならばどちらが上とか下とか、そんなものはない!」
すると何を思ったのか、ミモザは呼吸を整えて、真剣な眼差しで、また改めて我の瞳を覗き込む。しっかりと見開いた目が、我の姿を、顔を見据えている。
「フィーしゃんは、わたしのこと、たっくさん、たっくさん見ていてくれてます。わたしのこと、いっぱい、いーっぱい知ってます。だから、わたしもフィーさんのことを知りたいのれす。わたし、フィーさんの知らないことばかりで……対等なら、教えてくれますか?」
「ふははははははははははっ!!!! なんだ、そんなことか。我の何が知りたい? 好きな食べ物か? 好きな歌か? 好きな花か? なんでも、全てを教えてやろうではないか! 我とミモザの間に、秘密などないも同然だ!」
「じゃ……じゃあ、教えてください。フィーしゃん」
ミモザが、唾をゴクリと飲み、そっと我の肩を抱き、そしてゆっくりと口を開く。
「フィーさんの本当の名前、そしてフィーさんが何者なのか」
ミモザのその愛らしい空色の瞳は、未だかつてないほどに澄んで見えた。
そのとき、一筋の光が差し込んだ、そんな気がした。
虚空の中に全てが収束し、潰えた世界が今再び、開闢の時を迎えた。
万物の誕生が何十億という歴史を跳躍し、ここに完結して――……
「み、ミモザ……? みも、ざ? みも、みも、みも……ミモジャアアアアァァァァアアアァァ…………ッッ!!!!」
幻ではない、真の太陽が我の前に顕現し、悠久の漆黒を照らし出したのだ。
「ひゃぅっ! フィー、しゃん……く、くるしい、れふ……」
「うぉぉぉぉん……ミモザァァァ……、ミモザァァァ……すまなかったぁ……、我が全部悪かったのだぁ……、ミモザの気持ちを汲み取れなかった我が何もかも悪かったのだぁぁぁ……っ!!」
ああ、この感触は、間違いなくミモザだ。この太陽のような金色の髪も、荘厳な森のような香りも、全てが偽りなきミモザであることを証明している。
この腕の中でミモザの全てを感じられる――――……
「こら、フィー。ミモザちゃんが潰れちゃうでしょうが! まず話を聞いてあげなさいよ! 今度こそミモザちゃんに嫌われちゃうぞ!」
「ふひゃぁっ!? みみみみ、ミモザ! はははは、話を、話を聞かせてくれ。わわわわ、我のなななな、何がいけなかったのだ。我の態度か? 我の顔か? 我の声か? 吐息か? ああああ、我の全財産を全てミモザに献上する! 全てを悔い改める! だからどうか、どうか……ぐぎゃっ!」
唐突に後頭部に痛烈な衝撃が走る。
「だからミモザちゃんの話をまず聞けっての!」
「ダリア! キサマ! いつの間に我の屋敷に足を踏み入れた!?」
「ぁーもぅ! 話が進まない! 私ら出ていくから、あとは二人でしっかりと話し合ってよね。ほらマルペル、行くよ」
「あ、はい。そうですね。お邪魔になりますしね」
そういうと、何処から沸いて出てきたのか、マルペルも揃って我の部屋から出ていった。そして空気を読むかのように使用人たちもぞろぞろとそれに続いていく。
気が付けば、我の部屋の中には我とミモザだけ。
……はて? これはどういう状況だったっけ?
なんで我はベッドの上で、ミモザに抱きついておるんだったか。
何か、記憶が飛んでいるような……。
「フィーしゃん……」
「み、ミモザ……」
いいや、もはやそれはどうでもいい。こうして目の前にミモザがいるのだから。
今こそ、話を聞くときだ。
「ミモザ、どうか話を聞かせてくれ。我に至らぬことがあるのなら何でも言ってくれ。全てを改めるぞ」
「ち、違うんれす……フィーしゃんは、何も悪くないんでふ……。わたしは、わたしが、フィーしゃんのそばにいるのに、その、ふさわしくないって、そう思って……」
ミモザの肩がそっと竦み、その小さな身体がまた小さくなって見えた。
俯いた顔は憂いに満ちていて、今にも消え入りそうな儚い表情だ。
「何を言っておるのだ。ふさわしくないなんてことあるものか。我には、ミモザ以外におらぬのだぞ!」
「ふひゅぅぅぅ……うれひぃれふぅ……、でも、でも、でも……わたしがどんなに頑張っても、フィーしゃんにはとても遠く届かない気がして、それどころが、どんどん離れていっているような、そんな不安を覚えたのでふ……」
涙の溢れそうな顔で、かわりにメガネを溢れ落とす。
普段からそんなことを思っていたのか。
「届かないとはどういう意味だ。我ならここに、目の前におるだろう。こうやって手で触れることもできる。ほら、髪も、顔も、肩も、胸も、全部、届く」
ズレたメガネを拾い上げ、ミモザの顔に返す。
「我こそ、ミモザには遠く及ばぬことは多い。我にはミモザのように愛嬌よく振る舞えない。他人に優しくすることもままならない。それでも、ミモザが遠くに離れていっているなどとは我は思ったことはないぞ」
「フィー……しゃん……」
メガネのレンズごしににじんだミモザと、そしてその瞳に映る我の顔が見えた。
透き通るような空色の瞳は、一点の曇りもなく我を見つめている。
「ミモザ、お前はいつだったかも自分のことを落ちこぼれだと言っていたが、そんなことは決してない。お前の造る魔具は一級品だ。それは店の客が証明している。セールストークだってずっと上手くなったし、みんなお前の魔具を頼りにしているんだ」
「ふみゅぅ……」
ミモザの頬がほんのりと赤くなっていくのが見えた。
「もちろん、我だってミモザの魔具には沢山助けられた。ミモザの魔具があったから、我は過酷な冒険にも旅立てた。ミモザの力が手元にあったからだ。オークション会場でも見ていただろう? あの宝の数々を。我だけの力では、いや、ミモザの力がなければ手に入らなかったものだ」
「わたし……、わたし……、フィーさんなら、なんでも、なんでも全部できると思ってました。なんでも全部、持っていると思っていました。だって、あんなに凄いお宝を持ち帰ってくるんでふから……」
「はっ、そんなわけなかろう。我にはできないことばかりだ。ミモザがいなければ我には何もできやしない」
事実、今の我には自分で魔法を使うことすらできない。単純な身体能力だってミモザの足下にも及ばないのだ。ミモザの魔具を持たない我に何ができるというのか。
「なあ、ミモザ。あのときの冒険でよく分かったよ。我自身がどれだけ無力だったことか。そして我自身がどれだけ寂しがりであるか。よぉくな」
こうやってミモザと触れ合っているだけで、とてつもなく心地よい気分になるのもきっとそう。我はこんなぬくもりをずっと求めているのだ。
「フィーしゃん、ごめんなさい……、わたし、こんなだから、フィーさんには釣り合わないから……だから、どんどん違う世界まで離れていくような気がしたから……そばにいるだけで迷惑だと思ったから、だから、だから、あんな酷いこと、言ってしまったのです……」
「ふふ……なんと言ったかな。もう覚えてはおらんよ」
なんか本当にその部分だけ記憶が飛んでて覚えてないし。なんだったらそこから今に至るまでの記憶が切り取られたかのようにないし。
「ミモザ、お前が自分にどんな引け目を負っていようが我はお前の凄さを分かっているつもりだ。釣り合いがとれないなどと打算的なことを考えるな。そんなくだらない物差しは捨ててしまえ。我とミモザは対等。そうであろう?」
「対等……れすか」
「そうとも。我とミモザは親友よ。今さらそれを疑う余地もあるまい。ならばどちらが上とか下とか、そんなものはない!」
すると何を思ったのか、ミモザは呼吸を整えて、真剣な眼差しで、また改めて我の瞳を覗き込む。しっかりと見開いた目が、我の姿を、顔を見据えている。
「フィーしゃんは、わたしのこと、たっくさん、たっくさん見ていてくれてます。わたしのこと、いっぱい、いーっぱい知ってます。だから、わたしもフィーさんのことを知りたいのれす。わたし、フィーさんの知らないことばかりで……対等なら、教えてくれますか?」
「ふははははははははははっ!!!! なんだ、そんなことか。我の何が知りたい? 好きな食べ物か? 好きな歌か? 好きな花か? なんでも、全てを教えてやろうではないか! 我とミモザの間に、秘密などないも同然だ!」
「じゃ……じゃあ、教えてください。フィーしゃん」
ミモザが、唾をゴクリと飲み、そっと我の肩を抱き、そしてゆっくりと口を開く。
「フィーさんの本当の名前、そしてフィーさんが何者なのか」
ミモザのその愛らしい空色の瞳は、未だかつてないほどに澄んで見えた。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
「――フィーしゃん、ごめんなさい」
そのとき、一筋の光が差し込んだ、そんな気がした。
虚空の中に全てが収束し、潰えた世界が今再び、開闢の時を迎えた。
万物の誕生が何十億という歴史を跳躍し、ここに完結して――……
虚空の中に全てが収束し、潰えた世界が今再び、開闢の時を迎えた。
万物の誕生が何十億という歴史を跳躍し、ここに完結して――……
「み、ミモザ……? みも、ざ? みも、みも、みも……ミモジャアアアアァァァァアアアァァ…………ッッ!!!!」
幻ではない、真《まこと》の太陽が我の前に顕現し、悠久の漆黒を照らし出したのだ。
「ひゃぅっ! フィー、しゃん……く、くるしい、れふ……」
「うぉぉぉぉん……ミモザァァァ……、ミモザァァァ……すまなかったぁ……、我が全部悪かったのだぁ……、ミモザの気持ちを汲み取れなかった我が何もかも悪かったのだぁぁぁ……っ!!」
「うぉぉぉぉん……ミモザァァァ……、ミモザァァァ……すまなかったぁ……、我が全部悪かったのだぁ……、ミモザの気持ちを汲み取れなかった我が何もかも悪かったのだぁぁぁ……っ!!」
ああ、この感触は、間違いなくミモザだ。この太陽のような金色の髪も、荘厳な森のような香りも、全てが偽りなきミモザであることを証明している。
この腕の中でミモザの全てを感じられる――――……
この腕の中でミモザの全てを感じられる――――……
「こら、フィー。ミモザちゃんが潰れちゃうでしょうが! まず話を聞いてあげなさいよ! 今度こそミモザちゃんに嫌われちゃうぞ!」
「ふひゃぁっ!? みみみみ、ミモザ! はははは、話を、話を聞かせてくれ。わわわわ、我のなななな、何がいけなかったのだ。我の態度か? 我の顔か? 我の声か? 吐息か? ああああ、我の全財産を全てミモザに献上する! 全てを悔い改める! だからどうか、どうか……ぐぎゃっ!」
唐突に後頭部に痛烈な衝撃が走る。
唐突に後頭部に痛烈な衝撃が走る。
「だからミモザちゃんの話をまず聞けっての!」
「ダリア! キサマ! いつの間に我の屋敷に足を踏み入れた!?」
「ぁーもぅ! 話が進まない! 私ら出ていくから、あとは二人でしっかりと話し合ってよね。ほらマルペル、行くよ」
「あ、はい。そうですね。お邪魔になりますしね」
「ダリア! キサマ! いつの間に我の屋敷に足を踏み入れた!?」
「ぁーもぅ! 話が進まない! 私ら出ていくから、あとは二人でしっかりと話し合ってよね。ほらマルペル、行くよ」
「あ、はい。そうですね。お邪魔になりますしね」
そういうと、何処から沸いて出てきたのか、マルペルも揃って我の部屋から出ていった。そして空気を読むかのように使用人たちもぞろぞろとそれに続いていく。
気が付けば、我の部屋の中には我とミモザだけ。
気が付けば、我の部屋の中には我とミモザだけ。
……はて? これはどういう状況だったっけ?
なんで我はベッドの上で、ミモザに抱きついておるんだったか。
何か、記憶が飛んでいるような……。
なんで我はベッドの上で、ミモザに抱きついておるんだったか。
何か、記憶が飛んでいるような……。
「フィーしゃん……」
「み、ミモザ……」
いいや、もはやそれはどうでもいい。こうして目の前にミモザがいるのだから。
今こそ、話を聞くときだ。
「み、ミモザ……」
いいや、もはやそれはどうでもいい。こうして目の前にミモザがいるのだから。
今こそ、話を聞くときだ。
「ミモザ、どうか話を聞かせてくれ。我に至らぬことがあるのなら何でも言ってくれ。全てを改めるぞ」
「ち、違うんれす……フィーしゃんは、何も悪くないんでふ……。わたしは、わたしが、フィーしゃんのそばにいるのに、その、ふさわしくないって、そう思って……」
「ち、違うんれす……フィーしゃんは、何も悪くないんでふ……。わたしは、わたしが、フィーしゃんのそばにいるのに、その、ふさわしくないって、そう思って……」
ミモザの肩がそっと竦み、その小さな身体がまた小さくなって見えた。
俯いた顔は憂いに満ちていて、今にも消え入りそうな儚い表情だ。
俯いた顔は憂いに満ちていて、今にも消え入りそうな儚い表情だ。
「何を言っておるのだ。ふさわしくないなんてことあるものか。我には、ミモザ以外におらぬのだぞ!」
「ふひゅぅぅぅ……うれひぃれふぅ……、でも、でも、でも……わたしがどんなに頑張っても、フィーしゃんにはとても遠く届かない気がして、それどころが、どんどん離れていっているような、そんな不安を覚えたのでふ……」
「ふひゅぅぅぅ……うれひぃれふぅ……、でも、でも、でも……わたしがどんなに頑張っても、フィーしゃんにはとても遠く届かない気がして、それどころが、どんどん離れていっているような、そんな不安を覚えたのでふ……」
涙の溢れそうな顔で、かわりにメガネを溢れ落とす。
普段からそんなことを思っていたのか。
普段からそんなことを思っていたのか。
「届かないとはどういう意味だ。我ならここに、目の前におるだろう。こうやって手で触れることもできる。ほら、髪も、顔も、肩も、胸も、全部、届く」
ズレたメガネを拾い上げ、ミモザの顔に返す。
「我こそ、ミモザには遠く及ばぬことは多い。我にはミモザのように愛嬌よく振る舞えない。他人に優しくすることもままならない。それでも、ミモザが遠くに離れていっているなどとは我は思ったことはないぞ」
「フィー……しゃん……」
「フィー……しゃん……」
メガネのレンズごしににじんだミモザと、そしてその瞳に映る我の顔が見えた。
透き通るような空色の瞳は、一点の曇りもなく我を見つめている。
透き通るような空色の瞳は、一点の曇りもなく我を見つめている。
「ミモザ、お前はいつだったかも自分のことを落ちこぼれだと言っていたが、そんなことは決してない。お前の造る魔具は一級品だ。それは店の客が証明している。セールストークだってずっと上手くなったし、みんなお前の魔具を頼りにしているんだ」
「ふみゅぅ……」
「ふみゅぅ……」
ミモザの頬がほんのりと赤くなっていくのが見えた。
「もちろん、我だってミモザの魔具には沢山助けられた。ミモザの魔具があったから、我は過酷な冒険にも旅立てた。ミモザの力が手元にあったからだ。オークション会場でも見ていただろう? あの宝の数々を。我だけの力では、いや、ミモザの力がなければ手に入らなかったものだ」
「わたし……、わたし……、フィーさんなら、なんでも、なんでも全部できると思ってました。なんでも全部、持っていると思っていました。だって、あんなに凄いお宝を持ち帰ってくるんでふから……」
「はっ、そんなわけなかろう。我にはできないことばかりだ。ミモザがいなければ我には何もできやしない」
「はっ、そんなわけなかろう。我にはできないことばかりだ。ミモザがいなければ我には何もできやしない」
事実、今の我には自分で魔法を使うことすらできない。単純な身体能力だってミモザの足下にも及ばないのだ。ミモザの魔具を持たない我に何ができるというのか。
「なあ、ミモザ。あのときの冒険でよく分かったよ。我自身がどれだけ無力だったことか。そして我自身がどれだけ寂しがりであるか。よぉくな」
こうやってミモザと触れ合っているだけで、とてつもなく心地よい気分になるのもきっとそう。我はこんなぬくもりをずっと求めているのだ。
「フィーしゃん、ごめんなさい……、わたし、こんなだから、フィーさんには釣り合わないから……だから、どんどん違う世界まで離れていくような気がしたから……そばにいるだけで迷惑だと思ったから、だから、だから、あんな酷いこと、言ってしまったのです……」
「ふふ……なんと言ったかな。もう覚えてはおらんよ」
「ふふ……なんと言ったかな。もう覚えてはおらんよ」
なんか本当にその部分だけ記憶が飛んでて覚えてないし。なんだったらそこから今に至るまでの記憶が切り取られたかのようにないし。
「ミモザ、お前が自分にどんな引け目を負っていようが我はお前の凄さを分かっているつもりだ。釣り合いがとれないなどと打算的なことを考えるな。そんなくだらない物差しは捨ててしまえ。我とミモザは対等。そうであろう?」
「対等……れすか」
「対等……れすか」
「そうとも。我とミモザは親友よ。今さらそれを疑う余地もあるまい。ならばどちらが上とか下とか、そんなものはない!」
すると何を思ったのか、ミモザは呼吸を整えて、真剣な眼差しで、また改めて我の瞳を覗き込む。しっかりと見開いた目が、我の姿を、顔を見据えている。
「フィーしゃんは、わたしのこと、たっくさん、たっくさん見ていてくれてます。わたしのこと、いっぱい、いーっぱい知ってます。だから、わたしもフィーさんのことを知りたいのれす。わたし、フィーさんの知らないことばかりで……対等なら、教えてくれますか?」
「ふははははははははははっ!!!! なんだ、そんなことか。我の何が知りたい? 好きな食べ物か? 好きな歌か? 好きな花か? なんでも、全てを教えてやろうではないか! 我とミモザの間に、秘密などないも同然だ!」
「じゃ……じゃあ、教えてください。フィーしゃん」
ミモザが、唾をゴクリと飲み、そっと我の肩を抱き、そしてゆっくりと口を開く。
「フィーさんの本当の名前、そしてフィーさんが何者なのか」
ミモザのその愛らしい空色の瞳は、未だかつてないほどに澄んで見えた。