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第12話 異能者との遭遇

ー/ー



 事務所を閉め、椿の運転する車に乗り込んだ一矢とつぐみは都心を離れ郊外へと向かっていた。

「えー? 池袋には行かないの?」

「続報が何もないからな。とっくに死神に狩られてる」

 運転しながら椿が答える。死神に能力を与えられた通称“異能者”は次々と大事件を起こすが、すぐに姿を消す。

 ヴァルキリーが出した討伐指令により、死神たちが大々的に動いているのだ。

 椿たちが目指すのは不可解な一家心中の起きた場所。

 親子で刺し違えるように死んでいたという事件が直近で二件起きている。

 現在、異能者たちの犯行を組織的テロと認定するのか、非常事態宣言を布告するか否かで議会は紛糾している。

 だが実行犯と思われる人物は自死ではなく何者かに殺されていることが多く、犯行声明もないため意見が割れているのだ。

 狙いもバラバラで発作的に起こしたような犯行がほとんどなので、自衛隊や機動隊をどこに出動させればいいか判断がつかないというのもある。

 そんな状況下であったため、奇妙な一家心中は小さなネットニュースとしてしか扱われていなかった。

 そこに目を付けたのが椿だった。死神とも違う殺し方から異能者の仕業かもしれないと踏んだのだ。

「でも何で急にやる気が出たんです? あの猫が招集をかけた時には断っていましたよね?」

「相手が人間だからだ。死神狩りよりは楽だろ」

 椿が言い返す。彼女は死神狩りの死神ではなかったのかと一矢の脳裏に疑問がよぎる。

『あなたが考える死神と我々現実の死神は違う。死神はどれも偏食家で、狩る対象以外の命は受け付けないのですよ』

 初めて椿の下を訪れた際の台詞がフラッシュバックする。

「椿さんは死神を狩る死神じゃなかったんですか?」

「普段ならな。ただ今は限定解除がされている」

「限定解除?」

 一矢にとっては初めて聞く単語だ。運転免許の話でなければ。

「特例として狩りの対象でなくても、ヴァルキリーの指定した敵であれば対象を狩った扱いになる。普段は実力不足の死神や、狩りの対象が強力な死神が召集に応じるが、今回は相手が人間だからな」

「ふーん。死神もせっかくだから食い溜めしておこうってことー?」

 つぐみが口を挟み、端的にまとめる。

「まあそんな感じだ」

 椿が住宅街のコインパーキングに車を停める。目的地の近くに着いたようだ。車を降りて事件現場へと向かう。

 一矢は通りすがる近隣住民から奇異の目で見られているのを感じる。

 椿はいつもの黒いパンツスーツ姿。つぐみは黒いセーラー服。そして一矢も制服として買わされた黒いスーツ姿。

 三人ともとにかく黒いのである。

 周囲の視線を気にしながらしばらく歩くと、黄色い規制テープが貼られた事件現場にたどり着いた。

「これが昨日一家心中が起きたばかりの現場か……?」

 事件が起きたばかりにも関わらず、現場検証が行われている気配もない。ましてや警備の警官が一人もいない。

 今まで一矢たちを不審な目で見ていた住民もいつの間にかいなくなっていた。

「様子がおかしい。つぐみを先頭にして入るぞ。アマガセは待機。お前は誰か来たら適当に言い訳しろ」

「なんでさー。そういうのは上に立つ者が率先しろよー」

 つぐみが口を尖がらせて文句を言う。

「単純な腕力なら妖魔のお前が一番だからな、仕方ないだろ」

「腕力言うなー!」

 つぐみは死神ではないが、椿の徹底的な教育と本人の精神的な成長により人間社会に溶け込んだ妖魔だった。

 何かと椿に金銭的な要求をすること以外は普通の女の子に見える。

 二人はテープをくぐって家の中に入る。残された一矢は言い訳の内容を考えながら、誰も通らないように祈った。

「あのさ、犯人は現場に戻るって言うだろ? 実際やってみたらあれすごいわかるわ。気になってしょうがなくてさ」

 突然目の前から声がした。が、その声の主を視認することができない。一矢は警棒を取り出して構える。

「あんた死神だよな? 見たらなんとなくわかるわ」

 死神。

 一矢は声の主を裏切り者の死神組織“ラグナロク”が作り出した異能者であることを確信する。

 一矢は目に見えない異能者が本当に前方にいるのか確認するように警棒を突き出す。

 何もない。すると再び前方から声がし始める。

「びっくりするだろ。俺の能力、何だと思う?」

「透明人間……?」

「ハハ、透明人間にだって実体はあるんじゃねえ? ハズレ!」

 突然一矢の横合いに高校生ほどの少年が現れた。事件現場の家を囲む塀に寄りかかった彼はそのまま話し続ける。

「な? 俺はあんたの横にいるのに目の前から声がするだろ? 不思議か不思議じゃないかっていったら不思議だよな?」

 少年の言う通り、声は目の前からし続ける。

「お前、異能者だな。死にたくなかったらそのまま動くな」

 一矢は少年に向き直って警棒を捨て拳銃を取り出した。

「おいおい。怖いことすんなよ。ほら、俺に渡せって」

 少年は恐れる様子もなく、手のひらを差し出した。

 一矢の中で「初対面の人間に出会った際は、武装を解除して渡すのが礼儀」だった気がしてくる。拳銃を手渡す一矢。

「それでいいんだよ」

 拳銃を受け取った少年はそれを一矢に向ける。

 少年は万が一にも外すことのないように、銃口を一矢の額に押し付けた。

「動くなよ」

 確かに「銃を向けられたら潔く死を受け入れるのが正しい」はずだと一矢はそれを受け入れる。

 パァン!

 閑静な住宅街に銃声が響き渡る。

 衝撃と痛みで一矢はうずくまる。頭を揺さぶられる感覚がした。

 一矢はそこで初めて異常に気付いた。

(何で武器を敵に渡してるんだ!? 何で抵抗もしないで殺されようとした!?)

「死神って思ったより頑丈なんだな。でも困ったな。能力が解けちった」

(そもそも何で最初に声がした時点で銃を取り出さなかった!? あいつは俺に何をした!?)

 銃声を聞きつけたつぐみが翼を広げ二階の窓から飛び出してくる。

「先輩気を付けて! 敵の能力がわからない!」

「怪しい奴発見! お縄につけー!」

 一矢と少年を目がけて飛び掛かるつぐみ。

「へええ。あれも死神?」

 そしてつぐみは上空から一矢に襲い掛かった。そしてつぐみは思い切り一矢の頭を蹴り飛ばす。

 吹き飛ばされた一矢は、向かいの家の塀をぶち破って転がる。

「先輩……どうして……!?」

 一矢はなんとか起き上がるが、つぐみは完全に彼を敵視している様子で身構えたまま着地した。

 すると一矢の目につぐみの背後から加速したワゴン車が走ってくるのが見える。

「先輩、後ろ!」

 次の瞬間、つぐみにワゴン車が激突した。妖魔であり頑丈なつぐみと言えどもその勢いで跳ね飛ばされる。

 奇妙なのは接近する車のエンジン音も、少年のこともつぐみは感知できていなかったことだ。

 一矢にだけそれがわかったのは少年のいう「能力が解けた」ことに関係するのだろうか。

 事件現場の家からは銃声が聞こえる。椿も何かと遭遇したのだ。

 ワゴン車からは金属バットやゴルフクラブで武装した黒いフルフェイスヘルメットの集団が降りてくる。

 彼ら全員が異能者であれば一矢では対応しきれないだろう。

 つぐみは打ちどころが悪かったのか動かない。

 一矢は先ほど放り捨てた警棒を拾ってつぐみの前まで駆け寄る。

 椿と合流できるまでなんとしてもつぐみを守らなければならなかった。




みんなのリアクション

 事務所を閉め、椿の運転する車に乗り込んだ一矢とつぐみは都心を離れ郊外へと向かっていた。
「えー? 池袋には行かないの?」
「続報が何もないからな。とっくに死神に狩られてる」
 運転しながら椿が答える。死神に能力を与えられた通称“異能者”は次々と大事件を起こすが、すぐに姿を消す。
 ヴァルキリーが出した討伐指令により、死神たちが大々的に動いているのだ。
 椿たちが目指すのは不可解な一家心中の起きた場所。
 親子で刺し違えるように死んでいたという事件が直近で二件起きている。
 現在、異能者たちの犯行を組織的テロと認定するのか、非常事態宣言を布告するか否かで議会は紛糾している。
 だが実行犯と思われる人物は自死ではなく何者かに殺されていることが多く、犯行声明もないため意見が割れているのだ。
 狙いもバラバラで発作的に起こしたような犯行がほとんどなので、自衛隊や機動隊をどこに出動させればいいか判断がつかないというのもある。
 そんな状況下であったため、奇妙な一家心中は小さなネットニュースとしてしか扱われていなかった。
 そこに目を付けたのが椿だった。死神とも違う殺し方から異能者の仕業かもしれないと踏んだのだ。
「でも何で急にやる気が出たんです? あの猫が招集をかけた時には断っていましたよね?」
「相手が人間だからだ。死神狩りよりは楽だろ」
 椿が言い返す。彼女は死神狩りの死神ではなかったのかと一矢の脳裏に疑問がよぎる。
『あなたが考える死神と我々現実の死神は違う。死神はどれも偏食家で、狩る対象以外の命は受け付けないのですよ』
 初めて椿の下を訪れた際の台詞がフラッシュバックする。
「椿さんは死神を狩る死神じゃなかったんですか?」
「普段ならな。ただ今は限定解除がされている」
「限定解除?」
 一矢にとっては初めて聞く単語だ。運転免許の話でなければ。
「特例として狩りの対象でなくても、ヴァルキリーの指定した敵であれば対象を狩った扱いになる。普段は実力不足の死神や、狩りの対象が強力な死神が召集に応じるが、今回は相手が人間だからな」
「ふーん。死神もせっかくだから食い溜めしておこうってことー?」
 つぐみが口を挟み、端的にまとめる。
「まあそんな感じだ」
 椿が住宅街のコインパーキングに車を停める。目的地の近くに着いたようだ。車を降りて事件現場へと向かう。
 一矢は通りすがる近隣住民から奇異の目で見られているのを感じる。
 椿はいつもの黒いパンツスーツ姿。つぐみは黒いセーラー服。そして一矢も制服として買わされた黒いスーツ姿。
 三人ともとにかく黒いのである。
 周囲の視線を気にしながらしばらく歩くと、黄色い規制テープが貼られた事件現場にたどり着いた。
「これが昨日一家心中が起きたばかりの現場か……?」
 事件が起きたばかりにも関わらず、現場検証が行われている気配もない。ましてや警備の警官が一人もいない。
 今まで一矢たちを不審な目で見ていた住民もいつの間にかいなくなっていた。
「様子がおかしい。つぐみを先頭にして入るぞ。アマガセは待機。お前は誰か来たら適当に言い訳しろ」
「なんでさー。そういうのは上に立つ者が率先しろよー」
 つぐみが口を尖がらせて文句を言う。
「単純な腕力なら妖魔のお前が一番だからな、仕方ないだろ」
「腕力言うなー!」
 つぐみは死神ではないが、椿の徹底的な教育と本人の精神的な成長により人間社会に溶け込んだ妖魔だった。
 何かと椿に金銭的な要求をすること以外は普通の女の子に見える。
 二人はテープをくぐって家の中に入る。残された一矢は言い訳の内容を考えながら、誰も通らないように祈った。
「あのさ、犯人は現場に戻るって言うだろ? 実際やってみたらあれすごいわかるわ。気になってしょうがなくてさ」
 突然目の前から声がした。が、その声の主を視認することができない。一矢は警棒を取り出して構える。
「あんた死神だよな? 見たらなんとなくわかるわ」
 死神。
 一矢は声の主を裏切り者の死神組織“ラグナロク”が作り出した異能者であることを確信する。
 一矢は目に見えない異能者が本当に前方にいるのか確認するように警棒を突き出す。
 何もない。すると再び前方から声がし始める。
「びっくりするだろ。俺の能力、何だと思う?」
「透明人間……?」
「ハハ、透明人間にだって実体はあるんじゃねえ? ハズレ!」
 突然一矢の横合いに高校生ほどの少年が現れた。事件現場の家を囲む塀に寄りかかった彼はそのまま話し続ける。
「な? 俺はあんたの横にいるのに目の前から声がするだろ? 不思議か不思議じゃないかっていったら不思議だよな?」
 少年の言う通り、声は目の前からし続ける。
「お前、異能者だな。死にたくなかったらそのまま動くな」
 一矢は少年に向き直って警棒を捨て拳銃を取り出した。
「おいおい。怖いことすんなよ。ほら、俺に渡せって」
 少年は恐れる様子もなく、手のひらを差し出した。
 一矢の中で「初対面の人間に出会った際は、武装を解除して渡すのが礼儀」だった気がしてくる。拳銃を手渡す一矢。
「それでいいんだよ」
 拳銃を受け取った少年はそれを一矢に向ける。
 少年は万が一にも外すことのないように、銃口を一矢の額に押し付けた。
「動くなよ」
 確かに「銃を向けられたら潔く死を受け入れるのが正しい」はずだと一矢はそれを受け入れる。
 パァン!
 閑静な住宅街に銃声が響き渡る。
 衝撃と痛みで一矢はうずくまる。頭を揺さぶられる感覚がした。
 一矢はそこで初めて異常に気付いた。
(何で武器を敵に渡してるんだ!? 何で抵抗もしないで殺されようとした!?)
「死神って思ったより頑丈なんだな。でも困ったな。能力が解けちった」
(そもそも何で最初に声がした時点で銃を取り出さなかった!? あいつは俺に何をした!?)
 銃声を聞きつけたつぐみが翼を広げ二階の窓から飛び出してくる。
「先輩気を付けて! 敵の能力がわからない!」
「怪しい奴発見! お縄につけー!」
 一矢と少年を目がけて飛び掛かるつぐみ。
「へええ。あれも死神?」
 そしてつぐみは上空から一矢に襲い掛かった。そしてつぐみは思い切り一矢の頭を蹴り飛ばす。
 吹き飛ばされた一矢は、向かいの家の塀をぶち破って転がる。
「先輩……どうして……!?」
 一矢はなんとか起き上がるが、つぐみは完全に彼を敵視している様子で身構えたまま着地した。
 すると一矢の目につぐみの背後から加速したワゴン車が走ってくるのが見える。
「先輩、後ろ!」
 次の瞬間、つぐみにワゴン車が激突した。妖魔であり頑丈なつぐみと言えどもその勢いで跳ね飛ばされる。
 奇妙なのは接近する車のエンジン音も、少年のこともつぐみは感知できていなかったことだ。
 一矢にだけそれがわかったのは少年のいう「能力が解けた」ことに関係するのだろうか。
 事件現場の家からは銃声が聞こえる。椿も何かと遭遇したのだ。
 ワゴン車からは金属バットやゴルフクラブで武装した黒いフルフェイスヘルメットの集団が降りてくる。
 彼ら全員が異能者であれば一矢では対応しきれないだろう。
 つぐみは打ちどころが悪かったのか動かない。
 一矢は先ほど放り捨てた警棒を拾ってつぐみの前まで駆け寄る。
 椿と合流できるまでなんとしてもつぐみを守らなければならなかった。